高トリグリセリド血症
- 高トリグリセリド血症は血中の中性脂肪(トリグリセリド)が150mg/dl以上に上昇する脂質異常症で、動脈硬化・心筋梗塞・脳梗塞のリスク因子となる
- DNA領域rs9949617のT型変異を持つ人は発症リスクが高い傾向にあることが国際共同研究で判明
- 適切な食事療法・運動・生活習慣の改善により発症リスクの軽減と脳梗塞・心筋梗塞の予防が可能
概要 脂質の代謝に問題がある場合、遺伝子による影響も指摘され、「原発性脂質異常症」と呼ばれ、頻度は約100人あたり1~2人程度と考えられています。 「脂質異常症」を放置すると、血管の壁に脂肪分がたまり、動脈硬化につながり、血管がかたくなると脳梗塞や心筋梗塞などのリスクがあるため、治療が必要です。 治療は、まずは動脈硬化の原因となる脂質を減らした食事に変更することや、運動によって余分な脂肪分や糖分を消費することから始めます。それでも改善が得られない場合は、薬剤治療を行います。日々の習慣や早期からの治療によって、「脂質異常症」は改善が見込め、脳梗塞や心筋梗塞といった死に関わる病気のリスクを減らすことができます。 そのため、遺伝子検査によりご自身の遺伝子タイプを調べて、脂質異常症の中でも血液中にトリグリセリド(中性脂肪)が多く存在する「高トリグリセリド血症」の発症リスクを知ることは、早期発見・早期治療に役立つことが期待されます。 2. 理論的根拠 高トリグリセリド血症は、メキシコ人の間でよく見られる疾患であり、国のデータによると31.5%が患っています。これに対し、アメリカ、メキシコ、フィンランドの研究チームは、複数の遺伝子データを用いて高トリグリセリド血症の遺伝子研究を行いました。6,073人の参加者から4,400人を選別し、2つのDNA解析を行いました。 1つ目のDNA解析では、563,599個の遺伝子多型を対象に高トリグリセリド血症と関連の強い遺伝子の型について解析が行われました。2つ目のDNA解析では、1つ目のDNA解析で高トリグリセリド血症と関連が強いと考えられた1,326個の遺伝子の型について、別の解析手法を用いて再度解析が行われました。 その結果、DNA領域「rs9949617」の遺伝子型が高トリグリセリド血症と関連があることが示されました。(参考リンク 1) DNA領域「rs9949617」には、「CC型」、「CT型」、「TT型」の3つの遺伝子型があり、日本人の遺伝子タイプは「CC型」が56.6%、「CT型」が40.7%、「TT型」が2.7%となっています。(参考リンク 2,3)報告によると、Risk Alleleである「T」が高トリグリセリド血症のリスクがやや高いため、日本人の「CT型」や「TT型」は比較的リスクが高いとされています。 脂質異常症は、血清コレステロール値が220mg/dl以上、あるいは血清トリグリセリド(中性脂肪)値が150mg/dl以上の場合に診断されます。脂質異常症では、血中脂質やタンパク質が多くなるため、脂質の代謝に問題があることや、他の原因や疾患に影響を受けたりすることもあります。 3. 作用機序 DNA領域「rs9949617」は、18番染色体上に位置しており、「TMEM241」という遺伝子と関連していることが指摘されています。この「TMEM241」遺伝子は、細胞内の1つのゴルジ体に存在し、糖を含む物質を生成する役割があり、哺乳類の生体システムに必要な糖ヌクレオチド(糖分の一種)の輸送にも関わっていると考えられています。(参考リンク 4) ただし、「TMEM241」が脂質異常症にどのように関わるかについては、正確なメカニズムが明らかにされていません。しかしながら、細胞内のゴルジ体は糖タンパク質や脂質の生成に関わっていることから、糖ヌクレオチドの輸送に関わる「TMEM241」が不調となった場合、脂質の一種である「トリグリセリド」の制御がうまく機能しなくなる可能性があると考えられています。 このことから、18番染色体上のDNA領域「rs9949617」は、脂質異常症のリスクに関連する一塩基多型の1つとして注目されています。
