鉛中毒への抵抗性
- 鉛中毒への抵抗性は遺伝子ALAD(5アミノレブリン酸脱水素酵素)のDNA領域rs1805313と関係し、遺伝子型によって鉛の取り込みやすさが違います。
- AA型(日本人の32.7%)は鉛を取り込みやすく、ヘモグロビンが作られにくくなり、貧血のリスクが高まります。
- 鉛にふれないこと(排気ガス・タバコ・古い塗料)と、遺伝子検査で早めにリスクを知ることが予防に役立ちます。
概要
【概要・特徴】 貧血は、血液中のヘモグロビン(酸素を運ぶ赤い色素)が足りなくなり、体に酸素が十分に届かなくなる状態です。めまいや立ちくらみなどの症状が出ます。また、長く続くと心筋梗塞や記憶障害などの原因になることもあります。 一般的には、鉄が足りないことで起こる「鉄欠乏性貧血」が多く、栄養不足などが原因とされています。しかし、鉄分をとっているのに原因がわからない貧血が続く場合は、「鉛中毒」が原因かもしれません。 さらに、この症状には遺伝子の影響が関係していることもあります。鉛は、身の回りの環境に多くある化学物質で、塗料や排気ガス、タバコの煙などに含まれています。 体に入った鉛は、タンパク質とくっついてその働きをじゃますることで、貧血や神経の病気、子供の発達障害などを引き起こすことがあります(参考リンク1)。 鉛中毒の起こりやすさは、鉛にふれる量だけでなく、一人ひとりの遺伝子による影響の受けやすさによっても決まるとされています(参考リンク2,3)。ヘモグロビンの材料であるヘムを作るには亜鉛が必要ですが、この亜鉛が鉛と入れ替わるとヘムが作られにくくなり、貧血になることがあります。 また、原因となる遺伝子の一つとして、9番染色体にある「5アミノレブリン酸脱水素酵素(ALAD)」が見つかっています。原因のわからない貧血に悩んでいるときは、鉛中毒による貧血の可能性もあるため、一度遺伝子検査で調べてみることをおすすめします。
【2. 理論的根拠】 「5アミノレブリン酸脱水素酵素(ALAD)」という遺伝子は、ヘモグロビンの材料であるヘムを作るのに大切な酵素の設計図です。この遺伝子の中にある「rs1805313」というDNA領域には、「AA型」、「AG型」、「GG型」という3つの遺伝子型があります。そして、この3つの遺伝子型は血液中の鉛の濃さに影響することが分かっています。 これまでの調査では、オーストラリアと英国の大人のボランティアを対象に遺伝子の違いを調べたところ、赤血球で違いが見られる「rs1805313」が、血液中の鉛の量と関係していることが分かりました。(参考リンク3) 「ALAD」と「鉛」がくっつくと、酵素の働きが弱まり、ヘモグロビンが作られなくなって貧血につながります。そのため、遺伝子「ALAD」に変化があると、赤血球が鉛を取り込みにくくなります。 「rs1805313」にはAA, AG, GGの3つの遺伝子型があり、AAは通常型、AGやGGは変異型(変化があるタイプ)です。また日本人では、「AA型」が32.1%、「AG型」が49.2%、「GG型」が18.7%であることから、7割近い人が変異型の遺伝子を持っていることになります。(参考リンク4) そのうち「AA型」は「AG型」よりも鉛を多く取り込み、酵素の働きがより弱まるため、ヘモグロビンが作られにくく、症状が重くなる可能性があります(参考リンク5)。 さらに、「AA型」の場合はALAD遺伝子の働きが強くおさえられるため、症状が長引いて多くの臓器にも影響しやすく、胃腸の不調や脳・神経の障害、子供の場合は発達障害などの長く続く症状を起こしやすいとされています。(参考リンク3, 4)
【3. 作用機序】 遺伝子「ALAD」は、ヘモグロビンの材料であるヘムを作る流れの、最初のほうの大切な反応を進める酵素です。デルタアミノレブリン酸という物質をポルホビリノーゲンという物質に変える役割を持っています。この反応には、亜鉛が欠かせません。 しかし、鉛がある環境では、亜鉛の代わりに鉛が「ALAD」に取り込まれてしまい、酵素が働かなくなって、新しくヘムを作れなくなります。これが「鉛中毒」で起こる貧血の原因の一つとされています。 特に、DNA領域「rs1805313」に変化がある人は、「ALAD」が鉛を取り込みやすい状態になっていて、鉛中毒による貧血を起こしやすいことが報告されています(参考リンク5)。 このような場合、鉄分をとるだけでは貧血を改善するのが難しくなります。 そのため、鉛にふれないように生活環境を見直すことが必要です。例えば、排気ガスやタバコの煙が出る場所に近づかないようにすることが挙げられます。
