1型糖尿病
- 1型糖尿病は自己免疫で膵臓のβ細胞が壊され、インスリンが出なくなる病気で、全糖尿病の約5〜10%を占めます。
- DNA領域rs2664170のGタイプを持つ人は発症リスクが高い傾向にあることが研究でわかりました。
- 日本での1年間の発症数は10万人あたり約2.3人で、若い人・女性に多いです。
概要
【概要・特徴】 「1型糖尿病」は、生活習慣病である「2型糖尿病」とは全く性質の違う糖尿病です。ふだん免疫(体を守るしくみ)は自分の体を攻撃しませんが、何らかの原因で免疫細胞が自分の臓器を攻撃してしまうことがあります(自己免疫反応)。 その結果、膵臓(すいぞう)のβ細胞が壊され、血糖値を下げるホルモンである「インスリン」が出なくなることで「1型糖尿病」が起こります。 厚生労働省研究班の調査によると、「1型糖尿病」の患者数は約10~14万人で、1年間に10万人あたり約2.3人が発症すると見積もられています。 発症するのはほとんどが若い人で、特に女性に多い病気だと報告されています。(参考リンク1) 遺伝子の影響はふつうは関係ないとされてきましたが、最近の研究で、遺伝子「GAB3」の近くのある部分が「1型糖尿病」の発症リスクに影響している可能性が高いことがわかりました。 若い人は健康診断などの検査を受ける機会が少ないため、発見が遅れると合併症(病気が原因で起こる別の病気)につながる可能性があります。 遺伝子検査で自分の遺伝子タイプを調べて「1型糖尿病」の発症リスクを知ることは、予防や早めの対策に役立つかもしれません。
【2. 理論的根拠】 イギリスの少年糖尿病研究財団による研究で、遺伝子「GAB3」の近くのDNA領域が、「1型糖尿病」になるリスクを高めることがわかりました。このDNA領域は「rs2664170」と呼ばれ、「AA型」「AG型」「GG型」の3つの遺伝子型があります。(参考リンク2) 発症しやすさに関係する「G」を持つ「GG型」は1型糖尿病を発症しやすく、「AG型」はやや発症しやすい傾向があります。 日本人の遺伝子タイプは、「AA型」が最も多く65.5%、AG型が30.9%、GG型が最も少なく3.6%です。(参考リンク3) ただし、「GG型」や「AG型」の人が必ず1型糖尿病になるわけではなく、環境の影響が重なることで発症しやすくなります。 1型糖尿病の症状は突然あらわれることが多く、のどの渇き、水をたくさん飲んで尿が増える(多飲多尿)、体重が減るなどが起こります。症状が進むとインスリンが出なくなり、高血糖による「昏睡(意識がなくなる状態)」や「ケトアシドーシス(血液が酸性にかたよる危険な状態)」になることがあります。 特に子どもは症状をうまく伝えられず、おねしょ(夜尿)で気づかれることもあるため、早く見つけるには家族の協力が欠かせません。 1型糖尿病の発症リスクを早めに知っておくことで、生活や環境の面で気をつけることができます。
【3. メカニズム】 「1型糖尿病」に関わる遺伝子「GAB3」は、ヒトがもつ24種類の染色体のうち、X染色体にあります。 遺伝子「GAB3」は脾臓(ひぞう)や骨髄などの組織に多くあり、「マクロファージ」という免疫細胞が育つのに欠かせない遺伝情報をもっています。(参考リンク4) 遺伝子「GAB3」が「1型糖尿病」を引き起こす直接のしくみはまだわかっていませんが、DNA領域「rs2664170」の遺伝子型によって遺伝子「GAB3」が働きすぎ、白血球が「マクロファージ」へ育つのを必要以上に進めてしまうことが考えられます。 増えた「マクロファージ」は免疫の働きが強まり、炎症を起こしたり、出した信号物質がリンパ球(免疫細胞の一種)を活発にしたりして、インスリンを作る膵臓のβ細胞を壊すと考えられます。 実際に「1型糖尿病」では、「マクロファージ」などの免疫細胞が「膵臓のランゲルハンス島(インスリンを作る細胞が集まった場所)」に入りこんで炎症を起こし、インスリンを作るβ細胞がうまく働かなくなっているとされています。このことから、上のようなしくみで自己免疫による「1型糖尿病」が起こるのではないかと考えられます。(参考リンク5) このように、DNA領域「rs2664170」は「1型糖尿病」の発症に深く関わり、注目されている遺伝子の個人差(一塩基多型)のひとつです。
1型糖尿病とは何か
