精巣がん
- 精巣がんは10万人あたり1人がかかるがんで、20〜30歳代の男性に最も多いです。
- 遺伝子TKTL1のDNA領域rs17336718のTというタイプがなりやすさに関係し、日本人でCC型の人は99.9%です。
- はじめの症状は痛みのない陰嚢の腫れやしこりで、遺伝子検査でなりやすさを早めに知ることが早期発見に役立ちます。
概要
【概要・特徴】 精巣は男性の体の中にある臓器で、陰嚢(いんのう)の中に左右1つずつあります。 精巣は、男性ホルモンを出したり、精子を作ったりする大切な役割をもっています。精巣がんは、精巣の中にできる悪性腫瘍(がん)で、10万人あたり1人がかかる比較的まれな病気です。 ただし、20~30歳代の男性では最も多いがんとされ、若い世代でかかりやすいのが特徴です(参考リンク1)。 精巣がんの原因はまだはっきりわかっていませんが、停留精巣(精巣が陰嚢の中まで降りてきていない状態)がある人は、精巣がんになりやすいとされています。 また、けがや、家族に精巣がんの人がいることも、なりやすくなる原因とされています。最近の研究では、遺伝子「TKTL1」が精巣がんのなりやすさにある程度影響していることがわかりました(参考リンク2)。
【2. 理論的根拠】 アメリカのペンシルベニア大学と精巣腫瘍の研究グループ(コンソーシアム)の研究で、遺伝子「TKTL1」のタイプを調べると、精巣がんになりやすい人がわかることが明らかになりました。 この遺伝子の中の「rs17336718」というDNA領域で、特定の遺伝子型をもつ人は、精巣がんになる可能性が高いことがわかりました(参考リンク1)。 DNA領域「rs17336718」には、「CC型」「CT型」「TT型」の3つの遺伝子型があります。 このうち、なりやすさに関係する「T」を2つもつTT型は精巣がんになりやすい傾向があり、CT型もややなりやすい傾向があることがわかっています。 日本人での遺伝子型の割合は、次のとおりです。 「CC型」が81.8%、「CT型」が17.2%で、「TT型」はほとんどいないことがわかりました(参考リンク3)。 このため、日本人は精巣がんになる可能性が比較的低いといえます。 しかし、精巣がんは若い人に多く、はじめの症状が痛みのない陰嚢の腫れやしこりであるため、早く見つけるのが難しいことが多いとされています。 また、精巣がんは進むのが速く、全身のリンパ節や臓器にすばやく転移(がんが広がること)することもあります。 このことから、遺伝子検査で精巣がんのなりやすさを前もって知っておくことは、精巣がんの早期発見・早期治療に役立つと期待されています。
【3. 作用機序】 精巣がんに関わる可能性がある遺伝子「TKTL1」は、ヒトがもつ24種類の染色体のうち、X染色体の上にあります。 遺伝子「TKTL1」のイントロン(遺伝子の情報が写し取られたあと、最後に取り除かれる部分)にあるDNA領域「rs17336718」は、遺伝子「TKTL1」がどれくらい働くかを調節していることがわかっています。 ふつう、細胞がエネルギーを作る方法には、「解糖系」と「(クエン酸回路による)電子伝達系」の2種類があります。 正常な細胞は、酸素を使ってたくさんのエネルギーを効率よく作れる「電子伝達系」を使います。 一方、がん細胞では、効率は悪いものの、すばやくエネルギーを作れて、増えるのに必要な核酸(DNAなどの材料)も作れる「解糖系」が主になることが知られています。 ※これを好気的解糖 (ワールブルク効果)と呼びます。 遺伝子「TKTL1」は、この「解糖系」から核酸を作る流れに深く関わっています。多くのがん細胞で遺伝子「TKTL1」が働いていて、治療後の経過が悪いことと関係していると報告されています。(参考リンク4) そして、精巣がんの患者さんでも遺伝子「TKTL1」が関わっていることが報告されており、がんが大きくなるのを後押しする役割があると考えられています。(参考リンク2) 遺伝子「TKTL1」のDNA領域「rs17336718」は精巣がんのなりやすさに関係しており、注目されている遺伝子の個人差(一塩基多型)の一つです。
