前立腺がん
- 前立腺がんは、男性で最もかかる人が多いがんの一つで、日本では2024年までに男性のがんでかかる人の数が1位になると予測されています。
- 遺伝子CCHCR1のDNA領域rs130067に「G」を持つ人はなりやすい傾向があることが研究でわかっています。
- ほかのがんと比べて進行がゆっくりで、早く見つかれば治る割合が高いため、遺伝子によるなりやすさを知り、定期的に検診を受けることが大切です。
概要
【概要・特徴】 前立腺は、男性の生殖機能に関わる臓器で、尿道(おしっこの通り道)を取り囲むようにあります。前立腺液を出して、精子に栄養を与え、守るという大切な役割があります。しかし、前立腺がんは世界中でとても多くの人がかかる病気の一つで、特にアメリカでは男性のがんの中で最もかかる人が多いがんです。 日本人を含む東洋人は、もともと前立腺がんにかかりにくいとされていましたが、高齢化や欧米風の食生活の影響で、ここ20年で急に増えました。厚生労働省の研究班によると、日本でも男性のがんの中で、前立腺がんにかかる人の数が2024年までに1位になると予想されています。 前立腺がんには、男性ホルモンや年齢、食生活のほかに、遺伝も関係していると考えられています。最近の研究では、遺伝子「CCHCR1」が前立腺がんのかかりやすさに影響している可能性が高いことがわかりました。 遺伝子検査で自分の遺伝子のタイプを調べると、前立腺がんのかかりやすさを知ることができ、早く見つけて早く治療することに役立つと期待されています。
【2. 理論的根拠】 ロンドン大学癌研究所の研究で、遺伝子「CCHCR1」の特定の型によって、前立腺がんになりやすい人がいることがわかりました。この研究は、アメリカやオーストラリアとも協力して行われました。 遺伝子「CCHCR1」のDNA領域の一つに「rs130067」という場所があります。(参考リンク1) このDNA領域には、「TT型」「TG型」「GG型」という3つの遺伝子型があります。 「TG型」や「GG型」のように「G」を持つ人は、「CCHCR1」タンパク質の一部がグルタミン酸からアスパラギン酸という別のアミノ酸に変わっていて、前立腺がんになりやすい傾向があることがわかっています。 日本人の遺伝子タイプは、次のようになっています。「TT型」が48.7%で最も多く、「GG型」が10.6%で最も少なくなっています。(参考リンク2) 「GG型」と「TG型」を合わせると、2人に1人が、前立腺がんになりやすい型である「G」を持っています。 前立腺がんは、ほかの臓器のがんに比べて進行がゆっくりなので、早く見つかれば治りやすいがんといえます。しかし、初期にはほとんど自覚症状がないため、見つかるのが遅れてしまうことも多くあります。 進行すると、骨やほかの臓器に転移(がんが広がること)することもあるため、早く見つけて適切な治療を受けることが大切です。自分の遺伝子による前立腺がんのかかりやすさを知っておくことは、病気を早く見つけて早く治療することにつながる助けになるでしょう。
【3. 作用機序】 前立腺がんの発症に関わる可能性がある遺伝子「CCHCR1」は、人間の24の染色体のうち、6番染色体にあります。遺伝子「CCHCR1」の働きがうまく調整されないと、タンパク質「EGFR」(細胞を増やす合図を受け取るタンパク質)の働きに影響することがわかっています。タンパク質「EGFR」はがん細胞が増えるときに重要な役割をしていて、遺伝子「CCHCR1」の異常によって「EGFR」が影響を受けると、がん細胞を増やすスイッチがずっとオンのままになってしまいます。(参考リンク3) そのため、前立腺がんの発症に深く関係するとされる遺伝子「CCHCR1」のDNA領域「rs130067」は、注目すべき一塩基多型(DNAの1文字の個人差)の一つです。
前立腺がんとは何か
前立腺がんは、男性の前立腺にできる悪性腫瘍(がん)で、世界で男性が最もかかりやすいがんの一つです。アメリカでは、男性のがんの中で最もかかる人が多いがんです。
前立腺がんの原因となりやすくする要因
前立腺がんには、いくつもの原因が重なって関わります。
- 年齢:50歳以上の男性でかかる人がぐっと増えます。
- 男性ホルモン:男性ホルモンのテストステロンが前立腺がん細胞を増やします。
- 遺伝子の影響:家族に前立腺がんの人がいると、なりやすさが約2〜3倍に上がります。
- 食生活:脂肪の多い食事や欧米風の食事がなりやすさを高めます。
