ネフローゼ症候群に対するステロイドの有効性
- ネフローゼ症候群は腎臓の糸球体のろ過の働きが弱まり、タンパク質が尿の中に漏れ出す病気で、ステロイドが最初に使う薬(第一選択薬)として使われます。
- DNA領域rs1128503のA型変異を持つ人はステロイド治療が効きやすい傾向にあることが、Md Abdul Azizらの研究で分かっています。
- 日本人の約84.0%がA型変異を保有(AA型36.1%+AG型47.9%)し、ステロイド治療が効きやすいと期待できます。
概要
【病気の概要】 ネフローゼ症候群は、腎臓のフィルター(ろ過)の働きが弱まり、タンパク質が尿の中に漏れ出してしまう病気です。
【症状と特徴】 ふだん腎臓は、血液から不要な物質を尿として出し、体に必要なタンパク質は体の中に残します。しかしこの病気では、糸球体(腎臓で血液をろ過する小さな血管のかたまり)が傷つくことで、タンパク質が漏れ出します。 その結果、血液中のアルブミン(タンパク質の一種)が減る「低アルブミン血症」、むくみ(浮腫)、血液中の脂質が増える「高脂血症」などの症状が現れます。
【治療と注意点】 一般的な治療には、ステロイドという薬が使われます。 ステロイドは、糸球体の炎症や免疫の働きを抑えることで、尿に出るタンパク質を減らし、症状をよくします。 しかし、ステロイドが効かない患者さんや、副作用が強く出る患者さん(ステロイド抵抗性の患者さん)もいるため、その場合は別の治療法を考える必要があります。 主な副作用には、免疫の働きが弱まることによる感染症のリスク増加、体重増加、むくみ、高血圧、糖尿病の悪化、骨粗鬆症(骨がもろくなる病気)、胃潰瘍などがあります。 ステロイド治療はネフローゼ症候群の治療でとても大切な役割を果たしますが、効果と副作用のバランスをよく見ることが大切です。
【遺伝子の影響】 ノアカリ科学技術大学のMd Abdul Azizらの研究により、ネフローゼ症候群に対するステロイドの効きやすさが、rs1128503というDNA領域と関係していることが分かりました。 このDNA領域にはAA、AG、GGの3つの遺伝子型があり、Aを持つ遺伝子型の人は、ステロイド治療で高い効果が期待できることが分かりました。
ネフローゼ症候群とは何か
ネフローゼ症候群は、腎臓の糸球体のろ過の働きが弱まり、血液中のタンパク質(主にアルブミン)が尿の中に大量に漏れ出す病気です。日本では大人の発症率は10万人あたり約3〜4人、子どもでは10万人あたり約2〜7人と報告されています。
ネフローゼ症候群の原因としくみ
ネフローゼ症候群は、主に以下のような原因で起こります。
- 一次性(原因がはっきりしないもの):微小変化型(子どもの患者さんの約80%)、巣状分節性糸球体硬化症、膜性腎症が主な原因です。
- 二次性(ほかの病気が原因):糖尿病による腎臓の病気(糖尿病性腎症)、ループス腎炎、アミロイドーシスなど、全身の病気にともなって発症します。
- 遺伝子の影響:ABCB1遺伝子(DNA領域rs1128503)の変異がステロイド治療の効きやすさに影響します。
腎臓の糸球体は、ふだん血液から不要な老廃物を尿として出し、必要なタンパク質は体に残します。ネフローゼ症候群では糸球体のろ過膜(糸球体基底膜)が異常に通りやすい状態に変化し、アルブミンなどの大きなタンパク質が尿の中に漏れ出します。
ネフローゼ症候群の主な症状
主な症状は次の4つです。
- 大量のタンパク尿:1日3.5g以上のタンパク質が尿に出ます。
- 低アルブミン血症:血液中のアルブミン値が3.0g/dL以下に下がります。
- 浮腫(むくみ):まぶたや足に目立ち、重い場合は全身がむくんだり、おなかや胸に水がたまったり(腹水・胸水)します。
- 高脂血症:肝臓でコレステロールなどを運ぶタンパク質(リポタンパク)が多く作られ、総コレステロール値が上がります。
ステロイド治療はなぜネフローゼ症候群に有効なのか
ステロイド(副腎皮質ステロイド)は糸球体の炎症と免疫の働きすぎを抑制することで、尿に出るタンパク質を減らし、症状をよくします。
ステロイドが効くしくみは以下のとおりです。
- 免疫細胞(T細胞・B細胞)の働きを抑え、免疫の働きすぎをしずめます。
- 炎症を引き起こす物質(インターロイキン1や腫瘍壊死因子アルファなどの炎症性サイトカイン)が作られるのを減らします。
- 糸球体のろ過膜(糸球体基底膜)の状態をよくし、タンパク質の漏れを減らします。
- ポドサイト(糸球体の表面をおおう細胞)の骨組みを安定させます。
ステロイド感受性とステロイド抵抗性の違い
| 比較項目 | ステロイド感受性 | ステロイド抵抗性 |
|---|---|---|
| 定義 | ステロイド治療で完全寛解(症状がすっかりおさまること)します。 | 4〜8週間のステロイド治療でも寛解(症状がおさまること)しません。 |
| 子どもの患者さんの割合 | 約80〜90% | 約10〜20% |
| 主な原因疾患 | 微小変化型ネフローゼ | 巣状分節性糸球体硬化症 |
| 遺伝子関連 | rs1128503のA型変異を持つ人の割合が高いです。 | G型変異との関連が考えられます。 |
