炎症性腸疾患
- 炎症性腸疾患は潰瘍性大腸炎とクローン病をふくむ、腸に長く炎症が続く病気で、日本では約29万人の患者さんが報告されています。
- 遺伝子SMAD7の近くにあるDNA領域rs7240004のA型を持つ人は発症リスクが高い傾向があることが研究で分かりました。
- 脂肪の少ない食事・発酵食品・禁煙で発症リスクを下げ、腸内環境を良くすることが期待できます。
概要
【概要・特徴】 「炎症性腸疾患」とは、腸の内側の粘膜に長く続く炎症が起こる病気で、「潰瘍性大腸炎」と「クローン病」の2つを指します。 この病気は、日本では難病に指定されていて、患者さんの数が増えています。厚生労働省の調査によると、2014年の時点で潰瘍性大腸炎の患者さんが約22万人、クローン病の患者さんが約7万人いると報告されています。(参考リンク1) 病気が起こるしくみはまだはっきり分かっていませんが、病気になりやすい遺伝子を持つ人に、食生活や腸内細菌、体を守るしくみ(免疫)の異常が加わることで発症すると考えられています。 欧米では、「炎症性腸疾患」の患者さんの約20%は、家族や親せきにも「炎症性腸疾患」の人がいて、遺伝子の影響が強く関係していると報告されています。(参考リンク2) 最近の研究では、遺伝子「SMAD7」の近くにある場所が、「炎症性腸疾患」の発症リスクに影響している可能性が高いことが分かりました。 しかし、この病気の原因はまだ分かっておらず、完全に治す治療法はありません。そのため、長い期間の治療や予防に取り組むことが大切です。 遺伝子検査で自分の遺伝子タイプを調べ、炎症性腸疾患の発症リスクを知ることは、発症の予防や早めの対策に役立つと期待されています。
【2. 理論的根拠】 イギリスの遺伝子研究機関の研究で、遺伝子「SMAD7」の近くにあるDNA領域「rs7240004」の遺伝子型によっては、「炎症性腸疾患」を発症しやすい傾向があることが分かりました。(参考リンク3) このDNA領域には、「AA型」「AG型」「GG型」という3つの遺伝子型があり、日本人では「AG型」が49.6%と最も多く、次に「GG型」が29.7%、「AA型」が最も少なく20.7%であることが分かっています。(参考リンク4) 発症しやすさに関わる型(リスク型)であるAを2つ持つ「AA型」の人は「炎症性腸疾患」を発症しやすい傾向があり、「AG型」の人はやや発症しやすい傾向があることが分かりました。 ただし、「AA型」や「AG型」の人が必ず「炎症性腸疾患」になるわけではなく、いくつかの環境の影響が重なることで発症しやすくなります。 例えば、腸内細菌のバランスを乱す脂肪の多い食べ物や食生活は「炎症性腸疾患」の危険因子(病気になりやすくする原因)で、「クローン病」ではたばこが発症の危険因子であることが分かっています。 そのため、「炎症性腸疾患」を予防するには、脂肪の多い食べ物を控え、腸内環境に良い和食などの脂肪の少ない食事や発酵食品を多くとること、たばこを吸わないことを心がけることが大切です。 早いうちに自分の「炎症性腸疾患」の発症リスクを知り、生活や環境の面でリスクを減らす工夫をすることがすすめられています。
【3. メカニズム】 「炎症性腸疾患」の発症に関わる「SMAD7」という遺伝子は、人間の24種類の染色体のうち18番染色体にあります。 この遺伝子は、炎症をおさえる「TGFβ」という物質(細胞どうしの情報を伝える物質)の働きをじゃまする情報を持っています。 「炎症性腸疾患」の患者さんの消化管の粘膜では、遺伝子「SMAD7」が働きすぎている(過剰に発現している)ことが報告されています。 DNA領域「rs7240004」の遺伝子型によって、消化管で遺伝子「SMAD7」が働きすぎると、炎症をおさえる「TGFβ」がうまく働かなくなります。 そのため、「SMAD7」が働きすぎている消化管の部分では、炎症が強く起こると考えられています。 このことから、遺伝子「SMAD7」が大腸で働きすぎている場合は「潰瘍性大腸炎」、大腸をふくむ「その他の消化管」で働きすぎている場合は「クローン病」を発症する可能性があります。(参考リンク5) このように、DNA領域「rs7240004」は、炎症性腸疾患の発症に大きく関わる遺伝子の個人差(一塩基多型)の一つとして注目されています。
