尿道下裂
- 尿道下裂は、陰茎の尿の出口がふつうとは違う位置にある生まれつきの病気で、欧米のデータでは男の子約300人に1人に見られます。
- X染色体上のDNA領域rs1934179(DGKK遺伝子)がなりやすさに関わる要因として見つかり、「A」を持つ人は発症しやすくなります。
- 日本人で「A」を持つ人(GA+AA)の割合は43.8%で、世界平均の57.1%と比べて低い割合です。
概要
【概要・特徴】 「尿道下裂」とは、陰茎(ペニス)の先にあるはずの尿の出口が、ふつうとは違う位置にある生まれつきの病気です。この病気があると、おしっこをするときに尿が飛び散ったり、陰茎が曲がっていることで性生活(膣内での射精)がうまくいかなくなったりすることがあります。 欧米のデータによると、男の子300人に1人ほどがこの病気を持って生まれるとされています。遺伝するかどうかははっきりしていませんが、一部の患者さんでは家族にも同じ病気が見られることが報告されており、遺伝が関係している可能性もあります。 治療では、1〜2歳で手術を行い、おしっこや性生活が問題なくできるようにすることを目指します。 遺伝子検査でご自身の遺伝子のタイプを調べ、「尿道下裂」のなりやすさを知ることは、早めの対策に役立つと期待されます。
【2. 理論的根拠】 オランダの研究チームは、ヨーロッパ系で尿の出口が前寄り・中ほどにあるタイプの「尿道下裂」の患者さん436人と、病気のない人のDNAを幅広く調べました。その結果、尿道下裂の患者さんに多く見られる遺伝子の個人差(一塩基多型)があることが分かりました。 そのひとつがDNA領域「rs1934179」で、X染色体にある遺伝子「DGKK」に関わる位置にあることが確認されました。(参考リンク1) このDNA領域「rs1934179」は、白人の尿道下裂の患者さん166人と病気のない人のDNAデータを比べた研究でも、同じように患者さんのグループに多い変化でした。(参考リンク2) また、「尿道下裂」の患者さん466人と病気のない中国人402人のデータでも同じ傾向があり、さらに中くらいから重い症状の患者さんとの関係も見られました。(参考リンク3) DNA領域「rs1934179」には「GG型」「GA型」「AA型」の3つの遺伝子型があり、日本人では「GG型」が54.3%、「GA型」が38.7%、「AA型」が6.9%であることが分かりました。(参考リンク4) また、このオランダの研究チームのデータでは、DNA領域「rs1934179」で、なりやすさに関わる「A」を持つ「AA型」と「GA型」の人は、必ず発症するわけではありませんが、「尿道下裂」になりやすい傾向がある可能性が示されました。 このように、尿道下裂には遺伝が関係している可能性があり、「rs1934179」も影響するDNA領域のひとつと考えられています。
【3. 作用機序】 「rs1934179」というDNA領域はX染色体の上にあり、遺伝子「DGKK」の働く量に影響する場所にあります。 「DGKK」は、脂質(あぶらの成分)を使って細胞の中で情報を伝えるしくみに関わる「ジアシルグリセロールキナーゼ」という酵素を作る遺伝子です。その働きはまだ完全には分かっていません。 しかし、「DGKK」は精巣や胎盤でよく働いていることが知られており、遺伝子を調べた複数の論文で「DGKK」と尿道下裂の関係が報告されています。(参考リンク5) 尿道下裂の患者さんのDNAデータからは、「DGKK」の働きに関わる遺伝子の個人差(一塩基多型)がいくつも見つかっており、「rs1934179」は尿道下裂と関係があると考えられるDNA領域のひとつです。 このように、DNA領域「rs1934179」はX染色体の上にあり、「尿道下裂」のなりやすさに関わるとして注目されている遺伝子の個人差のひとつです。
尿道下裂とは何か
尿道下裂とは、陰茎の尿の出口(尿道口)が本来の先端ではなく、陰茎の裏側(下側)のふつうとは違う位置にある、生まれつきの泌尿器・生殖器の病気です。欧米のデータによると、男の子約300人に1人の割合で見られる、比較的よくある生まれつきの病気です。
尿道下裂の主な症状
