近視
概要
1. 概要
「近視」とは、目のピント調節が上手くいかないため、近くのものはよく見えて遠くのものが見えにくくなる病気です。この病気に罹患する人口が、近年世界的に増加し、大きな社会問題となっています。
日本でも近視の人の割合がここ数十年で急激に増え、中でも小学生〜高校生を含めた若年者の近視人口の増加が深刻となっています。
2021年度の学校保健統計調査によると、裸眼視力が1.0未満の人の割合は小学生で36.9%、中学生で60.3%、高校生で64.4%を占め、中学生では60%を超え、過去最多を更新しました。(参考リンク1)
「近視」は、環境的要因と遺伝的要因が合わさって発症する病気と考えられています。近年の家族調査や双子研究により、複数の関連遺伝子が報告されています。
遺伝子「NRIP1」付近のある部位が近視の発症リスクに影響を与えている可能性が高いことが、最近の研究報告によって明らかになりました。
「近視」は、発症した年齢が低いほど進行しやすく、強い近視になると「緑内障」や「網膜剥離」などの合併症を引き起こす可能性があります。そのため、放っておくと、失明に至る危険性もあるため、注意が必要です。
以上のことから、遺伝子検査によりご自身の遺伝子タイプに知り、「近視」の発症リスクを知ることで、予防や早期対策につなげることが大切です。
2. 理論的根拠
オランダのエラスムス医療センター眼科で行われた研究によると、遺伝子「NRIP1」付近のDNA領域「rs2823141」の遺伝子型によっては、「近視」を発症しやすい人がいることが明らかになりました。(参考リンク2)
そのDNA領域には、「AA型」、「GA型」、「GG型」と3つの遺伝子型が存在します。「GG型」は近視を発症しやすい傾向があり、「GA型」はやや発症しやすい傾向があります。
日本人の遺伝子タイプは、「GA型」が48.8%と最も多く、次いで「AA型」が36.0%、「GG型」が15.2%となります。(参考リンク3)
日本人の約8割は「AA型」もしくは「GA型」の遺伝型を持っているため、近視を発症する可能性がやや低めでありますが、リスク傾向の高い「GG型」の人も含め、環境要因に留意する必要があります。
例えば、長時間のスマホやゲーム機器の使用や暗い場所での読書は、近視を進行させる原因とされています。予防するためには、目とスマホ(もしくは小型のゲーム機器)の距離を30cm以上離し、適度な明るさで使用することや、長時間使用する場合は、1時間置きに目を休息させる時間を設けることが重要です。
また、慶應義塾大学医学部(眼科学教室)の研究によると、太陽光に含まれるバイオレットライトが子どもの近視の進行を抑制することがわかっています。
そのため、屋外活動やウォーキングをすることで、太陽光を浴びる環境を作ることが重要です。(参考リンク4)これらのことを心がけて、近視の発症を予防することが大切です。
3. 作用機序
遺伝子「NRIP1」は、ヒトの24の染色体のうち、21番染色体に位置しており、「近視」の発症に関係しています。
この遺伝子は、全ての細胞に存在し、脂肪組織や結腸といった組織に多く存在していますが、網膜にも存在していることが分かっています。(参考リンク5、6)
遺伝子「NRIP1」は、レチノイン酸受容体と直接相互作用し、ビタミンAの誘導体であるレチノイン酸の転写シグナルを調節する働きがあります。
現在、「NRIP1」と近視の発症がどのように関連しているかは分かっていませんが、網膜に遺伝子「NRIP1」が存在し、ビタミンAの誘導体の転写シグナルに関与していることから、DNA領域「rs2823141」の遺伝子型によって網膜の「NRIP1」がうまく作用せず、ビタミンAが欠乏した状態となることが考えられます。
ビタミンAの欠乏は視力低下を招くことから、「NRIP1」と視力低下が関係している可能性があります。
つまり、DNA領域「rs2823141」は近視の発症に深く関係する、注目を浴びている一塩基多型の1つです。
4. 参考文献
遺伝子領域rs2823141において日本で各遺伝タイプを持つ人の割合
- GG21.30%
- GA49.70%
- AA28.99%
遺伝子領域rs2823141において世界で各遺伝タイプを持つ人の割合
- GG31.55%
- GA49.24%
- AA19.21%
遺伝子領域rs2150458において日本で各遺伝タイプを持つ人の割合
- GG2.22%
- GA25.37%
- AA72.41%
遺伝子領域rs2150458において世界で各遺伝タイプを持つ人の割合
- GG29.98%
- GA49.55%
- AA20.47%
