慢性C型肝炎の重症化リスク
概要
1. 概要
日本において、「肝臓がん」の65%が「C型肝炎ウイルス」によるもので、世界と比較して高い確率となっています。
国立がん研究センターの調査によると、近年では減少傾向にありますが、年間で約3万人が「肝臓がん」で亡くなっています。(参考リンク1)
また、肝臓は“沈黙の臓器”とも呼ばれ、多くの場合、「C型肝炎ウイルス」に感染しても症状がなく、長期間をかけて「肝硬変」や「肝臓がん」へ進展することがあるため、注意が必要です。
「C型肝炎ウイルス」が感染することにより、肝臓に炎症が起こり、損傷した肝臓の細胞を治癒しようとする過程で、組織が硬くなり、臓器の機能が低下する線維化という状態が生じます。
損傷と再生を繰り返すうちに、線維化が進行し、「肝硬変」「肝臓がん」へと進展します。また、「肝臓がん」は、この線維化を生じる過程で遺伝子の影響を受けて発症すると考えられています。
最近の研究報告によると、「DEPDC5」遺伝子のある領域が、「C型肝炎ウイルス」による肝臓がんの発症リスクに影響を与えている可能性が高いことが明らかになりました。
近年、「C型肝炎」の治療として抗ウイルス薬が開発され、約90%の人が完治し、「肝硬変」や「肝臓がん」による死亡リスクを減らすことができるとされています。(参考リンク2)
早期に発見し、早期に治療することで、将来の発がんリスクを軽減することができます。遺伝子検査により自身の遺伝子タイプを調べて、「C型肝炎ウイルス」関連の「肝臓がん」発症のリスクを知ることで、発症の予防や早期対策に役立つことが期待されます。
2. 理論的根拠
日本のゲノム医科学研究センターの研究により、「DEPDC5」遺伝子の特定の型によって「C型肝炎ウイルス」感染者の中で肝臓がんを発症しやすい人がいることが明らかになりました。
この遺伝子型はDNA領域「rs1012068」と呼ばれ、3つの遺伝子型「GG型」「GT型」「TT型」があります。(参考リンク3)
必ずしも発症するわけではありませんが、Risk Alleleを持つ「GG型」の人はC型肝炎ウイルス感染により肝臓がんを発症しやすく、「GT型」の人はやや発症しやすい傾向があります。
東アジア人の遺伝子タイプは、「TT型」が59.3%と最も多く、「GT型」は35.4%、GG型が5.3%と最も少なくなっています。(参考リンク4)
生活習慣などの環境要因が重なり合うことで、発症する可能性が高くなります。肝臓がんの予測因子には、アルコール摂取、糖尿病、肥満などが報告されています。(参考リンク5)
また、肝臓に負担をかける食生活には、アルコールや糖質の過剰摂取、脂肪分の多い肉や揚げ物などがあります。(参考リンク6)
このような食生活は、脂肪肝になりやすく、ウイルスに関係なく肝炎や肝硬変を引き起こしやすい病態として注目されています。
肝炎ウイルス感染者は、このような食事を避けることが望ましいと考えられます。正しい食事を選択することは、発がんリスクを少しでも減らすために大切です。
早い時期にC型肝炎ウイルス感染における肝臓がんの発症リスクを把握しておくことで、生活・環境面でのリスク管理が可能となります。
3. 作用機序
最近の研究によると、肝臓がんの発症に関わる「DEPDC5」遺伝子は、C型肝炎ウイルスによって引き起こされるものであり、これは人間の24の染色体のうち、22番染色体に位置しています。
「DEPDC5」遺伝子が肝臓がんに直接関与するメカニズムはまだ解明されていませんが、この遺伝子の変異は、肝臓のあるタンパク質を活性化し、エタノールの摂取によって肝臓に脂肪が蓄積しやすくなることがわかっています。
つまり、DNA領域「rs1012068」の遺伝子型によって、「DEPDC5」遺伝子の変異に不具合があると、普通の人よりも飲酒によって肝臓に脂肪が蓄積し、炎症を起こしやすくなります。
飲酒による脂肪肝や肝炎とC型肝炎ウイルスによる炎症が重なることによって、肝臓の線維化が早く進行し、最終的には肝硬変や肝臓がんを発症する可能性が高くなります。
以上のことから、DNA領域「rs1012068」は、C型肝炎ウイルスによる肝臓がんの発症に深く関係し、注目を浴びている一塩基多型のひとつと言えます。
遺伝子領域rs1012068において日本で各遺伝タイプを持つ人の割合
- TT77.41%
- TG21.15%
- GG1.44%
遺伝子領域rs1012068において世界で各遺伝タイプを持つ人の割合
- TT52.31%
- TG40.03%
- GG7.66%
検査の理論的根拠
体表的なDNA領域:慢性C型肝炎の重症化リスク
体表的なDNA領域:慢性C型肝炎の重症化リスク
慢性C型肝炎の重症化リスク に最も強く影響する遺伝子領域は、rs1012068です。 日本における同型の遺伝子タイプの分布は下記のとおりです。
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TT
77.4% -
TG
21.1% -
GG
1.4%
検査の根拠
今回調査したDNA領域
細胞中に存在するDNAマップの模式図
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関連遺伝子
| 関連遺伝子 | DEPDC5 |
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参考文献
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関連遺伝子 DEPDC5
- 参考リンク : 2011 Jul、Daiki Mikiと研究グループがNat Genet に発表したVariation in the DEPDC5 locus is associated with progression to hepatocellular carcinoma in chronic hepatitis C virus carriersという研究によると慢性C型肝炎の重症化リスク に関連するrs1012068の関連性が認められました。