2026.03.15
リライティング日:2026年03月22日
NIPTを受けるべきか迷う方へ、検査の仕組み・精度・限界から医学的判断基準、価値観の整理法、遺伝カウンセリングの活用まで医師が詳しく解説。後悔しない選択のための3ステップを紹介します。
妊娠が判明し、出生前検査について調べ始めると、NIPT(新型出生前診断)という言葉を目にする機会が増えます。
「受けた方がいいのだろうか」「受けないという選択は無責任だろうか」——こうした迷いを抱えるのは、決してあなただけではありません。
NIPTは精度の高さから注目されていますが、「命の選別」といった倫理的な議論も伴う検査です。日本においてもNIPTの受検者数は年々増加しており、2013年の検査開始以降、累計で数十万人以上が受検しているとされています。厚生労働省の専門委員会報告によれば、NIPT認証施設における年間受検者数は2022年度時点で約2万5千件を超え、非認証施設を含めるとその数倍にのぼると推計されています。受検者数の増加に伴い、「受けるべきか否か」という悩みを持つ方も同様に増え続けているのが現状です。(1)
こうした背景の中、NIPTについての情報はインターネット上に溢れていますが、その中には正確性に欠けるものや、特定の立場に偏った情報も少なくありません。医学的に正しい知識を持った上で、ご自身の価値観に照らし合わせて判断することが、後悔のない選択への最も確実な道です。
本記事では、NIPTを受けるべきかどうか迷っている方に向けて、医師の視点から「医学的な判断基準」と「価値観の整理」、そして後悔しない選択をするために知っておきたいポイントについて詳しく解説します。
【結論】NIPTを受けるべきか判断するための3つのステップ
NIPTを受けるかどうかの「正解」は一つではありません。以下の3つの視点を整理することで、納得のいく選択に近づくことができます。
この3つのステップは順番に進める必要はありませんが、いずれかが欠けると後悔につながる可能性があります。特にステップ3の「結果を受け取った後のシミュレーション」は、多くの方が見落としがちなポイントです。検査を受ける前に、結果に対する心の準備をしておくことが非常に重要です。なお、国際的にも、出生前スクリーニングを受ける前のインフォームド・コンセントの重要性が繰り返し強調されており、米国産科婦人科学会(ACOG)のガイドラインでも、検査前のカウンセリングを通じて妊婦が十分な理解のもとに自律的な判断を下せるよう支援することが推奨されています。
- ・NIPT(新型出生前診断)とは?メリットと限界
- └ NIPTのメリット:流産リスクのない高精度な検査
- └ NIPTの注意点:これは「確定診断」ではありません
- ・医学的な判断基準:受検を検討する主なタイミング
- ・価値観による判断基準:医学だけでは決められないこと
- └ Q1. 結果をどう受け止め、どう活用しますか?
- └ Q2. 「知ること」の意味をどう捉えますか?
- └ Q3. 検査を受けないことへの不安と向き合えますか?