炎症性腸疾患とは何か
炎症性腸疾患とは、腸の粘膜に長く続く炎症が起こる病気をまとめた呼び名で、「潰瘍性大腸炎」と「クローン病」の2つの病気を指します。日本では難病に指定されていて、患者さんの数は増えています。
厚生労働省の調査によると、2014年の時点で潰瘍性大腸炎が約22万人、クローン病が約7万人、合計約29万人の患者さんが報告されています(参考リンク1)。
炎症性腸疾患の原因と、なりやすくする要因
病気が起こるしくみはまだはっきり分かっていませんが、次のような原因が重なって関係すると考えられています。
- 遺伝子の影響:欧米では患者さんの約20%で家族や親せきにも炎症性腸疾患の人がいて、遺伝子が強く関係している可能性があります(参考リンク2)。
- 食生活の乱れ:脂肪の多い食べ物が腸内細菌のバランスを乱し、危険因子になります。
- 免疫系の異常:免疫(体を守るしくみ)が自分の腸の粘膜を攻撃し、炎症が続きます。
- たばこ:特にクローン病では、たばこが発症の危険因子であることが確かめられています。
潰瘍性大腸炎とクローン病の違い
| 比較項目 | 潰瘍性大腸炎 | クローン病 |
|---|---|---|
| 炎症部位 | 大腸の粘膜だけ | 口から肛門まで消化管全体 |
| 患者数(2014年) | 約22万人 | 約7万人 |
| 炎症の深さ | 粘膜の表面 | 腸の壁の深い層まで |
| たばこの影響 | 発症リスクを下げる傾向 | 発症の危険因子(なりやすくする原因) |
| 難病指定 | 指定あり | 指定あり |
炎症性腸疾患を予防する方法
完全に治す治療法はまだありませんが、次のような生活習慣の見直しで発症リスクを下げられると期待されています。
- 脂肪の少ない食事:和食など脂肪の少ない食事を中心にします。
- 発酵食品をしっかりとる:腸内環境を整える味噌・納豆・ヨーグルトなどを毎日の食事に取り入れます。
- 禁煙:特にクローン病の予防には禁煙がとても大切です。
- 早めにリスクを知る:遺伝子検査で自分のリスクを確認し、予防に取り組みます。
遺伝子と炎症性腸疾患の関連
DNA領域rs7240004と発症リスクの関係
イギリスの遺伝子研究機関の研究で、遺伝子「SMAD7」の近くにあるDNA領域「rs7240004」の遺伝子型が炎症性腸疾患の発症リスクに関係していることが分かりました(参考リンク3)。
- rs7240004にはAA型・AG型・GG型の3つの遺伝子型があります。
- 日本人の遺伝子型の割合:AG型が49.6%、GG型が29.7%、AA型が20.7%です(参考リンク4)。
- 発症しやすさに関わる型(リスク型)であるAを2つ持つAA型の人は炎症性腸疾患を発症しやすい傾向があります。
- AG型はやや発症しやすい傾向が確かめられています。
日本人の遺伝子型の割合(rs7240004)
| 遺伝子型 | 日本人の割合 | 世界の割合 |
|---|---|---|
| AA型 | 18.7% | 37.4% |
| AG型 | 49.0% | 47.4% |
| GG型 | 32.1% | 15.0% |
SMAD7遺伝子のメカニズムとは
遺伝子「SMAD7」は18番染色体にあり、炎症をおさえる物質「TGFβ」の働きをじゃまする情報を持っています。
- 炎症性腸疾患の患者さんの消化管の粘膜では、SMAD7が働きすぎている(過剰に発現している)ことが報告されています(参考リンク5)。
- SMAD7が働きすぎることで、炎症をおさえるTGFβがうまく働かなくなります。
- その結果、SMAD7が働きすぎている消化管の部分に強い炎症が発生します。
SMAD7が大腸で働きすぎる→潰瘍性大腸炎、大腸をふくむその他の消化管で働きすぎる→クローン病を発症する可能性があります。DNA領域rs7240004は、炎症性腸疾患の発症に関わる大切な遺伝子の個人差(一塩基多型)として注目されています。
検査の理論的根拠
代表的なDNA領域:炎症性腸疾患