高トリグリセリド血症とは何か
高トリグリセリド血症は、血清トリグリセリド(中性脂肪)値が150mg/dl以上に上昇する脂質異常症の一種です。遺伝的要因による「原発性脂質異常症」は人口の約1〜2%に見られ、放置すると動脈硬化を引き起こし、心筋梗塞や脳梗塞などの重篤な疾患につながります(1)。
高トリグリセリド血症の原因とメカニズム
高トリグリセリド血症の発症には、遺伝的要因と環境的要因が複合的に関与しています。
- 遺伝的素因:DNA領域rs9949617のT型変異が発症リスクに関与。TMEM241遺伝子の機能異常が脂質代謝に影響
- 食生活の乱れ:高脂肪食・高糖質食・過度の飲酒がトリグリセリド値を上昇させる
- 運動不足:余分な脂肪分・糖分が消費されず体内に蓄積
- 他の疾患の影響:糖尿病・甲状腺機能低下症・腎疾患などが二次的に脂質代謝を悪化させる
高トリグリセリド血症の主な症状
脂質異常症は自覚症状がほとんどない「サイレントキラー」であり、健康診断の血液検査で初めて発見されるケースが大半です。
- 血清コレステロール値220mg/dl以上
- 血清トリグリセリド(中性脂肪)値150mg/dl以上
- 進行した場合:動脈硬化・血管の狭窄
- 重症例:急性膵炎の発症リスク
高トリグリセリド血症と通常の脂質状態の違い
| 比較項目 | 高トリグリセリド血症 | 正常な脂質状態 |
|---|---|---|
| 中性脂肪値 | 150mg/dl以上 | 150mg/dl未満 |
| 動脈硬化リスク | 高い(血管壁に脂肪が蓄積) | 低い |
| 心筋梗塞・脳梗塞 | 発症リスクが上昇 | 通常リスク |
| 自覚症状 | ほとんどなし(サイレントキラー) | なし |
| 遺伝的要因 | rs9949617 T型変異が関与 | 個人差あり |
高トリグリセリド血症の予防と治療
高トリグリセリド血症は生活習慣の改善と早期治療により改善が見込めます。
- 食事療法:脂質・糖質を減らした食事への変更、青魚(EPA・DHA)の摂取
- 運動療法:有酸素運動(ウォーキング・水泳など)で余分な脂肪を消費
- 禁煙・節酒:喫煙と過度の飲酒は脂質代謝を悪化させる
- 薬物療法:生活習慣の改善で不十分な場合、フィブラート系薬剤やスタチンを使用
高トリグリセリド血症の作用機序
DNA領域rs9949617は18番染色体上に位置し、TMEM241遺伝子と関連しています。TMEM241は細胞内のゴルジ体に存在し、糖ヌクレオチド(糖分の一種)の輸送に関わる役割を持ちます(4)。
- ゴルジ体は糖タンパク質や脂質の生成に関与
- TMEM241の機能異常 → 糖ヌクレオチド輸送の障害
- トリグリセリドの制御が機能不全 → 血中中性脂肪値の上昇
遺伝子と高トリグリセリド血症の関連
DNA領域rs9949617と発症リスクの関係
アメリカ・メキシコ・フィンランドの国際共同研究チームの研究(1)により、DNA領域rs9949617が高トリグリセリド血症の罹患リスクと関連していることが判明しました。6,073人から4,400人を選別し、563,599個の遺伝子多型を対象とした大規模解析で確認されています。
- rs9949617にはCC・CT・TTの3つの遺伝子型が存在
- T型変異(Risk Allele)を持つ遺伝子型(CT型・TT型)の人は、高トリグリセリド血症のリスクが高い傾向
日本人における遺伝子型分布(rs9949617)
| 遺伝子型 | 日本人の割合 | 世界の割合 |
|---|---|---|
| CC型 | 59.9% | 68.1% |
| CT型 | 34.9% | 28.7% |
| TT型 | 5.1% | 3.0% |
検査の理論的根拠
体表的なDNA領域:高トリグリセリド血症
