心室性不整脈
- 心室性不整脈は、DNA領域rs1805128のT型とQT時間が長くなることに関係し、遺伝子KCNE1がカリウムチャネルの開け閉めを調整することで脈のリズムに影響します。
- 日本人のCC型の割合は約99.0%で、世界平均の約97.6%と比べて1.4ポイント高いです。
- rs1805128のT型によりKCNE1タンパク質のアミノ酸がアスパラギン酸からアスパラギンに変化(D85N)し、カリウムチャネルの働きに影響します。
概要
【疾患の概要】 心臓は、自分で電気信号を作り、それを心臓全体にうまく伝えるしくみを持っています。そのため、脳からの指示がなくても動くことができます。 心臓の電気信号は、洞結節(どうけっせつ)という場所で作られ、心臓の筋肉(心筋)を縮ませます。
【症状と特徴】 心臓の鼓動は、心筋が縮んだりゆるんだりをくり返すことで起こります。 心電図は、心臓の電気の動きを波の形で表したもので、心拍を確認することができます。 心臓が縮み始めてから縮み終わるまでの時間を「QT時間」と言います(心電図の「Q」と「T」という波の区間の長さです)。 この「QT時間」は、不整脈(脈のリズムが乱れること)と深く関わっています。 現在では、「QT時間」に関わる遺伝子がいくつも見つかっています。ここでは、その中の一つである「KCNE1」のDNA領域「rs1805128」について説明します。 理論的な根拠 「QT時間」と遺伝子の関係は、いくつもの研究で報告されています。その中の一つが「rs1805128」というDNA領域です。 この領域は、「KCNE1」というタンパク質を作る遺伝子の中にあり、この部分の遺伝子タイプが「QT時間」と関係していることが知られています。 (参考リンク1) 「rs1805128」には、「CC型」、「CT型」、「TT型」の3つの遺伝子型があります。 日本人の遺伝子型の割合は、「CC型」が約97.81%、「CT型」が約2.18%、「TT型」が約0.01%であることが分かっています。 (参考リンク2) 世界全体の遺伝子型の割合も日本と似ていて、「CC型」が最も多く約98.41%、「CT型」が約1.53%、「TT型」が最も少なく約0.06%です。 「rs1805128」の「T型」は「QT時間」を長くすることに関わると報告されています。そのため、「TT型」と「CT型」の人は、「QT時間」が長くなりやすい傾向があります。
【治療と注意点】 (参考リンク3) 遺伝子検査でご自身の遺伝子タイプを調べることは、早めに対策を考えるきっかけになるかもしれません。 しくみ DNAは、アデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)の4種類の塩基がたくさんつながってできています。 これらの塩基の並び方(塩基配列)は、タンパク質を作るための設計図になります。 タンパク質は、たくさんのアミノ酸がつながってできています。設計図である塩基配列は、アミノ酸の並び方(アミノ酸配列)を決めています。 遺伝子「KCNE1」の中のDNA領域「rs1805128」で、塩基が「C」から「T」に変わると、アミノ酸が1つ、アスパラギン酸からアスパラギンに変わります(この変化はD85N、Asp85Asnと呼ばれます)。 この変化によってタンパク質全体の形や働きが変わり、遺伝子「KCNE1」の働きに影響することが分かっています。 (参考リンク3) 心筋の細胞の表面(細胞膜)には、イオンが出入りする穴(チャネル)があります。 心筋が縮んだ後、カリウムチャネルが開いて、細胞の中のカリウムイオンが外に出ることで、心筋がゆるみます。
【遺伝的リスク】 遺伝子「KCNE1」は、このカリウムチャネルのそばにあり、チャネルが開いたり閉じたりするタイミングを調整しています。これにより、ちょうどよいタイミングで心筋をゆるませ、心臓を広げることができます。 (参考リンク4) DNA領域「rs1805128」のタイプは、「KCNE1」の働きを通して心臓の拍動に影響し、それが心電図の「QT時間」に表れると考えられています。
心室性不整脈とは何か
心室性不整脈とは、心臓の下側の部屋(心室)で電気信号がうまく伝わらず、脈のリズムが乱れる病気です。心臓は洞結節で電気信号を作り、脳の指示がなくても自分で拍動します。心筋が縮んだりゆるんだりをくり返すことで心臓の鼓動が生まれ、心電図で確認できます。
心臓の電気信号のしくみとQT時間
QT時間とは、心電図で見た、心臓が縮み始めてから縮み終わるまでの時間です。QT時間が長くなることは、心室性不整脈の大切な危険因子です。
- 洞結節:心臓の電気信号を作る、リズムの発生源です。
- 心筋が縮む:洞結節からの電気信号が心筋を縮ませます。
- 心筋がゆるむ:カリウムチャネルを通ってカリウムイオンが外に出て、心筋がゆるみます。
- QT時間:縮み始めから縮み終わりまでの時間で、長くなると不整脈が起こりやすくなります。
QT時間が正常な場合と長い場合の違い
| 比べる項目 | QT時間が正常 | QT時間が長い |
|---|---|---|
| 心筋がゆるむ | ちょうどよいタイミングでゆるみます。 | ゆるむのが遅れます。 |
| カリウムチャネルの働き | 正常に開け閉めします。 | 開け閉めのタイミングがずれます。 |
| 不整脈の起こりやすさ | 低い | 高い |
| KCNE1の働き | 正常に働く | 変化により働きが変わります。 |
遺伝子と心室性不整脈の関連
DNA領域rs1805128とQT時間の関係
