【専門家が解説】服やティッシュに付いたシミは男性の精液か?その確認方法

2018.09.05

最終更新日:2025.09.06

服やティッシュに付いたシミが男性の精液か確認する方法は?

衣服やティッシュペーパーなどに付いた不審なシミが男性の精液かどうか気になる場合、専門的な精液鑑定によって確認することができます。そのシミが精液であれば、DNA型鑑定を行うことで「誰の精液か」まで特定することも可能です。

精液の主な成分と検出のポイント

精液の主な成分と検出のポイント

まず最初に、精液がどんな成分でできているのかを押さえておきましょう。
精液というと「精子」のイメージが強いですが、実は精子そのものは精液全体の約10%程度しか含まれていません。※1残りの90%ほどは精漿(せいしょう)と呼ばれる液体成分です。
精漿には前立腺や精嚢(せいのう)といった器官から分泌される液体が含まれており、ここに精液特有の酵素やタンパク質が豊富に含まれています。代表的なものが「酸性ホスファターゼ(前立腺由来の酵素)」や「PSA(前立腺特異抗原)」と呼ばれるタンパク質です。これらは精液に高濃度に含まれるため、「精液ならではの目印」として検査に利用されています。

精子は男性の生殖細胞であり、頭部にDNA(遺伝子情報)を含んでいます。精子は非常に小さく、頭部の大きさは約5マイクロメートル(0.005mm)ほどしかありません。髪の毛の太さ(約50マイクロメートル)と比べても桁違いに小さいため、シミの中から直接この精子を探し出すのは骨の折れる作業です。そのため、実際の法科学の現場ではいきなり顕微鏡で精子を探すのではなく、まず精液特有の成分(酵素や抗原)があるかどうかを調べるスクリーニング検査から始めます。精液の特徴的な成分が検出されれば「これは精液の可能性が高い」と判断して、次の段階として精子の有無を顕微鏡で確認するといった手順をとるのです。※1

以下では、一般の方でも使える簡易的な検査方法と、法医学で用いられる本格的な科学的検査手法を順に紹介していきます。

精液を簡易的に検出する方法

精液を簡易的に検出する方法-ブラックライトに照らされた布

自分で手軽に試せる精液の簡易検出方法がいくつか存在します。ここでは代表的なものを紹介します。

◆ 紫外線ライトによる検査

最も手軽なのが、紫外線(ブラックライト)を使った方法です。暗い所でシミに紫外線を当てると、もしそれが精液であれば青白く光って見えることがあります。実際に犯罪現場でもシーツや衣類から精液らしきシミを見つける際に紫外線ライトが使われます。これは精液中のフラビンやコリン結合タンパク質といった物質が紫外線に反応して蛍光するためです。※2
ただし、紫外線で光るからといって必ず精液とは限りません。洗剤や汗、ある種の飲食物などの物質も紫外線に反応して蛍光することがあるため、この方法はあくまで「怪しいシミの場所を見つける」ための予備検査と考えてください。また、シミが古くなると光りにくくなったり、布地の色や材質によっては蛍光が見えにくい場合もあります。※2

◆ 市販の精液検査キットを使う

最近ではネット通販などで浮気検査キットと称した製品も販売されています。
例えばスプレータイプのキットで、シミに2種類の検査薬を吹きかけると、それに精液が含まれていれば色が変わるといった仕組みです。この市販キットの多くは、精液中に多量に含まれる酸性ホスファターゼという酵素のはたらきを利用しています。シミに検査薬をかけて赤紫色に変われば陽性、すなわち酸性ホスファターゼが検出された=精液の可能性がある、と判断する簡易な試験です。実際に法科学の現場で古くから使われている「SM試薬」という物も同じ原理で、精液中の酸性ホスファターゼを検出すると紫色になることが知られています。※2市販のキットはこの手順を一般向けに簡略化したものと言えます。

◆ 専門機関へ検査を依頼

自分で検査する代わりに、専門の検査会社にシミの付いた衣類などを送って調べてもらうサービスもあります。例えばDNA鑑定会社では、まず試料に精液が付着しているかを調べ、その上で必要に応じてDNA型鑑定まで行って結果を報告してくれるところもあります。
費用はかかりますが、より確実に調べたい場合の選択肢です。

分子生物学的な検出方法(精液中の特異タンパク質の検出)

イムノクロマト法

人間の精液だけに存在する特異的なタンパク質(前立腺由来の抗原:P30またはPSAと呼ばれるものなど)を検出する方法です。※1この方法では、精液に含まれる特定タンパク質を抗原とみなし、それに結合するモノクローナル抗体を用いた検査(例えばイムノクロマト法やELISA法)が用いられます。

<メリット>

人間の精液に対してきわめて高い特異性と高感度を持つため、他の体液(唾液や血液など)や動物の精液には基本的に反応せず、人の精液だけを検出できます。わずかな量の精液でも検出可能で、微量の精液成分を含む試料でも陽性反応を示すことができるため、精液が非常に薄められた状態(極微量)でも判別可能です。
その高い信頼性から、各国の犯罪捜査機関(米国FBIなど)をはじめ、法科学の現場で精液の確認試験として広く採用されています。※2