| 予後 | 良好(再発することあり) | 注意深い経過観察が必要 |
| 代替治療 | 再発時にステロイド再投与 | シクロスポリン・タクロリムスなどの免疫抑制剤 |
ステロイド治療の主な副作用
ステロイドの効果と副作用のバランスをよく見ることが大切です。主な副作用は以下のとおりです。
- 免疫の低下:感染症(肺炎・帯状疱疹など)にかかるリスクが約2〜3倍に増加します。
- 代謝の異常:体重増加、顔が丸くなる満月様顔貌(ムーンフェイス)、糖尿病の悪化です。
- 骨への影響:骨粗鬆症(骨がもろくなる病気。長く使うと骨折リスクが約30〜50%上昇)です。
- 胃腸への影響:胃潰瘍・消化管出血
- 心臓・血管への影響:高血圧、むくみの悪化です。
- 副腎機能不全:長く使った後に急にやめると起こるおそれがあります。
遺伝子とステロイド治療の効果の関係
DNA領域rs1128503とステロイドの効きやすさの関係
ノアカリ科学技術大学のMd Abdul Azizらの研究(1)により、DNA領域rs1128503が、ネフローゼ症候群に対するステロイド治療の効きやすさと関係していることが分かりました。
- rs1128503にはAA・AG・GGの3つの遺伝子型があります。
- A型変異を持つ遺伝子型(AA型・AG型)の人は、ステロイド治療で高い効果が期待できます。
- ABCB1遺伝子の中にあり、薬を細胞の外へくみ出すP-糖タンパク質の量や働きに影響を与えます。
日本人と世界における遺伝子型分布(rs1128503)
| 遺伝子型 | 日本人の割合 | 世界の割合 |
|---|---|---|
| AA型 | 36.1% | 17.8% |
| AG型 | 47.9% | 48.8% |
| GG型 | 15.9% | 33.3% |
日本人は世界平均と比較してAA型の割合が約2倍高く(36.1% 対 17.8%)、A型変異を持つ人の割合が高い傾向にあります。日本人の約84.0%(AA型+AG型)がA型変異を持っており、ステロイド治療が効きやすい人が多い集団である可能性があります。
検査の科学的な根拠
代表的なDNA領域:ネフローゼ症候群に対するステロイドの有効性
ネフローゼ症候群に対するステロイドの効きやすさに最も強く影響するDNA領域は、rs1128503です。日本人における遺伝子型の分布は下記のとおりです。
- AA
36.1 % - AG
47.9 % - GG
15.9 %
検査の根拠
ノアカリ科学技術大学のMd Abdul Azizらの研究により、ネフローゼ症候群に対するステロイドの効きやすさが遺伝子と関係していることが分かりました。人間のDNAには、rs1128503というDNA領域があり、そこにはAとGの2種類の違い(変異)があります。Aタイプの変異を持つ人は、ステロイド治療で高い効果が期待できることが分かりました(1)。
今回調査したDNA領域
細胞の中にあるDNAマップの模式図
- ■
- ■
- ■
- ■
- ■
- ■
- ■
- ■
- ■
関連遺伝子
| 関連遺伝子 | ABCB1 |
|---|
よくある質問
Q1. ネフローゼ症候群とは何ですか?
ネフローゼ症候群は、腎臓の糸球体のろ過の働きが弱まり、血液中のタンパク質が尿の中に大量に漏れ出す病気です。1日3.5g以上のタンパク尿、低アルブミン血症(血液中のアルブミンが減ること)、むくみ(浮腫)、高脂血症が主な症状で、日本では大人の発症率は10万人あたり約3〜4人です。
Q2. ステロイド治療はなぜネフローゼ症候群に有効なのですか?
ステロイドは糸球体の炎症と免疫の働きすぎを抑制することで、尿に出るタンパク質(タンパク尿)を減らします。免疫細胞であるT細胞・B細胞の働きを抑え、炎症を引き起こす物質(炎症性サイトカイン)が作られるのを減らすことで、糸球体のろ過膜(糸球体基底膜)からタンパク質が漏れにくくなります(1)。
Q3. ステロイド治療の効果に遺伝子は関係しますか?
DNA領域rs1128503の遺伝子型が、ステロイド治療の効きやすさに関係しています。A型変異を持つ遺伝子型(AA型・AG型)の人はステロイド治療が効きやすい傾向にあることが、Md Abdul Azizらの研究で分かっています(1)。
Q4. ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群とは何ですか?
4〜8週間ステロイド治療を続けても、完全寛解(症状がすっかりおさまること)が得られない場合をステロイド抵抗性といいます。子どもの患者さんの約10〜20%がステロイド抵抗性で、シクロスポリン・タクロリムスなど別の免疫抑制剤(免疫の働きを抑える薬)に切り替える必要があります。
Q5. ステロイド治療の主な副作用は何ですか?
主な副作用は免疫の働きが弱まることによる感染症リスクの増加、体重増加、高血圧、骨粗鬆症、胃潰瘍です。長く使い続けると、副腎(ホルモンを作る臓器)の働きが弱まる副腎機能不全のリスクもあるため、医師の指導のもとで量や使い方を慎重に管理する必要があります。
参考文献
- 参考リンク1 : 2022 Jul., Md Abdul Aziz, J Gene Med