慢性腎不全
- 慢性腎不全は日本に推定1,300万人以上の患者が存在し、初めのうちは自覚症状がなく、進行すると腎臓の働きが元に戻りにくくなる病気です。
- DNA領域rs3116613のG型変異が尿アルブミン/クレアチニン比の上昇と関係し、GG型ほど慢性腎不全のリスクが高い傾向があります。
- 日本人のTT型(低リスク型)保有率は94.3%で、世界平均の69.1%と比べてリスクアレルを持つ人の割合が低いです。
概要
【疾患の概要】 腎臓の働きが長い時間をかけて少しずつ低下する「慢性腎臓病」という病気があります。 慢性腎臓病は比較的新しい病気の考え方で、実は日本に1,300万人以上の患者がいるともいわれています。
【症状と特徴】 慢性腎臓病は、初めのうちは自覚症状がほとんどないため、気づきにくい病気です。 一方で、病気が進んで悪化すると、腎臓の働きが元に戻らなくなるおそれがあります。
【治療と注意点】 慢性腎臓病は、早めに治療すれば回復できる病気です。 病気があるかどうかの目印(バイオマーカー)として使われているのが「アルブミン尿」です。 アルブミンはタンパク質の一種で、腎臓が正常に働いていれば、本来は尿に出てきません。 ただし、尿の中のアルブミンの濃さは運動や血圧などの影響で変わりやすいことも知られています。 そのため、尿の中のクレアチニンという物質の濃さを使って調整するのが一般的です。 この調整した数値を「尿アルブミン/クレアチニン比」といいます。 最近の研究から、尿アルブミン/クレアチニン比は遺伝子の働きとも関係があることがわかってきました。 (参考リンク1) 遺伝子検査でご自身の遺伝子タイプを調べると、腎臓の状態をより正確に知る手がかりになる可能性があり、慢性腎臓病の早期発見にも役立ちます。 検査の根拠: イギリスのエクセター大学の研究者らが行った調査は、尿アルブミン/クレアチニン比と遺伝子の関係を示しています。
【遺伝子とリスク】 その報告によると、DNA領域「rs3116613」がリスク型のとき、尿アルブミン/クレアチニン比が上がりやすい傾向があります。 ヒトの遺伝情報は、アデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)という塩基の並び方で決まり、DNA領域「rs3116613」にも「A」「T」「G」「C」が並んでいます。 その中のひとつの塩基「T」が「G」に置き換わると、尿アルブミン/クレアチニン比が上がりやすくなるということです(参考リンク2)。 この場合の「G」をリスクアレル(病気のリスクに関わる型)と呼びます。 DNA領域「rs3116613」の遺伝子タイプは、「TT型」「TG型」「GG型」の3つに分けられます。 日本人の遺伝子タイプは、「TT型」が97.3%、「TG型」が2.7%、「GG型」が0.02%です。 そして「GG型」ほど尿アルブミン/クレアチニン比が上がりやすく、「TG型」はやや上がりやすいこともわかっています。 しくみ: DNA領域「rs3116613」は遺伝子「DLEU1」の中にあり、DLEU1はヒトに46本ある染色体のうち、13番目の染色体にあります。 遺伝子「DLEU1」は、長鎖ノンコーディングRNAという物質をつくることに関わっており(参考リンク1)、RNA(リボ核酸)は細胞がタンパク質をつくるときの土台になります。 その中で、長鎖ノンコーディングRNAは遺伝子の働きを調整する役割などを持つと考えられていますが、まだわかっていない点も多い物質です。 尿アルブミン/クレアチニン比の上昇と関係がある他の遺伝子は、心臓や血管の病気の発症にも関係しているとの報告もあり、今後DLEU1のさらなる研究が期待されています。
慢性腎不全とは何か
慢性腎不全とは、腎臓の働きが長い時間をかけて低下していく病気です。日本国内の患者数は推定1,300万人以上にのぼり、大人の約8人に1人がかかっているとされています。早めに治療すれば腎臓の働きの回復が見込める一方、病気が進むと回復が難しくなります。
慢性腎不全を早く見つける目印「尿アルブミン/クレアチニン比」とは
尿アルブミン/クレアチニン比は、慢性腎不全があるかどうかを判断する目印(バイオマーカー)です。
- アルブミンはタンパク質の一種で、腎臓が正常に働いていれば尿に出てきません。
- 腎臓の働きが落ちると、アルブミンが尿にもれ出して「アルブミン尿」になります。
- 尿の中のアルブミンの濃さは運動や血圧の影響で変わるため、クレアチニンの濃さで調整した数値(尿アルブミン/クレアチニン比)が使用されます。
慢性腎不全の進行段階と症状
| ステージ | 腎臓のろ過能力(糸球体ろ過量) | 主な症状 |
|---|---|---|
| ステージ1〜2(初期) | 90〜60 mL/min | 自覚症状はほぼなし |
| ステージ3a〜3b(中期) | 59〜30 mL/min | 夜間のトイレの回数が増える・むくみ・だるさ |
| ステージ4(進行期) | 29〜15 mL/min | 貧血・食欲低下・電解質異常(体内の塩分などのバランスの乱れ) |
| ステージ5(末期) | 15 mL/min未満 | 透析(機械で血液をきれいにする治療)または腎移植が必要です。 |
遺伝子と慢性腎不全の関係
DNA領域rs3116613と尿アルブミン/クレアチニン比の関係
エクセター大学のCasanovaらの研究(2019年、Human Molecular Genetics掲載)により、尿アルブミン/クレアチニン比の上昇がDNA領域rs3116613と関係していることがわかりました。
- rs3116613にはTT・TG・GGの3つの遺伝子型が存在します。