鉛中毒への抵抗性とは何か
鉛中毒への抵抗性とは、身の回りの鉛にふれたときに、体が鉛をどれくらい取り込みやすいか、鉛によって健康をどれくらい害しやすいかという、一人ひとりの違いのことです。この抵抗性は、遺伝子ALADのDNA領域rs1805313の遺伝子型によって左右されます。
鉛中毒が引き起こす症状
鉛は身の回りの環境にある化学物質で、塗料・排気ガス・タバコの煙に含まれています。体に入った鉛はタンパク質とくっつき、次のような症状を引き起こします。
- 貧血:ヘモグロビンの材料であるヘムが作られにくくなり、体に届く酸素が減ります。
- 神経の病気:脳や神経が傷つき、頭痛・記憶障害・集中力の低下が起こります。
- 子供の発達障害:子供の脳の発達に影響し、学習や行動に問題が出ます。
- 胃腸の不調:腹痛・便秘・食欲がないといった症状が長く続きます。
鉛中毒で貧血が起こる原因としくみ
ヘモグロビンの材料であるヘムを作るには、亜鉛が欠かせません。鉛が体に入ると、亜鉛の代わりにALAD酵素に取り込まれ、酵素が働かなくなります。その結果、ヘムが作られなくなり、貧血が起こります。
鉄分をとっても良くならない、原因のわからない貧血に悩んでいる場合、鉛中毒が原因の可能性があります。
鉛中毒の原因と、遺伝子による影響の受けやすさの違い
| 要因 | 内容 | 影響度 |
|---|---|---|
| 環境の影響 | 排気ガス・タバコの煙・古い塗料にふれること | ふれる量が多いほど大きいです。 |
| 遺伝子の影響 | ALAD遺伝子rs1805313の遺伝子型 | AA型で鉛の取り込み量が増えます。 |
| 年齢の影響 | 子供は鉛を吸収する割合が大人の約5倍 | 発達障害のリスクが高まります。 |
遺伝子型ごとの鉛中毒リスクの違い
DNA領域rs1805313にはAA・AG・GGの3つの遺伝子型があり、それぞれ鉛の影響の受けやすさが違います。
| 遺伝子型 | タイプ | 鉛の取り込み | リスク |
|---|---|---|---|
| AA型 | 通常型 | 鉛の取り込み量が多いです。 | 酵素の働きが強く弱まり、症状が重くなりやすいです。 |
| AG型 | 変異型 | AA型より鉛の取り込みが少ないです。 | 中程度のリスク |
| GG型 | 変異型 | 鉛を取り込みにくいです。 | 抵抗性が高いです。 |
鉛中毒の予防と対策
次のような生活習慣が、鉛中毒の予防に役立ちます。
- 鉛のもとを避ける:排気ガスやタバコの煙が発生する場所を避けます。
- 住環境の改善:古い塗料(1978年以前の建物)がある場所を直したり、取り除いたりします。
- 定期的な血液検査:血液中の鉛の濃さを定期的に測り、早く気づけるようにします。
- 遺伝子検査の活用:ALAD遺伝子の型を調べ、自分のリスクを知ります。
- 栄養のとり方:カルシウム・鉄分・ビタミンCを十分にとり、鉛が吸収されるのをおさえます。
遺伝子ALADと鉛中毒への抵抗性の関係
DNA領域rs1805313と鉛中毒リスクの関係
9番染色体にある遺伝子ALAD(5アミノレブリン酸脱水素酵素)は、ヘモグロビンの材料であるヘムを作るのに欠かせない酵素の設計図です。
オーストラリアと英国の大人のボランティアを対象に遺伝子の違いを調べた研究で、赤血球で違いが見られる「rs1805313」が、血液中の鉛の量と関係していることが分かりました(参考リンク3)。
- rs1805313にはAA・AG・GGの3つの遺伝子型が存在します。
- AA型は通常型で、ALADが鉛を取り込みやすく、酵素の働きが弱まります。
- AG型・GG型は変異型で、鉛を取り込みにくく抵抗性が高いです。
しくみ:ALADと鉛がくっつくメカニズム
ALAD酵素はヘムを作る流れの最初のほうで、デルタアミノレブリン酸をポルホビリノーゲンに変える反応を進めます。この反応には亜鉛が欠かせません。
- 正常時:亜鉛がALADにくっつき、ヘムが正常に作られます。
- 鉛にふれたとき:鉛が亜鉛の代わりにALADに取り込まれ、酵素が働かなくなります。
- 結果:新しくヘムを作れなくなり、貧血が起こります。