- 人種による違い:東洋人はもともとかかりにくいですが、食生活の欧米化で急に増えています。
なぜ日本で前立腺がんが急に増えているのか
日本人を含む東洋人は、もともと前立腺がんにかかりにくいとされていました。しかし高齢化と欧米風の食生活の影響で、ここ20年でかかる人が急に増えています。厚生労働省の研究班によると、2024年までに男性のがんでかかる人の数が1位になると予測されています。
前立腺がんの主な症状
前立腺がんは初期にはほとんど自覚症状がないため、見つかるのが遅れることがあります。
- おしっこが出にくい・トイレが近い・夜中に何度もトイレに起きます。
- おしっこの勢いが弱くなります。
- 血尿・精液に血がまじります。
- 骨盤・腰・背中の長く続く痛み(進行した場合)
前立腺がんとほかのがんの比較
| 比較項目 | 前立腺がん | 肺がん | 大腸がん |
|---|---|---|---|
| かかりやすい年齢 | 50歳以上 | 60歳以上 | 50歳以上 |
| 進行の速さ | 遅い | 速い | 中程度 |
| 5年生存率 | 約99%(前立腺の中にとどまっている段階) | 約20% | 約72% |
| 主な検査 | 血液検査(前立腺特異抗原) | コンピューター断層撮影検査(エックス線で体の断面を写す検査) | 内視鏡検査 |
| 遺伝子の影響 | 強い関係 | 中程度 | 中程度 |
前立腺がんの診断と治療
次のような検査で診断されます。
- 血液検査(前立腺特異抗原):血液中の前立腺特異抗原(前立腺から出るタンパク質)の量を測ります。
- 直腸指診(指で触って調べる検査):肛門から指を入れて、前立腺の硬さや形を確かめます。
- 前立腺生検(組織をとって調べる検査):前立腺の組織を少しとり、顕微鏡で調べて診断を確定します。
- 磁気共鳴画像検査(磁石と電波で体の中を写す検査):がんの広がりや転移を調べます。
治療法は、がんの進み具合に合わせて、経過観察(すぐに治療せず定期的に様子を見る方法)・手術・放射線治療・ホルモン療法・抗がん剤治療から選びます。
前立腺がんを防ぐためのポイント
- 定期的な血液検査(前立腺特異抗原):50歳以上の男性は年1回の検査がおすすめです。
- 食生活の見直し:動物性の脂肪を控え、大豆食品やトマト(リコピン)を多めにとります。
- 適度な運動:週150分以上の、少し息がはずむくらいの運動がなりにくさにつながります。
- 遺伝子検査の活用:家族に前立腺がんの人がいる場合は、早めに遺伝子によるなりやすさを確認しましょう。
遺伝子と前立腺がんの関係
DNA領域rs130067となりやすさの関係
ロンドン大学癌研究所のSchumacherらの研究で、遺伝子CCHCR1のDNA領域rs130067が前立腺がんのかかりやすさと関係していることがわかりました。
- rs130067にはTT・TG・GGの3つの遺伝子型があります。
- 「G」を持つ遺伝子型(TG型・GG型)の人は、前立腺がんになりやすい傾向があります。
- 「G」があるとCCHCR1タンパク質の一部がグルタミン酸からアスパラギン酸に変わり、EGFRタンパク質の働きに影響します。
遺伝子CCHCR1のはたらくしくみ
遺伝子CCHCR1は、24の染色体のうち6番染色体にあります。CCHCR1の働きがうまく調整されないと、EGFRタンパク質(細胞を増やす合図を受け取るタンパク質)の働きに影響し、がん細胞を増やすスイッチがずっとオンのままになります。このしくみによって、前立腺がんになりやすくなります。
日本人の遺伝子型の分布(rs130067)
| 遺伝子型 | 日本人の割合 | 世界の割合 |
|---|---|---|
| TT型 | 51.3% | 64.9% |
| TG型 | 40.6% | 31.2% |
| GG型 | 8.0% | 3.7% |
日本人では、TG型とGG型を合わせると約48.6%が、なりやすい型である「G」を持っていて、約2人に1人が「G」を持つ遺伝子型です。世界平均(34.9%)と比べて、日本人で「G」を持つ人の割合が高いことは注目すべき点です。
検査の理論的根拠
代表的なDNA領域:前立腺がん
前立腺がんに最も強く影響するDNA領域は、rs130067です。 日本でのこの遺伝子タイプの分布は次のとおりです。
- TT
51.3 % - TG
40.6 % - GG
8.0 %
ほかに、前立腺がんに関わるDNA領域にはrs138708があります。 日本でのこの遺伝子タイプの分布は次のとおりです。