精巣がんとは何か
精巣がんは、精巣の中にできる悪性腫瘍(がん)で、10万人あたり1人がかかる比較的まれながんです。20〜30歳代の男性で最も多いがんで、若い世代でかかりやすいのが特徴です(参考リンク1)。
精巣がんの原因となりやすくなる要因
精巣がんのはっきりした原因はまだわかっていませんが、次のようなことがなりやすさに関係するとされています。
- 停留精巣:精巣が陰嚢の中まで降りてきていない状態の男性は、なりやすいとされています。
- けが:精巣へのけがなどのダメージが、なりやすくなる原因になります。
- 家族の病歴:家族や親せきに精巣がんの人がいると、なりやすくなります。
- 遺伝子TKTL1:DNA領域「rs17336718」のTというタイプが、なりやすさを高めることが研究でわかっています(参考リンク2)。
精巣がんのはじめの症状
精巣がんのはじめの症状は痛みのない陰嚢の腫れやしこりです。痛みがないため、見つかるのが遅れることがあります。
- 片方の精巣が大きくなったり、かたくなったりします。
- 陰嚢が重たく感じます。
- 下腹部や足のつけ根(鼠径部)のにぶい痛み
- 進んだとき:リンパ節の腫れ、息苦しさ(肺に転移した場合)です。
精巣がんの進む速さと転移
精巣がんは進むのが速く、全身のリンパ節や臓器にすばやく転移するという特徴があります。早く見つけることが治療の成功に直結するため、自分でのチェックと、遺伝子検査でなりやすさを知っておくことが大切です。
精巣がんの種類と特徴
| 比較項目 | セミノーマ(精上皮腫) | 非セミノーマ(セミノーマ以外のタイプ) |
|---|---|---|
| 頻度 | 約50% | 約50% |
| かかりやすい年齢 | 30〜40歳代 | 20歳代 |
| 進む速さ | 比較的ゆっくり | 速い |
| 放射線治療の効きやすさ | 高い | 低い |
| 治療の効き方 | 良好 | 抗がん剤による治療が中心 |
遺伝子と精巣がんの関係
DNA領域rs17336718となりやすさの関係
アメリカのペンシルベニア大学と精巣腫瘍の研究グループ(コンソーシアム)の研究で、遺伝子TKTL1のDNA領域rs17336718が精巣がんのなりやすさに関係していることがわかりました(参考リンク2)。
- rs17336718にはCC・CT・TTの3つの遺伝子型があります。
- なりやすさに関係するTを2つもつTT型は精巣がんになりやすい傾向があります。
- CT型もややなりやすい傾向があると報告されています。
日本人の遺伝子型の割合(rs17336718)
| 遺伝子型 | 日本人の割合 | 世界の割合 | なりやすさの傾向 |
|---|---|---|---|
| CC型 | 99.9% | 88.4% | なりにくい |
| CT型 | 0.1%以下 | 11.2% | ややなりやすいです。 |
| TT型 | 0.1%以下 | 0.3% | なりやすい |
日本人はCC型が99.9%をしめるため、遺伝子の面から見た精巣がんのなりやすさは比較的低いと考えられます(参考リンク3)。
TKTL1遺伝子がはたらくしくみ
遺伝子TKTL1はX染色体の上にあり、がん細胞がエネルギーを作るしくみに深く関わっています。
- DNA領域rs17336718はTKTL1のイントロン(最後に取り除かれる部分)にあり、遺伝子の働きを調節します。
- 正常な細胞は酸素を使う「電子伝達系」でエネルギーを作ります。
- がん細胞では効率の低い「解糖系」が主になります(ワールブルク効果)。
- TKTL1は解糖系から核酸(DNAなどの材料)を作る流れに関わり、がんが大きくなるのを後押しします(参考リンク4)。