遺伝子領域rs11872104において日本で各遺伝タイプを持つ人の割合
- AA36.70%
- AG47.76%
- GG15.54%
遺伝子領域rs11872104において世界で各遺伝タイプを持つ人の割合
- AA54.30%
- AG38.78%
- GG6.92%
遺伝子領域rs7067005において日本で各遺伝タイプを持つ人の割合
- CC76.56%
- CT21.88%
- TT1.56%
遺伝子領域rs7067005において世界で各遺伝タイプを持つ人の割合
- CC91.10%
- CT8.69%
- TT0.21%
検査の理論的根拠
体表的なDNA領域:近視
体表的なDNA領域:近視
近視 に最も強く影響する遺伝子領域は、rs2823141です。 日本における同型の遺伝子タイプの分布は下記のとおりです。
-
GG
21.3% -
GA
49.7% -
AA
29.0%
他に、近視に関わる遺伝子領域はrs2150458があります。 日本における同型の遺伝子タイプの分布は下記のとおりです
-
GG
2.2% -
GA
25.4% -
AA
72.4%
他に、近視に関わる遺伝子領域はrs11872104があります。 日本における同型の遺伝子タイプの分布は下記のとおりです
-
AA
36.7% -
AG
47.8% -
GG
15.5%
他に、近視に関わる遺伝子領域はrs7067005があります。 日本における同型の遺伝子タイプの分布は下記のとおりです
-
CC
76.6% -
CT
21.9% -
TT
1.6%
検査の根拠
今回調査したDNA領域
細胞中に存在するDNAマップの模式図
- ■
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- ■
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関連遺伝子
| 関連遺伝子 | LINC02920 |
|---|---|
| 関連遺伝子 | PCBP3 |
| 関連遺伝子 | ANKRD20A5P |
| 関連遺伝子 | RN7SL727P |
参考文献
-
関連遺伝子 LINC02920
- 参考リンク : 2018 Jun、Milly S Tedjaと研究グループがNat Genet に発表したGenome-wide association meta-analysis highlights light-induced signaling as a driver for refractive errorという研究によると近視 に関連するrs2823141の関連性が認められました。
-
関連遺伝子 PCBP3
- 参考リンク : 2018 Jun、Milly S Tedjaと研究グループがNat Genet に発表したGenome-wide association meta-analysis highlights light-induced signaling as a driver for refractive errorという研究によると近視 に関連するrs2150458の関連性が認められました。
-
関連遺伝子 ANKRD20A5P
- 参考リンク : 2018 Jun、Milly S Tedjaと研究グループがNat Genet に発表したGenome-wide association meta-analysis highlights light-induced signaling as a driver for refractive errorという研究によると近視 に関連するrs11872104の関連性が認められました。
-
関連遺伝子 RN7SL727P
- 参考リンク : 2018 Jun、Milly S Tedjaと研究グループがNat Genet に発表したGenome-wide association meta-analysis highlights light-induced signaling as a driver for refractive errorという研究によると近視 に関連するrs7067005の関連性が認められました。
-
関連遺伝子 PCBP3
- 参考リンク : 2021 Jun、J Willem L Tidemanと研究グループがJAMA Ophthalmol に発表したEvaluation of Shared Genetic Susceptibility to High and Low Myopia and Hyperopiaという研究によると近視 に関連するrs2150458の関連性が認められました。