経年喫煙による食道がんの罹患リスク
概要
1. 概要
食道がんは、食道の粘膜に発生する悪性腫瘍であり、2019年には約2万6千人が新たに診断されています。食道がんには、食道扁平上皮がんと食道腺がんの2種類があり、日本では前者が90%以上、後者が10%以下を占めます。(参考リンク1)
しかし、食生活の欧米化や高齢化に伴い、日本でも食道腺がんの頻度が増加しています。食道がんの発症メカニズムは、胃酸逆流や食道粘膜の慢性的な炎症が関係していると考えられています。
最近の研究報告によれば、「CDR1SPANXB2」遺伝子付近のある部位と総喫煙量が食道腺がんの発症リスクに影響を与える可能性が高いことが明らかになりました。
食道腺がんは治療後の5年生存率が15~20%と予後が悪く、初期症状に乏しく早期発見が難しいとされています。(参考リンク2)
以上のことから、遺伝子検査により自身の遺伝子タイプを調べることで、早期発見や発症の予防に役立つことが期待されます。
2. 理論的根拠
米国ベイラー医科大学の疫学研究室による研究により、「CDR1SPANXB2」遺伝子周辺であるDNA領域「rs17002540」の遺伝子型と総喫煙量によって、食道腺がんを発症しやすい人がいることがわかりました。
このDNA領域「rs17002540」には、「CC型」「CT型」「TT型」の3つの遺伝子型があります。
日本人の遺伝子タイプは、「CC型」が最も多い77.0%、「CT型」が21.5%、「TT型」は最も少ない1.5%を示しています。CCタイプの遺伝子型を持つ人は、1日1箱を15年以上吸った量に相当する総喫煙量で食道腺がんを発症しやすい傾向にあることがわかっています。
ただし、1日1箱を15年以上吸った量に相当する総喫煙量のCCタイプの人が必ずしも食道腺がんを発症するわけではなく、生活習慣などの環境要因が重なり合うことでリスクが高まります。
食道腺がんのリスクは、喫煙以外にも、胃酸逆流による食道炎や肥満が関与することがわかっています。食道粘膜は胃酸に弱く、胃酸の逆流を起こしやすくする食事や習慣には注意が必要です。
例えば、揚げ物や脂身の多い肉、ケーキなどの甘いもの、辛すぎる食べ物、アルコール、コーヒーなどの過剰摂取は、胃酸の分泌を促進し、逆流を起こしやすくなります。
オクラやれんこん、里芋などを含む胃の粘膜を保護する食品を摂ること、胃酸が逆流しないように姿勢に気を配ることが大切です。
このように、発症リスクを高める食事や習慣を回避し、正しい環境を選択することが、発症リスクを少しでも減らすために重要です。
早い時期に食道腺がんの発症リスクを遺伝子検査で把握しておくことで、生活・環境面でのリスク管理が可能となります。
3. 作用機序
CDR1遺伝子は、X染色体に位置する24の染色体の一つであり、総喫煙量と食道腺がんの発症に関わっています。この遺伝子は小脳変性症関連抗原としても知られ、大脳や小脳などの神経系、様々な種類のがん組織で発現しています。(参考リンク3)
しかし、なぜCDR1遺伝子ががん細胞に発現しているのかはまだ解明されていません。
研究によると、DNA領域「rs17002540」の遺伝子型がCDR1遺伝子の過剰発現を引き起こし、長期的な喫煙などの環境要因が加わることで、腺細胞化した食道粘膜ががん化する可能性があるとされています。(参考リンク4)
つまり、DNA領域「rs17002540」は、総喫煙量と食道腺がんの発症に深く関係する一塩基多型の一つとして注目されています。
遺伝子領域rs17002540において日本で各遺伝タイプを持つ人の割合
- CC73.15%
- CT24.76%
- TT2.09%
遺伝子領域rs17002540において世界で各遺伝タイプを持つ人の割合
- CC66.56%
- CT30.05%
- TT3.39%
検査の理論的根拠
体表的なDNA領域:経年喫煙による食道がんの罹患リスク
体表的なDNA領域:経年喫煙による食道がんの罹患リスク
経年喫煙による食道がんの罹患リスク に最も強く影響する遺伝子領域は、rs17002540です。 日本における同型の遺伝子タイプの分布は下記のとおりです。
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CC
73.1% -
CT
24.8% -
TT
2.1%
検査の根拠
今回調査したDNA領域
細胞中に存在するDNAマップの模式図
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関連遺伝子
| 関連遺伝子 | LINC00632 |
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参考文献
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関連遺伝子 LINC00632
- 参考リンク : 2018 Oct、Jing Dongと研究グループがClin Gastroenterol Hepatol に発表したInteractions Between Genetic Variants and Environmental Factors Affect Risk of Esophageal Adenocarcinoma and Barrett’s Esophagusという研究によると経年喫煙による食道がんの罹患リスク に関連するrs17002540の関連性が認められました。