【医師が解説】1p36欠失症候群とは

2025.07.29

リライティング日:2025年08月27日

1p36欠失症候群は1番染色体短腕末端の欠失による先天性疾患で、発生頻度は約5,000〜10,000人に1人です。知的障害や心疾患などを伴いますが、NIPTによる早期スクリーニングと適切な療育支援で生活の質を向上できます。

1p36欠失症候群とは

p36欠失症候群とは

1p36欠失症候群は、1番染色体の短腕(p腕)最末端部分である1p36領域が欠失することで生じる先天的な染色体異常疾患です。ヒトの染色体は22対の常染色体と1対の性染色体で構成されますが、1番染色体はその中で最も大きく、多くの重要な遺伝子が集中しています。そのため、この領域の欠失は多臓器にわたるさまざまな症状を引き起こします。(1)

本疾患は1980年に初めて報告されて以来、最も頻繁に発生する染色体末端欠失症候群の一つとして認識されてきました。発生頻度は約5,000〜10,000人に1人と推定されており、男女比にほぼ差はありません。日本においても厚生労働省の指定難病(指定難病197)に認定されており、医療費助成制度の対象となっています。(1)(2)(3)

発症メカニズムとして最も多いのは新生突然変異(de novo mutation)で、両親の染色体に異常がなくても受精や初期の細胞分裂の過程で偶発的に欠失が生じます。一方、約20%の症例では親の染色体に均衡型転座などの構造異常があり、それが子どもの不均衡型転座として発現します。(4)

1p36領域にはPRDM16、KCNAB2、RERE、UBE4B、CASZ1など、脳の発達や心臓の形成、細胞の成長制御に不可欠な遺伝子群が存在しています。欠失の大きさや位置は症例ごとに異なるため、症状の程度にも個人差が大きいのが本疾患の特徴です。(5)

症状と特徴

症状と特徴

1p36欠失症候群の症状は多岐にわたり、主に発達遅延、知的障害、特徴的な身体所見、そして多臓器にわたる合併症が見られます。欠失の範囲や含まれる遺伝子の種類によって重症度は大きく異なります。

◆発達と知的機能

ほぼすべての患者さんにおいて何らかの程度の知的障害が認められ、多くは中等度から重度に該当します。言語発達では重度の遅れが特徴的で、発語がないか数語程度にとどまることが多い一方、言語理解力は発語能力を上回ることも少なくありません。AAC(拡大代替コミュニケーション)機器や絵カードなどを活用した意思疎通が有効な場合もあります。(4)

運動発達では、筋緊張低下(低筋張力)の影響で座位や歩行の獲得が著明に遅延します。約半数の症例では4歳を過ぎても単独歩行が困難とされていますが、理学療法や作業療法による継続的な介入で運動能力が改善するケースも多く報告されています。(6)

◆身体的特徴

本疾患には特徴的な顔貌が認められます。主な身体的特徴は以下のとおりです。

  • 小頭症・小短頭症(頭部が小さく前後に短い形状)
  • 深く窪んだ目元と直線的な眉毛
  • 中顔面低形成(顔の中央部の陥凹)
  • 幅広で平坦な鼻梁、長い人中
  • 尖った顎、低位で後方に傾いた耳

これらの所見は臨床的に本疾患を疑う手がかりとなりますが、欠失の範囲により特徴が不明瞭な場合もあります。成長に伴い低身長が目立つようになる傾向があり、肥満傾向を示す患者さんも報告されています。(4)(7)

◆合併症

1p36欠失症候群では多くの合併症が報告されています。主なものは以下のとおりです。

合併症頻度代表的な疾患
先天性心疾患約43〜71%心室中隔欠損症、動脈管開存症
てんかん約44〜58%点頭てんかん、部分発作
視覚・聴覚異常多数報告あり斜視、難聴

約43〜71%の症例で先天性心疾患が見られ、心室中隔欠損症や動脈管開存症が代表的です。拡張型心筋症のリスクもあるため、定期的な心臓の経過観察が推奨されます。てんかんは44〜58%の症例で認められ、点頭てんかん(ウエスト症候群)の頻度が高いとされています。(2)

診断方法

診断方法

1p36欠失症候群の診断は、出生前と出生後で異なるアプローチが取られます。遺伝学的検査技術の進歩により、より早期かつ高精度な診断が実現しています。

◆出生前診断(NIPT)

次世代シークエンサー(NGS)を用いた新型出生前診断(NIPT)により、妊婦さんの血液中の胎児由来セルフリーDNA(cfDNA)を解析し、1p36欠失症候群の非侵襲的スクリーニングが可能になりました。約3Mb以上の欠失については98.4%の感度で検出できると報告されています。(8)

ただしNIPTの性能は検査施設によって幅があり、感度20〜100%、特異度81.62〜100%と報告されています。NIPTはあくまでスクリーニング検査であり、確定診断ではない点を理解しておくことが重要です。(9)

