ウルリッヒ型先天性筋ジストロフィー
- ウルリッヒ型先天性筋ジストロフィーはVI型コラーゲンの遺伝子変異による遺伝性の筋肉の病気で、赤ちゃんの時期に発症し、筋力の低下や関節のこわばりを引き起こします。
- DNA領域rs2150458のAタイプを持つ人はこの病気にかかるリスクが高い傾向にあることが研究で分かっています。
- 現在根本から治す治療法はまだありませんが、症状をやわらげる治療とリハビリテーションで生活の質を高めることができます。
概要
【病気の概要】 コラーゲンVI関連ジストロフィーは、親から子へ遺伝する筋肉の病気で、COL6A1、COL6A2、COL6A3という遺伝子の変異(遺伝子の変化)によって起こります。 これらの遺伝子の変異は、体の組織を支える「VI型コラーゲン」を作るたんぱく質に影響します。
【症状と特徴】 VI型コラーゲンがうまく働かないと、骨格筋(体を動かす筋肉)、皮膚、関節などに症状が出ます。 コラーゲンVI関連ジストロフィーには、主に次のタイプがあります。 1. ウルリッヒ型先天性筋ジストロフィー: 最も重いタイプで、ふつうは赤ちゃんの時期(乳児期)に始まります。 症状には、筋力の低下、関節のこわばり、背骨が横に曲がる「脊柱側弯」などがあります。 2. ベスレム型筋ジストロフィー: 比較的軽いタイプで、幼児期から大人になるまでの間に発症します。 体の中心に近い筋肉(近位筋)の筋力低下、関節のこわばり、脊柱側弯が特徴で、進行はゆっくりです。 3. 中間型: ウルリッヒ型とベスレム型の中間で、両方の特徴を持ちます。 4. 遺伝性筋腱膜ジスプラジア: 筋肉を包む膜や腱(筋腱膜)が厚く、かたくなるのが特徴です。
【治療と注意点】 この病気を正確に診断するには遺伝子検査が必要です。 今のところ、病気を根本から治す方法はまだありません。症状をやわらげる治療(対症療法)とリハビリテーションが中心で、症状の進行を遅らせ、多くの患者さんが生活の質を高めることができます。
【遺伝子とリスク】 アイスランド心臓協会のEmilssonらの研究により、ウルリッヒ型先天性筋ジストロフィーにかかるリスクが、rs2150458というDNA領域と関係していることが分かりました。 このDNA領域にはGG、AG、AAの3つの遺伝子型があり、Aを持つ遺伝子型の人は、ウルリッヒ型先天性筋ジストロフィーのリスクが高い傾向にあることが分かりました。
ウルリッヒ型先天性筋ジストロフィーとは何か
ウルリッヒ型先天性筋ジストロフィーは、COL6A1・COL6A2・COL6A3遺伝子の変異によってVI型コラーゲンがうまく働かなくなる、遺伝性の筋肉の病気です。コラーゲンVI関連ジストロフィーの中で最も重いタイプで、赤ちゃんの時期(乳児期)に発症します。
ウルリッヒ型先天性筋ジストロフィーの原因とメカニズム
VI型コラーゲンは、骨格筋・皮膚・関節など体の組織を支えるたんぱく質です。COL6A1・COL6A2・COL6A3遺伝子に変異が起こると、次のような障害が起こります。
- VI型コラーゲンの構造の異常:正常なコラーゲンの線維が作られず、組織を支える力が弱くなります。
- 筋肉の細胞のまわりの組織(細胞外マトリックス)の障害:筋線維のまわりの組織(結合組織)が弱くなり、筋力の低下につながります。
ウルリッヒ型先天性筋ジストロフィーの主な症状
ウルリッヒ型先天性筋ジストロフィーは乳児期に発症し、次のような症状が出ます。
- 全身の筋力低下(特に体の中心に近い筋肉)
- 関節拘縮(体の中心に近い関節のこわばり)と体の先のほうの関節が動きすぎる(過可動性)
- 脊柱側弯(背骨が横に曲がる)が進みます。
- 呼吸に使う筋肉の障害による呼吸不全(十分に呼吸できない状態)
- 皮膚がよく伸びます(ビロードのようなさわり心地)。
コラーゲンVI関連ジストロフィーのタイプ比較
| 比較項目 | ウルリッヒ型 | ベスレム型 |
|---|---|---|
| 重さ | 最も重い | 比較的軽い |
| 発症時期 | 乳児期 | 幼児期〜大人 |
| 歩行能力 | 自分で歩けない〜歩くのに制限あり | 長い間保てます。 |
| 関節症状 | 関節のこわばりと、動きすぎる関節が両方あります。 | 指が曲がったまま伸ばしにくい(屈曲拘縮)のが特徴です。 |
| 進行速度 | 比較的速い | ゆっくり |
| 呼吸障害 | 多い(人工呼吸が必要) | まれ |
このほかに中間型(ウルリッヒ型とベスレム型の両方の特徴を持つ)と遺伝性筋腱膜ジスプラジア(筋肉を包む膜や腱が厚く、かたくなるのが特徴)もあります。
