骨格系疾患
- 骨の病気のリスクは、アルカリホスファターゼという酵素の血中濃度とDNA領域rs9533095の遺伝子型に関係します。
- 日本人の86.3%がGG型を持ち、アルカリホスファターゼの血中濃度が下がりやすい傾向があります。
- 合わせて7つのDNA領域と6つの関係する遺伝子(LINC02341・LARP1B・RUNX1・SLC17A1・ST8SIA3・AXIN1)が骨の病気に関係しています。
概要
【概要・特徴】 「バイオマーカー」という言葉を知っていますか? バイオマーカーとは、体の状態を知るための目印になる数値のことです。健康診断で測る血圧、心電図、血糖値もバイオマーカーの一つです。 最近では、がんが再発していないか、ほかの場所に広がっていないか(転移)を知るためにも使われていて、がんの種類ごとにさまざまなバイオマーカーが見つかっています。 そのうち、肝臓がんや骨肉腫(骨にできるがん)のバイオマーカーとして使われているのが、アルカリホスファターゼという酵素です。 アルカリホスファターゼは、肝臓の働きや骨に異常があるときに、血液の中に多く出てくることが分かっています。 しかし、アルカリホスファターゼを含むバイオマーカーには「感度」と「特異度」の問題があり、100%の確率で病気があるかどうかを見分けられるわけではありません。(感度とは、病気の人を検査で正しく見つけられる割合です。特異度とは、病気ではない人を検査で正しく「病気ではない」と判定できる割合です。) バイオマーカーは病気だけでなく、遺伝子などからも影響を受けます。そのため、バイオマーカーの正確さを上げるには、遺伝子の影響も考える必要があることが分かっています。 遺伝子検査で、あなたの遺伝子タイプがバイオマーカーにどのような影響を与えているか、調べてみてはいかがでしょうか。
【2. 理論的根拠】 アイスランド大学の研究チームは、がんのバイオマーカーであるアルカリホスファターゼと、「LINC02341」という遺伝子にある「rs9533095」というDNA配列との関係を調べました(参考リンク1)。 遺伝子を調べた結果、このDNA配列と、血液中のアルカリホスファターゼの量(血中濃度)に関係があることが確認されました。 人の遺伝情報は、A、T、G、Cという塩基(遺伝情報の文字)の並び方によって決まります。「rs9533095」ではTがGに置き換わることがあり、この置き換えが起きると、アルカリホスファターゼの血中濃度が下がる傾向があることも分かりました。 このDNA領域「rs9533095」は「TT型」、「TG型」、「GG型」の3つのタイプに分けられます。このDNA領域「rs9533095」の日本人の遺伝子タイプは「TT型」が0.5%、「TG型」が13.2%、「GG型」が86.3%です。 特に「GG型」はアルカリホスファターゼの血中濃度が下がりやすい傾向があり、「TG型」は「GG型」に比べると、やや下がりやすい傾向があります(参考リンク2、3)。 日本人で最も多い「GG型」は、ほかのタイプと比べて、アルカリホスファターゼを含むバイオマーカーに影響を与えているタイプであることが知られています。
【3. 作用機序】 「LINC02341」という遺伝子は、人の46本の染色体のうち、13番目の染色体にあります。 この遺伝子は、タンパク質を作るための設計図の役割をしているわけではありません。しかし、『遺伝子⇒遺伝情報の写し⇒タンパク質』の順番でタンパク質が作られる流れの中で、遺伝情報の写しを作ることに関わっていることが分かっています。 ただし、この遺伝子がどのように働いているかは、まだ分かっていない部分が多く、特にアルカリホスファターゼを減らすことにどう関わっているのかは分かっていません。 今の時点で確かめられているのは、遺伝子「LINC02341」とDNA領域「rs9533095」が関係していること、そしてそれがアルカリホスファターゼの減少と関係していることです。
骨格系疾患とは何か
骨格系疾患とは、骨・関節・軟骨に起こる病気をまとめた呼び方で、骨肉腫(骨にできるがん)や骨粗鬆症(骨がもろくなる病気)などが含まれます。骨の病気のリスクを調べるときには、バイオマーカー(体の状態を知る目印)であるアルカリホスファターゼという酵素の血中濃度が目安として使われています。
アルカリホスファターゼとは何か ― 骨の病気の目印になる酵素
アルカリホスファターゼは、肝臓がんや骨肉腫のバイオマーカー(体の状態を知る目印)として使われる酵素です。アルカリホスファターゼは、肝臓の働きや骨に異常があるとき、血液中に増えることが確認されています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名称 | アルカリホスファターゼ |
| 種類 | 酵素(体の状態を知る目印=バイオマーカー) |
| 用途 | 肝臓がん・骨肉腫の検査の目安 |
| 特徴 | 肝臓の働きや骨に異常があると血液中で増えます。 |
| 課題 | 感度・特異度に限界があり、遺伝子の影響も考える必要があります。 |
バイオマーカーには、感度(病気の人を正しく見つけられる割合)と特異度(病気ではない人を正しく判定できる割合)に限界があります。アルカリホスファターゼを含むバイオマーカーは遺伝子の影響も受けるため、正確さを上げるには、遺伝子の影響も考えることが大切です。
