卵巣がん
- 卵巣がんは婦人科癌で最も死亡率が高い悪性腫瘍で、自覚症状が乏しいため「サイレントキラー」と呼ばれる
- DNA領域rs57403204のG型変異(Risk Allele)を持つ人は、高異型度漿液性卵巣がん(HGSOC)の発症リスクが上昇する
- 日本人のG型変異(AG+GG)保有率は34.4%で、世界平均5.1%と比較して約6.7倍高い
概要 卵巣は、子宮の両脇に1つずつある親指大の臓器で、卵子の生成・成熟・排卵を行い、女性ホルモン(エストロゲンやプロゲステロン)を分泌します。 卵巣がんは、卵巣に悪性腫瘍ができる病気であり、婦人科癌のなかで最も死亡率が高いとされています。 卵巣がんの種類には、漿液性がん、類内膜がん、明細胞がん、粘液性がんがあり、 特に漿液性がんの一種である高異型度漿液性卵巣がん(HGSOC)は進行が早く、予後不良とされています。 卵巣がんの発症リスク因子には、子宮内膜症の既往や家族歴があげられます。 .最近の研究報告によると、遺伝子「MAGEC1」付近のある部位が特に「HGSOC」の発症リスクに影響を与えていることが明らかになりました。 2. 理論的根拠 最近、イギリスのケンブリッジ大学やアメリカの国立がん研究所(NCI)などが行った研究により、遺伝子「MAGEC1」付近の特定の部位の遺伝子型によって、 「HGSOC」という卵巣がんが多くみられる傾向があることが明らかになりました。 この部位は、DNA領域「rs57403204」と呼ばれており、「AA型」「AG型」「GG型」という3つの遺伝子型が存在します(参考リンク1)。 Risk Alleleである「G」を持つ「GG型」では、「HGSOC」の発症が多くみられる傾向があり、「AG型」ではやや多くみられる傾向があることがわかっています。 日本人の遺伝子タイプは、「AA型」が70.2%、「AG型」が27.2%、「GG型」が2.6%であることが分かっています(参考リンク2)。 つまり、「AG・GG型」の人々は、日本人の約30%を占めることがわかります。 一方、世界全体的な遺伝子タイプでは、「AA型」が93.9%、「AG型」が6.1%、「GG型」がおおよそ0%です。 つまり、「AG・GG型」の人々は世界全体の約6%を占めることがわかります。 このことから、日本人は世界と比較して、「HGSOC」の発症リスクが高い傾向にある遺伝子をもつ人種であると言えます。 卵巣がんは、骨盤の奥深くに存在しているため、痛みなどの症状が出にくく、自覚症状がほとんどないことが多く、 進行した状態で発見されるケースが多いため、「サイレントキラー(沈黙の殺人者)」とも呼ばれています。 このような背景から遺伝子検査により、卵巣がんの遺伝的発症傾向をあらかじめ把握しておくことで、早期発見・治療に役立つことが期待されます。 3. 作用機序 遺伝子「MAGEC1」は、ヒトのX染色体の中に存在し、「HGSOC」の発症に関与する可能性があることが分かっています。 この遺伝子は通常、卵巣ではほとんど発現しませんが、卵巣がんでは発現が見られます。このことから、遺伝子「MAGEC1」ががん化に関与していることが示唆されています。 一般的に、がん細胞は、もともとの組織の特性を失い、増殖の速い生殖細胞のような特性に変化する現象が知られています(somatogermline transformation)。 そして、この変化に遺伝子「MAGEC1」が関与することが分かっています。 実際、「HGSOC」患者で、遺伝子「MAGEC1」付近にあるDNA領域「rs57403204」の多型が確認されているため、「HGSOC」に関与する可能性がある一塩基多型として注目されています。(参考リンク3、4、5)
卵巣がんとは何か
卵巣がんとは、卵巣に発生する悪性腫瘍であり、婦人科癌のなかで最も死亡率が高い疾患です。卵巣は子宮の両脇に1つずつある親指大の臓器で、卵子の生成・成熟・排卵、および女性ホルモン(エストロゲン・プロゲステロン)の分泌を担います。
卵巣がんの種類と特徴
卵巣がんには4つの主要な組織型が存在します。それぞれの特徴は以下のとおりです。
| 組織型 | 特徴 | 進行速度 |
|---|---|---|
| 漿液性がん(HGSOC) | 最も頻度が高く、遺伝子変異との関連が強い | 進行が早い |
| 類内膜がん | 子宮内膜症との関連が指摘される | 中程度 |
| 明細胞がん | 日本人に比較的多い組織型 | 中程度 |
| 粘液性がん | 比較的まれな組織型 | 比較的遅い |
特に高異型度漿液性卵巣がん(HGSOC)は進行が早く予後不良であり、卵巣がん全体の約70%を占めます。
なぜ卵巣がんは「サイレントキラー」と呼ばれるのか
卵巣は骨盤の奥深くに位置するため、腫瘍が発生しても痛みなどの自覚症状がほとんどありません。このため進行した状態(ステージIII〜IV)で発見されるケースが全体の約60%を占め、「サイレントキラー(沈黙の殺人者)」と呼ばれています。
卵巣がんの主なリスク因子
- 子宮内膜症の既往:類内膜がん・明細胞がんのリスクが上昇
- 家族歴:母親・姉妹に卵巣がん患者がいる場合、リスクが2〜3倍に上昇
- 遺伝子変異:MAGEC1付近のrs57403204多型がHGSOC発症に関与
- 未経産:排卵回数が多いことにより卵巣への負担が増加
