結核
- 結核は結核菌による感染症で、日本では年間約18,000人が新たに発症し、世界の10大死因の一つに数えられています。
- DNA領域rs142513793のCC型を持つ人は発症リスクが高い傾向にあり、日本人の99.98%がCC型に該当します。
- 禁煙・栄養をしっかりとること・免疫力を保つことにより、遺伝子型に関係なく発症リスクを減らすことが可能です。
概要
【概要・特徴】 結核は、結核菌という細菌の一種によって引き起こされる感染症で、肺や腎臓、腸に入り込んで炎症を引き起こします。 進行すると結核菌が血流に乗って、全身にばらまかれ、あちこちに病気の部分(病巣)ができる状態(粟粒結核)となり、命に危険が及ぶことさえある怖い病気です。 昔の病気のように感じますが、日本では年間で約18,000人が結核を新たに発症し、世界の10大死因の一つにもなっている身近な感染症です。(参考リンク1) また、結核菌は感染したからといって全ての人が発症するわけでなく、感染している人のうち5〜15%が発症するといわれています。 さまざまな研究から、結核の発症には遺伝子の影響と環境の影響の両方が関わることがわかっています。 近年では、結核の発症リスクに関わる遺伝子が複数発見されており、今回はその中でも、ZNF630という遺伝子付近のとある部位に関して説明します。
【2. 理論的根拠】 南アフリカのケープタウン大学感染症分子医学研究所で行われた研究から、ZNF630遺伝子の近くにある特定のタイプを持つ人に、結核を発症しやすい人が多い傾向があることがわかりました。 その部位はDNA領域「rs142513793」と呼ばれています。(参考リンク2) DNA領域「rs142513793」には、「CC」、「CT」、「TT」と3つの遺伝子型があります。 CCタイプの遺伝子型をもつ人は、結核の発症リスクが高い傾向にあり、CTタイプの人はやや高い傾向があることがわかっています。 日本人の遺伝子型は、CCタイプが最も多い 99.98%、CTタイプは0.01%、TTタイプは最も少ない0.01%未満を示します。(参考リンク3) 日本人の大多数がCCタイプの結核を発症しやすい遺伝子型を持っていることになりますが、必ずしも結核を発症するわけではありません。 たとえば、糖尿病患者では結核を発症するリスクが約3倍、喫煙者では約2.3倍高くなることが報告されており、栄養が足りない状態(低栄養)は結核菌から体を守る免疫のはたらきを弱めるため、発症の重要なリスク因子とされています。(参考リンク4、5、6) つまり、禁煙や糖質の少ない食生活を心がけ、ビタミンや微量必須ミネラルをサプリメントで栄養補助することは、遺伝子型に限らず、免疫力の低下を防ぐことが期待できます。 このように、発症リスクを高める生活習慣を回避し、発症リスクを少しでも減らす環境を選択することが大切です。 遺伝子検査により、結核の発症リスクを知ることは、生活習慣や環境を見直して予防や早めの対策を始めるきっかけになる可能性があります。
【3. メカニズム】 ZNF630遺伝子は、ヒトに共通する24の染色体のうち、X染色体に位置し、亜鉛イオンと結びつく「ジンクフィンガータンパク質」(亜鉛を使って形を保つたんぱく質)を作るための遺伝情報を持っています。 また、甲状腺、卵巣などのさまざまな組織ではたらいて(発現して)いますが、マクロファージ(体に入った異物を食べる細胞)や、リンパ球の一種であるナチュラルキラー細胞などの免疫細胞で特に多くはたらいていることがわかっています。(参考リンク7、8) ZNF630が結核の発症リスクに関わるしくみは、まだ解明されていません。 しかし、ZNF630が亜鉛と関連し、マクロファージやナチュラルキラー細胞で多くはたらいていること、亜鉛が不足するとナチュラルキラー細胞の免疫のはたらき(病原体を攻撃して倒す作用)が弱まるという報告があることから、ZNF630付近に存在するrs142513793と結核の発症とが関係しているのではないかと考えられています。(参考リンク9) 以上のように、DNA領域「rs142513793」は結核の発症リスクと関係し、注目されている遺伝子の個人差(一塩基多型)の1つです。
結核とは何か
結核は、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)という細菌によって起こる感染症で、主に肺に感染し、腎臓・腸・リンパ節など全身に影響することがあります。日本では年間約18,000人が新たに発症し、世界保健機関が発表する世界の10大死因の一つです。
結核の原因と感染メカニズム
結核は空気感染(飛沫核感染)でうつります。感染した後の特徴は以下のとおりです。
- 感染率:感染した人のうち一生のうちに発症するのは5〜15%です。
- 潜伏感染(症状がない感染):結核菌が体内に存在しても免疫で抑え込まれている状態です。
- 活動性結核:免疫力が下がったときに結核菌が増えて発症します。
発症には遺伝子の影響と環境の影響の両方が関わります。
結核の主な症状
症状はゆっくり進行するため、初めのうちは見逃されることがあります。
- 2週間以上続くせき・痰
- 血の混じった痰・せきと一緒に血を吐きます(喀血)。
- 微熱・寝汗
- 体重減少・食欲不振
- 全身のだるさ
結核の発症リスクを高める要因
| リスク因子 | リスク倍率 | メカニズム |
|---|---|---|
| 糖尿病 | 約3倍 | 血糖値が高いことによる免疫のはたらきの低下です。 |
| 喫煙 | 約2.3倍 | 肺の防御機能の低下 |
| 低栄養 | はっきり増えます。 | 免疫細胞のはたらきの低下 |
