甲状腺中毒性周期性麻痺
- 甲状腺中毒性周期性麻痺はバセドウ病の合併症で、甲状腺ホルモンが出すぎている時に手足のまひが起こる病気です。
- DNA領域rs5912838のAを持つ人は、バセドウ病と周期性麻痺になりやすい傾向があることが研究でわかりました。
- 適切な甲状腺ホルモンの管理・お酒を控えること・炭水化物の量の調整で発症のリスクを下げられます。
概要
【概要・特徴】 バセドウ病は、自分の免疫が自分の甲状腺を攻撃してしまう「自己免疫性甲状腺疾患」の一つです。甲状腺ホルモンを作るよう命令する場所に対して抗体(免疫が作る物質)ができてしまい、甲状腺ホルモンが出すぎてしまう病気です。 主な症状には、動悸や手先の震え、汗が多く出る、体重が減る、筋力が落ちる、だるさ、イライラしやすいなどがあります。 バセドウ病の合併症の一つである甲状腺中毒性周期性四肢麻痺(この記事では「周期性麻痺」と呼びます)は、甲状腺ホルモンがうまくコントロールできていない時期に、激しい運動や食べすぎ・飲みすぎをきっかけに起こり、手足が動かなくなる病気です。 症状の重さによっては、血液中のカリウムが低くなりすぎて、命に関わる不整脈(脈の乱れ)が起こることがあるため、注意が必要です。 バセドウ病は若い女性に多く、男女比は1対3~5くらいと推定されており、人口1,000人あたり0.2人から3.2人と報告されています。 病気が起こるしくみははっきりわかっていませんが、なりやすい遺伝子を持っている人に、ウイルスや細菌による感染、ストレスなどの環境の影響が加わることで起こると考えられています。 母親がバセドウ病の場合、娘がバセドウ病になる確率は通常の約6〜10倍と推定されており、やや遺伝しやすい傾向があります。(参考リンク1) 関係する遺伝子として、最近の研究から複数の遺伝子が報告されています。その中でも、ITM2A遺伝子の近くのある場所が「バセドウ病」や「周期性麻痺」のなりやすさに影響している可能性が高いことがわかっています。 バセドウ病は治療法が確立されていますが、いつ発症するか、その後どうなるかを予測するのが難しい病気です。 そのため、遺伝子検査で自分の遺伝子タイプを調べて「バセドウ病」や「周期性麻痺」のなりやすさを知ることは、予防や早めの対策に役立つと期待されます。 また、バセドウ病は長く付き合っていく病気になる可能性があるため、自分の人生の目標に合わせた向き合い方を考えることが、生活の質を高めるためにとても大切です。
【2. 理論的根拠】 韓国の聖ヴィンセント病院と中国の上海交通大学医学院の研究により、遺伝子「ITM2A」の近くにあるDNA領域「rs5912838」の遺伝子型によって、「バセドウ病」と「周期性麻痺」になりやすい人がいることがわかりました。(参考リンク2、3) このDNA領域「rs5912838」には、「AA型」、「AC型」、そして「CC型」の3つの遺伝子型があります。 病気のなりやすさに関わる「A」を2つ持つ「AA型」は「バセドウ病」と「周期性麻痺」になりやすい傾向があり、「AC型」はややなりやすい傾向があります。 日本人の遺伝子タイプは、「AC型」が49.8%と最も多く、続いて「CC型」が28.1%、そして「AA型」が最も少なく22.1%です。(参考リンク4) ただし、「AA型」や「AC型」の人が必ず「バセドウ病」や「周期性麻痺」になるわけではありません。生活習慣などの環境の影響が重なることで、発症する可能性が高くなります。 特にたばこを吸う人は吸わない人に比べて「バセドウ病」になりやすく、代表的な3つの症状の一つである「眼球突出(目が前に出てくる症状)」の程度が強くなると言われています。 また、「周期性麻痺」は、甲状腺ホルモンが出すぎている時に、激しい運動や飲酒、炭水化物(ごはん・パン・甘いものなど)のとりすぎによって起こりやすくなります。(参考リンク5) 特に男性の「バセドウ病」患者に多く見られるため、「AA型」と「AC型」の男性は、お酒の飲みすぎや炭水化物のとりすぎを避けることが望ましいとされています。 そのため、発症のリスクを高める食事や喫煙を避け、よい生活環境を選ぶことが、発症のリスクを減らすために大切です。 早いうちに「バセドウ病」と「周期性麻痺」のなりやすさを知っておくことで、生活や環境の面で対策をとることができます。
