【専門家が解説】父権肯定確率99.9%って信頼できるの?~DNA鑑定では、否定より肯定が信頼される理由~

2025.12.17

DNA鑑定では、「父権肯定確率99.9%」という表現をよく目にします。
では、この数値はどれほど信頼できるのでしょうか。
結論として、99.9%以上の肯定結果は“ほぼ確実に親子である”ことを示す極めて強力な証拠です。一方、否定(0%)も通常は正確ですが、世界的に稀に確認されている遺伝的例外(キメラなど)によって結果が覆る可能性があります。

本記事では、肯定結果と否定結果の仕組み・信頼性の差・例外が起こる理由を、科学的根拠に基づいて分かりやすく解説します。

父権肯定確率99.9%とは何を意味するのか

父権肯定確率99.9%とは何を意味するのか

父権肯定確率とは、「DNA の一致が偶然ではなく、父子関係を強く支持している度合いを示す指標」です。DNA鑑定では、20か所以上のSTR(短い繰り返し配列) を比較し、それらの一致度から父権肯定確率(paternity probability)を計算します[1]。

一般的な解釈は次の通りです:

  • 99.9%以上
    → 偶然の一致では説明できず、ほぼ確実に父親である
  • 0%
    → 遺伝データ上、親子関係が統計的に排除される

AABB(Association for the Advancement of Blood & Biotherapies)などの国際基準では、法的鑑定に99%以上が求められています。
実務では 99.9~99.99% の結果が一般的であり、これらは“事実上確定”と扱われます。

なぜ肯定結果の方が否定結果より信頼できるのか

なぜそんなに当たるのか:科学的な仕組み

■ 肯定は「多数の一致」に支えられている
多数のSTRマーカーが矛盾なく一致する場合、その一致が偶然起こる確率は数千億分の1以下とされています[2]。
そのため、一度肯定が成立すると結果が変わる可能性はほぼありません。

■ 否定は「少数の不一致」で決まる
DNA鑑定では、複数の決定的な不一致が見つかると0%になります。
しかし、この不一致が以下の原因によることがあります:

キメラ(後述)
検体混入
不妊治療(体外受精)に伴う特殊ケース
文書の取り違え


このように、否定結果には “例外による誤判定の可能性” がわずかに残るのがポイントです。

否定(0%)が成立するための前提条件

否定結果(0%)が完全に正しいためには、次の条件がそろっている必要があります:

  • 採取された検体が本人の遺伝情報を正しく反映していること
  • 混入・取り違え・保存状態の問題がないこと
  • キメラやモザイクといった遺伝的例外が存在しないこと

これらはほとんどのケースで満たされているため、否定結果も一般的には非常に信頼できますが、「肯定>否定」という信頼性の差はここに起因します。

DNA鑑定を混乱させる「キメラ」とは

DNA鑑定の仕組みと流れ

キメラ(Chimerism)とは、一人の体に異なるDNAが共存している状態です。
初めて科学的に立証された代表的な症例として、米国の医学誌に正式に報告された “Karen Keegan(カレン・キーガン)事件” があります。
彼女は腎移植の適合検査の際、血液DNAによる検査で実子との母子関係が否定されるという異常な結果が見つかったことで注目されました。
その後の詳細調査により、血液と生殖細胞系(卵巣組織)で異なる DNA を持つ “四倍性キメラ(Tetragametic chimerism)”であることが判明しました[3]。
このような状態では、

・血液
・唾液
・生殖細胞
・皮膚

など、部位によってDNAが異なるため、実際に親子であっても不一致が出て0%(疑似否定)となる可能性があります。
ただし、これは世界でも極めて稀な現象です。
一般的な鑑定ではまず起こりません。

肯定結果と否定結果の違い(比較表)

項目 父権肯定結果(99.9%以上) 父権否定結果(0%)
数値の意味 ほぼ確実に親子であることを支持する。偶然一致の可能性は極めて低い。 使用したDNAデータの範囲では、親子関係は統計的に排除される。
判断の根拠 20か所以上のSTRが矛盾なく一致(「多数の一致」)。 複数のマーカーが不一致(「少数の決定的な不一致」)。
覆る可能性 ほぼ無い。追加データが出ても結論は変わりにくい。 キメラ・モザイク・検体混入など、極めて稀な例で覆る可能性がある。
法的評価 多くの国で「事実上の確定」として扱われる。 通常は否定として認められるが、例外事例の検討余地がある。
注意点 信頼性は検査機関の品質に依存する。 例外が疑われる場合は再検査が必要になることがある。

結果を理解するためのポイント

  • 肯定(99.9%以上)は非常に強い証拠
    → 国際基準でも「事実上の確定」と扱われる
  • 否定(0%)は通常正しいが、特殊例で誤判定が起こり得る
    → 特にキメラ・検体混入
  • 検査機関の品質が最も重要
    → AABB(米国血液・バイオセラピー学会)・ISO/IEC17025の認定
    → 使用STRマーカー数
    → 検体管理体制

seeDNA遺伝医療研究所では、独自の厳格な品質管理と国際基準に基づき、正確性の高いDNA鑑定を提供しています。

【参考文献】

[1]American journal of human genetics.1986 Jul.
[2]International Journal of Biochemistry, Biophysics & Molecular Biology.2024 Oct.
[3]New England Journal of Medicine. 2002 May.

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seeDNA遺伝医療研究所医学博士著者

医学博士/検査員:L. L.

国際医療福祉大学大学院で臨床医学部の博士号取得後、seeDNAで検査員として勤務。
妊娠中の親子DNA鑑定の検査やデータ解析を担当している。