【医師が解説】人工授精・体外受精でもNIPTの精度は変わる?自然妊娠との違いを研究データで解説
Summary(この記事の要点)
人工授精や体外受精による妊娠でも、NIPT(新型出生前診断)の検出精度は自然妊娠とほぼ同等です。体外受精妊娠3,723件と自然妊娠82,674件を比較した研究では、21トリソミー(ダウン症候群)や性染色体異常に対する感度・特異度がいずれも98%以上でした。ただし、①結果が出せない「判定保留(検査不能)」の割合がやや高い(0.16% vs 0.04%)、②二卵性双胎やバニシングツインでは結果の解釈が難しくなる、という2点には注意が必要です。
体外受精・人工授精でもNIPTの検出精度は自然妊娠と変わらない

不妊治療を経て妊娠した方から「自然妊娠に比べてNIPT(新型出生前診断)の精度は落ちるのか」という相談をよく受けます。結論から言えば、NIPTそのものの検出精度に大きな差はありません。
中国・福建省の医療機関で行われた単胎妊娠を対象とする大規模観察研究では、体外受精による妊娠3,723件と自然妊娠82,674件を比較しています。21トリソミー(ダウン症候群)や性染色体異常に対する感度(染色体異常のある妊娠を正しく「高リスク」と判定できる確率)と特異度(染色体異常のない妊娠を正しく「低リスク」と判定できる確率)は、どちらの群でも98%以上と同等に高い水準でした(1)。
NIPTは母体血中を流れる胎児由来DNAを解析する検査で、妊娠に至った経緯によって原理が変わるわけではありません。人工授精や体外受精だからといって、見逃しや誤判定が起こりやすくなることは基本的にないと考えてよいでしょう。
注意点1:体外受精では「判定保留(検査不能)」がやや増える

一方で知っておきたいのが、採血をしても十分な解析ができず結果が出せない「判定保留(検査不能)」が、体外受精による妊娠でやや増える傾向がある点です。前述の研究では、判定保留率は体外受精群で0.16%、自然妊娠群で0.04%と、体外受精群で有意に高いことが示されました(1)。7,910件の妊婦を対象とした別の研究でも、BMIや肝機能などと並んで、体外受精による妊娠が検査不能の独立した関連因子として報告されています(2)。
判定保留の主な原因は、母体血中の胎児由来DNA(cell free fetal DNA:cffDNA)濃度が解析に必要な水準に届かないことです。cffDNAは、胎盤の絨毛細胞が新陳代謝で入れ替わる際に母体血へ放出されます。体外受精、特に排卵誘発剤を用いた新鮮胚移植では胎盤形成の過程が自然妊娠とやや異なる可能性が指摘されており、これがcffDNA濃度の低下、ひいては判定保留につながる一因と考えられています(3)。
ただし判定保留となっても、採血の時期をずらして再検査すれば結果が得られることが多く、過度に心配する必要はありません。
注意点2:二卵性双胎(双子)とバニシングツイン

体外受精では複数の胚(受精卵が分裂し子宮に戻せる段階まで育ったもの)を移植する場合があり、二卵性双胎(2個の卵子がそれぞれ別の精子と受精して生じる双子)の妊娠率が自然妊娠よりやや高くなります。双胎妊娠ではNIPTの感度が単胎妊娠より低下することが報告されており、21トリソミーで9%、18トリソミー(エドワーズ症候群)で28%、13トリソミー(パトウ症候群)で22%の低下が確認されています(4)。
さらに注意したいのが「バニシングツイン」です。妊娠初期に双胎の一方が子宮内で消失する現象で、生殖補助医療に伴う妊娠の20〜30%に起こるとされます(5)。消失した胎児由来のcffDNAは、その後数週間、症例によっては15週間以上検出されたという報告もあります(6)。
消失した双子に染色体異常があった場合、生存している胎児が正常でもNIPTの結果が「高リスク」と判定される可能性があります。バニシングツイン妊娠を対象とした比較研究では、染色体異常がないのに「高リスク」と判定される割合が単胎妊娠の0.3%に対し2.6%と有意に高く、妊娠14週以降に検査することでこのリスクは低下すると報告されています(7)。
体外受精の治療歴があり、超音波検査でバニシングツインの経過や痕跡が確認されている場合は、その情報を担当医に伝えたうえで、検査時期と結果の解釈について相談してください。
まとめ:精度は同等、確認すべきは「判定保留」と「双胎」

人工授精や体外受精による妊娠でも、NIPTの検出精度は自然妊娠とほぼ同等です。押さえておきたいのは、判定保留(検査不能)の割合がやや高いことと、二卵性双胎やバニシングツインでは結果の解釈が難しくなる場合があることの2点です。気になる点は検査前のカウンセリングで担当医や遺伝カウンセラーに確認し、納得したうえで検査を受けましょう。
よくある質問(FAQ)
Q1. 体外受精で妊娠した場合、NIPTの精度は自然妊娠より下がりますか?
下がりません。体外受精妊娠3,723件と自然妊娠82,674件を比較した研究では、21トリソミーや性染色体異常に対する感度・特異度はいずれも98%以上で、両群に有意な差はありませんでした(1)。
Q2. 人工授精(AIH)の場合はどうですか?
人工授精も母体血中の胎児由来DNAを解析するという検査原理は同じため、精度が変わる理由はありません。妊娠の成立経路にかかわらず、NIPTの判定は同じ仕組みで行われます。
Q3. 「判定保留(検査不能)」とは何ですか?
採血しても胎児由来DNA(cffDNA)の量が解析に必要な水準に達せず、結果を確定できない状態です。体外受精妊娠での発生率は0.16%、自然妊娠では0.04%と報告されています(1)。
Q4. 判定保留になったらどうすればよいですか?
多くの場合、採血の時期を遅らせて再検査すると結果が得られます。妊娠週数が進むほどcffDNA濃度は上がるため、担当医と相談して再採血の時期を決めてください。
Q5. バニシングツインがあるとNIPTの結果はどうなりますか?
消失した胎児のcffDNAが母体血に残り、生存児が正常でも「高リスク」と判定されることがあります。偽陽性率は単胎妊娠の0.3%に対し2.6%でしたが、妊娠14週以降の検査でリスクは低下します(7)。
Q6. 双子(双胎妊娠)でもNIPTは受けられますか?
受けられますが、感度は単胎妊娠より低下します。21トリソミーで9%、18トリソミーで28%、13トリソミーで22%の感度低下が報告されているため(4)、事前に遺伝カウンセリングを受けることをおすすめします。
参照文献
(1)The International Journal of Women's Health, 2025.
(2)Frontiers in Medicine, 2022.
(5)Obstetrics & Gynecology Science, 2023.
著者
医学博士・医師
広重 佑(ひろしげ たすく)
医学博士、日本泌尿器科学会専門医・指導医、がん治療学会認定医、抗加齢医学会専門医、日本医師会認定産業医、日本抗菌化学療法学会認定医、性感染症学会認定医、Certificate of da Vinci system Training As a Console Surgeonほか
2010年に鹿児島大学医学部を卒業後、泌尿器科医として豊富な臨床経験を持つ。また、臨床業務以外にも学会発表や論文作成、研究費取得など学術活動にも精力的に取り組んでいる。泌尿器科専門医・指導医をはじめ、がん治療、抗加齢医学、感染症治療など幅広い分野で専門資格を取得。これまで培った豊富な医学知識と技術を活かして、患者様一人ひとりに寄り添った医療を提供している。