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“不老不死の細胞”の正体はがん細胞|HeLa細胞と遺伝リスク

2026.07.23

75年間、死なずに増え続ける細胞がある。その正体は「がん細胞」だった

公開日: / 最終更新日:
著者:seeDNA遺伝医療研究所 編集部 / 監修:富金 起範(株式会社seeDNA 代表取締役)

分裂を続けるHeLa細胞と、染色体末端のテロメアを再生するテロメラーゼの模式図

“不老不死の細胞”として知られるHeLa(ヒーラ)細胞の正体は、がん細胞です。死なない理由は、染色体の末端を修復する酵素テロメラーゼにあります。

  • 目的:HeLa細胞が死なない仕組みを、テロメアとテロメラーゼの働きから解説する
  • 対象:健康診断やがん予防に関心のある成人男女
  • 分かること:がんと遺伝子の関係、遺伝性腫瘍の割合、遺伝的リスクの調べ方
  • 根拠:WHO、NIH、Science誌、国立がん研究センターの公表情報

HeLa細胞とは?世界初の「増え続けるヒト細胞」

HeLa細胞とは、1951年に子宮頸がんの患者から採取されたヒトの細胞株です。研究室で安定して培養できた最初のヒト細胞として、採取から75年が過ぎた現在も分裂を続けています。

1951年、米国で31歳の女性ヘンリエッタ・ラックスさんが子宮頸がんと診断されました。治療を受ける過程で、本人の知らないうちに腫瘍の一部が採取されます(1)。この細胞は、研究室で安定して培養できた最初のヒト細胞となり、名前の頭文字から「HeLa細胞」と呼ばれるようになりました(2)。

なぜHeLa細胞は死なないのか?

鍵は、染色体の末端を守る「テロメア」と、それを修復する酵素「テロメラーゼ」です。テロメラーゼが働き続ける細胞は、分裂回数の上限から外れます。

ヒトの染色体の末端には、テロメアという保護構造があります。通常の細胞では、分裂のたびにテロメアが短くなり、一定の長さを下回ると分裂が止まります。これが細胞の寿命です。一方、テロメラーゼはテロメアを作り直す酵素です。HeLa細胞ではこの酵素が働き続けるため、分裂が止まりません。

通常の細胞とHeLa細胞の違い

通常の体細胞とHeLa細胞(がん細胞)の比較
項目通常の体細胞HeLa細胞(がん細胞)
テロメア分裂ごとに短縮長さを維持
テロメラーゼ抑制されている働き続ける
分裂回数上限あり上限なし

「不死」はがん細胞に共通する特徴なのか?

テロメラーゼの活性化は、がん細胞に共通する特徴です。1994年のScience誌が、腫瘍組織と正常組織を比較して報告しました。

Kimらは高感度の測定法でテロメラーゼ活性を調べました。培養細胞では、不死化した100株のうち98株が陽性、寿命のある22株はすべて陰性でした。12種類のヒト腫瘍から得た生検101検体では90検体が陽性で、正常な体細胞50検体はすべて陰性でした(3)。テロメラーゼは正常な体細胞では強く抑制され、がんで再び活性化する。これが同論文の結論です(3)。

HeLa細胞は医学に何をもたらしたのか?

ポリオワクチン、HPVワクチン、HIV治療薬、がん治療薬、そして新型コロナウイルス研究の土台になりました。

WHOは2021年10月、ヘンリエッタ・ラックスさんに事務局長賞を追贈しました。彼女の細胞は世界初の「不死化細胞株」となり、HPVワクチンやポリオワクチン、HIVとがんの治療薬、直近では新型コロナウイルス研究へとつながったとWHOは説明しています(1)。2013年8月には、米国国立衛生研究所(NIH)がラックス家と協定を結び、HeLa細胞の全ゲノム配列データへのアクセスを管理する仕組みを整えました(2)。

がんは親から子へ遺伝するのか?

がんは、遺伝子の変化で細胞の増殖が止まらなくなる病気です。国立がん研究センターは、がんになった人のおよそ5〜10%が、発症に関係する生まれつきの遺伝子の変化を持つとしています。

がんの発症には、環境要因、遺伝的要因、加齢が複合的に関わります。がんになった人のおよそ5〜10%は、発症に関係する生まれつきの遺伝子の変化を持つとされ、これを遺伝性腫瘍と呼びます(4)。遺伝性腫瘍の変化は常染色体顕性遺伝の形式をとり、子どもが受け継ぐ確率は1/2です。ただし、受け継いでも発症するとは限りません(4)。なお日本人が生涯でがんと診断される確率は、男性61.1%、女性50.1%です(5)。

