鉄欠乏性貧血
- 鉄欠乏性貧血は体の鉄不足でヘモグロビンが減り、酸素を運ぶ力が弱くなる病気で、貧血全体の約60〜80%を占めます。
- DNA領域rs1171614でCのタイプを持つ人はかかりやすい傾向があることが研究でわかっています。
- 適切な鉄分をとること・原因となる病気の治療・定期的な血液検査で予防と改善ができます。
概要
【疾患の概要】 鉄欠乏性貧血は、体の中の鉄が足りなくなることで起こる病気で、血液中のヘモグロビン(酸素を運ぶ赤い色素)が少なくなります。
【症状と特徴】 ヘモグロビンは酸素を運ぶ赤血球の大切な部分です。鉄が足りないと体は健康な赤血球を作れなくなり、酸素不足の症状が出ます。 鉄欠乏性貧血の人は、酸素不足のために顔色が青白くなり、まぶたの裏や爪の色も白っぽく見えます。 また、だるさや息切れ、めまい、頭痛、重い場合は動悸(胸がドキドキすること)などの症状も出ます。
【治療と注意点】 診断では、顕微鏡で血液を観察し、血液検査でヘモグロビンと鉄の量を測ります。 鉄欠乏性貧血になると、顕微鏡で見たときに小球性貧血(赤血球が小さい)や低色素性貧血(赤血球の色が薄い)であることがわかります。 治療では、鉄が足りなくなった原因を見つけて対処することが大切です。 食事やサプリメントで鉄をとり、血液中の鉄とヘモグロビンの量を増やすことが大切です。
【遺伝的リスク】 国立心臓・肺・血液研究所のChenらの研究により、鉄欠乏性貧血のなりやすさがrs1171614というDNA領域と関係していることがわかりました。 このDNA領域にはTT、TC、CCの3つの遺伝子型があり、Cを持つ遺伝子型の人は、鉄欠乏性貧血のリスクが高い傾向にあることがわかりました。
鉄欠乏性貧血とは何か
鉄欠乏性貧血は、体の中の鉄が足りなくなることでヘモグロビンが作られにくくなり、赤血球が酸素を運ぶ力が弱くなる病気です。貧血全体の約60〜80%を占めます。世界保健機関によると、世界で約20億人がかかっている、最も多い栄養不足の病気です。
鉄欠乏性貧血の原因としくみ
ヘモグロビンは赤血球の中にあり、酸素を全身に運ぶ役割をしています。鉄はヘモグロビンの材料なので、鉄が足りないと体は正常な赤血球を作れなくなります。主な原因は次の3つです。
- 鉄のとり不足:偏った食事や極端なダイエットで鉄分が足りなくなります。
- 長く続く出血:月経の量が多いことや、胃や腸からの出血(胃潰瘍・大腸ポリープ)で鉄が失われます。
- 鉄の吸収障害:セリアック病(小麦が原因の腸の病気)、胃の手術後、ピロリ菌の感染で鉄を吸収しにくくなります。
特に次の人はリスクが高い傾向にあります。
- 月経のある女性(特に月経過多の場合)
- 妊娠中・授乳中の女性(鉄がより多く必要)
- 成長期の乳幼児・思春期の子ども
- 菜食主義の人(植物に含まれる鉄は吸収されにくい)
鉄欠乏性貧血の主な症状
ヘモグロビンが減って酸素が足りなくなるため、次のような症状が出ます。
- 青白い顔色(まぶたの裏や爪の色も白っぽくなる)
- 長く続くだるさ・疲労感
- 息切れ(特に運動したとき)
- めまい・頭痛
- 重い場合は動悸・脈が速くなります。
- 匙状爪(爪がスプーンのように反る)・氷食症(氷を食べたくなる)
鉄欠乏性貧血の診断方法
次の検査で診断します。
- 血液検査(ヘモグロビン値・血液中の鉄・フェリチン〈体にたくわえた鉄の量〉の測定)
- 血液を薄く広げて顕微鏡で観察(赤血球が小さく色が薄いかを確認)
- 血液が鉄と結びつける量(総鉄結合能)の測定
小球性貧血と低色素性貧血の違い
| 比較項目 | 小球性貧血 | 低色素性貧血 |
|---|---|---|
| 定義 | 赤血球の大きさが通常より小さいです。 | 赤血球の色素(ヘモグロビン)が薄いです。 |
| 指標 | 赤血球1個の大きさが80fL(フェムトリットル)未満 | 赤血球1個あたりのヘモグロビンの量が少ないです。 |
| 主な原因 | 鉄欠乏・サラセミア | 鉄欠乏・慢性疾患 |
| 顕微鏡所見 | 赤血球が小さく見えます。 | 赤血球の真ん中の白っぽい部分が広がります。 |
鉄欠乏性貧血の治療法と予防法
治療の基本は鉄が足りなくなった原因を見つけて、鉄を補うことです。
- 食事療法:赤身肉・レバー・ほうれん草・大豆製品など鉄分の多い食品をとります。
