肺がん
- 肺がんは日本人の死因の第1位で、2020年には75,585人が亡くなりました。喫煙が一番大きな原因で、タバコの煙には約70種類の発がん物質が含まれています。
- DNA領域rs753955(TNFRSF19遺伝子)のG型を持つ人は肺がんになりやすい傾向があることが研究で分かっています。
- 禁煙・定期検診・遺伝子検査で、早いうちからなりやすさを知り、予防の対策をとることができます。
概要
【概要・特徴】 肺は袋のような形をしていて、気管支と肺胞からできています。 気管支は肺の中で空気の通り道になっています。肺胞は、枝分かれした気管支の先にぶどうの房のようにたくさんついていて、酸素と二酸化炭素を交換する場所です。 肺がんは、気管支や肺胞の表面をおおう細胞(上皮細胞)の遺伝子に傷がつくことで起こります。 特に、タバコの煙には遺伝子を傷つける約70種類もの発がん物質(がんの原因になる物質)が含まれていて、肺がんの一番大きな原因になっています。 喫煙のほかにも、汚れた空気や、家族に肺がんになった人がいること(家族歴)も、肺がんになりやすくする原因と考えられています。 最近の研究では、遺伝子「TNFRSF19」の個人差が、肺がんのなりやすさにある程度関係していると報告されています。
【2. 理論的根拠】 中国の南京医科大学などの研究で、遺伝子「TNFRSF19」の近くにある特定の場所の遺伝子型によって、肺がんになる人が多いことが分かりました。(参考リンク1) この場所はDNA領域「rs753955」と呼ばれ、「AA型」「AG型」「GG型」の3つの遺伝子型があります。 肺がんになりやすい型の目印である「G」を2つ持つ「GG型」の人は肺がんになる人が多く、「AG型」の人はやや多く見られます。日本人の遺伝子タイプは、「AG型」が48.8%、「AA型」が33.3%、「GG型」が17.9%です。(参考リンク2) 肺がんは日本人の死因の第1位で、男女別に見ても男性の第1位、女性の第2位の死因です。(参考リンク3) 国立がん研究センターの統計によると、2020年には75,585人が肺がんで亡くなりました。 肺がんはかなり進むまで症状が出ないことが多く、症状が出ても風邪や喫煙による症状(せきや痰)と見分けにくいため、見つかるのが遅れがちです。 そのため、遺伝子検査で肺がんへのなりやすさを前もって知っておくと、早いうちから肺がんの定期検診を受けたり、禁煙したりといった対策がとりやすくなります。
【3. メカニズム】 「TNFRSF19」という遺伝子は、人の24種類の染色体のうち13番染色体にあり、細胞の中で信号を伝える仕組みの一つを通して、傷ついた細胞を自ら死なせる働き(アポトーシス)を起こす役割があると考えられています。 DNAが傷ついた細胞は、自分から死なないとがん細胞になってしまいます。 実際に、遺伝子「TNFRSF19」の働きが弱くなっている患者さんは、病気の経過が悪くなりやすいことが分かっています。(参考リンク4) また、DNA領域「rs753955」は、近くの遺伝子の働きの強さを調節する役割をもち、遺伝子「TNFRSF19」の働きを弱めることで、気管支の細胞がDNAの傷を直す力や、傷ついた細胞が自ら死ぬ反応を弱めることが報告されています。(参考リンク5) このことから、DNA領域「rs753955」は、肺がんのなりやすさに関わる遺伝子の個人差(一塩基多型)の一つとして注目されています。
肺がんとは何か
肺がんは、肺の気管支や肺胞の表面をおおう細胞に遺伝子の変化がたまって起こる、悪性のがんです。日本人の死因の第1位で、男性では第1位、女性では第2位の死因です(参考リンク3)。2020年には国内で75,585人が肺がんで亡くなりました。
肺がんの原因と、なりやすくする要因
肺がんの一番大きな原因は喫煙です。タバコの煙には約70種類の発がん物質が含まれていて、これらがDNAを傷つけ、がんができやすくなります。