【3. メカニズム】 「ITM2A」という遺伝子は、ヒトの24種類の染色体のうち、X染色体にあります。この遺伝子は、甲状腺や卵巣だけでなく、単球やリンパ球といった免疫に関わる細胞でも働いており、免疫細胞が育ったり活発になったりすることに関する大切な情報を持っています。 しかし、「ITM2A」が「バセドウ病」や「周期性麻痺」にどのように関わっているのか、直接のしくみはまだわかっていません。 ただし、遺伝子「ITM2A」の働きを調節するDNA領域「rs5912838」で、特に「AA型」を持つ人は、単球(白血球の一種)の中で遺伝子「ITM2A」の働きをうまく調節できません。その結果、細菌やウイルスに感染した後に甲状腺で免疫の異常が起こり、自己免疫疾患である「バセドウ病」になりやすくなる可能性があります。(参考リンク6) さらに、「周期性麻痺」が起こるには、炭水化物のとりすぎや運動などの体への負担によって、カリウムが血液から細胞の中へ移動することが関わっていると考えられています。 以上のことから、DNA領域「rs5912838」は「バセドウ病」や「周期性麻痺」の発症に深く関係しており、注目されているDNA領域の一つです。
【4. 参考文献】
甲状腺中毒性周期性麻痺とは何か
甲状腺中毒性周期性麻痺(この記事では「周期性麻痺」と呼びます)は、バセドウ病(自己免疫性甲状腺疾患)の合併症の一つで、甲状腺ホルモンがうまくコントロールできていない時期に手足が動かなくなる病気です。血液中のカリウムが低くなりすぎると、命に関わる不整脈(脈の乱れ)が起こる可能性があるため、注意が必要です。
バセドウ病とは何か
バセドウ病は自己免疫性甲状腺疾患(免疫が自分の甲状腺を攻撃する病気)の一つで、甲状腺ホルモンを作るよう命令する場所に対して抗体(免疫が作る物質)ができてしまい、甲状腺ホルモンが出すぎてしまう病気です。
- 主な症状:動悸、手先の震え、汗が多い、体重が減る、筋力が落ちる、だるさ、イライラしやすいなどがあります。
- 発症する頻度:人口1,000人あたり0.2〜3.2人
- 男女比:1対3〜5(女性に多い)
周期性麻痺の原因とメカニズム
周期性麻痺は、次の2つの要因が重なって起こります。
- 甲状腺ホルモンが出すぎる:バセドウ病でホルモンがうまくコントロールできません。
- 体への負担:激しい運動、飲酒、炭水化物のとりすぎがきっかけです。
カリウムが血液から細胞の中へ移動することで、血液中のカリウムが少なくなり(低カリウム血症)、手足のまひが起こります。
バセドウ病と周期性麻痺の違い
| 比較項目 | バセドウ病 | 周期性麻痺 |
|---|---|---|
| 病気のタイプ | 自己免疫性甲状腺疾患 | バセドウ病の合併症 |
| 主な症状 | 動悸・体重が減る・汗が多い | 手足のまひ |
| きっかけ | 遺伝+感染・ストレス | 運動・飲酒・炭水化物のとりすぎ |
| 好発性別 | 女性に多い | 男性に多い |
| リスクになる要因 | 家族歴・喫煙 | バセドウ病+お酒の飲みすぎ |
遺伝子の影響
バセドウ病は、なりやすい遺伝子を持つ人に、ウイルスや細菌による感染、ストレスなどの環境の影響が加わることで起こると考えられています。
- 母親がバセドウ病の場合、娘がなる確率は通常の約6〜10倍です。
- 関係する遺伝子としてITM2A遺伝子の近くのDNA領域がなりやすさに影響します。
- たばこを吸う人は吸わない人に比べてバセドウ病になりやすく、眼球突出(目が前に出る症状)のリスクも上昇します。
周期性麻痺の予防法
周期性麻痺の発症リスクを減らすためには、次の対策が大切です。
- バセドウ病のきちんとした治療と甲状腺ホルモンのコントロール
- お酒の飲みすぎと炭水化物のとりすぎを避けます。
- 甲状腺ホルモンが不安定な時期の激しい運動を控えます。
- 禁煙(バセドウ病のリスクを下げる)
遺伝子と甲状腺中毒性周期性麻痺の関連
DNA領域rs5912838と発症のなりやすさの関係
韓国の聖ヴィンセント病院と中国の上海交通大学医学院の研究により、DNA領域rs5912838がバセドウ病と周期性麻痺のなりやすさに関係していることがわかりました。
- rs5912838にはAA・AC・CCの3つの遺伝子型があります。
- 病気のなりやすさに関わるAを2つ持つAA型はバセドウ病と周期性麻痺になりやすい傾向があります。
- AC型はややなりやすい傾向
日本人における遺伝子型分布(rs5912838)
| 遺伝子型 | 日本人の割合 | なりやすさ |