遺伝的ながんリスクを知る2つの方法

医療機関の遺伝カウンセリングと、自宅で受けられる遺伝子検査があります。目的と役割が異なります。

血縁者に若くしてがんを発症した人がいるときは、医療機関の遺伝カウンセリングで相談できます。臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーなどの専門家が対応します(4)。生活習慣を見直す出発点としては、消費者向けの遺伝子検査という選択肢もあります。seeDNAの「DNAスコア」は700か所のDNA領域を解析し、31種類のがんを複合的に評価して疾患リスクの遺伝的な傾向を数値で示します(6)。

この記事のまとめ

  • HeLa細胞の正体は、1951年に子宮頸がん患者から採取されたがん細胞(1)
  • 死なない理由は、テロメアを再生する酵素テロメラーゼが働き続けるため
  • ヒト腫瘍の生検101検体のうち90検体でテロメラーゼ活性が検出され、正常な体細胞50検体では検出されていない(3)
  • がんになった人のおよそ5〜10%は、生まれつきの遺伝子の変化を持つ(遺伝性腫瘍)(4)
  • 生涯でがんと診断される確率は男性61.1%、女性50.1%(5)
  • 遺伝的リスクの確認先は、医療機関の遺伝カウンセリングと消費者向け遺伝子検査の2つ

よくあるご質問(FAQ)

Q1. HeLa細胞とは何ですか?

HeLa細胞とは、1951年に米国で子宮頸がんの患者から採取された、ヒト由来の細胞株です。研究用に安定して培養できた最初のヒト細胞で、採取から75年が過ぎた現在も世界中の研究室で増殖を続けています(1)(2)。

Q2. なぜHeLa細胞は分裂を続けられるのですか?

テロメラーゼという酵素が働き続け、染色体末端のテロメアが短くならないためです。通常の細胞は分裂のたびにテロメアが短くなり、一定の長さを下回ると分裂が止まります。テロメラーゼは正常な体細胞では抑制され、がんで再活性化することが1994年のScience誌で報告されています(3)。

Q3. がんは必ず親から子へ遺伝しますか?

遺伝するのは一部です。国立がん研究センターによると、がんになった人のおよそ5〜10%が発症に関係する生まれつきの遺伝子の変化を持ち、これを遺伝性腫瘍と呼びます。変化を受け継ぐ確率は1/2ですが、受け継いでも発症するとは限りません(4)。

Q4. 遺伝性腫瘍が疑われるのはどのようなときですか?

若くしてがんを発症した、異なる臓器や同じ臓器に何度もがんができた、家系内に同じ種類のがんを発症した人が集中している、といった特徴があるときです。気になるときは医療機関の遺伝カウンセリングで、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーに相談できます(4)。

参考文献

  1. World Health Organization(WHO)、2021年10月 — WHO Director-General Bestows Posthumous Award on the Late Henrietta Lacks
  2. National Institutes of Health(NIH Grants & Funding)、2013年8月(2024年5月更新) — The NIH-Lacks Family Agreement
  3. Science(science.org)、1994年12月 — Kim NW et al. Specific Association of Human Telomerase Activity with Immortal Cells and Cancer
  4. がん情報サービス(国立がん研究センター)、2026年4月 — 遺伝性腫瘍
  5. がん統計(国立がん研究センター)、2023年データに基づく — 最新がん統計
  6. seeDNA遺伝医療研究所(seedna.co.jp) — DNAスコア

この記事について

著者:seeDNA遺伝医療研究所 編集部
遺伝学・分子生物学の一次情報および国内外の公的機関の公開情報に基づき、検査部門と連携して記事を制作しています。

監修:富金 起範(株式会社seeDNA 代表取締役)
2003年に文部科学省の国費留学生として、ヒトの免疫に関わる遺伝子発現と薬理メカニズムを研究。DNA型鑑定・遺伝子解析技術の開発に従事し、特許第7331325号ほかの発明者です。

発行機関:株式会社seeDNA(seeDNA遺伝医療研究所)/〒121-0813 東京都足立区竹の塚3-10-1 竹の塚ビル2階/TEL 03-6659-2997

  • ISO 9001 認証(2022年12月7日/G-CERTI JAPAN)
  • プライバシーマーク認定(2022年4月20日/JIPDEC)
  • 一般社団法人遺伝情報取扱協会(AGI)会員
  • 日本法医学会・DNA鑑定学会・日本分子生物学会 参加
  • 特許第7331325号/特許第7121440号

本記事は科学的な解説を目的としたものであり、特定の疾患の診断・治療・予防の効果を保証するものではありません。診断や治療については医療機関にご相談ください。