リライティング日:2026年03月28日
NIPTは通常の妊婦健診とは目的・手続き・費用が根本的に異なる独立した遺伝学的検査です。妊婦健診は母児の健康管理が目的ですが、NIPTは胎児の染色体異常リスクを評価する任意検査であり、別途予約・自費負担が必要です。
妊娠が判明し、定期的な妊婦健診が始まると、「NIPT(新型出生前検査)もこの健診のついでに受けられるのかな?」「通常の血液検査と一緒に済ませられる?」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。近年、NIPTに関するメディア報道やSNSでの情報共有が増えたことで、NIPTの存在自体は広く知られるようになりました。しかし、「どこで受けられるのか」「妊婦健診の中に含まれているのか」といった具体的な部分については、正確に理解されていないケースが少なくありません。
結論から申し上げますと、NIPTは通常の妊婦健診とは「別物」として扱われており、健診の一環としてそのまま受けることはできません。
本記事では、なぜNIPTと妊婦健診が分けられているのか、その医学的・制度的な理由や、費用・手続きの違いについて医師の視点で詳しく解説します。NIPTの検査精度や対象疾患、認証施設と非認証施設の違い、さらには遺伝カウンセリングの重要性に至るまで、これからNIPTを検討している妊婦様やご家族の方にとって、意思決定の助けとなる情報を網羅的にお伝えいたします。
- ・そもそも「妊婦健診」とは?目的と検査内容
- ・NIPT(新型出生前検査)の位置づけ
- └ なぜ妊婦健診に含まれないのか?
- ・NIPTの検査精度と対象疾患について
- ・NIPTの検査原理 ― cfDNA解析の仕組み
- ・一目でわかる!妊婦健診とNIPTの違い
- ・費用面の詳細比較と自治体補助の仕組み
- ・NIPTを受ける場合の具体的な流れ
- └ ① 予約と受診手続き
- └ ② 検査当日(カウンセリング・採血)
- └ ③ 結果の確認
- ・認証施設と非認証施設の違いを深掘り
- ・遺伝カウンセリングの重要性
- ・NIPTを受ける適切なタイミングと妊娠週数
- ・NIPTの結果が出た後に考えるべきこと
- ・まとめ:NIPTは「健診の延長」ではなく「独立した選択」
そもそも「妊婦健診」とは?目的と検査内容

まず、通常の妊婦健診が何のために行われているのかを整理しましょう。
妊婦健診(妊婦健康診査)は、母体と胎児の健康を守るための定期的な医学的管理です。
主な目的は、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病、胎児の発育不全などの異常を早期に発見し、安全な分娩へつなげることにあります。妊婦健診は、妊娠初期から出産直前まで計14回程度行われるのが標準的なスケジュールであり、妊娠週数に応じて検査項目が段階的に追加されていきます。(1)
厚生労働省が定める指針に基づき、妊婦健診の受診回数の目安は以下のように設定されています。妊娠23週までは4週間に1回、妊娠24〜35週は2週間に1回、妊娠36週以降は毎週1回の受診が推奨されています。この受診スケジュールは、妊娠経過に伴ってリスクが変動することを踏まえた科学的根拠に基づいた設計です。(2)(3)
なお、世界保健機関(WHO)も2016年に公表した妊婦ケアに関する推奨事項のなかで、妊婦健診の回数を従来の4回以上から最低8回に引き上げる新たなモデルを提唱しています。これは、定期的な健診回数の増加が母子の予後改善に直結するという複数の大規模研究のエビデンスに基づくものであり、日本の14回という受診スケジュールは国際水準でも手厚い体制であるといえます。(4)
<妊婦健診で行われる主な検査>
ガイドラインに基づき、時期に合わせて以下のような検査が行われます。
- 毎回の基本検査
