リライティング日:2024年11月24日
DNA鑑定で用いられるDNAマーカー(STR・SNP)の特徴と違いを詳しく解説。STRの個人識別力やSNPの出生前鑑定への優位性、seeDNAの超高精度鑑定技術について紹介します。
「DNAマーカー」とは ─ DNA鑑定の基盤となる重要概念
父子鑑定・出生前親子鑑定などのDNAを用いる鑑定では、「DNAマーカー」と呼ばれる特定のDNA配列を解析することで個人の識別や血縁関係の判定を行います。DNAマーカーとは、個体間の遺伝的な差異を調べることができる領域(特定のDNA配列)を指し、「遺伝子マーカー」「遺伝マーカー」とも呼ばれています。 [ref:1]
ヒトのゲノムは約30億塩基対から構成されていますが、そのうち個人間で異なる配列はわずか0.1%程度です [ref:6]。しかし、この0.1%の違いこそが個人を特定し、親子関係を判定するための鍵となります。DNA鑑定で主に用いられるDNAマーカーには大きく分けてSTR(Short Tandem Repeat:縦列型反復配列)とSNP(Single Nucleotide Polymorphism:一塩基多型)の2種類があり、それぞれ異なる特性を持っています。 [ref:2]
DNAマーカーの概念は1980年代に確立され、以降の分子生物学の発展とともに解析技術が飛躍的に向上してきました。特に1990年代以降はPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)技術の普及により、微量のDNAからでも高精度な解析が可能となり、法医学や親子鑑定の分野で広く活用されるようになっています。 [ref:7]
STR(Short Tandem Repeat)─ 繰り返し配列による高い識別力
STR(Short Tandem Repeat)は、それぞれの人が特異的に持つ2〜5塩基の単純な繰り返しからなるDNAの領域です。例えば「AGAT」という4塩基の配列が連続して繰り返される場合、ある人では8回繰り返され、別の人では12回繰り返されるといった違いが見られます。この繰り返し回数の個人差を利用して、一人ひとりを識別することが可能です。
一般的に人のDNA型鑑定で用いられるSTRは、同じDNA配列が数回〜数十回程度繰り返すため、一つのSTRマーカーを用いるだけでも複数のパターンに人を分類することができます。STRマーカーの大きな利点は、一つの座位(ローカス)あたりの多型性(バリエーションの豊富さ)が非常に高い点にあります。つまり、比較的少数のマーカーを組み合わせるだけで、極めて高い個人識別力が得られるのです。 [ref:3]
STR解析の基本的な流れ
- 検体(口腔粘膜・血液・毛髪など)からDNAを抽出する
- PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法により、対象となるSTR領域を増幅する
- キャピラリー電気泳動装置(CE装置)を用いて、増幅されたDNA断片の長さ(繰り返し回数)を測定する
- 各STR座位について対立遺伝子(アレル)を判定し、DNAプロファイルを作成する
- 被験者間のプロファイルを照合し、一致・不一致を判定する
一卵性双生児を除く全人類を一人ずつ見分けられる分解能
現在の世界基準では、15種類以上のSTRパターンを確認することで個人の遺伝的なプロファイルを決定しています。例えば、アメリカのCODIS(Combined DNA Index System)では2017年から20座位のSTRマーカーが採用されており、日本の法科学分野でも同等の座位数が標準となっています。 [ref:4]
15種類のSTRマーカーを組み合わせた場合、個人のDNAプロファイルは一卵性双生児を除く全ての人類を一人ずつ見分けられる十分な分解能(1015以上:1015人を1人ずつ見分けられる精度)を持ちます。現在の世界人口が約80億人(8×109)であることを考えると、この識別力がいかに圧倒的であるかがわかります。赤の他人同士が同じDNAプロファイルを持つ確率は現実的に不可能とされるため、犯罪現場に残されたDNAにより犯人を同定することが可能です。 [ref:2]
さらに重要な点として、DNAプロファイルは親から子へと継承されるものです。ヒトは各STR座位について父親から1つ、母親から1つ、合計2つの対立遺伝子を受け継ぎます。したがって、繰り返し回数の違いを比較することで、親子などの生物学的血縁関係を確認するDNA型鑑定が行えます。2人の被験者の間でSTRプロファイルが一致すれば生物学的親子としての血縁関係が成立し、3個以上の不一致があった場合は血縁関係が否定されます。
SNP(Single Nucleotide Polymorphism)─ 一塩基の置換による多型
SNP(Single Nucleotide Polymorphism)は、DNA配列上で一つの塩基が他の型(A, T, G, C)に置き換わっている領域を指します。配列で表すと、例えば「AATAA」という配列が「AAGAA」になっているといった具合です。ヒトゲノム全体では約300万〜500万個のSNPが存在するとされ、最も一般的な遺伝的多型です。 [ref:5]
一つの塩基が別の塩基に置換される変異であるため、一つのSNPには置換前と置換後の2種類のみのバリエーションしか存在しないものがほとんどです。例えば、特定の位置でAかGかの2択しかないため、1つのSNPだけでは人を2グループにしか分けられません。しかし、複数のSNPを組み合わせることで識別力は飛躍的に向上します。7個のSNPを組み合わせれば27=128パターン、20個なら220=約100万パターンの識別が可能になります。