- GG
64.4 % - GA
31.6 % - AA
3.8 %
ほかに、前立腺がんに関わるDNA領域にはrs1805087があります。 日本でのこの遺伝子タイプの分布は次のとおりです。
- AA
66.7 % - AG
29.8 % - GG
3.3 %
ほかに、前立腺がんに関わるDNA領域にはrs705308があります。 日本でのこの遺伝子タイプの分布は次のとおりです。
- CC
0.6 % - CA
15.0 % - AA
84.3 %
ほかに、前立腺がんに関わるDNA領域にはrs7064929があります。 日本でのこの遺伝子タイプの分布は次のとおりです。
- GG
99.9 % - GA
0.1%以下 - AA
0.1%以下
検査の根拠
ロンドン大学癌研究所のSchumacherらの研究で、前立腺がんのかかりやすさが遺伝子と関係していることがわかりました。遺伝子CCHCR1のDNA領域rs130067には「T」と「G」の2種類の型があり、「G」を持つ人(TG型・GG型)は前立腺がんになりやすい傾向があります。「G」があるとCCHCR1タンパク質のアミノ酸がグルタミン酸からアスパラギン酸に変わり、EGFRタンパク質(細胞を増やす合図を受け取るタンパク質)の働きに影響することで、がん細胞が増えやすくなります。
今回調べたDNA領域
細胞の中にあるDNAの地図のイメージ図
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関連遺伝子
| 関連遺伝子 | CCHCR1 |
|---|---|
| 関連遺伝子 | SUN2 |
| 関連遺伝子 | MTR |
| 関連遺伝子 | RN7SL478P |
| 関連遺伝子 | ZC3H12B |
よくある質問
Q1. 前立腺がんとは何ですか?
前立腺がんは、男性の前立腺にできる悪性腫瘍(がん)です。日本では、男性のがんの中でかかる人の数が1位になると予測されています。50歳を過ぎるとかかる人がぐっと増え、年齢・食生活・遺伝子の影響などがいくつも重なって関わります。
Q2. 前立腺がんの原因は何ですか?
主な原因は年齢、男性ホルモン、遺伝子の影響、欧米風の食生活です。遺伝子CCHCR1のDNA領域rs130067で「G」を持つ人は、なりやすい傾向があります。脂肪の多い食事や肥満も、なりやすくする原因として報告されています。
Q3. 遺伝子検査で前立腺がんのなりやすさはわかりますか?
DNA領域rs130067の遺伝子型を調べることで、前立腺がんのなりやすさの傾向がわかりできます。「G」を持つ人(TG型・GG型)はなりやすい傾向があり、日本人の約48.6%が「G」を持っています。
Q4. 前立腺がんは治りますか?
前立腺がんはほかのがんと比べて進行がゆっくりで、早く見つかれば治る割合が高いがんです。がんが前立腺の中にとどまっている段階の5年生存率は約99%です。ただし初期はほとんど自覚症状がないため、50歳以上の男性は年1回、前立腺特異抗原(前立腺から出るタンパク質)を調べる血液検査を受けることがすすめられています。
参考文献
- 参考リンク1 : 2018 Jun., Fredrick R. Schumacher, nature genetics.
- 参考リンク2 : DNA領域「rs130067」の情報 SNPedia
- 参考リンク3 : 2009 Jun., Sari Suomela, PloS one.
- 参考リンク4 : 2018 Jul., Fredrick R Schumacher, Nat Genet
- 参考リンク5 : 2019 Sep., Ryo Takata, Nat Commun
- 参考リンク6 : 2020 Aug., Wei Zhang, Sci Rep
- 参考リンク7 : 2021 Jul., Nadav Brandes, Sci Rep
- 参考リンク8 : 2010 Dec., Sarah L Kerns, Int J Radiat Oncol Biol Phys
- 参考リンク9 : 2011 Jul., Zsofia Kote-Jarai, Nat Genet
- 参考リンク10 : 2021 Jan., David V Conti, Nat Genet
- 参考リンク11 : 2018 Oct., Xiaosong Zhang, Aging (Albany NY)