骨の病気と遺伝子の関係 ― なぜ遺伝子検査が大切なのか
アイスランド大学の研究チーム(参考リンク1)は、アルカリホスファターゼと遺伝子「LINC02341」のDNA領域「rs9533095」の関係を明らかにしました。研究の結果、次のことが分かっています。
- DNA領域rs9533095の塩基の並びとアルカリホスファターゼの血中濃度に関係があることが確認されました。
- rs9533095ではT(チミン)がG(グアニン)に置き換わることがあります。
- G型への置き換えが起きると、アルカリホスファターゼの血中濃度が減少する傾向があります。
DNA領域rs9533095の遺伝子型と特徴
| 遺伝子型 | 日本人の割合 | アルカリホスファターゼの血中濃度への影響 |
|---|---|---|
| TT型 | 0.5% | アルカリホスファターゼの濃度は標準的です。 |
| TG型 | 13.2% | アルカリホスファターゼの濃度はGG型よりやや低めです。 |
| GG型 | 86.3% | アルカリホスファターゼの濃度が下がりやすい傾向があります。 |
日本人で最も割合の高いGG型(86.3%)は、アルカリホスファターゼを含むバイオマーカーに、遺伝子の面から影響を与えているタイプです。
LINC02341遺伝子のはたらき
LINC02341遺伝子は、人の46本の染色体のうち13番目の染色体にあります。この遺伝子の特徴は次のとおりです。
- タンパク質の設計図そのものになる遺伝子ではありません。
- 「遺伝子→遺伝情報の写し→タンパク質」の順番でタンパク質が作られる流れの中で、遺伝情報の写しを作ることに関わっています。
- アルカリホスファターゼを減らすことにどう関わっているかは、まだ研究中です。
- LINC02341とDNA領域rs9533095が関係していること、そしてアルカリホスファターゼの減少と関係していることが確かめられています。
骨の病気のリスクを下げるためにできること
遺伝子の影響に加えて、次のような生活習慣の見直しが骨の病気のリスクを下げるのに役立つとされています。
- 定期的な健康診断:アルカリホスファターゼの値を含む血液検査を年1回以上受けます。
- カルシウム・ビタミンDをとる:骨密度を保つのに欠かせない栄養素を、食事やサプリメントでとります。
- 骨に体重をかける運動:週3回以上のウォーキングや筋力トレーニングが骨密度(骨の強さ)を高めるのに効果的です。
- 禁煙・お酒はほどほどに:喫煙やお酒の飲みすぎは、骨密度が下がるのを早めます。
- 遺伝子検査を役立てる:自分の遺伝子型を知って、自分に合った予防を早めに始められます。
遺伝子型ごとの割合のデータ
7つのDNA領域での日本人と世界の遺伝子型の割合のくらべ
骨の病気には、合わせて7つのDNA領域が関係しています。それぞれのDNA領域について、日本人と世界の遺伝子型の割合を下に示します。
| DNA領域 | 遺伝子型 | 日本人の割合 | 世界の割合 |
|---|---|---|---|
| rs9533095 | GG | 86.0% | 30.9% |
| GT | 13.3% | 49.3% | |
| TT | 0.5% | 19.6% | |
| rs13109814 | AA | 8.3% | 34.0% |
| AT | 41.0% | 48.6% | |
| TT | 50.6% | 17.3% | |
| rs2834963 | CC | 21.3% | 33.8% |
| CT | 49.7% | 48.6% | |
| TT | 28.9% | 17.5% | |
| rs3923 | TT | 42.7% | 14.7% |
| TC | 45.2% | 47.3% | |
| CC | 11.9% | 37.9% | |
| rs4092465 | AA | 59.9% | 15.5% |
| AG | 34.9% | 47.7% | |
| GG | 5.1% | 36.7% | |
| rs2301522 | AA | 38.4% | 11.2% |
| AG | 47.1% | 44.6% | |
| GG | 14.4% | 44.1% | |
| rs9533090 | CC | 87.8% | 31.5% |
| CT | 11.7% | 49.2% | |
| TT | 0.3% | 19.1% |
検査の科学的な根拠
代表的なDNA領域:骨格系疾患
骨格系疾患 に最も強く影響するDNA領域は、rs9533095です。 日本でのこのDNA領域の遺伝子タイプの割合は下のとおりです。
- GG
86.0 % - GT
13.3 % - TT
0.5 %
ほかに、骨格系疾患に関わるDNA領域にはrs13109814があります。 日本でのこのDNA領域の遺伝子タイプの割合は下のとおりです。
- AA
8.3 % - AT
41.0 % - TT
50.6 %
ほかに、骨格系疾患に関わるDNA領域にはrs2834963があります。 日本でのこのDNA領域の遺伝子タイプの割合は下のとおりです。
- CC
21.3 % - CT