診断方法
正確に診断するには、次の検査が必要です。
- 遺伝子検査:COL6A1・COL6A2・COL6A3遺伝子に変異があるかを確認します。
- 筋生検(筋肉の一部を取って調べる検査):筋線維の形の異常と、VI型コラーゲンが減っていることを確認します。
- 血液中の筋肉の酵素(クレアチンキナーゼ)の値:正常〜少し高いです。
治療法と予後
現在、ウルリッヒ型先天性筋ジストロフィーを根本から治す治療法はまだありません。治療は、次のような症状をやわらげる方法(対症療法)が中心です。
- リハビリテーション:関節がかたまるのを防ぎ、筋力を保ちます。
- 呼吸管理:マスクを使って呼吸を助ける人工呼吸(非侵襲的陽圧換気)
- 整形外科の治療:背骨の曲がりや関節のこわばりに対する手術です。
- 栄養管理:飲み込みにくさ(嚥下障害)に合わせた栄養のとり方
遺伝子とウルリッヒ型先天性筋ジストロフィーの関連
DNA領域rs2150458と病気にかかるリスクの関係
アイスランド心臓協会のEmilssonらの研究(1)により、DNA領域rs2150458がウルリッヒ型先天性筋ジストロフィーにかかるリスクと関係していることが分かりました。
- rs2150458にはGG・GA・AAの3つの遺伝子型が存在します。
- Aタイプを持つ遺伝子型の人は、ウルリッヒ型先天性筋ジストロフィーのリスクが高い傾向があります。
日本人における遺伝子型分布(rs2150458)
| 遺伝子型 | 日本人の割合 | 世界の割合 |
|---|---|---|
| GG型 | 2.2% | 29.9% |
| GA型 | 25.3% | 49.5% |
| AA型 | 72.4% | 20.4% |
検査の科学的な根拠
代表的なDNA領域:ウルリッヒ型先天性筋ジストロフィー
ウルリッヒ型先天性筋ジストロフィーに最も強く影響するDNA領域は、rs2150458です。 日本でのこの領域の遺伝子型の分布は下記のとおりです。
- GG
2.2 % - GA
25.3 % - AA
72.4 %
検査の根拠
アイスランド心臓協会のEmilssonらの研究により、ウルリッヒ型先天性筋ジストロフィーにかかるリスクが遺伝子と関係していることが分かりました。人間のDNAには、rs2150458という場所があり、そこにはGとAの2種類のタイプがあります。Gタイプを持つ人は、ウルリッヒ型先天性筋ジストロフィーのリスクが高い傾向にあることが分かりました。
今回調査したDNA領域
細胞の中にあるDNAマップの模式図
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関連遺伝子
| 関連遺伝子 | PCBP3 |
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よくある質問
Q1. ウルリッヒ型先天性筋ジストロフィーとは何ですか?
ウルリッヒ型先天性筋ジストロフィーは、COL6A1・COL6A2・COL6A3遺伝子の変異によってVI型コラーゲンがうまく働かなくなる、遺伝性の筋肉の病気です。コラーゲンVI関連ジストロフィーの中で最も重いタイプで、赤ちゃんの時期(乳児期)に発症します。筋力の低下・関節のこわばり(関節拘縮)・背骨が横に曲がる脊柱側弯などの症状が出ます。
Q2. ウルリッヒ型先天性筋ジストロフィーの原因は何ですか?
COL6A1・COL6A2・COL6A3遺伝子の変異が原因です。これらの遺伝子はVI型コラーゲンを作ることに関わっていて、変異があると正常なコラーゲンが作られず、骨格筋・皮膚・関節に障害が起こります。DNA領域rs2150458でAタイプを持つ人はリスクが高い傾向にあります(1)。
Q3. コラーゲンVI関連ジストロフィーにはどのようなタイプがありますか?
主に4タイプあります。最も重いウルリッヒ型、比較的軽いベスレム型、両者の中間型、そして遺伝性筋腱膜ジスプラジアです。病気の重さと発症する時期がちがいます。
Q4. 遺伝子検査でウルリッヒ型のリスクは分かりますか?
DNA領域rs2150458の遺伝子型を調べることで、ウルリッヒ型先天性筋ジストロフィーにかかるリスクの傾向を知ることができます。Aタイプを持つ遺伝子型の人はリスクが高い傾向にあることが研究で分かっています(1)。
参考文献
- 参考リンク1 : 2018 Aug., Valur Emilsson, Science