遺伝子と卵巣がんの関連
DNA領域rs57403204とHGSOCの関係
ケンブリッジ大学および米国立がん研究所(NCI)の研究により、遺伝子MAGEC1付近のDNA領域rs57403204がHGSOCの発症リスクに影響することが判明しました(参考リンク1)。
- rs57403204にはAA・AG・GGの3つの遺伝子型が存在
- Risk Alleleである「G」を持つGG型ではHGSOCの発症が多くみられる傾向
- AG型でもやや多くみられる傾向がある
日本人と世界における遺伝子型分布の比較(rs57403204)
| 遺伝子型 | 日本人の割合 | 世界の割合 |
|---|---|---|
| AA型 | 65.4% | 94.8% |
| AG型 | 30.8% | 5.1% |
| GG型 | 3.6% | 0.1%以下 |
日本人のG型変異保有率(AG+GG)は34.4%であり、世界平均の5.1%と比較して約6.7倍高い割合です。このことから日本人はHGSOCの発症リスクが高い遺伝的素因を持つ集団であるといえます。
遺伝子検査による早期発見の重要性
卵巣がんは自覚症状が乏しく進行した状態で発見されるケースが多いため、遺伝子検査により遺伝的な発症傾向を事前に把握しておくことが早期発見・早期治療に直結します。特にAG型・GG型の遺伝子型を持つ方は、定期的な婦人科検診が推奨されます。
検査の理論的根拠
体表的なDNA領域:卵巣がん
卵巣がん に最も強く影響する遺伝子領域は、rs57403204です。 日本における同型の遺伝子タイプの分布は下記のとおりです。
- AA
65.4 % - AG
30.8 % - GG
3.6 %
検査の根拠
遺伝子MAGEC1の作用機序
遺伝子MAGEC1はヒトのX染色体に存在し、HGSOCの発症に関与する可能性があることが判明しています。通常、この遺伝子は卵巣ではほとんど発現しませんが、卵巣がんでは発現が確認されており、がん化への関与が示唆されています。
- 正常卵巣:MAGEC1はほとんど発現しない
- 卵巣がん組織:MAGEC1の発現が確認される
- がん化の機序:組織の特性が生殖細胞のような特性に変化する現象(somatogermline transformation)にMAGEC1が関与
HGSOC患者でrs57403204の多型が確認されているため、HGSOCに関与する一塩基多型(SNP)として注目されています(参考リンク3、4、5)。
今回調査したDNA領域
細胞中に存在するDNAマップの模式図
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関連遺伝子
| 関連遺伝子 | MAGEC1 |
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よくある質問(FAQ)
Q1. 卵巣がんとは何ですか?
卵巣がんとは、卵巣に発生する悪性腫瘍であり、婦人科癌のなかで最も死亡率が高い疾患です。種類には漿液性がん・類内膜がん・明細胞がん・粘液性がんの4つがあり、特に高異型度漿液性卵巣がん(HGSOC)は進行が早く予後不良です。自覚症状がほとんどないため「サイレントキラー」と呼ばれています。
Q2. 卵巣がんと遺伝子の関連はありますか?
はい。ケンブリッジ大学および米国立がん研究所(NCI)の研究により、DNA領域rs57403204がHGSOCの発症リスクに影響することが判明しています。rs57403204にはAA・AG・GGの3つの遺伝子型があり、G型(Risk Allele)を持つ人はHGSOCの発症リスクが高い傾向にあります。
Q3. 卵巣がんのリスク因子は何ですか?
主なリスク因子は子宮内膜症の既往歴・家族歴・遺伝子変異(rs57403204のG型)・未経産です。特に日本人はG型変異保有率が34.4%と世界平均の約6.7倍であり、遺伝的にHGSOCリスクが高い集団です。
Q4. 日本人の卵巣がん関連遺伝子型(rs57403204)の分布は?
日本人におけるrs57403204の遺伝子型分布はAA型65.4%、AG型30.8%、GG型3.6%です。世界全体ではAA型94.8%、AG型5.1%、GG型0.1%以下であり、日本人はG型変異の保有率が世界平均より著しく高い特徴があります。
Q5. 卵巣がんの早期発見はなぜ難しいのですか?
卵巣は骨盤の奥深くに位置するため、腫瘍が発生しても自覚症状がほとんどありません。進行した状態で発見されるケースが全体の約60%を占めます。遺伝子検査による事前のリスク把握と定期的な婦人科検診が早期発見の鍵となります。
参考文献
- 参考リンク1 : 2019 Aug., Ani Manichaikul, IJC.
- 参考リンク2 : DNA領域「rs7403204」の情報 TogoVar
- 参考リンク3 : 遺伝子「MAGEC1の情報」 GTEx Portal
- 参考リンク4 : 2014 Aug., Sayeema Daudi, PloS one.
- 参考リンク5 : 2019 Jan., Kaipeng Xie, Journal of Ovarian Research.
- 参考リンク6 : 2020 Jun., Ani Manichaikul, Int J Cancer