49.7 % - TT
28.9 %
ほかに、骨格系疾患に関わるDNA領域にはrs3923があります。 日本でのこのDNA領域の遺伝子タイプの割合は下のとおりです。
- TT
42.7 % - TC
45.2 % - CC
11.9 %
ほかに、骨格系疾患に関わるDNA領域にはrs4092465があります。 日本でのこのDNA領域の遺伝子タイプの割合は下のとおりです。
- AA
59.9 % - AG
34.9 % - GG
5.1 %
ほかに、骨格系疾患に関わるDNA領域にはrs2301522があります。 日本でのこのDNA領域の遺伝子タイプの割合は下のとおりです。
- AA
38.4 % - AG
47.1 % - GG
14.4 %
ほかに、骨格系疾患に関わるDNA領域にはrs9533090があります。 日本でのこのDNA領域の遺伝子タイプの割合は下のとおりです。
- CC
87.8 % - CT
11.7 % - TT
0.3 %
検査の根拠
アイスランド大学の研究チームによって、骨の病気のバイオマーカー(体の状態を知る目印)であるアルカリホスファターゼと、遺伝子「LINC02341」のDNA領域「rs9533095」の関係が明らかになりました。GG型を持つ人はアルカリホスファターゼの血中濃度が下がりやすい傾向があり、遺伝子がバイオマーカーの正確さに影響しています(1)。
今回調査したDNA領域
細胞の中にあるDNAマップの模式図
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関係する遺伝子
| 関係する遺伝子 | LINC02341 |
|---|---|
| 関係する遺伝子 | LARP1B |
| 関係する遺伝子 | RUNX1 |
| 関係する遺伝子 | SLC17A1 |
| 関係する遺伝子 | ST8SIA3 |
| 関係する遺伝子 | AXIN1 |
| 関係する遺伝子 | LINC02341 |
よくある質問
Q1. 骨格系疾患とは何ですか?
骨格系疾患とは、骨・関節・軟骨に起こる病気をまとめた呼び方です。骨肉腫(骨にできるがん)や骨粗鬆症(骨がもろくなる病気)が代表的な例です。バイオマーカー(体の状態を知る目印)であるアルカリホスファターゼという酵素の血中濃度を測ることで、骨の病気のリスクを調べることができます。アルカリホスファターゼは、肝臓の働きや骨に異常があるときに血液中で増える酵素です。
Q2. アルカリホスファターゼと骨の病気の関係は?
アルカリホスファターゼは、肝臓がんや骨肉腫のバイオマーカー(体の状態を知る目印)として使われる酵素です。肝臓の働きや骨に異常があるとき、血液中のアルカリホスファターゼの量が増えます。検査の正確さを上げるには遺伝子の影響も考える必要があり、DNA領域rs9533095のGG型を持つ人はアルカリホスファターゼの血中濃度が下がりやすい傾向があります。
Q3. 骨の病気に関係するDNA領域は?
骨の病気に最も強く影響するDNA領域はrs9533095です。そのほかに、rs13109814・rs2834963・rs3923・rs4092465・rs2301522・rs9533090をあわせた7つのDNA領域が関係しています。関係する遺伝子には、LINC02341・LARP1B・RUNX1・SLC17A1・ST8SIA3・AXIN1があります。
Q4. 骨の病気に関係する遺伝子型の日本人での割合は?
DNA領域rs9533095の日本人の遺伝子型の割合は、GG型86.0%・GT型13.3%・TT型0.5%です。世界平均(GG型30.9%・GT型49.3%・TT型19.6%)とくらべて、日本人はGG型の割合がとても高いという特徴があります。
Q5. 骨の病気のリスクを下げるためにできることは?
定期的な健康診断でアルカリホスファターゼの値を確認すること、カルシウムとビタミンDをしっかりとること、週3回以上の骨に体重をかける運動がすすめられています。たばこを吸わないこと、お酒を飲みすぎないことも、骨密度(骨の強さ)を保つのに役立ちます。遺伝子検査で自分の傾向を知り、早めに予防することも大切です。
参考文献
- 参考リンク1 : 2020 Jan., Sigurgeir Olafsson, Cancer Epidemiology, Biomarkers & Prevention.
- 参考リンク2 : DNA領域「rs9533095」の情報(大勢の人の遺伝子を一度に調べる大規模な研究の結果をまとめたデータベース)
- 参考リンク3 : DNA領域「rs9533095」の情報(アメリカ国立衛生研究所)
- 参考リンク4 : 2020 Jan., Sigurgeir Olafsson, Cancer Epidemiol Biomarkers Prev
- 参考リンク5 : 2021 May., Raha Pazoki, Nat Commun
- 参考リンク6 : 2021 Feb., Vincent L Chen, Nat Commun
- 参考リンク7 : 2021 Oct., Saori Sakaue, Nat Genet
- 参考リンク8 : 2020 Dec., Jonas B Nielsen, Nat Commun