【医師が解説】NIPTの精度はどれくらいですか?
2025.12.03
はじめに
妊娠中の不安を少しでも和らげたいと考えている妊婦さんにとって、出生前検査は大切な選択肢の一つです。特に新型出生前検査(NIPT)は、採血のみで赤ちゃんの染色体異常のリスクを調べられることから、近年多くの方が選択されています。
しかし「NIPTは高精度」と耳にしても、実際にどの程度正確なのか、どのような場合に誤差が生じるのか、気になる方も多いのではないでしょうか。本記事では医師の視点から、NIPTの精度について詳しく解説します。
NIPTが「高精度」といわれる理由
胎児由来DNAを直接解析するという技術的優位性
NIPTが従来の母体血清マーカー検査と大きく異なる点は、胎児の細胞そのものではなく、胎盤由来のDNA断片(cell free fetal DNA: cffDNA)を直接解析することにあります。
妊娠10週頃になると、母体血中には一定量のcffDNAが流入します。このcffDNAを解析する際に使われるのが「次世代シーケンサー(NGS)」と呼ばれる技術です。これは、cffDNAを細かく読み取り、その量やパターンを高速かつ正確に測定できる最新技術のことを指します。
この技術により、NIPTは従来の間接的な推定ではなく、DNAレベルで染色体異常を高精度に検出できるようになりました。
偽陽性・偽陰性が少ない理由
従来の母体血清マーカー検査は、母体年齢・体重・ホルモン値など「間接的な情報」をもとにリスクを推定するため、偽陽性率が3〜5%程度と比較的高いという課題がありました[1]。
一方のNIPTは、DNAレベルで直接評価するため、精度が大幅に向上しており、とくに21トリソミー(ダウン症候群)では感度:99%以上、特異度:99.9%以上という非常に高い精度が報告されています[2]。
国際的ガイドラインが推奨する理由
アメリカ産科婦人科学会(ACOG)、母体胎児医学会(SMFM)、国際超音波産科婦人科学会(ISUOG)など、主要な国際学会はすべての妊婦に対してNIPTを提供することを推奨しています[3][4]。
これは、母体年齢に関係なく、NIPTの高い精度と安全性がすでに確立しているためです。
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主要な染色体異常の「実際の精度」をデータで解説
常染色体異常の精度
NIPTで最も精度が高いとされるのは21トリソミー(ダウン症候群)です。前述したように複数の大規模研究をまとめたレビューでは、感度は99%以上、特異度も99.9%以上と、ほぼ誤判定のないレベルに近い精度が示されています[2]。
18トリソミー(エドワーズ症候群)についても非常に高い精度が報告されていますが、21トリソミーと比べると感度がわずかに低く、約97.9%とされています。それでも特異度は99%以上と高く、結果の信頼性は十分に保たれています[2]。
13トリソミー(パトウ症候群)も同様に特異度は高いですが、感度は97.9%と 21トリソミーと比べると僅かに低く、研究ごとの数値のばらつきがやや大きい点が特徴です[2]。このため、21トリソミーや18トリソミーに比べると、検査精度に一定の課題が残ると考えられています。
性染色体異常の精度
性染色体異常(ターナー症候群、クラインフェルター症候群など)に対するNIPTの精度は、常染色体異常と比較するとやや低くなります。感度は約90〜95%程度とされており、特異度も常染色体異常より低くなる傾向があります[2]。これは性染色体の特性や母体側の性染色体との区別が技術的に難しいことが理由です。
微小欠失症候群の精度
22q11.2欠失症候群(DiGeorge症候群)などの微小欠失症候群についても検査が可能です。しかし、感度は概ね60〜90%程度で(ただし報告によって20〜100%とばらつきがある)、特異度も低くなります[5]。微小欠失症候群は染色体の一部の小さな欠損であるため、検出がより困難になるためです。
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精度に影響する要因と「誤差が生まれやすいケース」
胎児DNA濃度と妊娠週数
NIPTの精度を左右する最も重要な要素の一つが、母体血中の胎児DNA濃度(Fetal Fraction: FF)です。一般的に妊娠10週以降で4%以上のFFがあれば、精度の高い検査が可能とされています[6]。
妊娠週数が早すぎる場合やFFが低い場合は、判定保留となることがあります。
母体のBMIが高い場合、FFが相対的に低下することが知られており、肥満の妊婦さんでは判定保留率が上昇することが報告されています[6]。
母体側の要因
生物学的なモザイク現象も精度を左右する重要な要素です。
モザイクとは、体内に正常な染色体構成をもつ細胞と、異常な染色体構成をもつ細胞が混在している状態を指します。なかでも、胎盤の細胞だけに染色体異常が存在し、胎児の染色体構成が正常である場合を胎盤限局性モザイク(Confined Placental Mosaicism:CPM)と呼びます。CPMがある場合、胎児の実際の染色体構成と結果が一致しない可能性が生じます。
また、その他の原因として、母体の染色体モザイク、双胎妊娠における一児の消失(バニシングツイン)、あるいは母体の悪性腫瘍に伴う異常DNAの放出なども報告されています[7]。
「陽性=確定ではない」理由と、確定診断の必要性
NIPTは非常に高精度ですが、あくまでもスクリーニング検査であり、確定診断ではありません。陽性という結果が出た場合でも、実際には異常がない偽陽性の可能性もあります。
そのため、NIPTで陽性となった場合は、羊水検査などの確定的検査を受けることが推奨されます。確定診断を行うことで、正確な情報に基づいた意思決定が可能になります。
まとめ
NIPTは、cffDNAを直接解析することで、従来の血清マーカー検査よりも大幅に精度が向上した出生前検査です。特に21トリソミーでは感度・特異度ともに99%以上と非常に高い精度が確認されており、主要な国際ガイドラインが全妊婦への提供を推奨している理由もここにあります。一方で、胎児DNA量や母体側の条件によって結果に影響が出る場合があることも理解しておくことが重要です。
こうした検査の特性を正しく知っておくことで、結果を安心して受け止める準備ができるのではないでしょうか。
本記事が、NIPTを検討されている皆さまの理解の一助となれば幸いです。
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【参考文献】
[1]Genetics in Medicine. 2009 May[2]BMJ Open. 2016 Jan
[3]Ultrasound in Obstetrics & Gynecology(ISUOG Practice Guidelines). 2023 Oct
[4]Obstetrics & Gynecology(ACOG Practice Bulletin No.226). 2020
[5]Journal of Clinical Medicine. 2022 Jun
[6]Kosin Medical Journal. 2025 Jun
[7]Prenatal Diagnosis. 2019 Dec
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著者
医学博士・医師
広重 佑(ひろしげ たすく)
医学博士、日本泌尿器科学会専門医・指導医、がん治療学会認定医、抗加齢医学会専門医、日本医師会認定産業医、日本抗菌化学療法学会認定医、性感染症学会認定医、Certificate of da Vinci system
Training As a Console Surgeonほか
2010年に鹿児島大学医学部を卒業後、泌尿器科医として豊富な臨床経験を持つ。また、臨床業務以外にも学会発表や論文作成、研究費取得など学術活動にも精力的に取り組んでいる。泌尿器科専門医・指導医をはじめ、がん治療、抗加齢医学、感染症治療など幅広い分野で専門資格を取得。これまで培った豊富な医学知識と技術を活かして、患者様一人ひとりに寄り添った医療を提供している。