高血圧
概要
1. 概要
血圧とは、心臓が送り出した血液が血管内を通る際に、血管の内壁を押す力(圧力)のことです。
慢性的に高い圧力が続くことを「高血圧」といいます。高血圧の原因は大きく2つあり、本態性高血圧(原因不明の高血圧)と二次性高血圧(腎臓疾患やホルモン分泌異常)があります。
一般的に「高血圧」と言う場合は、本態性高血圧を指します。本態性高血圧は、高血圧の90%以上を占め、脳卒中や心筋梗塞などの死亡リスクが高い病気の原因となります。
高血圧の原因は、遺伝的要因が6割、生活習慣などの環境要因が4割と考えられており、関連遺伝子として複数の遺伝子が報告されています。
最近の研究報告によると、遺伝子「ATP2B1」付近のある部位が、高血圧の発症リスクに影響を与えている可能性が高いことが明らかになりました。
高血圧は「静かなる殺し屋(サイレント・キラー)」とも呼ばれ、自覚症状が乏しく、放置すると知らないうちに脳卒中や心筋梗塞などの重篤な病気を引き起こすことがあります。
日本高血圧学会の治療ガイドラインによると、高血圧の患者数は約4,300万人と推定されていますが、そのうち約2,000万人は高血圧であることに気づいておらず、治療を怠っています。(参考リンク1)
今後も食の欧米化や高齢化に伴い高血圧患者数は増加すると予想されるため、高血圧に気づくきっかけ作りや予防が必要です。遺伝子検査によりご自身の遺伝子タイプを調べ、発症リスクを知ることは、発症の予防や早期対策に役立ちます。
2. 理論的根拠
東京の国立国際医療研究センターによる研究により、遺伝子「ATP2B1」の近くにあるDNA領域「rs11105364」によって、高血圧を発症しやすい遺伝子型があることがわかりました。(参考リンク2)
この領域には、「TT型」、「GT型」、「GG型」の3つの遺伝子型があり、「TT型」は高血圧を発症しやすい傾向があります。
日本人の遺伝子型は、「TT型」が39.8%、「GT型」が46.6%、「GG型」が13.6%であり、約9割弱の人が高血圧を発症しやすい遺伝子型を持ちます。(参考リンク3)
ただし、環境要因も影響するため、GG型の人も高血圧を発症することがあります。
高血圧を予防するためには、塩分摂取量を減らし、野菜や果物、海藻類からカリウムやマグネシウム、カルシウムを摂取し、適正体重を維持して適度な運動をし、禁煙、アルコールは1合前後に控えることが重要です。
また、血圧は温度変化やストレスにも影響されるため、冬は部屋の温度や防寒に気を配り、身体のストレスに対する自己管理を行うことも必要です。
早い時期に遺伝子検査を受け、自分の高血圧の発症リスクを把握し、生活や環境面でのリスク管理を行うことが大切になります。
3. 作用機序,/h4>
「高血圧」の発症に関係する遺伝子「ATP2B1」は、ヒトに共通する24の染色体のうち、12番染色体に位置しています。
この遺伝子は、カルシウムイオンを細胞内に移動させ、細胞内のカルシウムイオン濃度を正常に維持するための酵素に関する遺伝情報を持っています。
脳や骨髄、副腎といった組織に多く存在することがわかっていますが、血管の収縮と弛緩を行う“血管平滑筋”という筋肉の一種にも発現しているとの報告があります。(参考リンク4)
遺伝子「ATP2B1」が、高血圧のリスクに影響を与えるというメカニズムは、まだ解明されていません。
しかし、ある研究によると、「ATP2B1」がカルシウムイオンを血管平滑筋細胞内へ移動させることによって、血管の収縮具合を調節し、血圧を上昇あるいは下降させている可能性が示唆されています。(参考リンク4)
したがって、DNA領域「rs11105364」の遺伝子型で「T」を持つ人は、血管平滑筋細胞の遺伝子「ATP2B1」がうまく作用しないため、血圧が上がりやすく、高血圧を引き起こす可能性があると考えられます。
以上のように、DNA領域「rs11105364」は高血圧の発症に深く関係し、注目を浴びている一塩基多型の一つです。
遺伝子領域rs11105364において日本で各遺伝タイプを持つ人の割合
- TT35.54%
- TG48.15%
- GG16.31%
遺伝子領域rs11105364において世界で各遺伝タイプを持つ人の割合
- TT71.31%
- TG26.27%
- GG2.42%
遺伝子領域rs6015450において日本で各遺伝タイプを持つ人の割合
- AA100.00%
- AG0.00%
- GG0.00%
遺伝子領域rs6015450において世界で各遺伝タイプを持つ人の割合
- AA76.64%
- AG21.81%
- GG1.55%