尿道下裂の症状は、尿の出口の位置によって軽いものから重いものまで分けられます。主な症状は次のとおりです。
- おしっこの問題:尿の出口の位置がずれているため、尿が飛び散る・下向きに流れるなど、おしっこがしにくくなります。
- 陰茎の曲がり(すじ状の組織ができる):陰茎が裏側に曲がり、勃起したときに曲がりが目立ちます。
- 包皮の異常:包皮(陰茎の先をおおう皮)が表側だけにあり、裏側にはありません(フードのような形の包皮)。
- 性機能への影響:重い場合、性行為のときに膣内で射精しにくくなることがあります。
尿道下裂の分類
| 分類 | 尿の出口の位置 | 頻度 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 前方型(軽い) | 亀頭(陰茎の先)〜そのすぐ下のくびれ | 約50% | 最も多いタイプで、症状は軽いです。 |
| 中間型(中くらい) | 陰茎の中ほど | 約30% | おしっこの問題と陰茎の曲がりがあります。 |
| 後方型(重い) | 陰のう(玉袋)〜会陰部(陰のうと肛門の間) | 約20% | 大きな曲がりや、体の働きの問題があります。 |
尿道下裂の治療はどのように行われるのか
尿道下裂の治療は手術が基本で、1〜2歳ごろに行われます。手術の目的は以下の3点です。
- 尿の出口を陰茎の先に作り直す:ふつうの位置からおしっこができるようにします。
- 陰茎の曲がりを直す:陰茎を曲げているすじ状の組織を取り除き、まっすぐな形にします。
- 見た目をふつうに近づける:将来の心の負担を軽くします。
手術がうまくいく割合は約90〜95%で、手術後はおしっこや性機能がよくなることが期待できます。
遺伝子と尿道下裂の関連
なぜ遺伝子が尿道下裂のなりやすさに影響するのか
オランダの研究チームが、ヨーロッパ系の尿道下裂の患者さん436人と病気のない人のDNAを幅広く調べた結果、X染色体の上にあるDNA領域rs1934179が尿道下裂と関係していることを見つけました。
- rs1934179にはGG・GA・AAの3つの遺伝子型が存在します。
- なりやすさに関わる「A」を持つ遺伝子型(GA型・AA型)は尿道下裂になりやすくなります。
- ポーランドの白人の患者さん166人を調べた確認のための研究でも、同じ結果が得られました(参考リンク2)。
- 中国人の患者さん466人と病気のない人402人のデータでも同じ傾向が確認され、中くらい・重い症状との関係も見られました(参考リンク3)。
DNA領域rs1934179の遺伝子型分布:日本人 vs 世界
| 遺伝子型 | 日本人の割合 | 世界の割合 | なりやすさ |
|---|---|---|---|
| GG型 | 56.2% | 42.8% | 標準 |
| GA型 | 37.5% | 45.2% | なりやすい |
| AA型 | 6.2% | 11.9% | なりやすい |
日本人で「A」を持つ人(GA+AA)の割合は43.7%で、世界平均の57.1%と比べて低い割合です。このことから、日本人ではrs1934179による尿道下裂のなりやすさが世界平均よりやや低い可能性があります。
DNA領域rs4554617の遺伝子型分布:日本人 vs 世界
| 遺伝子型 | 日本人の割合 | 世界の割合 |
|---|---|---|
| AA型 | 70.9% | 41.2% |
| AC型 | 26.5% | 45.9% |
| CC型 | 2.4% | 12.8% |
DGKK遺伝子の作用機序
DNA領域rs1934179はX染色体の上にあり、DGKK(ジアシルグリセロールキナーゼκ)という遺伝子の働く量に影響します。
- DGKKの働き:脂質(あぶらの成分)を使って細胞の中で情報を伝えるしくみに関わる「ジアシルグリセロールキナーゼ」という酵素を作る遺伝子です。
- よく働く場所:精巣や胎盤でよく働いており、男性の生殖器の発達に関わっている可能性があります。
- 研究の根拠:大勢の人の遺伝子を一度に調べる大規模な研究のいくつかで、DGKKと尿道下裂の関係が同じように確認されています(参考リンク5)。
