末梢動脈疾患
- 末梢動脈疾患とは、手足の動脈硬化で血の流れが悪くなる病気で、高齢者の10人に1人がかかり、特に50歳以上の男性に多いです。
- 双子を比べた研究から末梢動脈疾患への遺伝の影響は58%と報告され、X染色体上のDMD遺伝子(DNA領域rs6631478)が足関節上腕血圧比と負の相関をもつことが判明しました。
- 日本人のrs6631478の遺伝子型の分布はTC型49.5%・TT型29.8%・CC型20.6%で、TT型はこの病気のリスクが比較的高いです。
概要
【概要・特徴】 手足にしびれや痛み、冷たさを感じる「末梢動脈疾患(閉塞性動脈硬化症とも呼ばれます)」という病気があります。 この病気は、手足の血管で動脈硬化(血管が硬く、せまくなること)が起こるものです。症状が進むと、じっとしているときでも痛むようになり、最後には手足に潰瘍(皮膚が深く傷つくこと)や壊死(組織が死んでしまうこと)が起こり、切断が必要になることもあります。 高齢者の10人に1人がかかっているともいわれ、特に50歳以上の男性に多い病気です。 この病気の程度を調べる目安の1つに「足関節上腕血圧比」があります。これは腕と足首の血圧を測り、【足関節上腕血圧比=足首の最高血圧÷腕の最高血圧】という式で求めます。 ふつうは1.0以上になり、0.9より小さいと動脈硬化が疑われます。この病気が起こったり進んだりする原因には、喫煙や肥満などがあります。 また、この病気や足関節上腕血圧比と遺伝子の関係を調べた研究もあります。双子を比べた研究では、末梢動脈疾患への遺伝の影響は58%、環境の影響は42%だったと報告されています(参考リンク1)。 健康管理に役立てるためにも、遺伝子検査を受けて、自分の遺伝子の傾向を知っておくことをおすすめします。
【2. 理論的根拠】 ハーバード大学医学部の研究チームは、性染色体の1つであるX染色体にある「DMD」という遺伝子(デュシェンヌ型筋ジストロフィーという病気に関わる遺伝子)と、末梢動脈疾患に関係があると報告しています(参考リンク2)。 この研究では、足関節上腕血圧比が0.90より小さい人を末梢動脈疾患と決めて、ヒスパニック・ラテンアメリカ系の人たちを対象に、遺伝子「DMD」とこの病気の関係を調べました。 遺伝子「DMD」には「rs6631478」というDNA領域があります。ここでは、DNAをつくる4つの塩基であるアデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)のうち1つが、別の塩基に置き換わっています。「rs6631478」の場合、TがCに置き換わることが分かっています(参考リンク3)。 このDNA領域「rs6631478」の遺伝子型は「TT型」「TC型」「CC型」の3つに分けられ、足関節上腕血圧比と負の相関(一方が増えるともう一方が減る関係)があると指摘されています。 日本人の遺伝子型は「TC型」が最も多く、次に「TT型」、最も少ないのが「CC型」で、それぞれ47.5%、37.5%、15.0%です。 また、「CC型」の人は「T」の影響を受けないため、この病気にかかるリスクは比較的小さいと考えられています。 日本人で2番目に多いTT型は、この病気にかかりやすいタイプとして知られています。 そのため、TT型の人は、喫煙や肥満など遺伝子以外の要因にも気を配ることが大切です。
【3. 作用機序】 末梢動脈疾患の目安である足関節上腕血圧比に関係する遺伝子「DMD」は、性染色体の“X染色体”にあります。 この遺伝子は、細胞の活動を支える「ジストロフィン糖タンパク質複合体」という物質をつくるためのタンパク質づくりに関わっていると考えられています。 この複合体は、細胞の形を保つ「細胞骨格」と、細胞の外側で足場になる「細胞外マトリックス」をつなぐ役割をもち、細胞が正常に働くために欠かせないとされています。 遺伝子「DMD」に、一部がなくなる、重なる、突然変異するといった変化が起こると、筋ジストロフィーや心筋症といった難病につながる可能性があります(参考リンク4)。 遺伝子「DMD」のDNA領域「rs6631478」は足関節上腕血圧比と関係があり、狭心症や心筋梗塞を一緒に起こしやすい末梢動脈疾患にかかるリスクが高まる可能性があります。 そのため、自分の遺伝子の傾向を知り、早めに対策をとることが、病気のリスクを下げることにつながるかもしれません。