| エイズウイルス(ヒト免疫不全ウイルス)への感染 | 約20〜30倍 | 免疫の司令塔となるリンパ球の減少 |
結核の合併症と進行リスク
きちんと治療をしないと、以下のような重い合併症を起こすことがあります。
- 粟粒結核:結核菌が血流に乗って全身に広がる状態で、命にかかわることがあります。
- 結核性髄膜炎:脳を包む膜への感染で、重い神経の症状を起こします。
- 腎結核:腎臓への感染による腎機能障害
- 骨関節結核:脊椎や関節への結核菌の感染
結核の予防法
以下の対策で発症リスクを減らすことができます。
- 結核予防ワクチンの接種(乳幼児期に受ける定期接種)
- 禁煙の徹底
- バランスの取れた食事(ビタミン・微量ミネラルの摂取)
- 糖尿病の適切な管理
- 十分な睡眠と適度な運動
遺伝子と結核の関連
DNA領域rs142513793と発症リスクの関係
南アフリカのケープタウン大学感染症分子医学研究所のChimusaらの研究により、ZNF630遺伝子の近くにあるDNA領域rs142513793が結核の発症リスクと関係していることがわかりました。
- rs142513793にはCC・CT・TTの3つの遺伝子型が存在します。
- CC型の遺伝子型を持つ人は、結核の発症リスクが高い傾向があります。
- CT型の人はやや高い傾向
日本人における遺伝子型分布(rs142513793)
| 遺伝子型 | 日本人の割合 | 世界の割合 |
|---|---|---|
| CC型 | 99.98% | 99.2% |
| CT型 | 0.01% | 0.7% |
| TT型 | 0.01%未満 | 0.1%以下 |
ZNF630遺伝子のはたらくしくみ
ZNF630遺伝子はX染色体にあり、亜鉛イオンと結びつくジンクフィンガータンパク質(亜鉛を使って形を保つたんぱく質)を作るための遺伝情報を持っています。
- マクロファージ(異物を食べる細胞)やナチュラルキラー細胞などの免疫細胞で多くはたらきます。
- 甲状腺・卵巣などさまざまな組織でもはたらきます。
- 亜鉛が不足すると、ナチュラルキラー細胞の免疫のはたらき(病原体を攻撃して倒す作用)が弱まると報告されています。
ZNF630が亜鉛と関係し、免疫細胞で多くはたらいていることから、rs142513793と結核の発症との関係が考えられています。
検査の根拠
ケープタウン大学のChimusaらの研究により、結核へのかかりやすさが遺伝子と関係していることがわかりました。rs142513793領域にはCとTの2種類のタイプがあり、CC型の人は結核のリスクが高い傾向にあります。
検査の根拠となる研究
代表的なDNA領域:結核
結核 に最も強く影響するDNA領域は、rs142513793です。 日本における各遺伝子型の分布は下記のとおりです。
- CC
99.9 % - CT
0.1%以下 - TT
0.1%以下
今回調査したDNA領域
細胞中に存在するDNAマップの模式図
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関連遺伝子
| 関連遺伝子 | ZNF630 |
|---|
よくある質問
Q1. 結核とは何ですか?
結核は結核菌(Mycobacterium tuberculosis)という細菌によって起こる感染症です。主に肺に感染しますが、腎臓・腸・リンパ節など全身に影響することがあります。日本では年間約18,000人が新たに発症し、世界の10大死因の一つに数えられています。
Q2. 結核の発症に遺伝子は関係しますか?
DNA領域rs142513793の遺伝子型が結核の発症リスクに関わっています。CC型の遺伝子型を持つ人は発症リスクが高い傾向にあり、日本人の99.98%がこのCC型に該当します。ただし、CC型であっても必ずしも発症するわけではありません。
Q3. 結核の主な感染経路は?
結核は空気感染(飛沫核感染)でうつります。結核の患者がせきやくしゃみをしたときに出る、とても小さな粒(飛沫核)を吸い込むことで感染しますが、感染した人のうち実際に発症するのは5〜15%程度です。
Q4. 結核の予防法はありますか?
結核予防ワクチンの接種が有効な予防策です。また、禁煙・バランスの良い食生活・十分な睡眠で免疫力を保つことが大切です。糖尿病の人は結核の発症リスクが約3倍高いため、血糖値の管理も予防に役立ちます。
Q5. 結核と糖尿病の関係は?
糖尿病の人は結核を発症するリスクが約3倍高いことが報告されています。血糖値が高い状態が続くと免疫のはたらきが弱まり、結核菌から体を守る力が下がるためです。糖尿病をきちんと管理することは結核の予防にも大切です。
参考文献
- 参考リンク1 : 結核の情報 厚生労働省検疫所
- 参考リンク2 : 2013 Sep., Emile R. Chimusa, Human molecular genetics.
- 参考リンク3 : DNA 領域「rs142513793」の情報
- 参考リンク4 : 「結核」の情報 ストップ結核パートナーシップ日本
- 参考リンク5 : 「結核と糖尿病の合併」の情報 糖尿病ネットワーク
- 参考リンク6 : 2019., 大森 慶太郎, 日本内科学会雑誌.
- 参考リンク7 : 遺伝子「ZNF630」の情報 米国国立衛生研究所
- 参考リンク8 : 遺伝子「ZNF630」の情報 GeneCard
- 参考リンク9 : 2013., 西田圭吾, 日本衛生学会.
- 参考リンク10 : 2014 Feb., Emile R Chimusa, Hum Mol Genet