1p36欠失症候群とは

1p36欠失症候群の図

1p36欠失症候群は、1番染色体の短腕(p腕)の末端部分が欠失することによって生じる先天的な疾患です。
1980年に初めて報告されて以来、本疾患は最も頻繁に発生する末端欠失症候群の一つとして認識されています。※1
1p36欠失症候群は、出生前診断の中でも注目される染色体異常であり、その発生頻度は約5,000〜10,000人に1人と言われています。※2

この疾患の特徴は、欠失が発生する染色体の領域が多くの重要な遺伝子を含んでおり、これが神経系の発達や心臓、成長に深い影響を及ぼします。 1p36領域に位置する遺伝子としては、PRDM16、KCNAB2、RERE、UBE4B、CASZ1などがあり、これらは発達において非常に重要な役割を果たします。※3

症状と特徴

症状と特徴

1p36欠失症候群における症状は多岐にわたりますが、主に発達遅延、知的障害、身体的特徴、合併症が見られます。

◆発達と知的機能

本疾患は、知的発達の遅れを主症状とする遺伝性疾患です。
言語発達においては重度の遅れが見られ、多くの患者さんは発語がないか、習得できても数語程度にとどまります。
また、意思疎通の困難さから感情のコントロールが難しく、かんしゃくや自傷行為(手首を噛むなど)といった行動上の特徴が現れることがあります。※4
運動発達では、座位や歩行の獲得が著明に遅延し、約半数の症例では4歳を過ぎても単独歩行が困難とされています。※5

◆身体的特徴

本疾患は特徴的な顔貌を認めます。頭部は小さく(小頭症)、その大きさに比べて前後に短く左右に幅広い形状(小短頭症)を示します。
顔の特徴として、深く窪んだ目元と直線的な眉毛、顔の中央部の陥凹(中顔面低形成)、幅広く平坦な鼻梁が挙げられます。
また、鼻と上唇の間の溝(人中)が長く、顎が尖った形状を呈します。耳は低い位置にあり、後方に傾いた異常な形状を示すことが一般的です。※4

◆合併症

約43〜71%の症例では先天性の心疾患が発生し、最も一般的なのは心室中隔欠損症(14%)、動脈管開存症(12%)です。
また44〜58%の症例でてんかんが見られ、視覚や聴覚に異常が生じることもあります。※2

診断方法

◆出生前診断

新型出生前診断(NIPT)

近年、次世代シークエンサー(NGS)を用いた新型出生前診断(NIPT)が進歩し、1p36欠失症候群の高精度な検出が可能になりました。
胎児由来のDNAを含む母体血液を解析することで、約3Mb以上の欠失については98.4%の感度で検出できます。※6
ただし、NIPTの性能は研究により幅があり、感度20-100%、特異度81.62-100%、陽性的中率3-100%と報告されており、検査の限界を理解した上での実施が重要です。※7
また、陽性結果が出た場合、羊水検査や絨毛検査により確定診断を行います。

◆出生後の診断

出生後に1p36欠失症候群が疑われる場合、特徴的な顔貌や症状を基に血液検査で染色体検査を行います。
Gバンド法は長年使用されてきた標準的な染色体検査ですが、微細な欠失の検出には限界があります。
そのため、FISH法(蛍光in situハイブリダイゼーション法)を併用することで検出精度を向上させています。
しかし、これらの方法でも見逃される症例があり、欠失の正確な範囲を特定することが困難な場合があります。
現在、最も信頼性が高いとされるのは染色体マイクロアレイ解析です。
この検査により、従来法では検出困難な微細な欠失も高精度で特定でき、欠失範囲の詳細な解析が可能となります。※8

治療と支援

治療と支援

1p36欠失症候群には根本的な治療法はありませんが、症状に応じた適切な管理と支援を行うことで、生活の質を大きく向上させることができます。

◆医学的管理

心疾患に対する治療は、外科的手術や内科的治療によって対応します。
てんかんについては、抗てんかん薬による管理が行われ、約80%の症例では発作のコントロールが良好に行われています※9

◆発達支援と療育

多くの保護者の経験によると、1p36欠失症候群の子どもたちに効果的な学習方法として、
音楽を活用した学習、視覚的な刺激(光や色彩)、視覚的教材、特に触覚を活用できる教材が挙げられています。
学習指導においては、十分な忍耐力を持ち、繰り返し学習を行い、積極的な称賛と励ましを与えることが重要です。

また、タッチスクリーン式のコンピューターが有効な学習支援ツールとなる場合があります。
一部の子どもたちは、簡単な線や図形を描くこと、読字や書字の習得が可能です。※10

◆遺伝カウンセリングと家族支援

1p36欠失症候群は約20%の症例では親から欠失した染色体を受け継いでいます。※4
この場合は、遺伝カウンセリングを受けることで、疾患の詳細な理解と再発リスクの説明を受けることができます。
患者・家族会では、同じ境遇の家族同士で情報を交換し、相互支援を行っています。
福祉サービスや療育、特別支援学校など、成長に応じた支援体制も整っています。

最新の研究動向

最新の研究動向

1p36欠失症候群に関する研究は進展しており、特にPRDM16遺伝子に関する解析が進んでいます。
これにより、成長障害や代謝異常に関与することが明らかになっています。※4
また、iPS細胞を用いた研究も進行中で、将来的には遺伝子治療や再生医療技術の発展により、根本的な治療法が開発されることが期待されています。

まとめ

1p36欠失症候群は、知的発達の遅れや発育遅滞、心疾患などを引き起こす疾患ですが、 早期の診断と適切な支援により、生活の質を大きく向上させることが可能です。
最新の出生前診断技術や治療法の進展により、患者さんとその家族は質の高い支援を受けられるようになっています。
また、患者・家族会による相互支援体制や福祉サービス、 特別支援教育などの社会的支援システムも充実しており、患者さんとご家族がより良い生活を築くための環境が整備されています。

参考文献

※1:Am J Hum Genet., Sep. 1997. ※2:Am J Med Genet A., Nov. 2022. ※3:Appl Clin Genet., Aug. 2015. ※4:MedlinePlus Genetics, Bethesda (MD): National Library of Medicine (US), 2020. ※5:Ann Child Neurol., Aug 2020. ※6:PLoS One., Aug. 2020. ※7:J Clin Med., Jun. 2022. ※8:難病情報センター, 公益財団法人 難病医学研究財団. ※9:Epilepsia., Mar. 2008. ※10:Rare Chromosome Disorder Support Group.

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著者

医学博士・医師
広重 佑(ひろしげ たすく)


医学博士、日本泌尿器科学会専門医・指導医、がん治療学会認定医、抗加齢医学会専門医、日本医師会認定産業医、日本抗菌化学療法学会認定医、性感染症学会認定医、Certificate of da Vinci system Training As a Console Surgeonほか
2010年に鹿児島大学医学部を卒業後、泌尿器科医として豊富な臨床経験を持つ。また、臨床業務以外にも学会発表や論文作成、研究費取得など学術活動にも精力的に取り組んでいる。泌尿器科専門医・指導医をはじめ、がん治療、抗加齢医学、感染症治療など幅広い分野で専門資格を取得。これまで培った豊富な医学知識と技術を活かして、患者様一人ひとりに寄り添った医療を提供している。