末梢動脈疾患とは何か
末梢動脈疾患とは、手足の動脈に動脈硬化が起こり、血管がせまくなったりつまったりして、血の流れが悪くなる病気です。高齢者の10人に1人がかかるとされ、特に50歳以上の男性に多い病気です。
末梢動脈疾患の症状の進み方
末梢動脈疾患は次のような段階で進みます。早く見つけて早く治療することが大切です。
- 初期:手足のしびれ・冷たさ・軽い痛み
- 中期:歩くと足が痛くなり(間欠性跛行)、一定の距離ごとに休む必要が出てきます。
- 後期:じっとしていても痛みが続きます。
- 重症期:手足に潰瘍や壊死が起こり、切断が必要になることがあります。
足関節上腕血圧比(足首と腕の血圧の比)とは
足関節上腕血圧比は、体を傷つけずに末梢動脈疾患の重さを調べるための目安です。計算式は【足関節上腕血圧比=足首の最高血圧÷腕の最高血圧】です。
| 足関節上腕血圧比 | 判定 | 状態 |
|---|---|---|
| 1.0〜1.4 | 正常 | 動脈硬化のサインなし |
| 0.91〜0.99 | 境界(注意が必要) | 軽い動脈硬化の可能性あり |
| 0.9未満 | 異常 | 動脈硬化が疑われ、末梢動脈疾患の可能性が高いです。 |
末梢動脈疾患の主なリスク要因
末梢動脈疾患が起こったり進んだりすることに関わるリスク要因は次のとおりです。
- 喫煙:末梢動脈疾患のリスクを2〜4倍に高める、最も大きなリスク要因です。
- 肥満:動脈硬化を進めやすくします。
- 糖尿病:血管の内側の壁を傷つけます。
- 高血圧:動脈の壁への負担を大きくします。
- 脂質異常症(血液中のあぶらの異常):血管の内側にプラーク(あぶらのかたまり)がたまりやすくなります。
- 遺伝子の影響:双子の研究から、末梢動脈疾患への遺伝の影響は58%、環境の影響は42%と報告されています(参考リンク1)。
遺伝子と末梢動脈疾患の関係
DMD遺伝子と末梢動脈疾患の関係とは
ハーバード大学医学部の研究チームにより、X染色体上のDMD遺伝子(デュシェンヌ型筋ジストロフィーという病気に関わる遺伝子)が、末梢動脈疾患と関係していることが報告されています(参考リンク2)。
- 研究対象:ヒスパニック・ラテンアメリカ系の人たち
- 末梢動脈疾患の基準:足関節上腕血圧比が0.90未満です。
- DMD遺伝子のDNA領域rs6631478が足関節上腕血圧比と負の相関を示します。
DNA領域rs6631478の遺伝子型と特徴
rs6631478では、塩基のチミン(T)がシトシン(C)に置き換わる変化が確認されています(参考リンク3)。遺伝子型は次の3つに分けられます。
| 遺伝子型 | 日本人の割合 | 世界の割合 | この病気のリスク |
|---|---|---|---|
| TT型 | 29.8% | 69.3% | 比較的高い |
| TC型 | 49.5% | 27.8% | 中程度 |
| CC型 | 20.6% | 2.7% | 比較的低い |
日本人ではTC型が49.5%と最も多く、次にTT型が29.8%です。CC型の人はTの影響を受けないため、この病気のリスクは比較的低いと考えられています。一方、TT型の人は喫煙や肥満など、遺伝子以外の要因にも注意が必要です。
DNA領域rs1051730(CHRNA3遺伝子)の関わり
末梢動脈疾患にはrs1051730(CHRNA3遺伝子に関係)も関わっています(参考リンク5)。CHRNA3遺伝子は、ニコチンを受け取るたんぱく質(ニコチン性アセチルコリン受容体)の部品の一つ(α3)の設計図で、喫煙の習慣やニコチン依存に関係しています。
| 遺伝子型 | 日本人の割合 | 世界の割合 |
|---|---|---|
| GG型 | 96.1% | 45.6% |
| GA型 | 3.7% | 43.8% |
| AA型 | 0.1%以下 | 10.5% |
日本人ではGG型が96.1%ととても多く、世界平均の45.6%とは大きく異なる分布になっています。
末梢動脈疾患のしくみと遺伝子の役割
DMD遺伝子が末梢動脈疾患に影響するしくみ