- 鉄剤を飲む:飲み薬の鉄剤(硫酸鉄など)を6〜12か月続けます。
- ビタミンCの併用:植物に含まれる鉄の吸収を約2〜3倍に高めます。
- 原因疾患の治療:胃や腸からの出血や、月経の量が多い原因そのものを治療します。
遺伝子と鉄欠乏性貧血の関連
DNA領域rs1171614とかかりやすさの関係
国立心臓・肺・血液研究所のChenらの研究により、DNA領域rs1171614が鉄欠乏性貧血のなりやすさと関係していることがわかりました。
- rs1171614にはTT・TC・CCの3つの遺伝子型があります。
- Cのタイプを持つ遺伝子型の人は、鉄欠乏性貧血のリスクが高い傾向があります。
日本人の遺伝子型の分布(rs1171614)
| 遺伝子型 | 日本人の割合 | 世界の割合 |
|---|---|---|
| TT型 | 0.1%以下 | 4.8% |
| TC型 | 0.1%以下 | 34.3% |
| CC型 | 99.9% | 60.8% |
検査の根拠
代表的なDNA領域:鉄欠乏性貧血
鉄欠乏性貧血に最も強く影響するDNA領域は、rs1171614です。 日本での遺伝子型の分布は下記のとおりです。
- TT
0.1%以下 - TC
0.1%以下 - CC
99.9 %
他に、鉄欠乏性貧血に関わるDNA領域としてrs2836883があります。 日本での遺伝子型の分布は下記のとおりです。
- GG
69.9 % - GA
27.3 % - AA
2.6 %
他に、鉄欠乏性貧血に関わるDNA領域としてrs738409があります。 日本での遺伝子型の分布は下記のとおりです。
- CC
33.2 % - CG
48.8 % - GG
17.8 %
他に、鉄欠乏性貧血に関わるDNA領域としてrs77542162があります。 日本での遺伝子型の分布は下記のとおりです。
- AA
99.9 % - AG
0.1%以下 - GG
0.1%以下
検査の根拠
国立心臓・肺・血液研究所のChenらの研究により、鉄欠乏性貧血のなりやすさが遺伝子と関係していることがわかりました。rs1171614というDNA領域にはTとCの2種類のタイプがあり、Cのタイプを持つ人は鉄欠乏性貧血のリスクが高い傾向にあります(1)。
今回調査したDNA領域
細胞の中にあるDNAの地図の模式図
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関連遺伝子
| 関連遺伝子 | SLC16A9 |
|---|---|
| 関連遺伝子 | LINC02940 |
| 関連遺伝子 | PNPLA3 |
| 関連遺伝子 | ABCA6 |
よくある質問
Q1. 鉄欠乏性貧血とは何ですか?
鉄欠乏性貧血は、体の中の鉄が足りなくなることでヘモグロビンが作られにくくなり、赤血球が酸素を運ぶ力が弱くなる病気です。貧血全体の約60〜80%を占め、特に女性や成長期の子どもに多い傾向があります(1)。
Q2. 鉄欠乏性貧血の主な原因は何ですか?
主な原因は鉄のとり不足、長く続く出血(月経の量が多い・胃や腸からの出血)、鉄の吸収がうまくいかないことの3つです。DNA領域rs1171614でCのタイプを持つ人は、遺伝子の影響でリスクが高い傾向にあります(1)。
Q3. 鉄欠乏性貧血にはどのような症状がありますか?
青白い顔色、だるさ、息切れ、めまい、頭痛、動悸が主な症状です。重くなると、爪がスプーンのように反り返る「匙状爪」や、氷をやたらと食べたくなる「氷食症」が出ることもあります。
Q4. 遺伝子検査で鉄欠乏性貧血のリスクは分かりますか?
DNA領域rs1171614の遺伝子型を調べることで、鉄欠乏性貧血へのかかりやすさの傾向を知ることができます。Cのタイプを持つ遺伝子型の人はリスクが高い傾向にあることが研究でわかっています(1)。
Q5. 鉄欠乏性貧血を予防する方法は?
鉄分を含む食品(赤身肉・レバー・ほうれん草・大豆製品)をとること、ビタミンCと一緒にとって吸収を良くすること、定期的な血液検査が予防に役立ちます。必要に応じて鉄剤(鉄を補う薬)を飲むこともすすめられます。
参考文献
- 参考リンク1 : 2020 Sep., Ming-Huei Chen, Cell
- 参考リンク2 : 2020 Sep., Dragana Vuckovic, Cell