<デメリット>

検査に使用する試薬(抗体キット等)が高価であるため、鑑定費用が高くなります。また専用の機材や高度な技術が必要となる場合もあるため、手軽に行える検査ではありませんが、確実性が求められる鑑定では欠かせない方法です。

\この原理を用いた最も正確な精液鑑定/

化学的な検出方法(酵素活性の確認)

化学的な検出方法

古典的な科学捜査の手法で、特殊な試薬を用いて精液中に含まれる酵素の活性や反応によって検出する方法です。具体的には、精液に多く含まれる酸性フォスファターゼ(前立腺由来の酸性リン酸酵素)の存在を確認する試薬(例えば「SM試薬」と呼ばれるもの)などをシミの部分に作用させ、色の変化で判定します。酸性フォスファターゼは精液中に非常に高濃度で含まれているため、この活性を利用して精液付着の有無を迅速かつ簡易に調べられます。

<メリット>

検査時間が短く、使用する試薬も比較的安価です。シミのうち精液が付着していそうな箇所を絞り込む目的で用いるスクリーニング(予備)検査として優れています。犯罪現場では警察がこの検査をその場で行い、本格的な鑑定が必要かどうかの判断材料にすることもあります。

<デメリット>

酸性フォスファターゼ自体は人間の血液(血球成分)や動物の精液、唾液・膣分泌液など他の体液や物質にも含まれているため、この試薬で反応が出てもそれだけで精液と断定はできません。あくまで「精液の可能性あり」という予備判定に留まり、本確認には他の方法を併用する必要があります。また、精液以外にも酵素反応するため偽陽性(精液でないのに反応が出る)のリスクがあります。酸性フォスファターゼ試験は簡便ではありますが精度に限界があり、特に裁判など法的な証明には単独では不十分です。※1

顕微鏡を使った検出方法(精子細胞の確認)

顕微鏡を使った検出方法(精子細胞の確認)

採取した試料を顕微鏡で観察して、精液中に含まれる精子(精子細胞)の有無を直接確認する方法です。シミから採取した検体をガラススライド上に展開し、特殊な染色処理を施して精子を探します。染色法にはクリスマスツリー染色(核染色液により精子の頭部を赤色、尾部を緑色に染め分ける方法)などがあり、これによって精子を背景組織から判別しやすくします。※5精子が確認できれば、そのシミは精液由来であることを直接証明できます。

<メリット>

顕微鏡下で実際に精子を目視するため、試料が精液か否かを直接的かつ明確に判断できます。顕微鏡観察による確認は法医学的にも最終確証と見なされ、刑事事件においても精子の発見は性交(精液付着)の有力な物的証拠として認められています。染色法による観察は非常に信頼性が高く、例えばクリスマスツリー染色法は精子検出において最も有用な方法の一つであることが報告されています。※4

<デメリット>

検査の手間と時間がかかり、専門技術も必要なため費用は高めです。またある程度まとまった量の精液試料がないと精子自体を見つけることが難しく、微量の精液では検出が困難です。
さらに、精子が見つからなかった場合の判断が難しいという問題もあります。すなわち「精子が検出されない=精液ではない」とは言い切れず、単に検出できなかっただけの可能性もあります。
実際、乾燥した状態では精子細胞は壊れやすく、時間の経過や相手の体内環境によって精子が減少・消失する場合もあります。加えて、無精子症(精液中に精子がない状態)や乏精子症の男性の精液ではそもそも精子がほとんど見られないため、精液であっても精子を確認できないケースがあります。そのため顕微鏡観察で精子が見つからなくとも精液が否定できるわけではなく、他の補助的な検査結果と総合して判断する必要があります。

以上が精液判定の主な方法です。近年では、3のタンパク質検出(特にPSAの迅速検出キット)と5の顕微鏡観察(染色法)を組み合わせて行うのが一般的です。※4
まず安価な4の化学的検出法で予備スクリーニングを行い、陽性反応が得られた試料に対して1や3の方法で本鑑定(確証検査)を行うといった手順が取られます。これにより効率よく精液の有無を見極め、最終的に精度の高い確認を行うことができます。

インターネット販売される簡易精液検査キットの注意点

インターネット販売される簡易精液検査キットの注意点

インターネット上では「精液検出試薬」や「浮気調査キット」と称する簡易検査キットが市販されていることがあります。
しかし、上述した方法以外に精液を正確に判別できる手段は現在のところ存在しません。市販の簡易キットの中には、酸性フォスファターゼ試験を簡略化しただけのものや、科学的根拠が乏しいものも混在しています。その結果、水道水や唾液など精液以外のものにも陽性反応を示してしまう粗悪な製品もあり、誤判定によるトラブルが多発しています。
実際に海外ではこうした試薬キットを大量販売していた業者が詐欺の疑いで逮捕された事例も報告されています。簡易キットの結果を過信すると重大な誤解を招く恐れがありますので、確実な鑑定結果が必要な場合は信頼できる専門機関に依頼することをおすすめします。