- 喫煙:肺がんの一番大きな原因です。タバコを吸う人は吸わない人に比べて、肺がんになりやすさが約15〜30倍です。
- 汚れた空気:空気中のとても小さな粒子(微小粒子状物質)を長い期間吸い込むこと
- 家族歴:家族に肺がんになった人がいると、なりやすさが上がります。
- 遺伝子の影響:TNFRSF19遺伝子(rs753955)やCHRNA3遺伝子(rs1051730)の個人差がなりやすさに関係しています。
- 仕事での発がん物質:アスベストやラドンなどの発がん物質に、仕事でさらされることです。
肺がんの種類と特徴
| 分類 | 主な種類 | 特徴 |
|---|---|---|
| 非小細胞肺がん | 腺がん・扁平上皮がん・大細胞がん | 肺がん全体の約85%です。進むのが比較的ゆっくりです。 |
| 小細胞肺がん | 小細胞がん | 肺がん全体の約15%です。進むのが速く、ほかの場所に広がりやすいです。 |
肺がんの初期症状
肺がんはかなり進むまで自分で気づく症状が出にくい病気です。症状が出ても風邪や喫煙による症状と見分けにくいため、見つかるのが遅れがちです。
- 長く続くせき(2週間以上)
- 血の混じった痰
- 胸の痛み・息切れ
- 体重が減り、食欲が落ちます。
- 声がかすれます。
肺がんの予防法
肺がんを防ぐために、次のような対策がすすめられます。
- 禁煙:最も効果的な予防法です。禁煙してから10年で、なりやすさが約半分に下がります。
- 定期検診:年1回の胸部X線検査(レントゲン検査)を受けます。なりやすい人は、少ない放射線で撮る胸の断層撮影検査も受けることをおすすめします。
- 遺伝子検査:TNFRSF19・CHRNA3遺伝子の個人差を調べて、なりやすさの傾向を知ることができます。
- 空気の対策:汚れた空気をできるだけ吸い込まないようにします。
遺伝子と肺がんの関係
DNA領域rs753955(TNFRSF19遺伝子)と肺がんのなりやすさの関係
中国・南京医科大学などの研究(参考リンク1)で、DNA領域rs753955が肺がんのなりやすさと関係していることが分かりました。
- rs753955にはAA・AG・GGの3つの遺伝子型があります。
- 肺がんになりやすい型の目印であるG型を持つGG型の人は肺がんになる人が多いです。
- AG型の人もややなりやすい傾向
日本人の遺伝子型の割合(rs753955)
| 遺伝子型 | 日本人の割合 | 世界の割合 |
|---|---|---|
| AA型 | 39.6% | 14.9% |
| AG型 | 46.6% | 47.4% |
| GG型 | 13.7% | 37.6% |
TNFRSF19遺伝子の作用機序
TNFRSF19遺伝子は13番染色体に位置し、細胞の中で信号を伝える仕組みの一つを通して、傷ついた細胞を自ら死なせる働き(アポトーシス)を起こす役割をもっています。
- DNAが傷ついた細胞は、自分から死なないとがん細胞になるおそれがあります。
- TNFRSF19の働きが弱くなっている患者さんは病気の経過が悪くなりやすいことが確認されています(参考リンク4)。
- rs753955は、近くの遺伝子の働きの強さを調節する役割をもち、TNFRSF19の働きを弱めます。
- その結果、気管支の細胞のDNAの傷を直す力と、傷ついた細胞が自ら死ぬ反応が低下します(参考リンク5)。
DNA領域rs1051730(CHRNA3遺伝子)との関係
rs1051730はCHRNA3遺伝子の中にあり、この遺伝子はニコチンを受け取るたんぱく質の部品の設計図になっています。この遺伝子の個人差はニコチンへの依存(タバコをやめにくいこと)と肺がんのなりやすさの両方に関係しています(参考リンク6)。
日本人の遺伝子型の割合(rs1051730)
