【医師が解説】NIPTは義務じゃない ~あなたの価値観で選ぶための判断フレーム~

2025.12.21

新型出生前検査(NIPT)は高精度で安全に受けられることから、多くの妊婦さんが「受けるのが普通なのでは」と感じやすい検査です。しかし、NIPTは決して義務ではなく、受ける・受けないは本来あなた自身が選ぶべきことです。

情報が多い一方で、「本当に必要なのか」「結果をどう受け止めればいいのか」と迷うのは当然のこと。本記事では、医師としての知見と学術エビデンスを踏まえ、NIPTを受けるべきかどうかという選択肢も含めて、主体的に判断するための視点をわかりやすく整理します。

なぜNIPTを受けるのが当たり前になったのか —社会的背景と誤解をひも解く—

なぜNIPTを受けるのが当たり前になったのか

NIPTが日本で急速に広まった背景には、医学的有用性だけでなく、社会的・心理的な要因が複雑に重なっています。特に影響が大きいのは、「高齢妊娠では受けるのが当然」という空気感が作られてしまったことです。実際、晩婚化に伴って35歳以上の妊婦さんが増加していることは事実ですが、その数字が一人歩きし、「リスクが高い=必ずNIPTが必要」という誤解を生んでいます。

さらに、SNSや口コミでNIPT体験談が多く共有されたことで、妊婦さん同士の会話の中に自然と「みんな受けている」という印象が生まれています。この“周囲の同調圧力”は医療的判断とは無関係であり、NIPTそのものの性質を正しく理解しないまま受検が前提化されるという問題を引き起こします。

さらに、最近の研究結果からもNIPTのルーティン化は、妊婦の選択の自由(リプロダクティブ・オートノミー)を損なう可能性があると警鐘が鳴らされています[1]。
つまり、「選択の自由」があるはずなのに、「受けるのが当たり前」という無言の圧力が働く社会構造が生まれているという指摘です。

NIPTが優れた検査であることは間違いありません。しかし、“みんな受けているから”ではなく、自分にとって本当に必要かどうかを一度立ち止まって考えることが、後悔のない選択につながります。

NIPTを受ける必要がないケースもある —医学的・心理的観点からの合理的理由—

NIPTを受ける必要がないケースもある

NIPTは非常に優れたスクリーニング検査ですが、すべての妊婦さんにとって必須というわけではありません。まず前提として、若い妊婦さんでは、もともと赤ちゃんの染色体異常のリスクがかなり低く、そのためNIPTで新たに分かることも相対的に少なくなりやすいのです。21トリソミー(ダウン症候群)の発生頻度は母体年齢とともに上昇することが明確に示されており[2]、若い妊婦さんについては検査を必ず受けるべきとは言えません。

また、心理的観点からも、受検しない選択が妥当になるケースがあります。NIPTは採血だけで受けられる反面、結果が出るまでの期間に不安が強くなる妊婦さんが一定数いることは臨床現場でもよく認識されています。

「万が一」の結果を考えて眠れなくなる、常に結果のことが頭から離れないなど、ストレスが妊娠生活に影響を及ぼすケースも少なくありません。このような場合、検査そのものが負担となり、受検しない方が心身の安定につながることがあります。

さらに、妊婦さん自身の価値観によっても、NIPTの必要性は大きく変わります。たとえば、「結果を知っても妊娠方針を変えない」「知らないまま出産を迎えたい」という考え方も十分に尊重されるべき選択です。こうした価値観を持つ方の場合、NIPTで得られる情報が出産の判断に結びつきにくいため、検査を受けるメリットは比較的小さくなります。

倫理的な視点からも、NIPTは全ての妊婦さんが当然受けるべき検査と位置づけられるものではありません。むしろ、主体的な意思決定を守ることが最も重要であり、検査を受けるかどうかは自由であるべきという考えが広く共有されています。

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受ける or 受けないを決めるための3ステップ

受ける or 受けないを決めるための3ステップ

NIPTを受けるかどうか迷ったときに最も重要なのは、医学的リスクだけでなく、価値観、受け止め方、意思決定後の行動をセットで考えることです。ここでは、NIPTを受けるべきか迷っている妊婦さんに向けて実際に納得しやすくなる3つのステップを紹介します。

STEP1:自分とパートナーの価値観を言語化する

まず必要なのは、周囲の意見よりも自分たちがどんな妊娠期間を望むかをはっきりさせることです。
たとえば、

  • 事前に可能性を知ることで安心したいのか
  • たとえ異常の可能性があっても、方針を変えるつもりがないのか
  • 検査結果を待つ間の不安をどこまで許容できるのか

こうした“価値観の棚卸し”をすることで、検査が自分にとって必要かどうかが自然と見えてきます。
この段階では、医学的判断より心の優先順位を明確にすることが最も重要です。

STEP2:医学的リスクを“数字ではなく意味”として理解する

染色体異常の確率や陽性的中率などの数値は、専門家でも解釈が難しく、不必要な不安を招くことがあります。そこで重要なのは、数字そのものではなく「その数値が自分の行動にどう影響するか」を理解することです。
たとえば、

  • 知ることで準備ができる → 検査はメリットになる
  • 知っても行動は変わらない → 検査の必要性は下がる

と言ったように、数字は判断材料の一部であり、結論を決めるものではありません。

STEP3:専門家に“意思決定のための質問”を投げかける

遺伝カウンセラーや医師など専門家の役割は、検査を勧めることではなく、妊婦さんが自分の答えを見つけるための情報整理をサポートすることです。
相談時に確認すべき質問として、以下が挙げられます。

  • 今回の妊娠背景でNIPTの有用性はどの程度か
  • 仮に高リスクの場合、どの段階でどの検査に進むのか
  • 受検しなかった場合の不利益は何か

専門家の意見は、あなたが決めた価値観が医学的に妥当か、無理のない選択かを確認するための材料になります。

NIPTは“選ばされる検査”ではなく“選ぶ検査”

まとめ

NIPTは高精度で便利な検査ですが、受けることが正解でも、受けないことが間違いでもありません。 大切なのは、医学的なリスクだけでなく、自分や家族の価値観、結果をどう受け止められるかという“心の準備”まで含めて判断することです。

社会的な「受けて当然」という雰囲気に流されるのではなく、検査があなたの妊娠にどんな意味をもたらすのかを一度丁寧に見つめ直すことが、後悔のない選択につながります。

NIPTは義務ではなく、必要に応じて活用できる一つのツールにすぎません。どの選択であっても、自分で納得して決められた選択が“あなたにとっての正解”です。

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【参考文献】

[1] European Journal of Human Genetics, 2022.
[2] J Med Screen, 2002.

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著者

医学博士・医師
広重 佑(ひろしげ たすく)


医学博士、日本泌尿器科学会専門医・指導医、がん治療学会認定医、抗加齢医学会専門医、日本医師会認定産業医、日本抗菌化学療法学会認定医、性感染症学会認定医、Certificate of da Vinci system Training As a Console Surgeonほか
2010年に鹿児島大学医学部を卒業後、泌尿器科医として豊富な臨床経験を持つ。また、臨床業務以外にも学会発表や論文作成、研究費取得など学術活動にも精力的に取り組んでいる。泌尿器科専門医・指導医をはじめ、がん治療、抗加齢医学、感染症治療など幅広い分野で専門資格を取得。これまで培った豊富な医学知識と技術を活かして、患者様一人ひとりに寄り添った医療を提供している。