このように、STRに比べるとより多いマーカー数を解析しないと個人識別に十分な分離能が得られないという点がSNPの弱点の一つです。ただし、近年の次世代シーケンサー(NGS)技術の進歩により、数千〜数万のSNPを一度に高速解析できるようになったことで、この弱点は大幅に克服されています。 [ref:8]
突然変異によるミス判定のリスクが低い
SNPには、STRにはない重要な優位性があります。一つの塩基の置き換わりをターゲットとしたマーカーであるため、突然変異によるミス判定のリスクが極めて低いのです。STRの場合、繰り返し配列の複製時にスリッページ(滑り)が起こりやすく、親子間で繰り返し回数が1回分変化する突然変異が比較的高い頻度で生じます。一方、SNPの突然変異率はSTRの約1,000分の1程度と非常に低いため、より安定した鑑定結果を得ることができます。 [ref:5]
さらにSNPは、短い断片を含むDNAの解析にも使用できるという大きなメリットがあります。STR解析では数百塩基対の比較的長いDNA断片が必要ですが、SNP解析では50〜100塩基対程度の短い断片でも十分に解析可能です。この特性は、出生前DNA型鑑定において特に重要な意味を持ちます。
SNPが出生前DNA型鑑定に最適な理由
妊娠中の母体血液中には胎児由来のcell-free DNA(cfDNA)が微量に含まれていますが、このDNAは非常に短い断片に分解された状態で存在しています。一般的に胎児由来cfDNAの断片サイズは約160〜170塩基対程度とされており、STR解析で必要な数百塩基対の長さには満たないケースが多くあります。出生前DNA型鑑定のように断片化してボロボロになっている胎児DNAを解析する際には、短い断片でも正確に検出できるSNPが適しているのです。
- SNPは短いDNA断片(50〜100bp程度)でも解析可能
- 突然変異率が極めて低く、誤判定のリスクが小さい
- 次世代シーケンサー(NGS)との相性が非常に良い
- 多数のSNPを同時に解析することで高い統計的信頼性を確保できる
- 損傷を受けた検体や微量検体にも対応しやすい
STRとSNPの比較 ─ それぞれの特性を理解する
STRとSNPはそれぞれ異なる長所と短所を持っています。以下の表で主な違いを整理します。
| 比較項目 | STR | SNP |
|---|---|---|
| 多型の種類 | 繰り返し回数の違い(多数のバリエーション) | 塩基の置換(通常2種類) |
| 突然変異率 | 比較的高い | 非常に低い(STRの約1/1000) |
さらに、以下の点でも違いがあります。
- 必要な断片長:STRは数百bp以上を要するのに対し、SNPは50〜100bp程度で解析可能
- 識別に必要なマーカー数:STRは15〜20座位で十分な一方、SNPは数十〜数千の座位が必要
- 主な用途:STRは法医学的個人識別・一般的な親子鑑定に適し、SNPは出生前鑑定・損傷検体の解析に適する
- 解析装置:STRは主にキャピラリー電気泳動(CE)装置を使用し、SNPは次世代シーケンサー(NGS)との相性が優れている
このように、STRとSNPにはそれぞれの強みがあり、鑑定の目的や検体の状態に応じて最適なマーカーを選択することが重要です。 [ref:3]
seeDNAの出生前DNA型鑑定 ─ 世界トップレベルの超高精度
私たちseeDNA(株式会社シードナ)は、次世代DNA配列分析装置(次世代シーケンサー:NGS)によるSNP解析技術を独自に開発し、出生前DNA型鑑定において父権肯定確率99.99%以上の保証ができる鑑定機関です。NGSを用いることで、母体血中に含まれる微量の胎児cfDNAから数千〜数万のSNPを同時に解析し、統計的に極めて高い信頼性を実現しています。
また、弊社のSNPによる出生前DNA型鑑定法は、出生前の鑑定だけでなく、病院の病理組織や、保存状態などにより損傷を受けてしまった検体を用いた出生後のDNA型鑑定にも有効です。通常のSTR鑑定では断片化したDNAを十分に解析できないケースでも、SNP解析であれば短い断片から遺伝情報を読み取ることが可能です。
弊社の出生前DNA型鑑定法を出生後のDNA型鑑定に応用することで、既存のSTR鑑定では難しい父権肯定確率99.9999999999%以上という世界トップレベルの超高精度鑑定を実現しています。この精度は、事実上「100%」に限りなく近い確率であり、法的にも十分な証拠能力を持つレベルです。
DNAマーカーの選択が鑑定精度を左右する
DNA鑑定の精度と信頼性は、どのDNAマーカーを使用するか、そしてどのような解析技術を採用するかによって大きく左右されます。検査の目的や検体の状態に応じて最適なマーカーと解析方法を選択することが、正確な結果を得るための鍵となります。 [ref:3]
通常の出生後の親子鑑定であれば、長年の実績と国際的な標準化が進んでいるSTR解析が第一選択となります。しかし、出生前鑑定や損傷検体の鑑定など、特殊な条件下ではSNP解析の優位性が際立ちます。近年では、STRとSNPの両方を組み合わせたハイブリッド解析アプローチも研究されており、それぞれの長所を活かしてより高い精度を目指す動きもあります。 [ref:8] seeDNAでは、お客様の状況に応じた最適な鑑定方法をご提案し、世界最高水準の精度で結果をお届けしています。
よくあるご質問
Q1. DNAマーカーとは何ですか?