- ひとつの塩基「T」が「G」に置き換わると尿アルブミン/クレアチニン比が上がりやすくなります。
- この場合の「G」をリスクアレルと呼びます。
- GG型ほど尿アルブミン/クレアチニン比が上がりやすく、TG型はやや上がりやすいです。
日本人と世界の遺伝子型の割合の比較(rs3116613)
| 遺伝子型 | 日本人の割合 | 世界の割合 |
|---|---|---|
| TT型 | 94.3% | 69.1% |
| TG型 | 5.6% | 28.0% |
| GG型 | 0.1%以下 | 2.8% |
日本人でリスクアレル(G型)を持つ人の割合(TG型+GG型)は5.6%で、世界平均の30.8%と比べてかなり低い割合です。日本人の94.3%がTT型(低リスク型)で、遺伝子の面から見ると尿アルブミン/クレアチニン比が上がるリスクが低い集団だといえます。
DNA領域rs2837554と慢性腎不全の関係
rs3116613に加えて、DNA領域rs2837554も慢性腎不全に関わるDNA領域です。
日本人と世界の遺伝子型の割合の比較(rs2837554)
| 遺伝子型 | 日本人の割合 | 世界の割合 |
|---|---|---|
| AA型 | 13.3% | 1.2% |
| AG型 | 46.3% | 20.1% |
| GG型 | 40.2% | 78.5% |
日本人はAA型が13.3%、AG型が46.3%と、世界平均と比べてA型アレルを持つ人の割合が高いのが特徴です。
遺伝子が働くしくみ
DLEU1遺伝子の役割とは
DNA領域rs3116613は、13番染色体にある遺伝子「DLEU1」の中にあります。
- DLEU1は長鎖ノンコーディングRNA(タンパク質の設計図にはならないRNA)をつくることに関わります。
- RNA(リボ核酸)は、細胞がタンパク質をつくるときの土台となる物質です。
- 長鎖ノンコーディングRNAは遺伝子の働きの調整を担うと考えられていますが、まだわかっていない点もあります。
- 尿アルブミン/クレアチニン比の上昇と関係する他の遺伝子は心臓や血管の病気の発症にも関係するとの報告があります。
DSCAM遺伝子の関与
DNA領域rs2837554はDSCAM遺伝子に関係しています。DSCAMは21番染色体にある遺伝子で、神経が育つことや、神経どうしの信号のやり取りに関わっています。腎臓の働きとの詳しい関係のしくみについては、今後の研究が期待されています。
検査の理論的根拠
代表的なDNA領域:慢性腎不全
慢性腎不全に最も強く影響するDNA領域は、rs3116613です。日本でのこの領域の遺伝子タイプの割合は下のとおりです。
- TT
94.3 % - TG
5.6 % - GG
0.1%以下
ほかに、慢性腎不全に関わるDNA領域としてrs2837554があります。日本でのこの領域の遺伝子タイプの割合は下のとおりです。
- AA
13.3 % - AG
46.3 % - GG
40.2 %
検査の根拠
エクセター大学のCasanovaらの研究により、尿アルブミン/クレアチニン比(尿にどれくらいタンパク質がもれているかを示す数値)が遺伝子と関係していることがわかりました。DNA領域rs3116613の中のひとつの塩基「T」が「G」に置き換わると、この数値が上がりやすくなります。GG型ほど上がりやすく、TG型はやや上がりやすいことがわかっています。遺伝子検査でご自身の遺伝子タイプを調べることで、慢性腎不全の早期発見に役立つ可能性があります。
今回調査したDNA領域
細胞の中にあるDNAマップの模式図
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関連遺伝子
| 関連遺伝子 | DLEU1 |
|---|---|
| 関連遺伝子 | DSCAM |
よくある質問
Q1. 慢性腎不全とは何ですか?
慢性腎不全とは、腎臓の働きが長い時間をかけて低下していく病気です。日本国内の患者数は推定1,300万人以上にのぼります。初めのうちは自覚症状がほとんどないため発見が遅れやすい一方、早めに治療すれば腎臓の働きの回復が見込めます。尿アルブミン/クレアチニン比が、早期発見のための大切な目印(バイオマーカー)です。
Q2. 慢性腎不全と遺伝子は関係がありますか?
はい。エクセター大学のCasanovaらの研究(2019年、Human Molecular Genetics)により、DNA領域rs3116613が尿アルブミン/クレアチニン比の上昇と関係していることがわかっています。rs3116613にはTT・TG・GGの3つの遺伝子型があり、G型を持つ人は尿アルブミン/クレアチニン比が上がりやすい傾向にあります。
Q3. 慢性腎不全に関わる遺伝子型(rs3116613)は、日本人ではどのような割合ですか?
日本人のrs3116613の遺伝子型の割合はTT型94.3%、TG型5.6%、GG型0.1%以下です。世界全体ではTT型69.1%、TG型28.0%、GG型2.8%で、日本人はリスクアレル(G型)を持つ人の割合が世界平均の約5分の1と低いのが特徴です。
Q4. 尿アルブミン/クレアチニン比とは何ですか?
尿アルブミン/クレアチニン比とは、尿の中のアルブミンの濃さを、クレアチニンの濃さで調整した数値で、慢性腎不全を早く見つけるのに役立つ目印(バイオマーカー)です。腎臓が正常に働いていればアルブミンは尿に出てきませんが、腎臓の働きが落ちるとアルブミンがもれ出し、この数値が上がります。遺伝子検査と組み合わせることで、腎臓の状態をより正確に評価できるようになります。