【専門家が監修】なぜ、母の血液だけでお腹の赤ちゃんの検査ができるの?
2025.10.26
?NIPTで絨毛膜など胎児組織を採取しなくても済む理由?
胎児由来DNA(cfDNA:cell-free DNA)とは?
妊娠すると、胎児を包む「胎盤(特に絨毛膜)」の細胞が少しずつ血中で壊れます。
その際、細胞内にあったDNAが細かく断片化して母体の血液中に流れ出ます。
このDNA断片を「セルフリーDNA(cfDNA)」と呼びます。
母体血中のcfDNAのうち、胎児に由来するDNA(胎児由来cfDNA)は全体の約5?15%程度を占めます【NEJM, 2017】【BMC Pregnancy Childbirth, 2021】。
つまり、妊娠中の母親の血液の中には、母体自身のDNAと胎児由来DNAが混在しているのです。
NIPTはこのcfDNAを解析している
NIPT(Non-Invasive Prenatal Testing)では、採血によって母体血液中のcfDNAを抽出し、次世代シーケンサー(NGS)などで解析します。
得られたDNA断片の染色体ごとの量を統計的に比較することで、特定の染色体が過剰に存在するかを検出します。
- 21番染色体が多い → ダウン症候群(21トリソミー)
- 18番染色体が多い → エドワーズ症候群(18トリソミー)
- 13番染色体が多い → パトウ症候群(13トリソミー)
この仕組みにより、胎児の染色体異常を母体血の採取だけで間接的に推定できます【ScienceDirect, 2024】。
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絨毛や羊水を採らなくてもよい理由
従来の出生前診断(絨毛検査・羊水検査)は、胎児細胞を直接採取し染色体を調べる侵襲的検査でした。
しかし、NIPTは胎児由来DNAが自然に母体血中へ放出されていることを利用しており、胎児組織を直接採取する必要がありません。
このため、採血だけで胎児の遺伝情報を推定でき、母体や胎児へのリスクを大幅に低減できます。
厚生労働省も、出生前検査に関する報告書の中で「母体血を用いた非侵襲的検査としての有用性」を認めています【厚生労働省, 出生前診断専門委員会報告書, 2023】。
cfDNAは胎盤由来なので「胎児そのもの」とは限らない
重要な点として、母体血中の胎児由来cfDNAは胎盤由来であることが知られています。
胎盤と胎児の遺伝情報はほぼ同一ですが、まれに「胎盤モザイク」と呼ばれる状態(胎盤だけに染色体異常がある)が起こることがあります【ScienceDirect, 2023】。
したがって、NIPTで「陽性」と出ても、胎児に本当に異常があるかどうかは、羊水検査などによる確定診断が必要です。
まとめ:採血だけで検査できる理由
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| 胎児DNAの存在 | 胎盤の細胞が壊れてDNA断片が母体血中に放出される |
| cfDNAの特徴 | 胎児由来DNAは全cfDNAの約5?15%を占める |
| 検査の仕組み | cfDNAを解析して染色体の数の偏りを検出 |
| 絨毛・羊水が不要な理由 | 胎児DNAが母体血に自然に存在するため |
| 注意点 | 胎盤由来DNAのため、確定診断には羊水検査が必要な場合もある |
このように、NIPTは「胎盤から放出された胎児DNAを母体血から読み取る」ことで、非侵襲的かつ高精度に胎児の染色体情報を推定する仕組みになっています。
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【参考文献】
<国内公的機関>厚生労働省「先端医療技術評価部会報告書(NIPT等)」
<海外学術文献>
NEJM: Sequencing of Circulating Cell-free DNA during Pregnancy (2017)
BMC Pregnancy & Childbirth: cfDNA and prenatal diagnosis (2021)
ScienceDirect: Expanded applications of cfDNA screening (2024)
ScienceDirect: Fetal fraction and cfDNA testing accuracy (2023)
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著者
医学博士 富金 起範
筑波大学、生体統御・分子情報医学修士/博士課程卒業
2017年に国内初となる微量DNA解析技術(特許7121440)を用いた出生前DNA鑑定(特許7331325)を開発