トリオースリン酸イソメラーゼ欠損症
- トリオースリン酸イソメラーゼ欠損症は、糖をエネルギーに変える酵素がうまく働かないことで起こる、まれな生まれつきの代謝の病気で、発症するのは100万人に1人未満です。
- DNA領域rs2071058のAタイプを持つ人は発症リスクが高い傾向にあることが研究で分かっています。
- 溶血性貧血・神経の障害・心筋症が主な症状で、症状をやわらげる治療(対症療法)が中心で、根本から治す方法の研究が進行中です。
概要
【病気の概要】 トリオースリン酸イソメラーゼ欠損症は、トリオースリン酸イソメラーゼという酵素(体の中の化学反応を助けるたんぱく質)がない、またはうまく働かないことで起こる、生まれつきの代謝(体の中で栄養をエネルギーに変えるしくみ)の病気です。
【症状と特徴】 トリオースリン酸イソメラーゼは、糖をエネルギーに変える「解糖系」という流れの中で大切な役割をもつ酵素です。 この酵素が正しく働くことで、トリオースリン酸という途中でできる物質がエネルギーのもとに変わります。 この病気は常染色体劣性遺伝(両親の両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症するタイプ)で、両親からそれぞれ一つずつ変化した遺伝子を受け継ぐことで発症します。
【治療と注意点】 この病気はとてもまれで、主に体を動かす働きや神経の働きに悪い影響を与えます。 運動失調(体をうまく動かせない状態)、筋肉のけいれん、知的障害、溶血性貧血(赤血球が壊れやすくなる貧血)、心筋症(心臓の筋肉の病気)などの症状が出ます。 診断は、血液検査や尿検査でこの酵素の働きの強さを測って行います。 さらに、遺伝子検査でTPI1遺伝子の変化を確かめます。 治療は症状をやわらげる対症療法が中心で、神経の症状を軽くし、患者さんの生活の質を高めることを目的としています。 リハビリテーションや理学療法、作業療法などが行われますが、病気を根本から治す方法は今のところ見つかっていません。 病気の進行を遅らせるための研究が続けられており、新しい治療法の開発が期待されています。
【遺伝的リスク】 アイスランド心臓協会のEmilssonらの研究により、トリオースリン酸イソメラーゼ欠損症になるリスクがrs2071058というDNA領域と関係していることが分かりました。 このDNA領域にはAA、AT、TTの3つの遺伝子型があり、Aを持つ遺伝子型の人は、この病気のリスクが高い傾向にあることが分かりました。
トリオースリン酸イソメラーゼ欠損症とは
トリオースリン酸イソメラーゼ欠損症は、糖をエネルギーに変える酵素であるトリオースリン酸イソメラーゼがない、またはうまく働かないことで起こる、常染色体劣性遺伝の代謝の病気です。発症するのは100万人に1人未満とされ、とてもまれな遺伝性の病気に分類されます。
トリオースリン酸イソメラーゼ欠損症の原因としくみ
この病気は、TPI1遺伝子の変化によって起こります。トリオースリン酸イソメラーゼという酵素は、解糖系で次の役割を持っています。
- 基本機能:ジヒドロキシアセトンリン酸という物質をグリセルアルデヒド3-リン酸という物質に変えます。
- エネルギー産生:糖(ブドウ糖)を体のエネルギーに変える解糖系の、途中の反応を助けます。
この酵素が働かないと、ジヒドロキシアセトンリン酸という物質がたまり、細胞を傷つけます。遺伝のしかたの特徴は次のとおりです。
- 常染色体劣性遺伝:両親から1つずつ変化した遺伝子を受け継ぐことで発症します。
- 保因者:変化した遺伝子を1つだけ持つ場合は症状が出ませんが、保因者(キャリア)となります。
トリオースリン酸イソメラーゼ欠損症の主な症状
症状は赤ちゃんのころから現れ、体のいろいろな臓器に影響を与えます。
- 溶血性貧血:赤血球が早く壊れてしまい、長く続く貧血を起こします。
- 神経の障害:運動失調(体をうまく動かせない)、筋肉のけいれん、だんだん進む運動機能の障害があります。
- 知的障害:考える力などの発達が遅れます。
- 心筋症:心臓の筋肉の働きが弱くなります。
- 感染しやすさ:体を守る免疫の働きが弱まり、感染症をくり返します。
トリオースリン酸イソメラーゼ欠損症と他の解糖系の酵素の病気の比較
| 比較項目 | トリオースリン酸イソメラーゼ欠損症 | ピルビン酸キナーゼ欠損症 |
|---|---|---|
| 原因となる酵素 | トリオースリン酸イソメラーゼ | ピルビン酸キナーゼ |
| 発症する頻度 | 100万人に1人未満 | 解糖系の酵素の病気の中で最も多いです。 |
| 主な症状 | 溶血性貧血+神経の障害 | 溶血性貧血が中心 |