AA型の場合は、ALAD遺伝子の働きが強くおさえられるため、胃腸の不調・脳や神経の障害・発達障害など、多くの臓器に長く続く影響が出やすいとされています(参考リンク3, 4)。
日本人における遺伝子型分布(rs1805313)
| 遺伝子型 | 日本人の割合 | 世界の割合 | 鉛の影響の受けやすさ |
|---|---|---|---|
| AA型 | 32.7% | 42.0% | 鉛を取り込みやすいです(高リスク)。 |
| AG型 | 48.9% | 45.5% | 中程度 |
| GG型 | 18.3% | 12.3% | 鉛を取り込みにくいです(低リスク)。 |
日本人の約67.2%(AG型+GG型)が変異型の遺伝子を持っていて、世界平均(57.8%)より高い割合です(参考リンク4)。
検査の理論的根拠
代表的なDNA領域:鉛中毒への抵抗性
鉛中毒への抵抗性に最も強く影響するDNA領域は、rs1805313です。 日本でのそれぞれの遺伝子型の割合は下記のとおりです。
- AA
32.7 % - AG
48.9 % - GG
18.3 %
検査の根拠
オーストラリアと英国の大人のボランティアを対象に遺伝子の違いを調べた研究で、ALAD遺伝子のDNA領域rs1805313が、血液中の鉛の量と関係していることが分かりました(参考リンク3)。AA型はAG型に比べて鉛を多く取り込み、酵素の働きがより弱まるため、ヘモグロビンが作られにくくなり、症状が重くなりやすい傾向があります(参考リンク5)。
今回調査したDNA領域
細胞の中にあるDNAマップの模式図
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関連遺伝子
| 関連遺伝子 | ALAD |
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よくある質問
Q1. 鉛中毒とは何ですか?
鉛中毒とは、体に入った鉛がタンパク質とくっついてその働きをじゃまし、貧血・神経の病気・子供の発達障害などを引き起こす病気です。塗料・排気ガス・タバコの煙に含まれる鉛が、主な原因です。症状の重さは、鉛にふれる量と、一人ひとりの遺伝子による影響の受けやすさによって変わります。
Q2. 鉛中毒への抵抗性に関わる遺伝子は何ですか?
9番染色体に存在する遺伝子ALAD(5アミノレブリン酸脱水素酵素)が鉛中毒への抵抗性に関わっています。DNA領域rs1805313の遺伝子型によって鉛の取り込みやすさが違い、AA型は鉛を取り込みやすく、症状が重くなる傾向があります(参考リンク5)。
Q3. 鉛中毒と貧血の関係は?
ヘモグロビンの材料であるヘムを作るには亜鉛が必要ですが、鉛が亜鉛と入れ替わるとALAD酵素が働かなくなり、ヘムが作られなくなります。その結果、鉄分をとっても良くならない貧血が起こります。
Q4. 日本人における遺伝子型の分布は?
DNA領域rs1805313の日本人分布は、AA型32.7%・AG型48.9%・GG型18.3%です。日本人の約67.2%が変異型(AG型またはGG型)を持っていて、世界平均(57.8%)より高い割合です(参考リンク4)。
Q5. 鉛中毒を予防する方法は?
排気ガス・タバコの煙にふれないようにすることが基本です。古い塗料がある住まいを直すこと、血液中の鉛の濃さを定期的に測ること、カルシウム・鉄分・ビタミンCを十分にとることが役立ちます。遺伝子検査でALAD遺伝子の型を調べ、自分のリスクを知っておくこともおすすめです。
参考文献
- 参考リンク1 : 2013 Dec., Jacqueline B Broadway-Duren, Crit Care Nurs Clin North Am.
- 参考リンク2 : 2007 Aug., John B Whitfield, Environ Health Perspect.
- 参考リンク3 : 2010 Jun., John B Whitfield, Environ Health Perspect.
- 参考リンク4 : DNA 領域「rs1805313」の情報(アメリカ国立衛生研究所)
- 参考リンク5 : 2001 Jul., S N Kelada, Am J Epidemiol.
- 参考リンク6 : 2015 Jul., Nicole M Warrington, Hum Mol Genet