鉛中毒への抵抗性
概要
1. 概要
貧血は、血液中のヘモグロビンが不足することで酸素の供給が滞り、めまいや立ち眩みなどの症状を引き起こします。また、慢性化すると心筋梗塞や記憶障害などの原因になる場合があります。
一般的には鉄欠乏による「鉄欠乏性貧血」が原因とされ、栄養不足などが要因にあげられています。しかし、鉄分を補給しているにも関わらず原因不明の貧血に悩まされている場合は、「鉛中毒」が原因である可能性があります。
さらに、この症状には遺伝性要因が関係していることもあります。鉛は、環境中に多く存在する化学物質で、塗料や排気ガス、タバコの煙などに含まれています。
体内に入った鉛は、タンパク質と結合し、そのたんぱく質の機能を阻害することで貧血や神経疾患、子供の発達障害などを引き起こすことがあります(参考リンク1)。
鉛中毒の現れやすさは、曝露する量だけでなく個人の遺伝的な感受性によっても決まるとされています(参考リンク2,3)。ヘモグロビンの構成因子であるヘムの合成には亜鉛が必要ですが、この亜鉛が鉛と置き換わるとヘムの合成が抑制され、貧血になることがあります。
また、原因遺伝子の一つとして、9番染色体に存在する「5アミノレブリン酸脱水素酵素(ALAD)」が見つかっています。もし原因不明の貧血に悩まされているときは、鉛中毒による貧血の可能性があるため、遺伝子検査で一度調べてみることをおすすめします。
2. 理論的根拠
「5アミノレブリン酸脱水素酵素(ALAD)」という遺伝子は、ヘモグロビンを構成するヘムの合成に重要な酵素です。その遺伝子に含まれる「rs1805313」というDNA領域には、「AA型」、「AG型」、「GG型」という3つの遺伝子型があります。またこの3つの遺伝子型は血液中の鉛濃度に影響を与えることが分かっています。
過去に行われた調査によると、オーストラリアと英国の成人ボランティアを対象にした遺伝的変異の解析で、赤血球細胞で変異がある「rs1805313」が血液中の鉛含有量と相関していることが明らかになりました。(参考リンク3)
「ALAD」と「鉛」が結合すると、酵素活性が抑制され、ヘモグロビンが合成されず、貧血につながります。そのため、遺伝子「ALAD」に変異が入ると、赤血球細胞が鉛を取り込みにくくなります。
「rs1805313」にはAA, AG, GGの3つの遺伝子型があり、AAは通常型、AGやGGは変異型です。また日本人の遺伝子タイプにおいて、「AA型」が32.1%、「AG型」が49.2%、「GG型」が18.7%であることから、7割近い人が変異型の遺伝子を持っていることになります。(参考リンク4)
そのうち「AA型」は「AG型」よりも鉛の取り込み量が多く、酵素活性がより抑制され、ヘモグロビンが合成されにくく症状が重くなる可能性があります(参考リンク5)。
さらに、「AA型」の場合、ALAD遺伝子の抑制が強いため、症状が慢性化して多臓器にも影響しやすく、消化器障害や中枢神経障害、子供の場合は発達障害などの慢性的な症状を引き起こしやすいとされています。(参考リンク3, 4)
3. 作用機序
遺伝子「ALAD」は、ヘモグロビンを構成するヘム合成において重要な初期段階の反応を触媒する酵素であり、デルタアミノレブリン酸をポルホビリノーゲンに変換する役割を持っています。この反応には、亜鉛が必要不可欠です。
しかし、鉛が存在する環境下では、亜鉛の代わりに鉛が「ALAD」に取り込まれ、酵素が不活化され、新たなヘム合成を行えなくなります。これが「鉛中毒」によって引き起こされる貧血の原因の一つとされています。
特に、DNA領域「rs1805313」に変異がある人は、「ALAD」が鉛を取り込みやすい状態になっており、鉛中毒による貧血を引き起こしやすいことが報告されています(参考リンク5)。
このような場合、鉄分の補給だけでは貧血を改善することが難しくなります。
したがって、鉛との接触を避ける生活環境の改善が必要となります。例えば、排気ガスやタバコが発生する場所に近づかないようにすることが挙げられます。
遺伝子領域rs1805313において日本で各遺伝タイプを持つ人の割合
- AA32.73%
- AG48.96%
- GG18.31%
遺伝子領域rs1805313において世界で各遺伝タイプを持つ人の割合
- AA42.04%
- AG45.59%
- GG12.36%
検査の理論的根拠
体表的なDNA領域:鉛中毒への抵抗性
体表的なDNA領域:鉛中毒への抵抗性
鉛中毒への抵抗性 に最も強く影響する遺伝子領域は、rs1805313です。 日本における同型の遺伝子タイプの分布は下記のとおりです。
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AA
32.7% -
AG
49.0% -
GG
18.3%
検査の根拠
今回調査したDNA領域
細胞中に存在するDNAマップの模式図
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関連遺伝子
| 関連遺伝子 | ALAD |
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参考文献
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関連遺伝子 ALAD
- 参考リンク : 2015 Jul、Nicole M Warringtonと研究グループがHum Mol Genet に発表したGenome-wide association study of blood lead shows multiple associations near ALADという研究によると鉛中毒への抵抗性 に関連するrs1805313の関連性が認められました。
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関連遺伝子 ALAD
- 参考リンク : 2015 Jul、Nicole M Warringtonと研究グループがHum Mol Genet に発表したGenome-wide association study of blood lead shows multiple associations near ALADという研究によると鉛中毒への抵抗性 に関連するrs1805313の関連性が認められました。