- ・遺伝カウンセリングの重要性:専門家の力を借りる
- ・NIPTを受けないという選択肢について
- ・NIPTの検査精度を左右する要因と最新の知見
- ・NIPTの歴史的背景と国際的な動向
- ・まとめ:迷うプロセスこそが、親になる準備
NIPT(新型出生前診断)とは?メリットと限界
まず、検査の基本と「何がわかり、何がわからないのか」を正しく理解することが判断の第一歩です。NIPTの正式名称は「Non-Invasive Prenatal Testing(非侵襲的出生前遺伝学的検査)」であり、母体の血液中に含まれる胎児由来のセルフリーDNA(cell-free DNA: cfDNA)を解析することで、胎児の染色体異常のリスクを評価する検査です。
このcfDNAは、主に胎盤の絨毛細胞がアポトーシス(細胞の自然死)を起こす過程で母体血中に放出されるDNA断片です。母体血中のcfDNA全体のうち、胎児由来のものが占める割合を「胎児分画率(fetal fraction)」と呼び、この値が一定以上でないと正確な解析が困難になります。一般的には胎児分画率が4%以上であれば信頼性の高い結果が得られるとされており、妊娠10週頃にはこの基準を満たすケースが多いことが報告されています。
NIPTのメリット:流産リスクのない高精度な検査
- 検査方法
母体血中に含まれる胎児由来のDNA断片(cfDNA)を次世代シーケンサー等で解析します。母体からの採血のみで実施できるため、胎児への直接的な侵襲がありません。妊娠10週頃から検査が可能であり、従来の出生前検査と比較して早期に結果を得られる点も大きなメリットです。採血量はわずか10〜20ml程度であり、通常の健康診断と同様の負担で検査を受けることができます。 - 安全性
羊水検査や絨毛検査のような侵襲的検査には、約0.1〜0.3%の流産リスクがあるとされています。NIPTは採血のみで完結するため、このような流産リスクを伴わない点が最大の利点です。特に、流産への不安が強い妊婦さんにとって、安心して受けられる検査として評価されています。また、侵襲的検査に伴う子宮内感染や破水のリスクもNIPTには存在しないため、身体的な負担が極めて少ない検査といえます。(2) - 高い精度
21トリソミー(ダウン症候群)に関しては、感度99%以上、特異度99.9%以上という報告があり、陰性的中率(NPV)は極めて高く、陰性であればほぼ確実にその疾患がないと判断できます。18トリソミー(エドワーズ症候群)や13トリソミー(パトウ症候群)についても高い検出率が報告されていますが、21トリソミーと比較するとやや精度が下がる傾向があります。具体的には、18トリソミーの感度は約96〜99%、13トリソミーの感度は約91〜99%程度とされており、いずれも従来のコンバインド検査(母体血清マーカーと超音波検査の組み合わせ)よりも高い検出率を示しています。(3) - 早期の情報取得
妊娠10週という早い段階から検査が可能なため、万が一リスクが検出された場合にも、その後の対応について十分な時間をかけて考えることができます。結果が出るまでの期間も通常1〜2週間程度と比較的短いのが特徴です。早期に情報を得ることで、出生前からの医療体制の準備や、療育支援の情報収集を始められるという実践的なメリットもあります。
NIPTの注意点:これは「確定診断」ではありません
NIPTを検討する上で、最も重要な前提があります。それは、NIPTはあくまで「スクリーニング検査」であり「確定診断」ではないということです。この違いを正しく理解していないと、結果の解釈を誤り、不必要な不安や誤った判断につながる恐れがあります。
- あくまでスクリーニング
NIPTは疾患を確定する「確定診断」ではなく「スクリーニング検査」です。スクリーニングとは、リスクの高い方を選び出すための振り分け検査であり、「陽性=疾患あり」を意味するものではありません。この点を誤解したまま検査を受けると、陽性結果が出た際に過度な動揺や早計な判断をしてしまうリスクがあります。 - 陽性的中率(PPV)の理解
陽性結果が出ても、それは「リスクが高い」ことを示すのみです。特に若年妊婦の場合、陽性的中率(PPV)は下がる傾向にあります。例えば、25歳の妊婦がNIPTで21トリソミー陽性となった場合の陽性的中率は、35歳以上の妊婦と比較すると低い場合があります。確定には羊水検査などの侵襲的検査が必要になります。陽性的中率は、検査の感度・特異度だけでなく、対象集団における疾患の有病率(事前確率)にも大きく左右されるため、同じ検査結果でも年齢によってその意味合いが異なることを理解しておく必要があります。 - 偽陽性・偽陰性の可能性
