高血圧
- 高血圧は血管の壁にかかる圧力がずっと高い状態で、日本の患者数は約4,300万人です。そのうち約2,000万人は治療を受けていないと推定されます。
- 遺伝子ATP2B1の近くにあるDNA領域rs11105364のTT型を持つ人は、高血圧になりやすいことが研究でわかっています。
- 原因は遺伝子の影響が約6割・環境の影響が約4割で、減塩・運動・禁煙による予防が効果的です。
概要
【概要・特徴】 血圧とは、心臓が送り出した血液が血管の中を流れるときに、血管の内側の壁を押す力(圧力)のことです。 この高い圧力がずっと続く状態を「高血圧」といいます。高血圧の原因は大きく2つに分けられます。原因がはっきりしない「本態性高血圧」と、腎臓の病気やホルモンの異常などが原因の「二次性高血圧」です。 ふつう「高血圧」と言うときは、本態性高血圧のことを指します。本態性高血圧は高血圧の90%以上を占め、脳卒中や心筋梗塞など、命に関わる病気の原因になります。 高血圧の原因は、遺伝子の影響が6割、生活習慣などの環境の影響が4割と考えられており、関係する遺伝子が複数見つかっています。 最近の研究では、遺伝子「ATP2B1」の近くにあるDNAの一部が、高血圧へのなりやすさに関係している可能性が高いことがわかりました。 高血圧は「静かなる殺し屋(サイレント・キラー)」とも呼ばれます。自覚症状がほとんどなく、そのままにしておくと、気づかないうちに脳卒中や心筋梗塞などの重い病気を引き起こすことがあるからです。 日本高血圧学会の治療ガイドライン(治療の指針)によると、高血圧の患者数は約4,300万人と推定されています。そのうち約2,000万人は高血圧であることに気づいておらず、治療を受けていません。(参考リンク1) 食生活の欧米化や高齢化によって、高血圧の患者数は今後も増えると予想されています。そのため、高血圧に気づくきっかけ作りや予防が大切です。遺伝子検査で自分の遺伝子のタイプを調べ、高血圧へのなりやすさを知ることは、予防や早めの対策に役立ちます。
【2. 理論的根拠】 東京の国立国際医療研究センターの研究で、遺伝子「ATP2B1」の近くにあるDNA領域「rs11105364」に、高血圧になりやすい遺伝子型があることがわかりました。(参考リンク2) この領域には「TT型」「GT型」「GG型」の3つの遺伝子型があり、「TT型」の人は高血圧になりやすい傾向があります。 日本人の遺伝子型は、「TT型」が39.8%、「GT型」が46.6%、「GG型」が13.6%です。約9割弱の人が、高血圧になりやすい遺伝子型を持っています。(参考リンク3) ただし、環境の影響もあるため、GG型の人も高血圧になることがあります。 高血圧を予防するには、塩分をとる量を減らすこと、野菜や果物、海藻類からカリウム・マグネシウム・カルシウムをとること、適正な体重を保って適度に運動すること、たばこを吸わないこと、お酒は1合前後までに控えることが大切です。 また、血圧は気温の変化やストレスの影響も受けます。冬は部屋の温度や寒さ対策に気を配り、ストレスをため込まないよう自分で管理することも必要です。 早いうちに遺伝子検査を受けて自分の高血圧へのなりやすさを知り、生活や環境の面で対策をとることが大切です。
【3. メカニズム】 「高血圧」に関係する遺伝子「ATP2B1」は、ヒトが持つ24種類の染色体のうち、12番染色体にあります。 この遺伝子は、カルシウムイオンを細胞の中に運び、細胞の中のカルシウムイオンの濃さを正常に保つ酵素(体の中の化学反応を助けるたんぱく質)の設計図となる情報を持っています。 脳や骨髄、副腎といった組織に多くあることがわかっていますが、血管を縮めたりゆるめたりする「血管平滑筋」という筋肉でも働いているという報告があります。(参考リンク4) 遺伝子「ATP2B1」が高血圧へのなりやすさに影響するしくみは、まだはっきりわかっていません。 しかし、ある研究では、「ATP2B1」がカルシウムイオンを血管平滑筋の細胞の中へ運ぶことで血管の縮み具合を調節し、血圧を上げたり下げたりしている可能性があるとされています。(参考リンク4) このため、DNA領域「rs11105364」で「T」を持つ人は、血管平滑筋の細胞で遺伝子「ATP2B1」がうまく働かず、血圧が上がりやすくなり、高血圧につながる可能性があると考えられます。 このように、DNA領域「rs11105364」は高血圧の発症に深く関係していて、注目されている遺伝子の個人差(一塩基多型)の一つです。
高血圧とは何か
高血圧とは、心臓が送り出した血液が血管の内側の壁を押す力(血圧)が、ずっと高いままの状態のことです。収縮期血圧(上の血圧)140mmHg以上、または拡張期血圧(下の血圧)90mmHg以上が診断の基準です。日本高血圧学会の治療ガイドラインによると、日本の高血圧患者数は約4,300万人と推定されています。
