静脈血栓塞栓症
- 静脈血栓塞栓症は深部静脈血栓症と肺塞栓症をまとめた呼び名で、1,000人あたり1.84人がかかり、年をとるほどなりやすくなります。
- DNA領域rs7051718のTT型を持つ人はなりやすく、日本人の約65%がTT型を持っています。
- 適切な水分補給・定期的な運動・食生活の改善で、血栓ができる危険を減らし、早めに予防できます。
概要
【概要・特徴】 血栓とは、脱水や圧迫などで血液の流れが悪くなってできる血のかたまりのことです。 「静脈血栓塞栓症」とは、足の奥にある太い静脈に血栓ができる「深部静脈血栓症」と、その血栓が血液の流れに乗って肺の動脈に詰まる「肺塞栓症」をまとめた呼び名です。 一般には「エコノミークラス症候群」とも呼ばれ、長い時間同じ姿勢でいることが原因とされています。肺塞栓症が起こると、息苦しさや気を失うなどの危険な症状が出ます。 「静脈血栓塞栓症」になる人は1,000人あたり1.84人と多くはありませんが、年をとるほどなりやすくなることがわかっています。(参考リンク1) 「静脈血栓塞栓症」は、生活習慣などの環境と遺伝子の影響が組み合わさって起こる病気で、関係する遺伝子がいくつも報告されています。 最近の研究では、遺伝子「BRCC3」の近くにある場所が「静脈血栓塞栓症」のなりやすさに影響している可能性があります。 肺塞栓症が起こると、血栓の大きさによっては短い期間で亡くなることもあるため、ふだんからの予防と早めの発見が大切です。 遺伝子検査で自分の遺伝子のタイプを調べ、「静脈血栓塞栓症」のなりやすさを知ることは、予防や早めの対策に役立つ可能性があります。
【2. 理論的根拠】 アメリカの退役軍人省ボストン・ヘルスケア・システムで行われた研究で、遺伝子「BRCC3」の周りにある特定のタイプによって、「静脈血栓塞栓症」になりやすくなることがわかりました。そのうちの1つが「rs7051718」と呼ばれるDNA領域です。 DNA領域「rs7051718」には、「TT型」、「TC型」、「CC型」という3つの遺伝子型があります。日本人では、「TT型」が64.5%、次に「TC型」が31.6%、そして「CC型」が3.9%となっています。(参考リンク2) また、「TT型」の人は静脈血栓塞栓症になりやすい傾向があり、「TC型」の人はややなりやすい傾向があることがわかりました。ただし、「TT型」や「TC型」の人が必ず「静脈血栓塞栓症」になるわけではありません。 一方で、日本人はDNA領域「rs7051718」で「TT型」を持つ人の割合が約65%と高く、「静脈血栓塞栓症」になりやすい傾向があるといえます。さらに、食生活などの環境の影響が重なると、病気になる可能性が高くなるため注意が必要です。 たとえば、脂の多い肉や揚げ物、糖分の多いデザートや清涼飲料水をとりすぎると、血液がドロドロになり血栓ができやすくなります。 このような食事を避け、ふだんから血栓を防ぐために、青魚に多く含まれる体によい脂(エイコサペンタエン酸・ドコサヘキサエン酸)を含む青魚や、ナットウキナーゼ(納豆に含まれる成分)を含む納豆などを食べることが大切です。 また、飛行機や車に長い時間乗るときは、ときどき体を動かしたり、水分をこまめにとったりすることも必要です。こうした工夫で、病気になる危険を減らすことができます。 遺伝子検査で早いうちに「静脈血栓塞栓症」のなりやすさを知っておくことで、生活や環境の面で対策をとることができます。
【3. 作用機序】 「静脈血栓塞栓症」に関わる遺伝子「BRCC3」は、人間が持つ24種類の染色体のうち、X染色体にあります。 この遺伝子は、けがやストレスなどの危険のサインに反応して炎症を起こす「インフラマソーム」(炎症を起こすタンパク質の集まり)のはたらきを調節するための情報を持っています。(参考リンク3) ただし、遺伝子「BRCC3」が「静脈血栓塞栓症」にどのように直接関わっているのかは、まだわかっていません。 しかし、足が長い時間圧迫されるストレスや脱水などが加わると、血栓ができやすくなり、炎症を起こすインフラマソームもはたらきやすくなると考えられます。 つまり、遺伝子「BRCC3」の近くにあるDNA領域「rs7051718」で、特に「TT型」を持つ人は、足への負担がかかったときにインフラマソームのはたらきを抑えにくく、血管の中で炎症が強くなりやすいため、「深部静脈血栓症」やそれに続いて起こる肺塞栓症が悪くなると考えられています。 このように、DNA領域「rs7051718」は「静脈血栓塞栓症」の発症に深く関わり、注目されている遺伝子の個人差(一塩基多型)のひとつです。
