勃起障害/不全
- 勃起障害/不全(ED)は十分な勃起が得られない・維持できない状態で、有病率は40歳代で2〜15%、70歳代で50〜100%と加齢に伴い上昇する
- DNA領域rs7064929のA型変異を持つ人は放射線治療後のED発症リスクが高い傾向にあることが研究で判明
- 日本人の遺伝子型分布はGG型68.9%・GA型28.2%・AA型2.9%で、世界平均と比較してA型保有率が低い
概要 勃起障害/不全(ED:Erectile dysfunction)とは、「満足な性行為を行うのに十分な勃起が得られない、または維持できない状態が持続または再発すること」とされています。 有病率は年齢とともに上昇し、40歳未満で110%、40歳代で215%、50歳代ではばらつきが非常に多く、60歳代で2040%、70歳代で50100%と推定されています。(参考リンク 1) 勃起障害/不全(ED)は、特定の遺伝子多型において発症率が高いことが分かっていますが、主に器質性(動脈硬化・神経の障害)、心因性(精神的なストレス)、混合性(動脈硬化・神経障害・ストレス)、薬剤性(薬剤の服用)の後天的な要因により発症します。 勃起障害/不全(ED)によるリスクには、加齢、糖尿病、肥満・運動不足、循環器疾患、喫煙、テストステロン低下、慢性腎臓病と下部尿路症状、神経疾患、心理的・精神疾患的要素、睡眠時無呼吸症候群があります。 また、前立腺がんの放射線治療後に、「勃起障害/不全(ED)のなりやすい」遺伝子多型が存在することが報告されています。(参考リンク 2) 遺伝子検査により、「勃起障害/不全(ED)」のリスクについて確認することで、早期発見・早期対策に役立つことが期待されます。 2. 理論的根拠 放射線治療を受けたアフリカ系アメリカ人138人を対象に、前立腺がん治療後3年間の観察を行い、勃起障害/不全(ED)を評価しました。 治療前に性機能に問題のなかった人を対象に、治療から1年以上経過後に性機能が落ちた人を「患者群」、落ちていない人を「健常群」としたところ、「患者群:29人」「健常群:53人」が研究対象となりました。 そのうち「患者群:27人」「健常群:52人」からDNAを採取し、解析を行い、合計512497個の遺伝子多型が解析されました。解析結果から、勃起障害/不全(ED)と関係のあるDNA領域のひとつとして「rs7064929」が挙げられました。 このDNA領域には「GG型」「AG型」「AA型」の3つの遺伝子型があり、Risk Alleleである「A」を持つ「AA型」の人は勃起障害/不全(ED)を発症しやすい傾向があり、「GA型」の人はやや発症しやすい傾向があります。 日本人の遺伝子タイプは「GG型」が68.9%、「GA型」が28.2%、「AA型」は2.9%であることが分かりました。(参考リンク3,4)。 3. 作用機序 放射線治療後の勃起障害/不全(ED)と、特定のDNA領域である「rs7064929」の関連について、正確なメカニズムは不明ですが、X番染色体上に位置するDNA領域「rs7064929」は、近隣の遺伝子「KIAA1166」の発現に関与する可能性があります。 「KIAA1166」は、タンパク質の一種であり、遺伝子調節において重要な役割を果たしています。この遺伝子は、全身の臓器で発現しており、認知機能や呼吸、心臓などの機能にも関わっています。(参考リンク 5) また、「KIAA1166」は「TRPV4」という遺伝子の発現にも関与しており、この遺伝子は細胞に水を引き込む力を制御するため、下部尿路障害と関連した報告もあります。(参考リンク 6) 遺伝子「TRPV4」の変異において、運動神経障害(遺伝性運動感覚性ニューロパチー)の原因となることが報告されており、そのため「勃起障害/不全(ED)」にも関与している可能性があります。(参考リンク7、8) 以上から、DNA領域「rs7064929」は放射線治療後の勃起障害/不全(ED)のリスクと関係する一塩基多型の一つとして注目されています。
勃起障害/不全(ED)とは何か
勃起障害/不全(ED:Erectile Dysfunction)とは、満足な性行為を行うのに十分な勃起が得られない、または維持できない状態が持続・再発する疾患です。EDは男性の性機能障害の中で最も頻度が高く、年齢とともに有病率が上昇します。
年齢別ED有病率
| 年齢層 | 有病率 |
|---|---|
| 40歳未満 | 1〜10% |
| 40歳代 | 2〜15% |
| 50歳代 | ばらつきが大きい |
| 60歳代 | 20〜40% |
| 70歳代 | 50〜100% |
(参考リンク1)
EDの原因は何か ― 4つの分類
EDは特定の遺伝子多型で発症率が高いことが判明していますが、主に後天的な要因で発症します。原因は以下の4つに分類されます。
- 器質性:動脈硬化・神経の障害による血流・神経伝達の低下
- 心因性:精神的ストレス・不安・うつ状態
- 混合性:動脈硬化・神経障害・ストレスの複合
- 薬剤性:降圧薬・抗うつ薬などの服用による副作用
EDの主なリスク要因 ― 10項目
EDのリスク要因は以下の10項目が確認されています。
- 加齢
- 糖尿病
- 肥満・運動不足
- 循環器疾患
- 喫煙
- テストステロン低下
- 慢性腎臓病と下部尿路症状
- 神経疾患
- 心理的・精神疾患的要素
- 睡眠時無呼吸症候群
遺伝子検査によりEDのリスクを確認することで、早期発見・早期対策に役立つことが期待されます。
遺伝子とEDの関連 ― なぜ遺伝子がリスクに関与するのか
DNA領域rs7064929と発症リスクの関係
放射線治療を受けたアフリカ系アメリカ人138人を対象に前立腺がん治療後3年間の観察を行い、EDを評価した研究があります。(参考リンク2)