高トリグリセリド血症 に最も強く影響する遺伝子領域は、rs9949617です。 日本における同型の遺伝子タイプの分布は下記のとおりです。
- CC
59.9 % - CT
34.9 % - TT
5.1 %
他に、高トリグリセリド血症に関わる遺伝子領域はrs964184があります。 日本における同型の遺伝子タイプの分布は下記のとおりです
- GG
10.3 % - GC
43.6 % - CC
45.9 %
他に、高トリグリセリド血症に関わる遺伝子領域はrs306890があります。 日本における同型の遺伝子タイプの分布は下記のとおりです
- TT
58.3 % - TC
36.0 % - CC
5.5 %
検査の根拠
アメリカ・メキシコ・フィンランドの国際共同研究チームにより、高トリグリセリド血症の罹患リスクがDNA領域rs9949617の遺伝子型と関連していることが明らかになりました。rs9949617にはCとTの2種類の変異があり、T型変異(Risk Allele)を持つ人は高トリグリセリド血症のリスクが高い傾向にあります(1)。18番染色体上のTMEM241遺伝子が糖ヌクレオチドの輸送に関わっており、その機能異常がトリグリセリドの制御に影響を与えると考えられています(4)。
今回調査したDNA領域
細胞中に存在するDNAマップの模式図
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関連遺伝子
| 関連遺伝子 | TMEM241 |
|---|---|
| 関連遺伝子 | ZPR1 |
| 関連遺伝子 | SPRY3 |
よくある質問(FAQ)
Q1. 高トリグリセリド血症とは何ですか?
高トリグリセリド血症は、血中のトリグリセリド(中性脂肪)が150mg/dl以上に上昇する脂質異常症の一種です。遺伝的要因による原発性脂質異常症は人口の約1〜2%に見られます。放置すると動脈硬化を引き起こし、心筋梗塞・脳梗塞のリスクが上昇します(1)。
Q2. 高トリグリセリド血症の原因は何ですか?
主な原因は遺伝的素因と生活習慣の2つです。DNA領域rs9949617のT型変異が遺伝的リスク因子として関与しています。高脂肪食・運動不足・過度の飲酒が環境的リスク因子です(1)。
Q3. 遺伝子検査で高トリグリセリド血症のリスクは分かりますか?
DNA領域rs9949617の遺伝子型を調べることで、高トリグリセリド血症の発症リスク傾向を把握できます。T型変異(Risk Allele)を持つCT型・TT型の人はリスクが高い傾向にあることが、6,073人を対象とした国際共同研究で判明しています(1)。
Q4. 高トリグリセリド血症を予防する方法はありますか?
食事療法(脂質・糖質制限)、定期的な運動、禁煙・節酒が有効です。生活習慣の改善で効果が不十分な場合は、薬物療法を併用します。早期発見・早期治療により、心筋梗塞・脳梗塞のリスクを軽減できます。
参考文献
- 参考リンク1 : 2013 May., Daphna Weissglas-Volkov, Journal of medical genetics.
- 参考リンク2 : DNA 領域「rs9949617」の情報 NIH
- 参考リンク3 : DNA 領域「rs9949617」の情報 SNPedia
- 参考リンク4 : 2016 May., Alejandra Rodríguez, Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology.
- 参考リンク5 : 2013 May., Daphna Weissglas-Volkov, J Med Genet
- 参考リンク6 : 2014 Jun., Arthur Ko, Nat Commun
- 参考リンク7 : 2018 Mar., Thomas J Hoffmann, Nat Genet