| 遺伝子型 | 日本人の割合 | 世界の割合 |
|---|---|---|
| GG型 | 96.1% | 45.6% |
| GA型 | 3.7% | 43.8% |
| AA型 | 0.1%以下 | 10.5% |
検査の理論的根拠
代表的なDNA領域:肺がん
肺がんに最も強く関係するDNA領域は、rs753955です。 日本でのこの場所の遺伝子タイプの割合は下のとおりです。
- AA
39.6 % - AG
46.6 % - GG
13.7 %
ほかに、肺がんに関わるDNA領域としてrs1051730があります。 日本でのこの場所の遺伝子タイプの割合は下のとおりです。
- GG
96.1 % - GA
3.7 % - AA
0.1%以下
検査の根拠
中国・南京医科大学などの研究(参考リンク1)で、遺伝子TNFRSF19の近くにあるDNA領域rs753955の遺伝子型によって、肺がんのなりやすさが違うことが分かりました。肺がんになりやすい型の目印である「G」を2つ持つGG型の人は肺がんになる人が多く、AG型の人もややなりやすい傾向があります。日本人の遺伝子タイプは、AG型が48.8%、AA型が33.3%、GG型が17.9%です(参考リンク2)。
今回調査したDNA領域
細胞の中にあるDNAマップの図
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関連遺伝子
| 関連遺伝子 | TNFRSF19 |
|---|---|
| 関連遺伝子 | CHRNA3 |
よくある質問
Q1. 肺がんとは何ですか?
肺がんは、肺の気管支や肺胞の表面をおおう細胞に遺伝子の変化がたまって起こる、悪性のがんです。日本人の死因の第1位で、2020年には75,585人が肺がんで亡くなっています(参考リンク3)。
Q2. 肺がんの主な原因は何ですか?
一番大きな原因は喫煙です。タバコの煙には約70種類の発がん物質が含まれています。喫煙のほかにも汚れた空気、家族歴(家族に肺がんの人がいること)、生まれつきの遺伝子の影響(TNFRSF19遺伝子のrs753955の個人差など)が肺がんになりやすくする原因として報告されています(参考リンク1)。
Q3. 遺伝子検査で肺がんのなりやすさは分かりますか?
DNA領域rs753955(TNFRSF19遺伝子)とrs1051730(CHRNA3遺伝子)の遺伝子型を調べることで、肺がんへのなりやすさの傾向を知ることができます。rs753955のG型を持つ人は肺がんになりやすい傾向があることが研究で分かっています(参考リンク1)。
Q4. 肺がんの初期症状にはどのようなものがありますか?
肺がんはかなり進むまで自分で気づく症状が出にくい病気です。長く続くせき、血の混じった痰、胸の痛み、息切れ、体重が減るなどが初期の症状ですが、風邪や喫煙による症状と見分けにくいため、定期検診が大切です。
Q5. 肺がんの予防法は何ですか?
最も効果的な予防法は禁煙です。禁煙してから10年で、肺がんになりやすさが約半分に下がります。また、年1回の肺がん検診(肺がんになりやすい人は、少ない放射線で撮る胸の断層撮影検査)を受けること、遺伝子検査でなりやすさの傾向を知っておくことがすすめられます。
参考文献
- 参考リンク1 : 2011 Jul., Zhibin Hu, nature genetics.
- 参考リンク2 : DNA領域「rs753955の情報」 TogoVar
- 参考リンク3 : 「肺がん」の情報 がん情報サービス
- 参考リンク4 : 遺伝子「TNFRSF19」の情報 Human Protein Atlas
- 参考リンク5 : 2019 May., Lipei Shao, BMC
- 参考リンク6 : 2008 Dec., James D McKay, Nat Genet