炎症性腸疾患 に最も強く影響するDNA領域は、rs7240004です。 日本における同じ型の遺伝子タイプの分布は下記のとおりです。
- AA
18.7 % - AG
49.0 % - GG
32.1 %
他に、炎症性腸疾患に関わるDNA領域としてrs2823286があります。 日本における同じ型の遺伝子タイプの分布は下記のとおりです。
- GG
74.8 % - GA
23.2 % - AA
1.8 %
他に、炎症性腸疾患に関わるDNA領域としてrs2287921があります。 日本における同じ型の遺伝子タイプの分布は下記のとおりです。
- TT
90.6 % - TC
9.1 % - CC
0.2 %
他に、炎症性腸疾患に関わるDNA領域としてrs1260326があります。 日本における同じ型の遺伝子タイプの分布は下記のとおりです。
- TT
33.8 % - TC
48.6 % - CC
17.4 %
検査の根拠
イギリスの遺伝子研究機関の研究で、炎症性腸疾患のなりやすさが遺伝子と関係していることが分かりました。rs7240004領域にはAとGの2種類の型があり、発症しやすさに関わる型(リスク型)であるAを持つ人は炎症性腸疾患のリスクが高い傾向があります(参考リンク3)。
今回調査したDNA領域
細胞の中にあるDNAマップの模式図
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関連遺伝子
| 関連遺伝子 | CTIF |
|---|---|
| 関連遺伝子 | LINC02920 |
| 関連遺伝子 | RASIP1 |
| 関連遺伝子 | GCKR |
よくある質問
Q1. 炎症性腸疾患とは何ですか?
炎症性腸疾患とは、腸の粘膜に長く続く炎症が起こる病気をまとめた呼び名で、「潰瘍性大腸炎」と「クローン病」の2つの病気を指します。日本では難病に指定されていて、2014年の時点で合計約29万人の患者さんが報告されています(参考リンク1)。
Q2. 炎症性腸疾患の原因は何ですか?
病気が起こるしくみはまだはっきり分かっていませんが、遺伝子の影響に、食生活の乱れ・腸内細菌の異常・免疫(体を守るしくみ)の異常が加わることで発症すると考えられています。欧米では患者さんの約20%で家族や親せきにも炎症性腸疾患の人がいて、遺伝子が強く関係している可能性があります(参考リンク2)。
Q3. 潰瘍性大腸炎とクローン病の違いは?
潰瘍性大腸炎は大腸の粘膜だけに炎症が起こるのに対し、クローン病は口から肛門まで消化管のあらゆる部分に炎症が起こります。患者さんの数は潰瘍性大腸炎が約22万人、クローン病が約7万人です。
Q4. 遺伝子検査で炎症性腸疾患のリスクは分かりますか?
DNA領域rs7240004の遺伝子型を調べることで、炎症性腸疾患の発症リスクの傾向を知ることができます。発症しやすさに関わる型(リスク型)であるAを持つAA型・AG型の人は発症しやすい傾向があることが研究で分かっています(参考リンク3)。
Q5. 炎症性腸疾患を予防する方法は?
脂肪の多い食べ物を控え、和食など脂肪の少ない食事や発酵食品を積極的にとるようにすることが大切です。クローン病ではたばこが発症の危険因子なので、禁煙も予防に役立ちます。早めに遺伝子検査でリスクを知り、生活習慣を見直すことがすすめられています。
参考文献
- 参考リンク1 : 「炎症性腸疾患」の情報 IBD-INFO
- 参考リンク2 : 「潰瘍性大腸炎」の情報 難病情報センター
- 参考リンク3 : 2012 Nov., Luke Jostins, Nature.
- 参考リンク4 : DNA 領域「rs7240004」の情報 アメリカ国立衛生研究所
- 参考リンク5 : 2001 Aug., Monteleone, Giovanni, The Journal of clinical investigation.
- 参考リンク6 : 2012 Nov., Luke Jostins, Nature
- 参考リンク7 : 2015 Sep., Jimmy Z Liu, Nat Genet
- 参考リンク8 : 2014 Feb., Rico Rueedi, PLoS Genet