非常に稀ではありますが、偽陽性(実際には疾患がないのに陽性となるケース)や偽陰性(実際には疾患があるのに陰性となるケース)の可能性もゼロではありません。偽陽性の原因としては、胎盤のモザイク(限局性胎盤モザイク:CPM)、母体の染色体異常、双胎妊娠の消失(バニシングツイン)などが知られています。限局性胎盤モザイクとは、胎盤の細胞と胎児の細胞で染色体構成が異なる状態を指し、NIPTが解析するのは胎盤由来のcfDNAであるため、胎盤にのみ異常がある場合には偽陽性となる可能性があります。 - 検出範囲の限定
NIPTですべての先天性疾患や障害を検出できるわけではありません。標準的なNIPTで対象となるのは、21トリソミー、18トリソミー、13トリソミーの3つの染色体異常が中心です。性染色体異常や微小欠失症候群を対象に含む検査もありますが、先天性疾患全体の中でNIPTが検出できるものは一部に過ぎません。構造異常や単一遺伝子疾患などは、通常のNIPTでは検出の対象外です。先天性疾患は全出生の約3〜5%に認められるとされていますが、NIPTがカバーするのはそのうちの染色体数的異常の一部であり、全体のごく一部に限られるという認識を持つことが大切です。
医学的な判断基準:受検を検討する主なタイミング

医学的な観点から、どのような場合にNIPTの受検が検討されるか、主な要因を解説します。かつてはNIPTの受検には年齢制限や医師の紹介が必要とされるケースが多くありましたが、現在は検査を提供する施設の多様化に伴い、より幅広い方が受検を選択できるようになっています。日本産科婦人科学会は2022年に指針を改定し、NIPTの対象を従来の高齢妊婦に限定する方針から、全妊婦への情報提供を促す方向へと舵を切りました。(1)
- 母体の年齢(高年齢妊娠)
35歳以上の妊婦では染色体異常のリスクが統計的に上昇するため、判断材料の一つとなります。具体的には、35歳での21トリソミーの発生率は約1/350、40歳では約1/100とされています。さらに、45歳では約1/30にまでリスクが上昇するとの報告もあります。ただし、現在は年齢制限を設けない施設も増えており、年齢だけで受検の可否を判断する時代ではなくなりつつあります。若年であっても不安が強い場合は、検査を検討する正当な理由となります。また、母体年齢の上昇は21トリソミーのリスク上昇との関連が最も明確ですが、18トリソミーや13トリソミーのリスクも年齢とともに増加することが知られています。(4) - 超音波検査(エコー)での所見
胎児に染色体異常を疑わせる形態的な所見(NT肥厚、鼻骨低形成など)が認められた場合、NIPTが有用な追加情報を提供することがあります。NT(項部透過性:Nuchal Translucency)が一定以上の厚さを示す場合、染色体異常のリスクが上昇することが知られており、NIPTへのステップとして超音波検査の結果が重要な判断材料となります。一般的にNTが3.5mm以上の場合は染色体異常のリスクが有意に高くなるとされています。また、心臓の構造異常や腎盂拡張、腸管エコー輝度の上昇など、いわゆる「ソフトマーカー」と呼ばれる所見が複数認められる場合にも、NIPTの受検を検討する契機となることがあります。 - 過去の妊娠歴
以前の妊娠で染色体異常が確認された場合や、反復流産の既往がある場合、再発リスクを考慮してNIPTを検討する価値があります。ロバートソン転座などの構造的な染色体異常が親に存在する場合は、特に注意が必要です。ロバートソン転座の保因者は表現型(外見や健康状態)は正常であることが多いものの、次世代にトリソミーが生じるリスクが一般集団より高くなるため、遺伝カウンセリングと合わせてNIPTの活用が推奨されるケースがあります。 - 家族歴
親族に染色体異常の既往がある場合も、検討の一因となります。ただし、ダウン症候群(21トリソミー)の大多数は散発性であり、遺伝的な要因によるものは5%程度とされています。家族歴がないからといってリスクがゼロとは限りませんので、総合的な判断が求められます。特に、転座型ダウン症候群の場合には遺伝性の要素が関与するため、ご家族に転座型の既往がある場合は遺伝子検査やカウンセリングの重要性がより高くなります。 - 心理的負担の軽減
妊娠中の不安が強い場合、陰性結果を得ることで精神的な安心を得たいという心理的側面も正当な考慮材料です。特に、不妊治療を経て妊娠された方や、過去に流産を経験された方は、漠然とした不安を抱えやすい傾向があります。ただし、陽性の場合の心理的負担についても事前のカウンセリングで十分に理解しておくことが重要です。研究によれば、NIPTで陰性結果を得た妊婦の多くが妊娠中の不安レベルが有意に低下したと報告しており、心理的なウェルビーイングの観点からもNIPTの意義が認められています。
価値観による判断基準:医学だけでは決められないこと
NIPTの判断において最も難しいのは、医学的な数値では割り切れない「価値観」の部分です。検査の精度やリスク因子を理解した上で、最終的に「受けるか受けないか」を決めるのは、医師ではなくご本人とパートナーです。
以下の問いについて、パートナーやご家族と話し合ってみてください。
Q1. 結果をどう受け止め、どう活用しますか?