高血圧は「静かなる殺し屋(サイレント・キラー)」と呼ばれます。自覚症状がほとんどなく、そのままにしておくと脳卒中や心筋梗塞などの重い病気を引き起こします。約4,300万人の患者のうち、約2,000万人は高血圧であることに気づいておらず、治療を受けていません。
高血圧の原因としくみ
高血圧の原因は遺伝子の影響が約6割、生活習慣などの環境の影響が約4割と考えられています。高血圧は大きく2つの種類に分けられます。
- 本態性高血圧:原因がはっきりしない高血圧で、全体の90%以上を占めます。遺伝子の影響と生活習慣の両方が関わります。
- 二次性高血圧:腎臓の病気やホルモンの異常など、はっきりした原因があって起こる高血圧です。全体の約10%未満です。
国立国際医療研究センターの研究で、遺伝子「ATP2B1」の近くにあるDNA領域「rs11105364」が、高血圧へのなりやすさに関係していることがわかりました。
高血圧の主な症状
高血圧は自覚症状がほとんどないことが一番の特徴です。症状が出る場合は、次のようなものがあります。
- 頭痛・めまい
- 肩こり・耳鳴り
- 動悸・息切れ
- 視力の低下
- 朝の後頭部痛
症状が進むと、脳卒中、心筋梗塞、腎不全といった命に関わる合併症を引き起こすおそれがあります。
本態性高血圧と二次性高血圧の違い
| 比較項目 | 本態性高血圧 | 二次性高血圧 |
|---|---|---|
| 原因 | 遺伝子+生活習慣(原因ははっきりしない) | 腎臓の病気・ホルモンの異常など |
| 患者の割合 | 約90%以上 | 約10%未満 |
| かかりやすい年齢 | 中高年が中心 | 年齢に関係なく起こります。 |
| 治療法 | 生活習慣の改善+薬による治療 | 原因となる病気の治療 |
| 遺伝子の影響 | 約6割 | 関係は小さいです。 |
高血圧で起こりやすい合併症
高血圧をそのままにしておくと、次のような合併症(高血圧が原因で起こる別の病気)を引き起こすことがあります。
- 脳卒中(脳出血・脳梗塞):高血圧が一番大きな危険因子です。
- 心筋梗塞・狭心症:心臓の血管(冠動脈)の動脈硬化を進めます。
- 慢性腎臓病:腎臓の血管が傷つきます。
- 大動脈瘤・大動脈解離:血管の壁にかかり続ける圧力によって起こります。
- 高血圧性網膜症(目の奥の血管の障害):視力の低下や失明のおそれ
高血圧を予防する方法
高血圧を予防するには、次のような生活習慣の見直しが効果的です。
- 減塩:1日の塩分を6g未満に抑えます。
- 栄養バランス:野菜・果物・海藻類からカリウム・マグネシウム・カルシウムをとります。
- 体重管理:体格指数(肥満の目安)25未満の適正体重を保ちます。
- 運動:1日30分以上の有酸素運動を習慣化
- 禁煙:喫煙は血圧が上がる直接の原因です。
- 節酒:お酒は日本酒で1合前後までに控えます。
- 温度管理:冬の急な温度の変化を避けます。
- ストレス管理:自律神経(体の働きを自動で整える神経)を安定させるセルフケアをします。
遺伝子と高血圧の関連
DNA領域rs11105364と高血圧へのなりやすさの関係
東京の国立国際医療研究センターによるFumihiko Takeuchiらの研究で、遺伝子ATP2B1の近くにあるDNA領域rs11105364が、高血圧へのなりやすさと関係していることがわかりました。
- rs11105364にはTT型・GT型・GG型の3つの遺伝子型があります。
- TT型の人は高血圧になりやすい傾向があります。
- GT型の人もややなりやすいです。
- GG型は比較的なりにくいです。
ただし、GG型の人でも環境の影響によって高血圧になる可能性はあります。
日本人における遺伝子型分布(rs11105364)
| 遺伝子型 | 日本人の割合 | 世界の割合 |
|---|---|---|
| TT型 | 35.5% | 71.3% |
| TG型 | 48.1% | 26.2% |
| GG型 | 16.3% | 2.4% |
日本人の約83.6%がTを持っていて(TT型+TG型)、遺伝子の面で高血圧になりやすい人の割合が高いことが特徴です。
メカニズム:遺伝子ATP2B1と血圧の調節の関係
遺伝子「ATP2B1」は、ヒトが持つ24種類の染色体のうち12番染色体にあります。この遺伝子は、カルシウムイオンを細胞の中に運び、細胞の中のカルシウムイオンの濃さを正常に保つ酵素の設計図となる情報を持っています。
ATP2B1が高血圧へのなりやすさに影響するしくみは、次のとおりです。
- ATP2B1がカルシウムイオンを血管平滑筋細胞内へ移動させます。
- 血管の縮み具合を調節
- Tを持つ人はATP2B1がうまく働きにくく、血管が縮みすぎた状態になります。
- 結果として血圧が上昇し、高血圧につながります。