1型糖尿病は、自己免疫反応により膵臓のβ細胞が壊され、インスリンがまったく出なくなる病気です。全糖尿病の患者の約5〜10%を占め、生活習慣病である2型糖尿病とは根本から違う病気です。
厚生労働省研究班の調査によると、日本国内の1型糖尿病の患者数は約10〜14万人で、1年間の発症数は10万人あたり約2.3人と見積もられています。発症は若い人に多く、特に女性に多い傾向が報告されています。
1型糖尿病の原因とメカニズム
1型糖尿病は、本来は体の外から入ってきた敵を攻撃する免疫細胞が、まちがって自分の膵臓のβ細胞を攻撃して壊してしまうことで起こります。2型糖尿病がおもにインスリンが効きにくくなること(インスリン抵抗性)で起こるのに対し、1型糖尿病には次の特徴があります。
- 自己免疫によるβ細胞の破壊:免疫細胞(マクロファージ・リンパ球)が膵臓のランゲルハンス島にあるβ細胞を攻撃します。
- インスリンがまったく出なくなる:β細胞が壊され、インスリンを作る力がなくなります。
- 遺伝子の影響:遺伝子GAB3の近くのDNA領域rs2664170が発症リスクに関係しています。
遺伝子「GAB3」はX染色体にあり、脾臓や骨髄にいるマクロファージ(免疫細胞の一種)が育つのに必要な遺伝情報をもっています。DNA領域rs2664170のGタイプによってGAB3が働きすぎると、マクロファージが増えて自己免疫反応が強まると考えられています。
1型糖尿病の主な症状
症状は突然かつ急激に現れることが特徴で、ゆっくり進む2型糖尿病とは対照的です。
- のどの渇き・多飲多尿
- 急な体重減少
- 続く疲れやすさ
- 視力のぼやけ
- 子どもでは夜尿(おねしょ)で見つかることもあります。
症状が進むとインスリンがなくなり、高血糖による昏睡や糖尿病性ケトアシドーシス(血液が酸性にかたよる状態)という命に関わる状態になる危険があります。
1型糖尿病と2型糖尿病の違い
| 比較項目 | 1型糖尿病 | 2型糖尿病 |
|---|---|---|
| 原因 | 自己免疫によるβ細胞の破壊 | インスリンが効きにくい+出る量が減ります。 |
| 患者割合 | 約5〜10% | 約90〜95% |
| 発症年齢 | 子ども〜若い人 | 中高年が中心 |
| 生活習慣 | 関係なし | 強く関係 |
| 進行速度 | 急(数日〜数週間) | ゆっくり(数年単位) |
| 治療 | インスリン注射が必須 | 食事・運動+薬による治療 |
1型糖尿病の合併症リスク
きちんと治療しないと、次のような合併症が起こる可能性があります。
- 糖尿病性ケトアシドーシス(血液が酸性にかたよる状態):インスリン不足で急に起こる合併症で、命に関わります。
- 心臓や血管の病気(心筋梗塞・脳卒中)
- 糖尿病性腎症(腎臓の働きの低下)
- 糖尿病性神経障害(手足などの神経の障害)
- 糖尿病性網膜症(視力の低下・失明のおそれ)
診断方法
次の検査で診断されます。
- 空腹時の血糖値検査
- 糖化ヘモグロビン検査(ここ最近の血糖の状態を表す値)
- 自己抗体検査(自分の体を攻撃する抗体を調べる:GAD抗体・IA-2抗体・インスリン自己抗体)
- Cペプチド測定(インスリンを作る力を調べる)
遺伝子と1型糖尿病の関連
DNA領域rs2664170と発症リスクの関係
イギリスの少年糖尿病研究財団によるJeffrey C Barrettらの研究により、遺伝子GAB3の近くのDNA領域rs2664170が1型糖尿病になるリスクと関係していることがわかりました。
- rs2664170にはGG・GA・AAの3つの遺伝子型があります。
- 発症しやすさに関係するGを持つGG型は1型糖尿病を発症しやすいです。
- GA型はやや発症しやすい傾向があります。
- AA型は比較的リスクが低いです。
ただし、GG型やGA型の人が必ず1型糖尿病になるわけではなく、環境の影響が重なることで発症しやすくなります。
日本人の遺伝子型の分布(rs2664170)
| 遺伝子型 | 日本人の割合 | 世界の割合 |
|---|---|---|
| GG型 | 4.1% | 10.6% |
| GA型 | 32.4% | 43.9% |
| AA型 | 63.3% | 45.4% |
しくみ:遺伝子GAB3と自己免疫の関係
遺伝子GAB3はヒトの24種類の染色体のうちX染色体にあります。GAB3は脾臓や骨髄で働き、マクロファージ(免疫細胞の一種)が育つのに必要な遺伝情報をもっています。