陽性結果が出た場合、妊娠を継続するかどうか、出生後の準備をどうするか。選択肢は複数ありますが、どの選択が「正しい」かは個々の価値観によります。
重要なのは、「陽性だった場合に自分たちがどうしたいか」を事前にある程度イメージしておくことです。陽性という結果を受けて初めて考え始めると、大きなストレスの中で冷静な判断が難しくなることがあります。「出生後の療育環境を調べておく」「サポート体制を確認しておく」など、具体的な準備に結びつけることも一つの活用法です。
また、陽性結果を受けた後の選択肢は「妊娠の継続・中断」だけではありません。確定検査(羊水検査)を受けて診断を確定させた上で、出生前から小児科医や療育の専門家と連携体制を構築するという選択もあります。事前に情報を得ることで、出生直後から適切な医療ケアを受けられる環境を整えることが可能になるのです。
Q2. 「知ること」の意味をどう捉えますか?
知りたい派
事前に知ることで心の準備ができると考えます。情報を持つことで主体的に選択したいという方に多い考え方です。知ることで、出生前から療育施設の情報収集や医療体制の確認など、具体的な行動に移せるというメリットがあります。
知りたくない派
知ることで生じる不安や葛藤を避けたいと考えます。検査結果に左右されず、自然な流れの中で出産を迎えたいという方に多い考え方です。「知らないことで守られる平穏」も尊重されるべき価値観です。
どちらの立場も正当であり、他人が否定すべきものではありません。大切なのは、パートナー同士でお互いの考えを共有し、納得できる形で決断することです。なお、心理学的な研究では、出生前検査の意思決定において最も重要なのは「情報の質」と「パートナー間のコミュニケーション」であることが示されています。十分な情報提供を受けた上で、お互いの気持ちを率直に共有する時間を設けることが、後悔の少ない選択へとつながります。
Q3. 検査を受けないことへの不安と向き合えますか?
「受けなかった場合、もし何か異常があったら後悔するかもしれない」という不安も、検査を検討する大きな理由の一つです。一方で、「受けたことで不要な不安を抱えてしまった」という声があるのも事実です。どちらのリスクが自分にとって大きいかを冷静に考えることが、後悔しない選択につながります。
この問いに向き合う際のヒントとして、「意思決定の後悔」に関する心理学の知見が参考になります。人は一般的に「行動したことへの後悔」よりも「行動しなかったことへの後悔」を長く引きずる傾向があるとされています。しかし、出生前検査に関しては、「知ってしまったことで苦しんだ」というケースも報告されており、一概にどちらが良いとは言えません。自分自身の性格傾向や対処スタイルを振り返り、「自分はどちらのパターンでより後悔しやすいか」を考えてみることが有用です。
遺伝カウンセリングの重要性:専門家の力を借りる
NIPTを受けるかどうかの判断に迷ったとき、遺伝カウンセリングを受けることは非常に有効な手段です。遺伝カウンセリングとは、遺伝に関する専門的な知識を持つカウンセラーや医師が、検査の内容・結果の解釈・心理的なサポートを提供するプロセスです。日本では認定遺伝カウンセラー®や臨床遺伝専門医がこの役割を担っており、全国の大学病院や総合病院を中心に遺伝カウンセリング外来が設置されています。
- 検査前カウンセリング
NIPTの仕組み、精度、限界について正確な情報提供を受けられます。また、「陽性だった場合にどのような選択肢があるか」を事前に整理することで、結果に対する心構えを作ることができます。検査前カウンセリングでは、ご自身のリスク因子(年齢、既往歴、家族歴など)を踏まえた上で、個別化された情報提供を受けられるため、インターネットでの一般的な情報収集よりも遥かに有用です。 - 検査後カウンセリング