A. DNAマーカーとは、個体間の遺伝的な差異を調べることができる特定のDNA配列領域のことです。「遺伝子マーカー」「遺伝マーカー」とも呼ばれ、DNA鑑定では主にSTR(縦列型反復配列)とSNP(一塩基多型)の2種類が用いられます。これらのマーカーを解析することで、個人の識別や親子関係の判定が可能になります。
Q2. STRとSNPの最大の違いは何ですか?
A. STRはDNA配列の繰り返し回数の違いを利用するマーカーで、1つの座位あたりの多型性が高く、少数のマーカーで高い識別力が得られます。一方、SNPは1塩基の置換を検出するマーカーで、1つあたりの多型性は低いですが、突然変異率が非常に低く、短いDNA断片でも解析可能という利点があります。用途や検体の状態に応じて使い分けられます。
Q3. なぜ出生前DNA型鑑定ではSNPが適しているのですか?
A. 母体血中に含まれる胎児由来のcell-free DNA(cfDNA)は、非常に短い断片に分解された状態で存在しています。STR解析には数百塩基対の比較的長いDNA断片が必要ですが、SNP解析は50〜100塩基対程度の短い断片でも解析可能です。また、SNPは突然変異率が極めて低いため、ミス判定のリスクも小さく、出生前鑑定に最適です。
Q4. seeDNAの出生前DNA型鑑定の精度はどの程度ですか?
A. seeDNAでは次世代シーケンサー(NGS)によるSNP解析技術を独自に開発しており、出生前DNA型鑑定において父権肯定確率99.99%以上を保証しています。さらに、この技術を出生後の鑑定に応用した場合、父権肯定確率99.9999999999%以上という世界トップレベルの超高精度を実現しています。
Q5. 損傷を受けた検体でもDNA鑑定は可能ですか?
A. はい、可能です。病院の病理組織や保存状態の悪化により損傷を受けた検体では、DNAが断片化しているため通常のSTR鑑定では十分な結果が得られないことがあります。しかし、seeDNAのSNP解析技術は短い断片のDNAでも正確に解析できるため、このような損傷検体にも対応できます。
Q6. 15種類のSTRで全人類を識別できるのはなぜですか?
A. 各STR座位には多数のアレル(対立遺伝子)が存在し、それぞれの座位で数種類〜数十種類のバリエーションがあります。15座位を組み合わせると、理論上10の15乗(1,000兆)以上のパターンが生じ、現在の世界人口約80億人をはるかに上回る識別力が得られます。そのため、一卵性双生児を除く全人類を一人ずつ見分けることが可能です。
Q7. STR解析とSNP解析はどのように使い分けられますか?
A. 通常の出生後の親子鑑定や法医学的な個人識別では、長年の実績と国際標準化が進んでいるSTR解析が第一選択となります。一方、出生前鑑定のように胎児由来の微量かつ断片化したDNAを扱う場合や、損傷を受けた検体を鑑定する場合には、短い断片でも正確に解析できるSNP解析が優れています。検査目的と検体状態に応じた最適な選択が重要です。
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著者
医学博士 富金 起範
筑波大学大学院 生体統御・分子情報医学 修士/博士課程卒業
2017年に国内初となる微量DNA解析技術(特許7121440)を用いた出生前DNA鑑定(特許7331325)を開発