精液検査の限界と注意点

精液検査の限界と注意点

ここまで精液を検出する様々な方法を紹介してきましたが、結果を解釈する際の限界や注意点も押さえておきましょう。科学的な検査とはいえ万能ではなく、誤判断につながる要因があります。

<偽陽性に注意>

ある検査で陽性反応が出ても、必ずしもそれが精液によるものとは限りません。特に酸性ホスファターゼ反応は偽陽性が起きやすい検査です。女性の体液(膣分泌液など)や唾液にもこの酵素は含まれるため、例えば女性用下着のシミを酵素キットで調べたら浮気していないのに陽性反応が出てしまうというケースも理論上ありえます。
実際に法科学の研究でも、酸性ホスファターゼを使ったキットを女性の生理用品に使うと偽陽性になった例が報告されています。分子生物学的検査(PSAキットなど)は比較的特異度が高いものの、上で述べたように例外的な体質による偽陽性が起こる可能性がゼロではありません。

<偽陰性に注意>

反対に、本当に精液が付いているのに検査で見逃してしまうケースも考えられます。シミが古くて劣化していたり、洗濯や清掃で流されて成分が薄くなっていた場合、検出限界以下のごく微量しか残っていないことがあります。
そのような場合、酵素検査でも反応が遅れたり弱かったりして見逃す可能性がありますし、PSAキットでも反応が出ない(偽陰性)ことがあります。特に市販の簡易キットを使うときは、説明書に書かれた手順を守りつつ、陽性が出なかったからといって絶対に精液が付いていないとは言い切れないことに注意しましょう。

<時間経過と保管状況>

精液成分の検出しやすさは、時間経過や環境条件にも影響されます。例えば酸性ホスファターゼ酵素は乾燥状態では比較的長期間活性が保たれますが、湿度や高温にさらされると数日で分解が進み検出が難しくなります。精子も乾燥した布上ではかなり長く形が残ることがありますが、逆に湿った環境では細菌などの影響で壊れやすくなります。※3
シミの保管状況によって検出率が変わることを念頭に置いてください。古いシミから検出反応が得られなくても不思議ではありませんし、逆に数年前のシミでも保存状態次第では陽性になる場合があります。

<総合判断の重要性>

一つの検査結果だけで結論を出さないことが大切です。酵素反応が陽性でも精子が見つからなければ別の原因かもしれませんし、精子が見つからなくてもPSA検査が陽性なら精液由来の可能性があります。それぞれの検査には強みと弱みがあるので、可能であれば複数の方法を組み合わせてクロスチェックすることが理想です。※6
例えば、市販キットで陽性が出たら改めて専門機関で免疫検査やDNA検査を依頼する、といった手順です。法医学の現場でも、まず酵素や免疫でスクリーニング、次に精子の顕微鏡確認、必要に応じDNA型鑑定というように段階的に精度を上げていく運用が一般的です。※1

<倫理的・法律的な配慮>

最後に、検査結果の取り扱いにも注意しましょう。例えばパートナーの持ち物を無断で検査することは信頼関係を損ねるリスクがありますし、場合によってはプライバシー侵害になり得ます。また、鑑定結果を法的な証拠とするには適切な手順で採取・保存された検体である必要があります。浮気調査用途であれば自分で確認する程度にとどめ、公的な場で追及する際は専門の調査機関や弁護士に相談するのが望ましいでしょう。

おわりに

衣類やティッシュの怪しいシミが精液かどうかを調べる科学的な方法について、酵素反応から顕微鏡検査、免疫キット、DNA鑑定まで幅広く紹介しました。
精液には独特の成分が含まれており、それらを手がかりに簡易な市販キットでもある程度の判定が可能です。しかし、今回見てきたように各検査手法には一長一短があり、結果の解釈には慎重さが求められます。特に予備検査で陽性出た場合は、必要に応じて追加の確認検査を行うなどの対応が大切です。科学の力を使えばシミの正体にかなり迫ることができますが、その精度と限界を正しく理解することが肝心です。
一般の読者の方にも、本記事がその一助となれば幸いです。

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【参考文献】

※1:法医学ブログ, 「精液検査」 (2021年8月1日)
※2:Stefanidou M., Alevisopoulos G., Spiliopoulou C. (2010).- 精液検出法に関する総説論文
※3:Forensic Resources, “Forensic Tests for Semen: What you should know”
※4:Allery J.P., Telmon N., Mieusset R., et al. (2001).- 顕微鏡による精子検出法の比較研究
※5:「クリスマス・ツリー染色による精子の検査」顕微鏡観察ラボ
※6:seeDNA株式会社, 「浮気の潔白を証明しませんか?」 (2024年)

seeDNA医学博士 富金 起範 著者

医学博士 富金 起範

筑波大学、生体統御・分子情報医学修士/博士課程卒業
2017年に国内初となる微量DNA解析技術(特許7121440)を用いた出生前DNA鑑定(特許7331325)を開発