特に陽性結果が出た場合、確定検査への進み方、妊娠継続の判断、出生後の支援体制など、多角的な情報提供と心理的サポートが受けられます。一人で抱え込まず、専門家の力を借りることが大切です。陽性結果を受けた直後は精神的な動揺が大きいため、できるだけ速やかにカウンセリングを受けることが推奨されます。多くの施設では、陽性結果が判明した場合の緊急カウンセリング体制を整えています。 - 夫婦間の橋渡し
パートナーとの間で意見が異なる場合、第三者である専門家が入ることで、お互いの考えを整理しやすくなります。カウンセラーは特定の選択を強制するのではなく、ご本人たちが納得のいく決断に至れるようサポートする立場です。遺伝カウンセリングの基本原則は「非指示的カウンセリング(non-directive counseling)」であり、特定の方向へ誘導するのではなく、クライエントが自律的に意思決定できるよう支援するというアプローチが取られています。
NIPTを受けないという選択肢について
ここで強調しておきたいのは、NIPTを「受けない」という選択も、まったく問題のない正当な判断であるということです。出生前検査を受けることが義務や責任であるかのように感じてしまう方もいらっしゃいますが、それは正しくありません。
検査を受けない理由は様々です。「どんな結果であっても産む決意があるため検査が不要」「検査結果に振り回されたくない」「侵襲的な確定検査に進むことに抵抗がある」——これらはすべて尊重されるべき考え方です。NIPTはあくまでも選択肢の一つであり、受けないことを責められる理由はどこにもありません。
日本産科婦人科学会も、出生前検査は妊婦本人の自律的な意思決定に基づくべきであるとの立場を示しています。周囲の意見に流されるのではなく、ご自身とパートナーが話し合った上で出した結論を大切にしてください。(1)
なお、NIPTを受けないことを選んだ場合でも、妊婦健診における定期的な超音波検査を通じて、胎児の成長や形態的な異常の有無は継続的にモニタリングされます。NIPTは数ある出生前検査の一つであり、超音波検査や母体血清マーカー検査など、他の非侵襲的な方法も存在します。「NIPTを受けない=何も情報が得られない」というわけではないことも、心にとめておいていただければと思います。
NIPTの検査精度を左右する要因と最新の知見
NIPTの精度は非常に高いとされていますが、検査結果に影響を与えうるいくつかの要因について理解しておくことも重要です。以下に、検査精度に関わる主な因子をまとめます。
- 胎児分画率(fetal fraction)
母体血中のcfDNA全体に占める胎児由来cfDNAの割合です。この値が低いと、解析の信頼性が低下し、結果が出ない(再検査)となるケースがあります。胎児分画率は妊娠週数の進行とともに上昇する傾向がありますが、母体の肥満(BMI高値)がある場合には分画率が低下しやすいことが報告されています。 - 母体の肥満度(BMI)
母体のBMIが高いほど、母体由来のcfDNAが相対的に多くなり、胎児分画率が希釈される形で低下します。BMIが30以上の場合、再検査となるリスクが一般体型の妊婦より高くなる傾向があるとの研究報告もあります。 - 妊娠週数
妊娠週数が進むほど胎児分画率は上昇するため、10週ぎりぎりよりも11〜12週以降の方がより確実な結果を得やすいとされています。ただし、検査時期が遅すぎると、陽性判明後の対応に十分な時間的余裕が取れなくなる可能性もあるため、適切な時期に受検することが推奨されます。 - 多胎妊娠
双胎以上の多胎妊娠の場合、各胎児の染色体異常を個別に判定することが技術的に困難となるケースがあります。特に二卵性双胎では、一方の胎児にのみ異常がある場合の検出精度が単胎妊娠と比較して低下する可能性が指摘されています。 - 母体の染色体異常やモザイク
母体自身に低レベルの染色体モザイクが存在する場合や、母体に良性腫瘍がある場合に、母体由来のcfDNAが検査結果に影響を与え、偽陽性の原因となることがあります。