静脈血栓塞栓症とは
静脈血栓塞栓症とは、足の奥にある太い静脈に血栓(血のかたまり)ができる深部静脈血栓症と、その血栓が血液の流れに乗って肺の動脈に詰まる肺塞栓症をまとめた病気の呼び名です。一般には「エコノミークラス症候群」とも呼ばれ、1,000人あたり1.84人がかかります(1)。
静脈血栓塞栓症の原因としくみ
静脈血栓塞栓症は、環境と遺伝子の影響が組み合わさって起こります。主な原因は次のとおりです。
- 血液の流れが止まる:長い時間同じ姿勢でいると足の血液の流れが悪くなり、血栓ができます。
- 脱水・血液のねばりけが増える:水分が足りないと血液がドロドロになり、血栓ができやすくなります。
- 手術後・長い間の寝たきり:手術や入院で長い間安静にしていると、血液の流れが止まりがちになります。
- 遺伝子の影響:遺伝子BRCC3の近くにあるDNA領域rs7051718のTT型がなりやすさに関わります。
静脈血栓塞栓症の主な症状
深部静脈血栓症と肺塞栓症では、症状がちがいます。
- 深部静脈血栓症:足のはれ・痛み・熱っぽさ・皮ふの色の変化
- 肺塞栓症:急な息苦しさ・胸の痛み・気を失う・脈が速くなります。
肺塞栓症は血栓の大きさによっては短い期間で命に関わるとなるため、早めの発見と予防が大切です。
深部静脈血栓症と肺塞栓症の違い
| 比較項目 | 深部静脈血栓症 | 肺塞栓症 |
|---|---|---|
| 発生部位 | 足の奥にある太い静脈 | 肺の動脈 |
| 主な症状 | 足のはれ・痛み・熱っぽさ | 息苦しさ・胸の痛み・気を失います。 |
| 重症度 | 適切な治療でよくなります。 | 血栓の大きさによっては命に関わります。 |
| 発症経過 | 少しずつ症状が出ます。 | 急に起こる |
| 関係 | 肺塞栓症の原因になります。 | 深部静脈血栓症に続いて起こります。 |
静脈血栓塞栓症の予防と対策
静脈血栓塞栓症はふだんからの予防が大切です。次のような対策が効果的です。
- 定期的な運動:長い時間座ったり寝たりしたままでいるのを避け、こまめに体を動かします。
- 水分補給:脱水を防ぐために、こまめに水分をとります。
- 食生活の改善:青魚に多く含まれる体によい脂(エイコサペンタエン酸・ドコサヘキサエン酸)を含む青魚や、ナットウキナーゼを含む納豆を積極的に食べます。
- 高脂肪食の制限:脂の多い肉・揚げ物・糖分の多い清涼飲料水のとりすぎを避けます。
- 移動時の注意:飛行機や車で長い時間移動するときは、ときどきストレッチをしたり歩いたりします。
静脈血栓塞栓症が起こるしくみ
静脈血栓塞栓症の発症に関わる遺伝子BRCC3は、X染色体に位置しています。この遺伝子は、けがやストレスなどの危険のサインに反応してインフラマソーム(炎症を起こすタンパク質の集まり)のはたらきを調節する遺伝情報を持っています(3)。
- 足が長い時間圧迫されるストレスや脱水によって、血栓ができやすくなります。
- インフラマソームがはたらき、血管の中で炎症が強くなりやすいです。
- DNA領域rs7051718のTT型を持つ人は、インフラマソームのはたらきを抑えにくいです。
- 深部静脈血栓症から肺塞栓症へと進みやすくなります。
遺伝子と静脈血栓塞栓症の関係
DNA領域rs7051718と病気のなりやすさの関係
アメリカの退役軍人省ボストン・ヘルスケア・システムのKlarinらの研究(4)で、遺伝子BRCC3の周りにあるDNA領域rs7051718が静脈血栓塞栓症のなりやすさと関係していることがわかりました。
- rs7051718にはTT・TC・CCの3つの遺伝子型があります。
