【医師が解説】4p欠失症候群(ウォルフ・ヒルシュホーン症候群)とは

はじめに

はじめに

4p欠失症候群(ウォルフ・ヒルシュホーン症候群、以下WHS)」は、4番染色体の短腕末端にある遺伝子が欠失することによって生じる、まれな遺伝性疾患です。

本記事では、WHSの基本的な知識から、出生前検査での診断方法、症状や治療法、治療とケアまで、学術的エビデンスに基づいて分かりやすく解説いたします。出生前検査を検討される際の重要な情報として、ご活用ください。

基本知識

基本知識

名前の由来

WHSは、1961年にアメリカの医師HirschhornとCooperによって最初に報告され、1965年にWolfらによってさらに詳しく記述されました。※1
そのため、二人の名前をとって「Wolf-Hirschhorn Syndrome(WHS)」と呼ばれています。

発症の原因

この疾患の原因となるのは、「4p16.3」と呼ばれる領域の欠失です。この部分には、様々な発育や神経機能に関与する複数の遺伝子が含まれています※1
その中でも、NSD2遺伝子の喪失は、WHSの特徴的な顔つきや発達遅延を引き起こす原因となると考えられています。
また、LETM1遺伝子やその周辺にある遺伝子(例えばCPLX1)の欠失は、脳内でてんかん発作や異常な電気活動を引き起こすことがあります。さらに、MSX1遺伝子の欠失は、この疾患の患者によく見られる歯の異常や口唇裂、口蓋裂の原因と考えられています。※2

発症頻度と遺伝形式

発症頻度は2万人から5万人に1人とされており、男児よりも女児に多く発症することが知られています(男女比1:2)。
※3大多数の症例(85~90%)は偶発的な染色体異常(de novo変異)であり、両親から受け継がれたものではありません。※1

予後

WHSは稀な疾患でありながら、生後2年以内の死亡率が約30%に達すると報告されています。※4主な死因には、下気道感染症、先天性心疾患、多発性先天異常、原因不明の突然死などが挙げられます。
ただし、遺伝子の欠失が比較的小さい症例では、症状も軽度であることが知られています。※3

症状と特徴:染色体異常がもたらす多彩な臨床像

特徴的な顔貌と発達の遅れ

染色体異常がもたらす多彩な臨床像

WHSの外見的な特徴の中でもっとも有名なのが、「ギリシャ戦士の兜(Greek warrior helmet)」と呼ばれる顔貌です。これは、広く平坦な鼻根、前額部へと続く高い鼻梁、突出した眉間などが組み合わさって形成されます。※1,4
その他にも以下のような顔貌の特徴があります:

・小頭症(microcephaly)や小顎症(micrognathia)
・短い人中や下向きの口角
・高い前額部、離れた目(眼間隔拡大)
・耳介の低位・変形
・口蓋裂や口唇裂

これらの顔貌異常は、出生直後から診断の手がかりとなります。また、80〜90%の症例で子宮内胎児発育遅延がみられ、出生後も成長障害や筋緊張低下が続く傾向にあります。※1,3

神経・知的機能への影響

WHSの多くの症例で、知的発達の遅れや言語発達障害がみられ、てんかん発作の頻度も高いです。てんかん発作は生後6〜12ヶ月に発症することが多く、90%以上の患者に見られるとされています。※1
発作のタイプとしては、主に全身が硬くなる強直間代発作(約70%)、体が力を失う脱力発作や一部の体の部分だけに現れる焦点発作などがあり、発熱や感染をきっかけに誘発されることもあります。※1
また、発作が長時間続くてんかん重積状態を呈する例もあり、特に遺伝子の欠失が大きい場合には、予後が悪化しやすいとされています。※1

その他の合併症

WHSでは多臓器にわたる合併症が知られており、以下のような疾患が報告されています。※4

・先天性心疾患(心室中隔欠損、動脈管開存など)
・腎奇形(腎形成不全、膀胱外反など)
・免疫不全(IgAやIgG2欠損による易感染性)
・消化器症状(嚥下障害、胃食道逆流など)
・骨格異常(側弯、仙骨くぼみなど)

治療とケア

特異的治療はないが、多職種による支援が重要

治療とケア

WHSには病因そのものを修復する治療法は現時点では確立されていませんが、多くの症状に対しては症状緩和を目的とした支持療法が効果的です。小児神経科、循環器科、眼科、泌尿器科、整形外科、歯科、耳鼻科、遺伝カウンセリングなど、多職種連携によるチーム医療が不可欠です。※3
たとえば、先天性心疾患や腎奇形に対しては手術や薬物療法が検討される場合があります。また、筋緊張低下に伴う運動機能の遅れには理学療法が有効です。嚥下障害や栄養不良を防ぐための摂食・嚥下リハビリテーションや胃ろうの導入も検討されます。※5

てんかん管理が重要な課題のひとつ

前述したようにWHSの約90%以上の患者に乳幼児期早期からてんかんが発症します。発作の頻度や重症度は個人差が大きいものの、発作が長時間続くてんかん重積状態は命に関わるケースもあるため、早期の診断と抗てんかん薬による迅速な治療介入が重要です。※1

まとめ

まとめ

WHSは、稀な染色体異常症ですが、NIPT技術の進歩により出生前診断の機会が増えています。本症候群は早期診断と適切な支援により、患者と家族の生活の質を大きく向上させることができる疾患です。
現時点では対症療法が中心ですが、多職種による支援体制と家族の理解が、日常生活の自立や社会参加を後押しします。今後も、正確な情報の普及と研究の進展が、WHSをめぐる医療と社会支援の質を高めていくことが期待されます。

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【参考文献】

※1:Seizure,Volume 116,March 2024. ※2:National Library of Medicine. ※3:Children (Basel), 2021. ※4:Adv Clin Exp Med, 2014. ※5:Wolf-Hirschhorn Syndrome Treatment & Management, 2023.

著者

医学博士・医師
広重 佑(ひろしげ たすく)


医学博士、日本泌尿器科学会専門医・指導医、がん治療学会認定医、抗加齢医学会専門医、日本医師会認定産業医、日本抗菌化学療法学会認定医、性感染症学会認定医、Certificate of da Vinci system Training As a Console Surgeonほか
2010年に鹿児島大学医学部を卒業後、泌尿器科医として豊富な臨床経験を持つ。また、臨床業務以外にも学会発表や論文作成、研究費取得など学術活動にも精力的に取り組んでいる。泌尿器科専門医・指導医をはじめ、がん治療、抗加齢医学、感染症治療など幅広い分野で専門資格を取得。これまで培った豊富な医学知識と技術を活かして、患者様一人ひとりに寄り添った医療を提供している。