ATP2B1は脳・骨髄・副腎のほか、血管平滑筋(血管を縮めたりゆるめたりする筋肉)でも働いていて、血圧の調節に大切な役割を果たしています。
検査の科学的な根拠
代表的なDNA領域:高血圧
高血圧に最も強く影響するDNA領域は、rs11105364です。 日本でのこの領域の遺伝子タイプの分布は、下のとおりです。
- TT
35.5 % - TG
48.1 % - GG
16.3 %
ほかに、高血圧に関わるDNA領域としてrs6015450があります。 日本でのこの領域の遺伝子タイプの分布は、下のとおりです。
- AA
99.9 % - AG
0.1%以下 - GG
0.1%以下
ほかに、高血圧に関わるDNA領域としてrs366178があります。 日本でのこの領域の遺伝子タイプの分布は、下のとおりです。
- CC
2.8 % - CA
27.9 % - AA
69.1 %
ほかに、高血圧に関わるDNA領域としてrs1042713があります。 日本でのこの領域の遺伝子タイプの分布は、下のとおりです。
- GG
31.1 % - GA
49.3 % - AA
19.5 %
検査の根拠
東京の国立国際医療研究センターによるFumihiko Takeuchiらの研究で、高血圧へのなりやすさが遺伝子と関係していることがわかりました。rs11105364領域にはTとGの2種類のタイプがあり、TT型の人は高血圧になりやすい傾向があります。日本人ではTT型が35.5%、TG型が48.1%、GG型が16.3%です。約83.6%の日本人がTを持っていて、遺伝子の面で高血圧になりやすい人の割合が高いことが特徴です。
今回調査したDNA領域
細胞の中にあるDNAの地図の模式図
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関連遺伝子
| 関連遺伝子 | ATP2B1 |
|---|---|
| 関連遺伝子 | ZNF831 |
| 関連遺伝子 | RNU6-682P |
| 関連遺伝子 | ADRB2 |
よくある質問
Q1. 高血圧とは何ですか?
高血圧とは、心臓が送り出した血液が血管の内側の壁を押す力が、ずっと高いままの状態です。収縮期血圧(上の血圧)140mmHg以上、または拡張期血圧(下の血圧)90mmHg以上が診断の基準です。日本の患者数は約4,300万人と推定され、そのうち約2,000万人は治療を受けていません。
Q2. 高血圧の原因は遺伝ですか?
高血圧の原因は遺伝子の影響が約6割、環境の影響が約4割です。遺伝子ATP2B1の近くにあるDNA領域rs11105364がTT型の人は、高血圧になりやすい傾向があります。ただし、環境の影響もあるため、GG型の人でも高血圧になることがあります。
Q3. 本態性高血圧と二次性高血圧の違いは?
本態性高血圧は原因がはっきりしない高血圧で、全体の90%以上を占めます。二次性高血圧は腎臓の病気やホルモンの異常など、はっきりした原因があって起こり、約10%未満です。
Q4. 遺伝子検査で高血圧へのなりやすさは分かりますか?
DNA領域rs11105364の遺伝子型を調べることで、高血圧へのなりやすさの傾向を知ることができます。日本人の約83.6%がTを持っています。遺伝子検査で早めに自分のなりやすさを知り、生活習慣の改善に取り組むことが大切です。
Q5. 高血圧を予防するにはどうすればよいですか?
高血圧の予防には減塩(1日6g未満)、カリウム・マグネシウム・カルシウムを積極的にとること、適正体重(体格指数=身長と体重から計算する肥満の目安が25未満)を保つこと、1日30分以上の有酸素運動、禁煙、節酒(1合前後)が効果的です。冬の気温の変化やストレスの管理にも気をつけましょう。
参考文献
- 参考リンク1 : 高血圧治療ガイドライン2019 日本高血圧学会
- 参考リンク2 : 2018 Nov., Fumihiko Takeuchi, Nature Communications.
- 参考リンク3 : DNA領域「rs11105364」の情報(アメリカ国立衛生研究所)
- 参考リンク4 : 2021 Apr., Xie, Ming MS, Medicine.
- 参考リンク5 : 2018 Nov., Fumihiko Takeuchi, Nat Commun
- 参考リンク6 : 2011 Sep., International Consortium for Blood Pressure Genome-Wide Association Studies, Nature
- 参考リンク7 : 2020 Dec., Praveen Surendran, Nat Genet
- 参考リンク8 : 2017 May., Yanina Timasheva, J Hypertens