NIPTで陽性結果が出た場合の一般的な流れは以下のとおりです。

  1. NIPTで陽性判定が出る
  2. 遺伝カウンセリングを受け、結果の意味と今後の選択肢について説明を受ける
  3. 確定診断のために羊水検査または絨毛検査を実施する
  4. 採取した検体を用いて染色体マイクロアレイ解析やFISH法で確定する
  5. 確定結果を基に、今後の方針について遺伝カウンセリングで相談する

確定診断には羊水検査や絨毛検査などの侵襲的検査が必要であり、ごくわずかながら流産のリスクを伴います。十分な遺伝カウンセリングのもとで判断を行うことが推奨されています。(10)

◆出生後の診断

出生後に本疾患が疑われる場合、まずGバンド法による染色体検査が実施されますが、解像度は約5〜10Mb程度のため微細欠失の検出には限界があります。そこでFISH法を併用し、1p36領域に特異的な蛍光プローブで欠失の有無を判定します。

現在、最も信頼性が高いのは染色体マイクロアレイ解析(CMA)です。ゲノム全体のコピー数変異(CNV)を高解像度で検出でき、欠失範囲の詳細な解析が可能です。CMAは原因不明の知的障害や多発奇形に対する第一選択検査として国際的に推奨されています。(11)

治療と支援

1p36欠失症候群に根本的な治療法は現時点ではありませんが、症状に応じた医学的管理と多職種による包括的な支援により、生活の質を大きく向上させることが可能です。

◆医学的管理

心疾患は種類や重症度に応じて外科的手術や内科的治療で対応します。拡張型心筋症のリスクもあるため、長期的な心機能モニタリングが重要です。てんかんについては抗てんかん薬による薬物療法が中心で、約80%の症例では発作のコントロールが良好に行われています。薬物療法が困難な場合にはケトン食療法や迷走神経刺激療法なども検討されます。(12)

視覚・聴覚異常に対しては眼科・耳鼻咽喉科での定期フォローアップ、成長障害には栄養管理や内分泌学的評価、嚥下障害には言語聴覚士によるリハビリテーションがそれぞれ実施されます。

◆発達支援と療育

早期からの療育介入が推奨され、理学療法(PT)、作業療法(OT)、言語聴覚療法(ST)を中心に個別のプログラムが提供されます。音楽を活用した学習、視覚的・触覚的刺激を取り入れた活動、タブレット端末などのデジタルデバイスが有効な学習支援ツールとなります。十分な忍耐力を持ち、繰り返し学習を行い、積極的に褒めて励ますことが効果的とされています。

◆遺伝カウンセリングと家族支援

約20%の症例では親から欠失した染色体を受け継いでいます。親が均衡型の染色体構造異常を保因している場合、次の妊娠で再び不均衡型の染色体異常が生じるリスクが高まるため、遺伝カウンセリングを受けて再発リスクの正確な評価を行うことが極めて重要です。カウンセリングでは、着床前遺伝学的検査(PGT)を含む次の妊娠への選択肢提示や心理的サポートが包括的に行われます。(4)

患者・家族会による情報交換や相互支援の取り組みも活発であり、福祉サービスや療育、特別支援教育など障害者総合支援法に基づく各種サービスの利用も可能です。

最新の研究動向

1p36欠失症候群の研究は世界各国で精力的に進められています。PRDM16遺伝子のハプロ不全が成長障害や心筋症の発症に関与すること、KCNAB2遺伝子の欠失がてんかんの発症メカニズムに関わること、CASZ1遺伝子が先天性心疾患と関連することなど、個々の遺伝子の機能解明が進んでいます。(4)

さらにiPS細胞を用いた研究では、患者由来の細胞から神経細胞や心筋細胞を分化誘導し、疾患の分子メカニズムを細胞レベルで解析する取り組みが行われています。将来的には、CRISPR-Cas9などのゲノム編集技術による根本的な治療法の開発が期待されています。大規模な患者レジストリを活用した自然歴研究も進展しており、ライフステージに応じた最適な支援体制の構築が目指されています。(2)

まとめ

1p36欠失症候群は、1番染色体短腕末端の欠失により知的発達の遅れ、先天性心疾患、てんかんなどの多彩な症状を引き起こす染色体微細欠失症候群です。発生頻度は約5,000〜10,000人に1人と比較的高く、最も頻度の高い末端欠失症候群の一つです。

早期の診断と適切な支援により、生活の質を大きく向上させることが可能です。NIPTの進歩により出生前からのスクリーニングが可能になり、出生後も染色体マイクロアレイ解析による迅速で正確な診断が実現されています。心疾患やてんかんへの医学的管理、理学療法・作業療法・言語聴覚療法を中心とした包括的な療育、遺伝カウンセリングや家族会による支援体制も充実しており、患者さんとご家族がより良い生活を築くための環境が着実に整備されています。

今後の遺伝子研究やiPS細胞研究の進展により、遺伝子治療を含む新たな治療選択肢の登場が期待されます。

国内最安の費用で8項目の遺伝的疾患リスクを検査「新型出生前検査(NIPT)」

お腹の赤ちゃんの遺伝性疾患リスクがわかる

よくあるご質問

Q1. 1p36欠失症候群はどのくらいの頻度で発生しますか?