遺伝子領域rs366178において日本で各遺伝タイプを持つ人の割合
- CC2.83%
- CA27.99%
- AA69.18%
遺伝子領域rs366178において世界で各遺伝タイプを持つ人の割合
- CC45.73%
- CA43.79%
- AA10.48%
遺伝子領域rs1042713において日本で各遺伝タイプを持つ人の割合
- GG31.10%
- GA49.33%
- AA19.56%
遺伝子領域rs1042713において世界で各遺伝タイプを持つ人の割合
- GG37.45%
- GA47.49%
- AA15.05%
検査の理論的根拠
体表的なDNA領域:高血圧
体表的なDNA領域:高血圧
高血圧 に最も強く影響する遺伝子領域は、rs11105364です。 日本における同型の遺伝子タイプの分布は下記のとおりです。
-
TT
35.5% -
TG
48.2% -
GG
16.3%
他に、高血圧に関わる遺伝子領域はrs6015450があります。 日本における同型の遺伝子タイプの分布は下記のとおりです
-
AA
100.0% -
AG
0.0% -
GG
0.0%
他に、高血圧に関わる遺伝子領域はrs366178があります。 日本における同型の遺伝子タイプの分布は下記のとおりです
-
CC
2.8% -
CA
28.0% -
AA
69.2%
他に、高血圧に関わる遺伝子領域はrs1042713があります。 日本における同型の遺伝子タイプの分布は下記のとおりです
-
GG
31.1% -
GA
49.3% -
AA
19.6%
検査の根拠
今回調査したDNA領域
細胞中に存在するDNAマップの模式図
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関連遺伝子
| 関連遺伝子 | ATP2B1 |
|---|---|
| 関連遺伝子 | ZNF831 |
| 関連遺伝子 | RNU6-682P |
| 関連遺伝子 | ADRB2 |
参考文献
-
関連遺伝子 ATP2B1
- 参考リンク : 2018 Nov、Fumihiko Takeuchiと研究グループがNat Commun に発表したInterethnic analyses of blood pressure loci in populations of East Asian and European descentという研究によると高血圧 に関連するrs11105364の関連性が認められました。
-
関連遺伝子 ZNF831
- 参考リンク : 2011 Sep、International Consortium for Blood Pressure Genome-Wide Association Studiesと研究グループがNature に発表したGenetic variants in novel pathways influence blood pressure and cardiovascular disease riskという研究によると高血圧 に関連するrs6015450の関連性が認められました。
-
関連遺伝子 RNU6-682P
- 参考リンク : 2020 Dec、Praveen Surendranと研究グループがNat Genet に発表したDiscovery of rare variants associated with blood pressure regulation through meta-analysis of 1.3 million individualsという研究によると高血圧 に関連するrs366178の関連性が認められました。
-
関連遺伝子 ADRB2
- 参考リンク : 2017 May、Yanina Timashevaと研究グループがJ Hypertens に発表したGenetic determinants of essential hypertension in the population of Tatars from Russiaという研究によると高血圧 に関連するrs1042713の関連性が認められました。
-
関連遺伝子 RNU6-682P
- 参考リンク : 2020 Dec、Praveen Surendranと研究グループがNat Genet に発表したDiscovery of rare variants associated with blood pressure regulation through meta-analysis of 1.3 million individualsという研究によると高血圧 に関連するrs366178の関連性が認められました。