Jessica van Settenらの研究(1)により、DNA領域rs1805128がQT時間と関係していることが分かりました。
- rs1805128にはCC・CT・TTの3つの遺伝子型があります。
- T型を持つ遺伝子型(CT型・TT型)の人は、QT時間が長くなりやすいです。
- 関連遺伝子はKCNE1(心筋のカリウムチャネルを調整するタンパク質)です。
日本人の遺伝子型の割合(rs1805128)
日本人と世界では、遺伝子型の割合に差があります。
| 遺伝子型 | 日本人の割合 | 世界の割合 | 差 |
|---|---|---|---|
| CC型 | 99.0% | 97.6% | +1.4ポイント |
| CT型 | 0.9% | 2.3% | −1.4ポイント |
| TT型 | 0.1%以下 | 0.1%以下 | ±0.0ポイント |
KCNE1遺伝子のしくみ
rs1805128で塩基がCからTに変わると、アミノ酸がアスパラギン酸(D)からアスパラギン(N)に変わります(D85N)。この変化によって、KCNE1タンパク質の形や働きが変わります(3)。
- カリウムチャネル:心筋の細胞にあるイオンの出入り口です。心筋が縮んだ後にカリウムイオンを外に出して、心筋をゆるませます。
- KCNE1の役割:カリウムチャネルのそばにあり、開け閉めのタイミングを調整します。
- T型の影響:KCNE1の働きが変わることでQT時間が長くなり、心室性不整脈が起こりやすくなります。
検査の理論的な根拠
代表的なDNA領域:心室性不整脈
心室性不整脈に最も強く影響するDNA領域は、rs1805128です。 日本での遺伝子タイプの割合は下記のとおりです。
- CC
99.0 % - CT
0.9 % - TT
0.1%以下
検査の根拠
Jessica van Settenらの研究(1)により、QT時間が遺伝子と関係していることが分かりました。人のDNAにはrs1805128という領域があり、そこにはCとTの2種類のタイプがあります。T型を持つ人は、QT時間が長くなりやすいことが分かっています。Nishioらの研究(3)では、rs1805128のT型によってKCNE1タンパク質のアミノ酸が1つ変わり(D85N)、カリウムチャネルが開いたり閉じたりするタイミングに影響することが示されています。
今回調査したDNA領域
細胞の中にあるDNAマップの模式図
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関連遺伝子
| 関連遺伝子 | KCNE1 |
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よくある質問
Q1. 心室性不整脈とは何ですか?
心室性不整脈とは、心臓の下側の部屋(心室)で電気信号がうまく伝わらず、脈のリズムが乱れる病気です。心臓が縮み始めてから縮み終わるまでの「QT時間」が長くなると、不整脈が起こりやすくなります。遺伝子KCNE1のDNA領域rs1805128のT型が、QT時間が長くなることに関わっています(1)(3)。
Q2. QT時間と不整脈にはどんな関係がありますか?
QT時間は、心電図で見た、心臓が縮み始めてから縮み終わるまでの時間です。QT時間が長くなると心筋がゆるむのが遅れ、心室性不整脈が起こりやすくなります。rs1805128のT型を持つ人は、QT時間が長くなりやすい傾向があります(1)。
Q3. KCNE1遺伝子は心臓にどのように影響しますか?
KCNE1は心筋の細胞のカリウムチャネルが開け閉めするタイミングを調整するタンパク質を作る設計図です。rs1805128のT型によってアミノ酸がアスパラギン酸からアスパラギンに変わり(D85N)、カリウムチャネルの働きが変わってQT時間に影響します(3)(4)。
Q4. 遺伝子検査で心室性不整脈のなりやすさは分かりますか?
DNA領域rs1805128の遺伝子型を調べることで、QT時間が長くなりやすいかを知ることができます。日本人ではCC型が約99.0%を占め、T型(CT型・TT型)を持つ人は約1.0%です。遺伝子検査は早めの対策を考えるきっかけになります(2)。
Q5. 日本人のrs1805128の遺伝子型の割合の特徴は?
日本人のrs1805128の遺伝子型の割合は、CC型99.0%・CT型0.9%・TT型0.1%以下です。世界平均(CC型97.6%)と比べてCC型の割合が1.4ポイント高く、T型を持つ人が少ないのが特徴です(2)。
参考文献
- 参考リンク1 : 2019 Jan., Jessica van Setten, European Journal of Human Genetics
- 参考リンク2 : DNA領域「rs1805128」の情報 TogoVar
- 参考リンク3 : 2009 Aug., Yukiko Nishio, Journal of the American College of Cardiology
- 参考リンク4 : 2020年, 中條浩一, 心電図
- 参考リンク5 : 2014 Aug., Dan E Arking, Nat Genet
- 参考リンク6 : 2022 May., Victor Nauffal, Circulation
- 参考リンク7 : 2021 Nov., Stefan van Duijvenboden, Hum Mol Genet
- 参考リンク8 : 2022 Sep., William J Young, Nat Commun