【専門家が解説】中絶後にDNA鑑定ができるの?
2025.12.15
望まない妊娠やさまざまな事情のなかで中絶を選択したあと、「お腹の子の父親が誰だったのかを明確にしたい」と考える方は少なくありません。
そこで気になるのが、「中絶後でもDNA鑑定(親子鑑定)は可能なのか?」という点です。
結論として、中絶手術で摘出された胎児組織が適切な状態で採取・保存されていれば、専門機関によるDNA親子鑑定が可能となる場合があります。
本記事では、検査に使用できる胎児検体の種類、鑑定の仕組み、中絶方法による違い、注意点などをわかりやすく解説します。
中絶後のDNA鑑定とは?
中絶後のDNA鑑定とは、中絶手術で摘出された胎児細胞(胎児組織)を用いて、父子関係や親子関係を確認するために行われるDNA型鑑定です。
胎児のDNAと、母親および父親候補のDNAを比較し、生物学的に父親である可能性を統計的に評価します。
このような方法は、法科学分野においても有効性が確認されており、中絶後の胎児組織を用いた父子鑑定が可能であることが報告されています (1)(5)。
日本国内では、中絶後の胎児組織によるDNA鑑定に対応している専門機関もあり、その一つに seeDNA遺伝医療研究所があります。
ただし、すべての医療機関や検査機関が対応しているわけではなく、事前の相談や調整が必要です。また、胎児組織の状態や母体細胞の混入状況によっては、鑑定ができない場合もあります (2)(5)。
鑑定に使用する胎児検体の種類
中絶後DNA鑑定に使用される胎児検体は、妊娠週数や中絶方法によって異なります。主に次のような組織が用いられます。
絨毛膜
妊娠初期の中絶で採取される胎児由来組織で、胎盤のもとになる部分です。母体組織が混ざりやすいため、DNA鑑定では慎重な分離処理が必要とされています (2)(5)。
胎盤・臍帯
妊娠中期以降では胎盤や臍帯が明確に形成され、胎児DNAを比較的安定して抽出できるため、鑑定に適した検体とされています (3)(5)。
羊水
妊娠を継続している場合、羊水穿刺によって採取される羊水には胎児由来の細胞が含まれており、出生前の親子鑑定に利用されます (4)。
中絶後DNA鑑定の基本的な仕組み
中絶後DNA鑑定は、一般的な父子鑑定と同様に、DNAの特徴を比較する方法で行われます。
まず、中絶手術時に採取された胎児組織は、DNAの劣化を防ぐために冷蔵または冷凍で保存されます。
次に、胎児・母親・父親候補それぞれのDNAを抽出し、STR(短い繰り返し配列)などの遺伝子マーカーを解析します (1)(5)。
複数の遺伝子マーカーの一致度をもとに、「父権肯定確率」と呼ばれる数値が算出され、父子関係があるかどうかを高い精度で判断します。
ただし、胎児組織には母体細胞が混入していることがあり、その場合は結果に影響を与える可能性があるため、母体細胞混入(MCC)を考慮した解析や分離操作が重要とされています (2)(5)。
中絶方法・妊娠週数による違い
手術中絶の場合
- 初期中絶(〜11週6日)
掻爬法や吸引法で子宮内容物を取り出すため、絨毛膜などの胎児組織が回収できればDNA鑑定が可能です。ただし、母体組織の混在が起こりやすく、検体の質が鑑定結果に大きく影響します。 - 中期中絶(12週〜21週6日)
胎盤・臍帯が形成されているため、比較的良好な検体が回収され、DNA鑑定に適しています。 - 妊娠22週以降
妊娠22週を過ぎると、胎児が一定の生存可能性を持つ時期に入るため、法律上の制限が非常に厳しく、原則として中絶は行えません。
薬剤中絶の場合
薬剤中絶では胎児組織が自然排出されるため、
・組織が崩れやすい
・母体組織と混在しやすい
・胎児由来DNAが回収しにくい
といった理由から、DNA鑑定に適した良質な検体を確保することは非常に困難です。
そのため、多くの鑑定機関では薬剤中絶後の検体によるDNA鑑定には対応していません。(5)
中絶後DNA鑑定のメリットと注意点
主なメリット
- 父子関係を明確にできる
胎児DNAと父親候補のDNAを比較することで、生物学的な父親を高い精度で特定できます (1)。 - 将来のトラブルを予防
早期に父子関係を確認しておくことで、パートナー間・家族間の不信感を軽減し、将来的なトラブルの回避に役立ちます。 - 法的手続きへの利用
適切な手順で採取・管理された検体を用いれば、裁判・調停で証拠として扱える法的鑑定として実施できる場合があります。
※実施可否は専門機関に事前相談が必要です。
注意点・限界
- 検体量不足・損傷・母体混在などにより、鑑定不能となる場合があります。
- 母体組織混入のリスクを考慮した解析が必要です。
- 結果は心理的な影響が大きいため、必要に応じてカウンセリングや専門家のサポートを検討してください
- 法的有効性や検体の取り扱いなどは個々のケースで異なるため、医療機関・鑑定機関・弁護士への相談が重要です。
中絶後DNA鑑定の要点
| 項目 | 概要 |
|---|---|
| 検査の目的 | 中絶後の胎児組織を用いて父子関係・親子関係を確認するDNA鑑定 |
| 胎児の検体 | 絨毛膜、胎盤、臍帯、羊水など胎児由来組織 |
| 親の検体 | 母親と父親候補の口腔上皮、歯ブラシ、髪の毛など |
| 対応できる中絶方法 | 主に手術中絶(薬剤中絶は対象外) |
| 妊娠週数 | 初期:絨毛膜、中期:胎盤・臍帯、妊娠継続中:羊水・絨毛採取 |
| 解析手法 | STR/SNP解析などで胎児・母親・父親候補のDNA型を比較 |
| 結果 | 父権肯定確率(例:99.99%以上)として父子関係を評価 |
| 主な注意点 | 検体状態・母体組織混在・倫理的配慮・法的要件 |
まとめ
- 中絶後の胎児組織によるDNA鑑定は、条件が整えば技術的に可能です。
- 絨毛膜・胎盤・臍帯・羊水などの胎児検体に加え、母親・父親候補の検体が必要です。
- 薬剤中絶では検体確保が難しく、多くの鑑定機関で対応不可です。
- 中絶後DNA鑑定を検討する場合は、中絶を行う医療機関およびseeDNA遺伝医療研究所などの専門機関へ事前相談することが重要です。
【参考文献】
(1) Forensic Science International, 2023(2) Methods in Molecular Biology, 2018
(3) Placenta, 2019
(4) Cellular and Molecular Biology, 2016
(5) Journal of Forensic and Legal Medicine, 2023
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著者
医学博士/遺伝子解析担当:A.M.
2015年東京医科歯科大学大学院 医学博士課程を修了後、同大学整形外科にて特任研究員および研究補佐員として勤務。
2018年より株式会社seeDNAに入社後、STR鑑定5,000件以上、NIPPT鑑定約4,000件以上の検査やデータ解析、研究開発などを担当。
正確性と品質管理を徹底することで、鑑定ミス「0」を継続中。
これまで培った研究経験と分析力を活かし、お客様に安心と信頼をお届けできるよう、品質向上に日々取り組んでいます。