rs1934179は、DGKKの働く量を調節する場所にある遺伝子の個人差(一塩基多型)のひとつです。「A」を持つ型では、DGKKの働く量が変わることで、尿道下裂のなりやすさに影響すると考えられています。
検査の理論的根拠
代表的なDNA領域:尿道下裂
尿道下裂 に最も強く影響するDNA領域は、rs1934179です。 日本でのこの領域の遺伝子タイプの分布は下記のとおりです。
- GG
56.2 % - GA
37.5 % - AA
6.2 %
ほかに、尿道下裂に関わるDNA領域としてrs4554617があります。 日本でのこの領域の遺伝子タイプの分布は下記のとおりです。
- AA
70.9 % - AC
26.5 % - CC
2.4 %
検査の根拠
オランダの研究チームが、ヨーロッパ系で尿の出口が前寄り・中ほどにあるタイプの尿道下裂の患者さん436人と、病気のない人のDNAを幅広く調べました。その結果、X染色体の上にあるDNA領域rs1934179がDGKK遺伝子に関わる位置にあり、尿道下裂のなりやすさに関係していることが確認されました。この結果は、ポーランドと中国で行われた確認のための研究でも同じように見られています。
今回調査したDNA領域
細胞の中にあるDNAマップの模式図
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関連遺伝子
| 関連遺伝子 | DGKK |
|---|---|
| 関連遺伝子 | DGKK |
よくある質問
Q1. 尿道下裂とは何ですか?
尿道下裂とは、陰茎の尿の出口が本来の先端ではなく、裏側のふつうとは違う位置にある生まれつきの病気です。欧米のデータでは、男の子約300人に1人の割合で見られます。おしっこがうまくできない、陰茎が曲がる、包皮(陰茎の先をおおう皮)の形が変わっているなどの症状があり、1〜2歳ごろの手術で治療します。
Q2. 尿道下裂は遺伝しますか?
尿道下裂には遺伝子の影響が関係している可能性があります。オランダの研究チームにより、X染色体の上にあるDNA領域rs1934179(DGKK遺伝子)が尿道下裂のなりやすさに関係していることが報告されています。家族の中で同じ病気が見られる例もあり、遺伝子検査で自分のなりやすさを知ることが早めの対策に役立ちます。
Q3. 尿道下裂に関連する遺伝子は何ですか?
尿道下裂に最も強く関連する遺伝子はDGKK(ジアシルグリセロールキナーゼκ)です。X染色体の上にあり、脂質(あぶらの成分)を使って細胞の中で情報を伝えるしくみに関わる酵素を作ります。rs1934179とrs4554617の2つの遺伝子の個人差(一塩基多型)が尿道下裂と関係していることが確認されており、精巣や胎盤でよく働いているのが特徴です。
Q4. 尿道下裂の治療法はどのようなものですか?
尿道下裂の治療は手術が基本です。1〜2歳ごろに手術を行い、尿の出口をふつうの位置に作り直します。手術がうまくいく割合は約90〜95%で、おしっこがふつうにできるようにすることと、将来の性機能を守ることが主な目的です。
Q5. 尿道下裂の遺伝子型(rs1934179)の日本人における分布は?
日本人におけるrs1934179の遺伝子型分布はGG型56.2%、GA型37.5%、AA型6.2%です。なりやすさに関わる「A」を持つ人の割合(GA+AA)は43.7%で、世界平均の57.1%と比べると日本人は低い傾向にあります。
参考文献
- 参考リンク1 : 2010 Nov., Loes F M van der Zanden, Nature Genetics.
- 参考リンク2 : 2018 Sep., Kamil Konrad Hozyasz, Urology journal.
- 参考リンク3 : 2014 Oct., Qichao Ma, BJU international.
- 参考リンク4 : DNA 領域「rs1934179」の情報 アメリカ国立衛生研究所
- 参考リンク5 : 2017 Jun., Hua Xie, Asian Journal of Andrology.
- 参考リンク6 : 2014 Sep., Frank Geller, Nat Genet