| 神経の症状 | あり(だんだん進む) | なし |
| 病気の見通し | 重い(子どものうちに亡くなる例あり) | 比較的よい |
| 遺伝のしかた | 常染色体劣性 | 常染色体劣性 |
診断方法
次の検査によって診断されます。
- 血液検査:この酵素の働きの強さを測ります(正常の10%以下で診断が確定します)。
- 遺伝子検査:TPI1遺伝子の変化を調べます。
- 尿検査:ジヒドロキシアセトンリン酸がたまっているかを確認します。
治療法と予防
現在、病気を根本から治す方法は見つかっていません。次のような、症状をやわらげる治療(対症療法)が行われます。
- 溶血性貧血に対する輸血
- リハビリテーション・理学療法・作業療法による運動機能の維持
- 感染症予防のための免疫サポート
遺伝子治療や、足りない酵素を補う酵素補充療法など、新しい治療法の研究開発が進められています。
遺伝子とトリオースリン酸イソメラーゼ欠損症の関係
DNA領域rs2071058と発症リスクの関係
アイスランド心臓協会のEmilssonらの研究により、DNA領域rs2071058がこの病気になるリスクと関係していることが分かりました。
- rs2071058にはAA・AT・TTの3つの遺伝子型が存在します。
- Aタイプを持つ遺伝子型の人は、この病気のリスクが高い傾向があります。
日本人における遺伝子型分布(rs2071058)
| 遺伝子型 | 日本人の割合 | 世界の割合 |
|---|---|---|
| AA型 | 31.1% | 39.1% |
| AT型 | 49.3% | 46.8% |
| TT型 | 19.5% | 14.0% |
検査の理論的根拠
代表的なDNA領域:トリオースリン酸イソメラーゼ欠損症
トリオースリン酸イソメラーゼ欠損症 に最も強く影響するDNA領域は、rs2071058です。 日本におけるこの領域の遺伝子タイプの分布は下記のとおりです。
- AA
31.1 % - AT
49.3 % - TT
19.5 %
検査の根拠
アイスランド心臓協会のEmilssonらの研究により、トリオースリン酸イソメラーゼ欠損症になるリスクが遺伝子と関係していることが分かりました。人のDNAには、rs2071058という領域があり、この領域にはAとTの2種類のタイプがあります。Aタイプを持つ人は、この病気のリスクが高い傾向にあることが分かりました。
今回調査したDNA領域
細胞の中にあるDNAマップの模式図
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関連遺伝子
| 関連遺伝子 | CDCA3 |
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よくある質問
Q1. トリオースリン酸イソメラーゼ欠損症とは何ですか?
トリオースリン酸イソメラーゼ欠損症は、糖をエネルギーに変える酵素であるトリオースリン酸イソメラーゼがうまく働かないことで起こる、常染色体劣性遺伝の代謝の病気です。発症するのは100万人に1人未満のまれな病気で、溶血性貧血・神経の障害・心筋症が主な症状です。
Q2. この病気の原因は何ですか?
原因はTPI1遺伝子の変化です。この遺伝子から作られるトリオースリン酸イソメラーゼという酵素は、解糖系でジヒドロキシアセトンリン酸という物質をグリセルアルデヒド3-リン酸という物質に変える反応を助けます。常染色体劣性遺伝のため、両親から1つずつ変化した遺伝子を受け継ぐことで発症します。
Q3. この病気の症状にはどのようなものがありますか?
主な症状は溶血性貧血、だんだん進む神経の障害(運動失調・筋肉のけいれん)、知的障害、心筋症(心臓の筋肉の病気)です。赤ちゃんのころから症状が現れ、重い場合には5〜6歳までに亡くなるケースもあります。
Q4. 遺伝子検査でこの病気のリスクは分かりますか?
DNA領域rs2071058の遺伝子型を調べることで、この病気になるリスクの傾向を知ることができます。Aタイプを持つ遺伝子型の人はリスクが高い傾向にあることが、Emilssonらの研究で分かっています。
Q5. この病気に治療法はありますか?
現在、病気を根本から治す方法は見つかっていません。症状をやわらげる対症療法として、輸血や、リハビリテーション・理学療法・作業療法による神経の症状の緩和が行われます。遺伝子治療や、足りない酵素を補う酵素補充療法の研究が進められています。
参考文献
- 参考リンク1 : 2018 Aug., Valur Emilsson, Science