A. 1p36欠失症候群の発生頻度は約5,000〜10,000人に1人と推定されています。染色体末端欠失症候群の中で最も頻度が高いものの一つであり、男女比にほぼ差はありません。日本では厚生労働省の指定難病(指定難病197)にも認定されています。(2)(3)

Q2. 1p36欠失症候群はNIPT(新型出生前診断)で検出できますか?

A. はい、NGS技術を用いたNIPTにより1p36欠失症候群のスクリーニングが可能です。約3Mb以上の欠失に対しては98.4%という高い感度が報告されています。ただし、NIPTはスクリーニング検査であり確定診断ではないため、陽性の場合は羊水検査や絨毛検査による確定診断が必要です。(8)

Q3. 1p36欠失症候群は親から遺伝しますか?

A. 約80%の症例は新生突然変異(de novo mutation)によるもので、両親の染色体に異常がない状態で偶発的に生じます。しかし、約20%の症例では親が均衡型の染色体構造異常を保因しており、それが子どもに不均衡型転座として発現します。遺伝カウンセリングで再発リスクの評価を受けることが推奨されます。(4)

Q4. 1p36欠失症候群の子どもの発達をサポートするにはどうすればよいですか?

A. 早期からの療育介入が重要です。理学療法(PT)、作業療法(OT)、言語聴覚療法(ST)を組み合わせた包括的な支援プログラムが効果的です。音楽や視覚的・触覚的刺激を活用した教材、タブレット端末などのデジタルデバイスも有効です。忍耐力を持ち、繰り返し学習を行い、積極的に褒めて励ますことが大切です。

Q5. 1p36欠失症候群のてんかんは治療できますか?

A. てんかんは約44〜58%の症例で見られますが、抗てんかん薬による薬物療法で約80%の症例では発作のコントロールが良好です。薬物療法で十分な効果が得られない場合にはケトン食療法などの代替的アプローチも検討されます。(12)

Q6. 1p36欠失症候群の確定診断にはどの検査が最も適していますか?

A. 現在、最も信頼性が高いとされるのは染色体マイクロアレイ解析(CMA)です。ゲノム全体のコピー数変異を高解像度で検出でき、微細な欠失も高精度で特定できます。欠失範囲の詳細な解析が可能なため、関与する遺伝子の同定や予後の予測にも役立ちます。(11)

Q7. 1p36欠失症候群の患者は成人後どのような生活を送れますか?

A. 症状の程度に個人差がありますが、適切な医学的管理と継続的な支援により、多くの患者さんが成人期を迎えています。障害者総合支援法に基づく各種福祉サービスやグループホーム、就労支援などを活用しながら、それぞれの能力に応じた生活を送ることが可能です。定期的な心機能モニタリングやてんかん管理など医学的フォローアップの継続も重要です。(3)(12)

seeDNA遺伝医療研究所の安心サポート

seeDNA遺伝医療研究所は、国際品質規格ISO9001とプライバシー保護のPマークを取得している安心と信頼のDNA鑑定・遺伝子検査の専門機関です。
家族や親子の血縁関係、パートナーの浮気などにお悩みでしたら、DNA鑑定の専門家が、しっかりとご安心いただけるようサポートいたしますのでお気軽にお問合せください。

【専門スタッフによる無料相談】

seeDNA遺伝医療研究所のお客様サポート

ご不明点などございましたら
弊社フリーダイヤルへお気軽にご連絡ください。

\土日も休まず営業中/
営業時間:月~日 9:00-18:00
(祝日を除く)

著者

医学博士・医師
広重 佑(ひろしげ たすく)


医学博士、日本泌尿器科学会専門医・指導医、がん治療学会認定医、抗加齢医学会専門医、日本医師会認定産業医、日本抗菌化学療法学会認定医、性感染症学会認定医、Certificate of da Vinci system Training As a Console Surgeonほか
2010年に鹿児島大学医学部を卒業後、泌尿器科医として豊富な臨床経験を持つ。また、臨床業務以外にも学会発表や論文作成、研究費取得など学術活動にも精力的に取り組んでいる。泌尿器科専門医・指導医をはじめ、がん治療、抗加齢医学、感染症治療など幅広い分野で専門資格を取得。これまで培った豊富な医学知識と技術を活かして、患者様一人ひとりに寄り添った医療を提供している。

【参考文献】

(1) Am J Hum Genet, 1997年9月
(2) 1p36 deletion syndrome: MedlinePlus Genetics, 2024年3月
(3) J Biol Chem, 1997年3月
(4) 1p36欠失症候群(指定難病197) – 難病情報センター, 2024年10月
(5) Deep Phenotyping in 1p36 Deletion Syndrome, 1970年1月
(6) Appl Clin Genet, 2015年
(7) 1p36欠失症候群とは?(東京大学医科学研究所)
(8) Epilepsia, 2008年3月
(9) PLoS One, 2020年
(10) J Clin Med, 2022年6月
(11) Unique, 2018年10月
(12) Am J Hum Genet, 2010年5月
電話で無料相談0120-919-097 メール・お問い合わせ
各検査の費用と期間 メール/Webからお問い合わせ