DNA領域rs2664170のGタイプによるしくみは次のとおりです。
- GAB3が働きすぎる → 白血球がマクロファージへ育つのを進めすぎます。
- マクロファージが増える → 免疫の働きが強まり、炎症が起こります。
- 信号物質が出る → リンパ球が活発になります。
- 膵臓のランゲルハンス島にマクロファージが入りこむ → β細胞が壊されます。
このしくみによって、自己免疫による1型糖尿病が起こると考えられています。
検査の理論的根拠
代表的なDNA領域:1型糖尿病
1型糖尿病に最も強く影響するDNA領域は、rs2664170です。 日本におけるこの領域の遺伝子タイプの分布は下記のとおりです。
- GG
4.1 % - GA
32.4 % - AA
63.3 %
他に、1型糖尿病に関わるDNA領域にはrs6518350があります。 日本におけるこの領域の遺伝子タイプの分布は下記のとおりです。
- AA
85.2 % - AG
14.2 % - GG
0.5 %
検査の根拠
イギリスの少年糖尿病研究財団によるJeffrey C Barrettらの研究により、1型糖尿病になるリスクが遺伝子と関係していることがわかりました。DNA領域rs2664170にはGとAの2種類のタイプがあり、発症しやすさに関係するGを持つ人は1型糖尿病のリスクが高い傾向にあります。日本人ではGG型が4.1%、GA型が32.4%、AA型が63.3%で、世界平均と比べてGを持つ人の割合が低いことが特徴です。
今回調査したDNA領域
細胞の中にあるDNAマップの模式図
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関連遺伝子
| 関連遺伝子 | GAB3 |
|---|---|
| 関連遺伝子 | GATD3 |
よくある質問
Q1. 1型糖尿病とは何ですか?
1型糖尿病は、自己免疫反応により膵臓のβ細胞が壊され、インスリンがまったく出なくなる病気です。全糖尿病の約5〜10%を占め、主に子ども〜若い人に急に発症します。日本では1年間に10万人あたり約2.3人が発症すると見積もられています。
Q2. 1型糖尿病の原因は何ですか?
主な原因は自己免疫反応による膵臓β細胞の破壊です。免疫細胞が自分のβ細胞を攻撃し、インスリンを作る力が失われます。遺伝子GAB3の近くのDNA領域rs2664170のGタイプが、発症しやすさに関わる要素として見つかっています。
Q3. 1型糖尿病と2型糖尿病の違いは?
1型は自己免疫によりインスリンが出なくなることが原因で若い人に急に発症し、インスリン注射が欠かせません。2型はインスリン抵抗性(インスリンが効きにくい状態)がおもな原因で中高年にゆっくり発症し、生活習慣が強く関わります。
Q4. 遺伝子検査で1型糖尿病のリスクはわかりますか?
DNA領域rs2664170の遺伝子型を調べることで、1型糖尿病の発症リスクの傾向を知ることができます。Gタイプ(GG型・AG型)を持つ人はリスクが高い傾向にあることが研究でわかっています。
Q5. 1型糖尿病の初期症状にはどのようなものがありますか?
1型糖尿病の初期症状は突然現れることが特徴です。のどの渇き・多飲多尿(水をたくさん飲み、尿が増える)、急な体重減少、続く疲れやすさが代表的です。子どもでは夜尿(おねしょ)で気づかれることもあります。進行するとケトアシドーシスや昏睡を引き起こす危険があります。
参考文献
- 参考リンク1 : 「インスリン分泌が枯渇した1型糖尿病」の情報 糖尿病情報センター
- 参考リンク2 : 2009 May., Jeffrey C Barrett, Nature genetics.
- 参考リンク3 : DNA 領域「rs2664170」の情報 米国国立衛生研究所
- 参考リンク4 : 2002 Jan., Ingrid Wolf , Mol Cell Biol.
- 参考リンク5 : 2002 Jan., Wolf, Ingrid, Molecular and Cellular Biology.
- 参考リンク6 : 2009 Jun., Jeffrey C Barrett, Nat Genet
- 参考リンク7 : 2015 Apr., Suna Onengut-Gumuscu, Nat Genet