これらの要因を踏まえ、NIPTの結果は常に臨床的な情報(超音波所見、年齢、既往歴など)と合わせて総合的に解釈されるべきものです。単独の検査結果のみで最終的な判断を下すことは推奨されていません。
NIPTの歴史的背景と国際的な動向
NIPTは1997年に香港中文大学のDennis Lo教授が母体血中に胎児由来のcfDNAが存在することを発見したことに端を発します。この画期的な発見を基盤として、2011年に米国で臨床利用が開始され、その後急速に世界各国へ普及しました。日本では2013年に臨床研究として導入が始まり、当初は限定された施設でのみ実施されていましたが、現在では認証施設・非認証施設を含めて全国に広がっています。
国際的な動向としては、英国のNHSが2018年からNIPTを公的スクリーニングプログラムに組み込む方針を発表し、段階的に導入を進めています。オランダやベルギーなどの欧州諸国でも、NIPTを第一選択のスクリーニング検査として位置づける動きが広がっています。一方で、アイスランドではNIPTの普及後にダウン症候群の出生がほぼゼロになったとの報道が国際的な議論を呼び、「優生思想への回帰ではないか」という批判的な見解も提起されています。
このように、NIPTは医学技術の進歩として高く評価される一方で、社会的・倫理的な課題も内包している検査です。日本においても、出生前検査と障害者の権利・共生社会のあり方に関する議論が続いており、こうした社会的文脈も踏まえた上で個々の判断がなされることが望ましいとされています。
まとめ:迷うプロセスこそが、親になる準備
「受けるべきか、受けないべきか」という問いに、唯一の正解はありません。
大切なのは、以下の3点を満たした上で決断することです。
- 検査の意義と限界を正しく理解する。NIPTはスクリーニングであり、すべてを解決する万能な検査ではないことを知る。対象疾患は限定的であり、陰性であっても先天性疾患がないことの保証にはならないという点を正しく認識する。
- 結果をどう受け止め、どう活用するか、事前にシミュレーションしておく。陽性の場合、陰性の場合、それぞれの対応をイメージする。特に陽性の場合の確定検査への進み方、妊娠継続の判断、出生後の支援体制について具体的に考えておく。
- パートナーや医療者と十分に話し合い、納得できる選択をする。遺伝カウンセリングの活用も積極的に検討する。一人で悩みを抱え込まず、専門家のサポートを受けながら、夫婦で共に考える時間を確保する。
NIPTを受けるかどうかの判断は、妊娠中に直面する最も大きな意思決定の一つかもしれません。しかし、迷いながらも一歩ずつ考えを深めていくそのプロセスこそが、赤ちゃんを迎える準備の一部なのだと思います。どのような選択をされても、それがご自身とパートナーで話し合い、納得の上で出した結論であれば、それが最善の答えです。
最後に、もしこの記事を読んでもまだ迷いが残る場合は、ぜひ遺伝カウンセリングの門を叩いてみてください。専門家との対話を通じて、自分自身でも気づかなかった考えや気持ちが整理されることがあります。seeDNA遺伝医療研究所でも、NIPTに関するご相談を承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。
\妊娠中にダウン症や性染色体のリスクがわかる/
よくあるご質問
Q1. NIPTは何週目から受けられますか?
A. 一般的に妊娠10週目以降から受検が可能です。妊娠10週を過ぎると母体血中の胎児由来cfDNA濃度が十分な量に達し、正確な解析ができるようになります。施設によって受検可能な時期が異なる場合がありますので、事前にご確認ください。なお、胎児分画率は妊娠週数の進行とともに上昇するため、11〜12週以降の方がより安定した結果を得やすいとされています。
Q2. NIPTで陽性が出た場合、必ず赤ちゃんに異常があるということですか?