- 精巣がんの患者さんでTKTL1が働いていることが確認され、がんが大きくなることに関わると報告されています(参考リンク2)。
検査の理論的根拠
代表的なDNA領域:精巣がん
精巣がんに最も強く影響するDNA領域は、rs17336718です。 日本でのこの遺伝子型の割合は下のとおりです。
- CC
99.9 % - CT
0.1%以下 - TT
0.1%以下
ほかに、精巣がんに関わるDNA領域としてrs56016578があります。 日本でのこの遺伝子型の割合は下のとおりです。
- CC
99.9 % - CT
0.1%以下 - TT
0.1%以下
ほかに、精巣がんに関わるDNA領域としてrs7221274があります。 日本でのこの遺伝子型の割合は下のとおりです。
- AA
65.2 % - AG
31.0 % - GG
3.6 %
検査の根拠
アメリカのペンシルベニア大学と精巣腫瘍の研究グループ(コンソーシアム)の研究で、遺伝子TKTL1のDNA領域rs17336718が精巣がんのなりやすさと関係していることがわかりました。rs17336718にはCとTの2つのタイプがあり、なりやすさに関係するTを2つもつTT型は、精巣がんになる可能性が高い傾向にあります(参考リンク2)。日本人ではCC型が99.9%をしめ、Tをもつ人はとても少ないことがわかっています(参考リンク3)。
今回調べたDNA領域
細胞の中にあるDNAマップの図
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関連遺伝子
| 関連遺伝子 | TKTL1 |
|---|---|
| 関連遺伝子 | CLDN14 |
| 関連遺伝子 | PPM1E |
よくある質問
Q1. 精巣がんとは何ですか?
精巣がんは精巣の中にできる悪性腫瘍(がん)で、10万人あたり1人がかかる比較的まれながんです。20〜30歳代の男性に最も多く、若い世代でかかりやすいのが特徴です(参考リンク1)。
Q2. 精巣がんの原因は何ですか?
はっきりした原因はまだわかっていませんが、停留精巣・けが・家族に精巣がんの人がいることが、なりやすくなる原因とされています。遺伝子TKTL1のDNA領域rs17336718のTというタイプが、なりやすさに関係していることが研究でわかっています(参考リンク2)。
Q3. 精巣がんの遺伝子検査で何がわかりますか?
DNA領域rs17336718の遺伝子型を調べることで、精巣がんのなりやすさの傾向を知ることができます。日本人ではCC型が99.9%をしめ、なりやすさに関係するTをもつ人はとても少ないという結果です(参考リンク3)。
Q4. 精巣がんのはじめの症状は?
はじめの症状は痛みのない陰嚢の腫れやしこりです。痛みがないため早く見つけるのが難しく、進むと全身のリンパ節や臓器にすばやく転移(がんが広がること)することがあります。
Q5. TKTL1遺伝子と精巣がんの関係は?
TKTL1遺伝子はX染色体の上にあり、がん細胞の解糖系(ワールブルク効果)に深く関わってしています。精巣がんの患者さんでTKTL1が働いていて、がんが大きくなるのを後押しする役割があることが報告されています(参考リンク4)。
参考文献
- 参考リンク1 : 2021 May.,Tomohiro Matsuda,JJCO.
- 参考リンク2 : 2017 Dce.,Zhaoming Wang, Nature Genetics.
- 参考リンク3 : DNA領域「rs17336718」の情報 TogoVar(日本人の遺伝子データベース)
- 参考リンク4 : 2006 Feb., S Langbein, BJC.
- 参考リンク5 : 2017 Jul., Zhaoming Wang, Nat Genet
- 参考リンク6 : 2020 Sep., Sara R Rashkin, Nat Commun
- 参考リンク7 : 2013 Jun., Charles C Chung, Nat Genet