- TT型の人は静脈血栓塞栓症になりやすい傾向があります。
- TC型の人は静脈血栓塞栓症にややなりやすい傾向があります。
- 日本人はTT型を持つ人が約65%と多く、遺伝子の面でなりやすい傾向があるといえます。
日本人における遺伝子型分布(rs7051718)
| 遺伝子型 | 日本人の割合 | 世界の割合 |
|---|---|---|
| TT型 | 72.0% | 59.5% |
| TC型 | 25.6% | 35.2% |
| CC型 | 2.2% | 5.2% |
検査の理論的根拠
代表的なDNA領域:静脈血栓塞栓症
静脈血栓塞栓症 に最も強く影響するDNA領域は、rs7051718です。 日本における同じDNA領域の遺伝子タイプの割合は下記のとおりです。
- TT
72.0 % - TC
25.6 % - CC
2.2 %
検査の根拠
アメリカの退役軍人省ボストン・ヘルスケア・システムで行われた研究で、遺伝子BRCC3の周りにあるDNA領域rs7051718の特定の遺伝子型が、静脈血栓塞栓症のなりやすさに影響することがわかりました。rs7051718にはTとCの2種類のタイプがあり、TT型を持つ人は静脈血栓塞栓症になりやすい傾向があります(4)。日本人はTT型を持つ人が約72%と多く、環境の影響が重なるとさらになりやすくなるため、ふだんからの予防が大切です。
今回調査したDNA領域
細胞中に存在するDNAマップの模式図
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関連遺伝子
| 関連遺伝子 | MTCP1 |
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よくある質問
Q1. 静脈血栓塞栓症とは何ですか?
静脈血栓塞栓症とは、足の奥にある太い静脈に血栓ができる深部静脈血栓症と、血栓が肺の動脈に詰まる肺塞栓症をまとめた呼び名です。一般には「エコノミークラス症候群」とも呼ばれ、1,000人あたり1.84人がかかります。年をとるほどなりやすくなる傾向があります(1)。
Q2. 静脈血栓塞栓症の原因は何ですか?
主な原因は長い時間同じ姿勢でいることで血液の流れが止まりがちになること、脱水で血液がねばねばになること、手術のあと長い間ベッドで横になっていることです。環境と遺伝子の両方が関わっており、DNA領域rs7051718でTT型を持つ人はなりやすい傾向があります(4)。
Q3. 遺伝子検査で静脈血栓塞栓症のなりやすさは分かりますか?
DNA領域rs7051718の遺伝子型を調べることで、静脈血栓塞栓症へのなりやすさの傾向を知ることができます。日本人の約72%がなりやすいTT型を持っており、アメリカの退役軍人省ボストン・ヘルスケア・システムの研究で遺伝子との関係が確かめられています(2)(4)。
Q4. 静脈血栓塞栓症を予防する方法はありますか?
定期的な運動、こまめな水分補給、青魚に多く含まれる体によい脂(エイコサペンタエン酸・ドコサヘキサエン酸)を含む青魚や、ナットウキナーゼ(納豆に含まれる成分)を含む納豆を食べることが効果的です。脂の多い肉・揚げ物・糖分の多い清涼飲料水のとりすぎを避け、長い時間移動するときはストレッチをすることが大切です。
Q5. 深部静脈血栓症と肺塞栓症のちがいは?
深部静脈血栓症は足の奥にある太い静脈に血栓ができる病気で、足のはれや痛みが主な症状です。肺塞栓症は血栓が肺の動脈に詰まる病気で、息苦しさや気を失うなどの症状を起こし、血栓の大きさによっては命に関わります。深部静脈血栓症の血栓が肺まで流れていくことで肺塞栓症が起こります。
参考文献
- 参考リンク1 : 高齢者における静脈血栓塞栓症の疫学的調査 国立長寿医療研究センター
- 参考リンク2 : DNA領域「rs7051718」の情報 アメリカ国立衛生研究所
- 参考リンク3 : 2013 Jan.,Bénédicte F. Py, Molecular cell
- 参考リンク4 : 2019 Nov., Derek Klarin, Nat Genet