A. いいえ、NIPTはスクリーニング検査であり、陽性=確定ではありません。陽性結果は「リスクが高い」ことを示すものであり、実際に染色体異常があるかどうかを確定するには、羊水検査や絨毛検査などの確定診断が必要です。偽陽性の可能性もあるため、陽性結果が出ても慌てずに、主治医や遺伝カウンセラーに相談しましょう。
Q3. NIPTを受けないという選択は問題ありますか?
A. まったく問題ありません。NIPTは任意の検査であり、受けることが義務ではありません。「どんな結果でも産む決意がある」「結果に左右されたくない」など、受けない理由は様々ですが、いずれも尊重されるべき判断です。大切なのは、ご自身とパートナーで話し合った上で納得のいく決断をすることです。
Q4. 遺伝カウンセリングはどこで受けられますか?
A. 遺伝カウンセリングは、認定遺伝カウンセラーや臨床遺伝専門医が在籍する医療機関で受けることができます。大学病院や総合病院の遺伝診療部門のほか、NIPTを提供する施設でカウンセリングを併設しているところもあります。seeDNA遺伝医療研究所でも、専門スタッフによるサポート体制を整えておりますので、お気軽にご相談ください。
Q5. NIPTの費用はどのくらいかかりますか?
A. NIPTは基本的に自費診療となり、保険適用外です。費用は施設や検査項目によって異なりますが、一般的には数万円〜十数万円程度が目安です。検査対象とする染色体の種類(基本の3種類のみか、性染色体や微小欠失まで含むかなど)によっても料金が変わりますので、事前に各施設の料金体系をご確認ください。
Q6. 35歳未満でもNIPTを受けることはできますか?
A. はい、受検可能です。以前は「35歳以上」という年齢制限を設ける施設が多くありましたが、現在は年齢に関係なくNIPTを提供する施設が増えています。年齢に関わらず不安を感じている方は、検査を検討されてもよいでしょう。ただし、若年の場合は陽性的中率が相対的に低くなる傾向があるため、この点も含めて理解した上で受検することが大切です。
Q7. NIPTで検出できない疾患にはどのようなものがありますか?
A. 標準的なNIPTで検出対象となるのは、21トリソミー(ダウン症候群)、18トリソミー(エドワーズ症候群)、13トリソミー(パトウ症候群)の3種類の染色体異常が中心です。構造異常(心臓の奇形など)、単一遺伝子疾患(嚢胞性線維症や鎌状赤血球症など)、神経管閉鎖不全症などは通常のNIPTでは検出の対象外です。先天性疾患全体の中でNIPTがカバーできるのは一部であるため、NIPTが陰性であっても先天性疾患がないことの保証にはなりません。
seeDNA遺伝医療研究所の安心サポート
seeDNA遺伝医療研究所は、国際品質規格ISO9001とプライバシー保護のPマークを取得している安心と信頼のDNA鑑定・遺伝子検査の専門機関です。
家族や親子の血縁関係、パートナーの浮気などにお悩みでしたら、DNA鑑定の専門家が、しっかりとご安心いただけるようサポートいたしますのでお気軽にお問合せください。
【専門スタッフによる無料相談】

著者
医学博士・医師
広重 佑(ひろしげ たすく)
医学博士、日本泌尿器科学会専門医・指導医、がん治療学会認定医、抗加齢医学会専門医、日本医師会認定産業医、日本抗菌化学療法学会認定医、性感染症学会認定医、Certificate of da Vinci system
Training As a Console Surgeonほか
2010年に鹿児島大学医学部を卒業後、泌尿器科医として豊富な臨床経験を持つ。また、臨床業務以外にも学会発表や論文作成、研究費取得など学術活動にも精力的に取り組んでいる。泌尿器科専門医・指導医をはじめ、がん治療、抗加齢医学、感染症治療など幅広い分野で専門資格を取得。これまで培った豊富な医学知識と技術を活かして、患者様一人ひとりに寄り添った医療を提供している。
【参考文献】
(1) メディカルドック, 2026年3月(2) Obstet Gynecol, 2020年10月
(3) J Biol Chem, 1997年3月
(4) 妊娠・出産お役立ちコラム, 2025年12月