|---|---|---|
| AA型 | 22.1% | なりやすい |
| AC型 | 49.8% | ややなりやすいです。 |
| CC型 | 28.1% | 標準的 |
ITM2A遺伝子のメカニズム
ITM2A遺伝子はX染色体にあり、甲状腺・卵巣だけでなく、単球やリンパ球といった免疫細胞でも働いています。
- AA型を持つ人は、単球の中でITM2A遺伝子の働きをうまく調節できず、細菌やウイルスに感染した後に甲状腺で免疫の異常が起こる可能性があります。
- 周期性麻痺が起こるには炭水化物のとりすぎや運動などの体への負担によって、カリウムが細胞の中へ移動することが関係しています。
検査の理論的根拠
代表的なDNA領域:甲状腺中毒性周期性麻痺
甲状腺中毒性周期性麻痺 に最も強く影響するDNA領域は、rs5912838です。 日本でのこのDNA領域の遺伝子タイプの割合は下のとおりです。
- AA
26.3 % - AC
49.9 % - CC
23.7 %
検査の根拠
韓国の聖ヴィンセント病院のCho, Won Kyoungらと中国の上海交通大学医学院のShuang-Xia Zhaoらの研究により、DNA領域rs5912838がバセドウ病と周期性麻痺のなりやすさに関係していることが明らかになりました。rs5912838にはAとCの2種類のタイプがあり、Aを持つ人はバセドウ病と周期性麻痺になりやすい傾向があります。
今回調査したDNA領域
細胞の中にあるDNAの地図の模式図
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関連遺伝子
| 関連遺伝子 | CTHRC1P1 |
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よくある質問
Q1. 甲状腺中毒性周期性麻痺とは何ですか?
周期性麻痺はバセドウ病(自己免疫性甲状腺疾患)の合併症の一つで、甲状腺ホルモンがうまくコントロールできていない時期に、激しい運動や食べすぎ・飲みすぎをきっかけに起こります。手足が動かなくなり、血液中のカリウムが低くなることで、命に関わる不整脈(脈の乱れ)が起こる可能性があります。
Q2. 周期性麻痺の原因は何ですか?
主な原因はバセドウ病で甲状腺ホルモンが出すぎることです。ホルモンが出すぎている状態で、激しい運動・飲酒・炭水化物のとりすぎがきっかけとなって起こります。DNA領域rs5912838でAを持つ人は、なりやすい傾向があります。
Q3. バセドウ病と周期性麻痺の違いは?
バセドウ病は自己免疫によって甲状腺ホルモンが出すぎる状態を起こす病気です。周期性麻痺はバセドウ病の合併症で、ホルモンが出すぎている時に体に負担がかかると、手足のまひが起こります。バセドウ病は女性に多いのに対し、周期性麻痺は男性のバセドウ病患者に多く見られます。
Q4. 遺伝子検査で周期性麻痺のなりやすさは分かりますか?
DNA領域rs5912838の遺伝子型を調べることで、バセドウ病と周期性麻痺のなりやすさの傾向を知ることができます。AA型の人はなりやすい傾向があり、日本人の約22.1%がこの遺伝子型を持っています。
Q5. 周期性麻痺の予防法はありますか?
周期性麻痺の予防にはバセドウ病のきちんとした治療と甲状腺ホルモンのコントロールが大切です。AA型・AC型の男性は、お酒の飲みすぎや炭水化物のとりすぎを避け、たばこをやめることがすすめられます。
参考文献
- 参考リンク1 : 「甲状腺」の情報 隈病院
- 参考リンク2 : 2020 Jul., Cho, Won Kyoung, Genes.
- 参考リンク3 : 2019 May., Shuang-Xia Zhao, JAMA Network Open.
- 参考リンク4 : DNA領域「rs5912838」の情報 アメリカ国立衛生研究所
- 参考リンク5 : 2020年, 藤井公一, 日本救急医学会関東地方会雑誌
- 参考リンク6 : 2016 Nov., Xiao-Ping Ye, The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism.
- 参考リンク7 : 2013 Aug., Shuang-Xia Zhao, Hum Mol Genet
- 参考リンク8 : 2019 May., Shuang-Xia Zhao, JAMA Netw Open