【専門家が解説】DNA鑑定の間違いはどれくらい起きているの?

2026.02.18

DNA親子鑑定は高精度な検査として知られています。
しかし、結果がその後の人生全体に影響することもあるため、「本当に正しいのか」「間違うことはないのか」と不安や疑問を感じる方は少なくありません。
本記事では、実際には親子関係があるにもかかわらず、結果が「血縁関係なし」と解釈され得るごくまれなケースを紹介し、そうした例外的な事例に対して、どのような考え方や対応が推奨されているのかを解説します。

DNA親子鑑定は「ほぼ確実」でも、100%ではない

DNA親子鑑定は「ほぼ確実」でも、100%ではない

DNA親子鑑定では、特定の遺伝子座(STR領域) における一致・不一致の数を統計的に評価し、父権肯定確率を算出します。この手法は、世界的に信頼されている国際認定制度のもとで標準化されており、現在のDNA親子鑑定は非常に高い精度と信頼性を有しています(1)。
 一方で、ごくまれに、実際には親子関係があるにもかかわらず、例外的な生物学的要因(後述) により、結果が「血縁関係なし」と解釈され得るケースが報告されています。これらの事例は、検査機関の不正や制度の欠陥によるものではなく、DNA親子鑑定が確率論に基づく検査であるという性質に起因するものです(2)。

そのため、国際的な認定制度のもとで実施された鑑定であっても、結果の解釈には慎重さが求められ、必要に応じて検体の再採取を含む再検査や、追加的な検討が行われることがあります。
したがって、DNA親子鑑定の分野では、こうした例外的な条件が結果の解釈に影響を及ぼし得る点について、専門的な注意喚起が継続的に行われています。

結果が誤解され得る要因

DNA鑑定でもっとも多く使われる検体とは

DNA親子鑑定において、実際には親子関係があるにもかかわらず、結果が「血縁関係なし」と報告され得る要因は、主に2種類考えられます。
1つ目が運用上の要因、いわゆるヒューマンエラーです。2つ目は生物学的要因、つまり本記事で扱うごくまれなケースです。
一括りにミス判定と言っても、その要因には種類があり、それぞれに合った予防策を講じることが必要です。

A.運用上の要因(ヒューマンエラー)
・採取・搬送・工程の複雑さによるエラー
  →国際的な認定組織(例:AABB(米国血液銀行協会))により、手順・記録・技能試験などで品質を担保する枠組みが重要


B.生物学的要因(検査プロセスが正しくても、結果が誤解され得るごくまれなケース)
・特定の遺伝子座(STR領域)の突然変異
(親から子へ遺伝する過程で繰り返し回数が変化)

・キメラ
(体内に複数の遺伝子座が混在し、採取部位でプロファイルが変わる)

・稀な染色体異常
(通常の遺伝モデルが成立しない例外的なケース)

次章では、B. 生物学的要因について、詳しく解説します。

海外で報告されたケース

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頻度は極めて低いものの、海外では論文や国際的な専門機関の報告として生物学的要因により「実親子であっても血縁なしと解釈され得た」ケースが報告されています。以下は、その代表的な事例です。

ケース1:代理懐胎による事例

代理懐胎(surrogacy:本人の代わりに別の女性が妊娠・出産を行うこと)に関連した症例報告では、四配子性キメラ(tetragametic chimerism) が原因となり、DNA親子鑑定において想定外の遺伝子不一致が生じた例が報告されています。
四配子性キメラとは、キメラの中でも最も典型的かつ強い形態のひとつであり、受精卵融合によって生じると考えられています。このような場合、採取部位によって検出される遺伝情報が異なり、通常のSTR解析では結果の解釈が困難になることがあるため、慎重な対応が求められます(3)。

ケース2:染色体異常による事例

海外の症例報告では、片親性(へんしんせい)ダイソミー(UPD: Uniparental Disomy)と呼ばれる極めてまれな染色体異常が原因となり、実際には親子関係があるにもかかわらず、DNA親子鑑定で否定的な結果が示された例が報告されています。
片親性ダイソミーとは、本来は父母それぞれから受け継ぐ染色体を、片方の親からのみ二重に受け継いでしまう状態を指します。この場合、通常の遺伝モデルが成立せず、標準的なSTR解析では結果の解釈に注意が必要となります (4)。

ケース3:自然キメラの事例

AABB(米国血液銀行協会)のニュースレターでは、自然に発生したキメラが関与した父性判定における課題が、専門家向けに紹介されています。
国際的な認定制度の枠組みの中でも、こうした極めて稀な生物学的要因が、DNA親子鑑定の結果解釈に影響を及ぼし得ることが示されています(5)。

このような事例は専門家の間で共有され、対処法が検討されています。
では、ミス判定を避けるために、具体的にどうすれば良いのでしょうか?

まとめ~ミス判定を避けるために~

DNA親子鑑定は非常に高精度な検査ですが、極めてまれな生物学的例外や運用・解釈上の要因が関与する場合には、検査条件を広げた追加的な検討や、結果の慎重な解釈が求められます。

区分 要因 何が起きるか 実務上の考え方・対応
運用上の要因 検体管理エラー 取り違え・汚染・ラベルミスなど 国際的な認定制度下ではまれ。再採取・再解析により確認
確率結果の単純化 確率的結果を「0か100か」で判断 DNA親子鑑定は確率論に基づく検査であり、数値の意味を踏まえた説明が重要
生物学的要因 STR突然変異 特定の遺伝子座(STR領域)に複数の不一致が認められることがある 極めてまれ。調べるSTRの数を増やす(座数追加)、または父・母・子の3者で検査(トリオ検査)することで、全体として合理的な解釈が可能になる場合が多い
キメラ 体内に複数の遺伝子型が存在、採取部位で結果が変化 非常にまれ。背景事情(代理懐胎・ART等)の確認や、別部位からの再採取を含めた慎重な解釈が必要
染色体異常 通常の遺伝子モデルが成立しない 症例報告レベルの例外。標準的な親子鑑定の枠を超え、専門的検討が行われる

\突然変異があっても正確な親子鑑定/

【参考文献】

(1) Genetics in Medicine, 2012 Dec.
(2) Forensic Sci Int Genet, 2007 Dec.
(3) European Journal of Medical Genetics, 2023 Aug.
(4) Forensic Sciences Research, 2024 Apr.
(5) AABB. RELATIONSHIP TESTING NEWS, 2022 Apr.

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seeDNA遺伝医療研究所検査員:C.H.著者

検査員:C.H.

株式会社seeDNAで検査員として勤務。
妊娠中の親子DNA鑑定の検査やデータ解析を担当している。

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