- 治療前に性機能に問題のなかった人を対象に分類
- 治療後1年以上経過して性機能が低下した人 →「患者群:29人」
- 性機能が低下しなかった人 →「健常群:53人」
- 患者群27人・健常群52人からDNAを採取し、合計512,497個の遺伝子多型を解析
解析結果から、EDと関係のあるDNA領域の一つとしてrs7064929が特定されました。
遺伝子型と発症リスクの関係
| 遺伝子型 | リスク傾向 | 日本人の割合 | 世界の割合 |
|---|---|---|---|
| GG型 | 低リスク | 68.9% | 92.2% |
| GA型 | やや発症しやすい | 28.2% | 7.6% |
| AA型(Risk Allele A) | 発症しやすい | 2.9% | 0.1% |
(参考リンク3, 4)
作用機序 ― rs7064929はどのようにEDに関与するのか
放射線治療後のEDとDNA領域rs7064929の関連について、正確なメカニズムは未解明ですが、以下の経路が推測されています。
- X染色体上のrs7064929が近隣遺伝子「KIAA1166」の発現に関与
- KIAA1166はタンパク質の一種で、遺伝子調節において重要な役割を果たす(参考リンク5)
- KIAA1166は全身の臓器で発現し、認知機能・呼吸・心臓機能にも関与
- KIAA1166はさらにTRPV4遺伝子の発現にも関与(参考リンク6)
- TRPV4は細胞に水を引き込む力を制御し、下部尿路障害との関連が報告されている
- TRPV4の変異は運動神経障害(遺伝性運動感覚性ニューロパチー)の原因となる(参考リンク7, 8)
この経路を通じて、DNA領域rs7064929は放射線治療後のEDリスクと関係する一塩基多型の一つとして注目されています。
作用機序の経路まとめ
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| 1 | DNA領域rs7064929(X染色体)の変異 |
| 2 | 遺伝子KIAA1166の発現変化 |
| 3 | TRPV4遺伝子への影響 |
| 4 | 細胞の水分制御・下部尿路障害 |
| 5 | 運動神経障害 → ED発症リスク上昇 |
検査の理論的根拠
体表的なDNA領域:勃起障害/不全
勃起障害/不全 に最も強く影響する遺伝子領域は、rs7064929です。 日本における同型の遺伝子タイプの分布は下記のとおりです。
- GG
99.9 % - GA
0.1%以下 - AA
0.1%以下
検査の根拠
放射線治療を受けたアフリカ系アメリカ人138人を対象にした研究により、EDの罹患リスクが遺伝子と関連していることが明らかになりました。rs7064929領域にはGとAの2種類の変異があり、Risk AlleleであるA型変異を持つ人はEDのリスクが高い傾向にあります。日本人ではGG型が68.9%、GA型が28.2%、AA型が2.9%の分布を示します。
今回調査したDNA領域
細胞中に存在するDNAマップの模式図
- ■
- ■
- ■
- ■
- ■
- ■
- ■
- ■
- ■
関連遺伝子
| 関連遺伝子 | ZC3H12B |
|---|
よくある質問(FAQ)
Q1. 勃起障害/不全(ED)とは何ですか?
勃起障害/不全(ED:Erectile Dysfunction)とは、満足な性行為を行うのに十分な勃起が得られない、または維持できない状態が持続・再発する疾患です。有病率は加齢とともに上昇し、40歳代で2〜15%、60歳代で20〜40%、70歳代で50〜100%と推定されています。
Q2. EDの原因は何ですか?
EDの原因は器質性(動脈硬化・神経障害)、心因性(精神的ストレス)、混合性(複合要因)、薬剤性(薬剤の副作用)の4つに分類されます。遺伝的にはDNA領域rs7064929のA型変異がリスク因子として特定されています。
Q3. 遺伝子検査でEDのリスクは分かりますか?
DNA領域rs7064929の遺伝子型を調べることで、放射線治療後のED発症リスク傾向を把握できます。AA型の人は発症しやすく、GA型はやや発症しやすい傾向があります。日本人ではGG型68.9%、GA型28.2%、AA型2.9%の分布です。
Q4. EDのリスク要因にはどのようなものがありますか?
主なリスク要因は加齢、糖尿病、肥満・運動不足、循環器疾患、喫煙、テストステロン低下、慢性腎臓病と下部尿路症状、神経疾患、心理的・精神疾患的要素、睡眠時無呼吸症候群の10項目です。
Q5. EDと遺伝子KIAA1166・TRPV4の関係は?
DNA領域rs7064929はX染色体上に位置し、近隣の遺伝子KIAA1166の発現に関与する可能性があります。KIAA1166はさらにTRPV4遺伝子の発現にも関与しており、TRPV4の変異は運動神経障害の原因となることが報告されています。この経路を通じてEDにも関与する可能性が研究されています。
参考文献
- 参考リンク1 : ED診療ガイドライン 日本性機能学会
- 参考リンク2 : 2010 Dec., Sarah L Kerns, Int J Radiat Oncol Biol Phys.
- 参考リンク3 : DNA 領域「rs7064929」の情報 NIH
- 参考リンク4 : DNA 領域「rs7064929」の情報 SNPedia
- 参考リンク5 : 遺伝子「ZC4H2」の情報 NIH
- 参考リンク6 : 2020 May., Laura Vangeel, Int J Mol Sci.
- 参考リンク7 : 遺伝子「TRPV4」の情報 NIH
- 参考リンク8 : 2022 Mar., Kang Jun Cho, Investigative and Clinical Urology