DMD遺伝子はX染色体の上にあり、ジストロフィン糖タンパク質複合体という物質をつくるためのタンパク質づくりに関わっています。
- ジストロフィン糖タンパク質複合体の役割:細胞骨格と細胞外マトリックスをつなぎ、細胞の形を保ち、正常に働けるよう支えます。
- DMD遺伝子の変化:一部がなくなる・重なる・突然変異するといった変化が起こると、筋ジストロフィーや心筋症につながる可能性があります(参考リンク4)。
- 末梢動脈疾患との関係:DNA領域rs6631478は足関節上腕血圧比と関係があり、狭心症や心筋梗塞を一緒に起こしやすい末梢動脈疾患へのかかりやすさが変わります。
自分の遺伝子の傾向を知り、早めに生活習慣を見直したり、定期的に検診を受けたりすることが、末梢動脈疾患のリスクを下げる有効な方法と考えられています。
検査の理論的根拠
代表的なDNA領域:末梢動脈疾患
末梢動脈疾患に最も強く影響するDNA領域は、rs6631478です。 日本でのこの領域の遺伝子型の分布は下のとおりです。
- TT
29.8 % - TC
49.5 % - CC
20.6 %
ほかに、末梢動脈疾患に関わるDNA領域としてrs1051730があります。 日本でのこの領域の遺伝子型の分布は下のとおりです。
- GG
96.1 % - GA
3.7 % - AA
0.1%以下
検査の根拠
ハーバード大学医学部のTamar Soferらの研究(2019年、Scientific Reports掲載)により、X染色体上のDMD遺伝子のDNA領域rs6631478が足関節上腕血圧比と負の相関(一方が増えるともう一方が減る関係)をもち、末梢動脈疾患のかかりやすさに関わっていることが分かりました。TT型の人はこの病気のリスクが比較的高く、CC型は比較的低いとされています。また、CHRNA3遺伝子のrs1051730も、喫煙との関係を通じて末梢動脈疾患のリスクに影響します。
今回調査したDNA領域
細胞の中にあるDNAの地図(模式図)
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関連遺伝子
| 関連遺伝子 | DMD |
|---|---|
| 関連遺伝子 | CHRNA3 |
よくある質問
Q1. 末梢動脈疾患とは何ですか?
末梢動脈疾患とは、手足の動脈に動脈硬化が起こり、血の流れが悪くなる病気です。はじめは、しびれや冷たさから始まり、進むとじっとしていても痛むようになり、最後には潰瘍(皮膚が深く傷つくこと)や壊死(組織が死んでしまうこと)に至る可能性があります。高齢者の10人に1人がかかり、特に50歳以上の男性に多い病気です。
Q2. 末梢動脈疾患の診断に使われる足関節上腕血圧比とは?
足関節上腕血圧比は、「足首の最高血圧÷腕の最高血圧」で計算される、末梢動脈疾患を見つけるための目安です。ふつうは1.0以上になり、0.9未満の場合は動脈硬化が疑われます。体を傷つけずに簡単に測れる検査として、広く使われています。
Q3. 末梢動脈疾患と遺伝子は関係がありますか?
はい。双子を比べた研究から、末梢動脈疾患への遺伝の影響は58%、環境の影響は42%と報告されています。ハーバード大学医学部の研究では、X染色体上のDMD遺伝子のDNA領域rs6631478が足関節上腕血圧比と負の相関をもつことが分かり、TT型の人はこの病気のリスクが比較的高いとされています。
Q4. DNA領域rs6631478の日本人の遺伝子型の分布は?
日本人のrs6631478の遺伝子型の分布はTC型49.5%、TT型29.8%、CC型20.6%です。世界全体ではTT型69.3%、TC型27.8%、CC型2.7%で、日本人はCC型の割合が世界平均の約7.6倍と高く、独特な分布になっています。
Q5. 末梢動脈疾患を予防するにはどうすればよいですか?
末梢動脈疾患の予防には、禁煙が最も大切です。喫煙は末梢動脈疾患のリスクを2〜4倍に高めます。ほかにも、適正な体重を保つこと、1日30分以上のウォーキングを続けること、血圧・血糖値・脂質(血液中のあぶら)を管理すること、バランスの良い食事が効果的です。遺伝子の影響でリスクが高い人は、早いうちから生活習慣を見直すことがすすめられます。