骨折のしやすさ
概要
1. 概要
「骨折」とは、骨が壊れることを指し、折れることだけではなくヒビや一部分が欠けることも含まれます。「骨折」は、骨に力がかかることで発生し、通常はかなり大きな力がかからないと骨折することはありません。
しかし、骨自体が弱っている場合は、弱い力でも骨折することがあり、「病的骨折」と呼ばれます。(参考リンク 1)
骨が弱くなる原因としては、骨粗しょう症によるものが多いですが、癌などの腫瘍によって骨の一部が溶けることもあり、遺伝性の報告もあります。(参考リンク 1、2)
更に、「骨折」の発生頻度に影響を及ぼすリスクは、普段の生活パターンや激しい運動などさまざまですが、最近の研究報告によって、遺伝子「TERT(EST2)」の特定の遺伝子型において骨折の頻度が多いことが報告されています。(参考リンク 2)
このことから遺伝子検査により「骨折のリスク」を確認することで、発症の予防や早期対策に役立つことが期待されます。
2. 理論的根拠
オランダ、アメリカ、カナダ、イギリス、中国、オーストラリアなどを中心とした研究チームが、ヨーロッパ、北アメリカ、オーストラリア、東アジアをルーツとする人々の骨折患者20,439人と健常人78,843人、イギリスの骨折患者14,492人と健常人130,563人、アメリカの骨折患者2,926人と健常人17,710人の遺伝子データを使用して、網羅的な解析を行いました。
その結果、遺伝子15個の特定の遺伝子多型に骨折との強い関係が見つかりました。そのうちの一つが、「TERT(EST2)」遺伝子の近くにあるDNA領域「rs9980072」という遺伝子多型です。(参考リンク 2)
DNA領域「rs9980072」には、「GG型」「GA型」「AA型」の3つの遺伝子型があります。日本人の遺伝子タイプは、「GA型」が50.0%で最も多く、「GG型」が26.6%、「AA型」が23.4%となっています。(参考リンク 3)
骨折のリスクがやや高いのはRisk Alleleである「G」という報告があります。そのため、日本人に多い「GA型」や「GG型」は比較的リスクが高いといえます。
3. 作用機序
「rs9980072」というDNA領域は、21番染色体に位置しており、「TERT(EST2)」遺伝子の近くにあることから、この遺伝子と関係があるとされています。
「TERT(EST2)」遺伝子は、酵素「テロメラーゼ」を生成し、遺伝子「テロメア」の構造を作り出します。テロメアは、染色体の末端にある構造物で、細胞の老化に関わっていると考えられています。(参考リンク 4)
テロメラーゼの制御は、多くの悪性腫瘍の悪性度にかかわっていると報告されています。また、テロメラーゼは悪性腫瘍の増殖に関わるだけでなく、本来の細胞の維持にも必要不可欠な役割を果たしていると考えられています。
この役割には、細胞の増殖や保護、リボ核酸(RNA)の制御などが含まれます。
さらに、テロメラーゼは骨の維持や強度にも関わっている可能性が示唆されたため、DNA領域「rs9980072」は、骨折のリスクに関係する一塩基多型の1つとして注目されています。
遺伝子領域rs9980072において日本で各遺伝タイプを持つ人の割合
- AA22.20%
- AG49.83%
- GG27.97%
遺伝子領域rs9980072において世界で各遺伝タイプを持つ人の割合
- AA8.41%
- AG41.18%
- GG50.41%
遺伝子領域rs4869742において日本で各遺伝タイプを持つ人の割合
- CC3.52%
- CT30.47%
- TT66.02%
遺伝子領域rs4869742において世界で各遺伝タイプを持つ人の割合
- CC48.41%
- CT42.33%
- TT9.25%
遺伝子領域rs3736228において日本で各遺伝タイプを持つ人の割合
- CC54.82%
- CT38.44%
- TT6.74%
遺伝子領域rs3736228において世界で各遺伝タイプを持つ人の割合
- CC74.02%
- CT24.03%
- TT1.95%
検査の理論的根拠
体表的なDNA領域:骨折のしやすさ
体表的なDNA領域:骨折のしやすさ
骨折のしやすさ に最も強く影響する遺伝子領域は、rs9980072です。 日本における同型の遺伝子タイプの分布は下記のとおりです。
-
AA
22.2% -
AG
49.8% -
GG
28.0%
他に、骨折のしやすさに関わる遺伝子領域はrs4869742があります。 日本における同型の遺伝子タイプの分布は下記のとおりです
-
CC
3.5% -
CT
30.5% -
TT
66.0%
他に、骨折のしやすさに関わる遺伝子領域はrs3736228があります。 日本における同型の遺伝子タイプの分布は下記のとおりです
-
CC
54.8% -
CT
38.4% -
TT
6.7%
検査の根拠
今回調査したDNA領域
細胞中に存在するDNAマップの模式図
- ■
- ■
- ■
- ■
- ■
- ■
- ■
- ■
- ■
関連遺伝子
| 関連遺伝子 | ETS2 |
|---|---|
| 関連遺伝子 | CCDC170 |
| 関連遺伝子 | LRP5 |
参考文献
-
関連遺伝子 ETS2
- 参考リンク : 2018 Aug、Katerina Trajanoskaと研究グループがBMJ に発表したAssessment of the genetic and clinical determinants of fracture risk: genome wide association and mendelian randomisation studyという研究によると骨折のしやすさ に関連するrs9980072の関連性が認められました。
-
関連遺伝子 CCDC170
- 参考リンク : 2019 Feb、John A Morrisと研究グループがNat Genet に発表したAn atlas of genetic influences on osteoporosis in humans and miceという研究によると骨折のしやすさ に関連するrs4869742の関連性が認められました。
-
関連遺伝子 LRP5
- 参考リンク : 2018 Aug、Katerina Trajanoskaと研究グループがBMJ に発表したAssessment of the genetic and clinical determinants of fracture risk: genome wide association and mendelian randomisation studyという研究によると骨折のしやすさ に関連するrs3736228の関連性が認められました。