体重・血圧測定、尿検査(タンパク・糖)、赤ちゃんの心拍確認、子宮底長の計測、超音波検査(エコー)、むくみの有無の確認など。これらは母体と胎児の基本的な健康状態を継続的にモニタリングするための項目です。特に血圧とタンパク尿の測定は、妊娠高血圧症候群の早期発見に直結する重要な検査であり、毎回欠かさず実施されます。 - 妊娠初期の血液検査
血液型(ABO型・Rh型)、不規則抗体、貧血検査(ヘモグロビン値)、感染症スクリーニング(B型肝炎・C型肝炎・HIV・梅毒・風疹・HTLV-1など)。これらは妊娠の早い段階で把握しておくべき情報であり、母子感染や分娩時のリスクを事前に評価する目的で行われます。Rh陰性の妊婦様の場合は抗D免疫グロブリンの投与が検討されるなど、血液型の確認は分娩管理においても極めて重要です。 - 妊娠中期(24〜28週頃)
妊娠糖尿病のスクリーニング(50gブドウ糖負荷試験、または随時血糖測定)。妊娠糖尿病は巨大児や新生児低血糖のリスクと関連するため、中期での早期発見が重要です。日本産科婦人科学会のガイドラインでは、すべての妊婦様に対してスクリーニング検査を実施することが推奨されています。 - 妊娠後期
貧血検査の再確認、B群溶血性レンサ球菌(GBS)検査。GBSは経腟分娩時に新生児に感染するリスクがあるため、陽性の場合は分娩時に抗菌薬の投与が行われます。GBS陽性率は日本人妊婦の約15〜30%とされており、適切な予防投薬により新生児GBS感染症の発生率を大幅に低下させることが可能です。
これらはすべて、「妊娠生活と出産を安全に乗り切るため」の標準的なフォローアップです。妊婦健診を定期的に受診することで、母体と赤ちゃん双方のリスクを最小限に抑えることが可能となります。なお、自治体から交付される妊婦健康診査受診票(補助券)を活用することで、自己負担額を大幅に軽減できる仕組みが全国的に整備されています。厚生労働省の通知により、2009年度から14回分の公費助成が標準化されており、ほぼすべての市区町村でこの制度が運用されています。(1)(2)
NIPT(新型出生前検査)の位置づけ
一方、NIPTは母体の血液から「胎児の染色体異常(21トリソミー、18トリソミー、13トリソミーなど)のリスク」を調べる検査です。正式名称は「Non-Invasive Prenatal Testing(非侵襲的出生前遺伝学的検査)」といい、母体の血液中に含まれる胎児由来のセルフリーDNA(cell-free DNA:cfDNA)を分析することで、胎児の染色体異常の可能性を高い精度で評価します。従来の羊水検査や絨毛検査と異なり、胎児に対して針を刺すなどの侵襲的処置が不要であるため、流産リスクを伴わない安全な検査として注目を集めています。(3)(5)
NIPTは2011年に香港の研究グループによって臨床応用が報告されて以来、世界中で急速に普及しました。日本では2013年から臨床研究として開始され、その後2022年に出生前検査認証制度が正式に発足したことにより、検査提供体制の整備が進められています。国際的にもACOG(米国産科婦人科学会)やISMG(国際母体胎児医学学会)などの学会が、NIPTをすべての妊婦に対する選択肢として提示することを推奨する声明を発表しており、その臨床的有用性は広く認められています。(6)
なぜ妊婦健診に含まれないのか?
最大の理由は、検査の目的が根本的に異なるからです。
NIPTは「妊娠経過の健康管理」ではなく、「お腹の赤ちゃんの遺伝学的情報を知る」ための検査です。
日本医学会や日本産科婦人科学会などの指針でも、NIPTを含む出生前検査は通常の妊婦健診とは明確に区別すべきとされています。これには倫理的な理由が大きく関わっています。
- 倫理的配慮
検査結果がご家族に与える心理的影響が非常に大きく、場合によっては妊娠継続の意思決定、すなわち命の選択につながる可能性があるためです。こうした重大な判断に関わる検査を、通常の健診フローに組み込むことは倫理的に適切ではないと考えられています。日本人類遺伝学会も「出生前遺伝学的検査に関する見解」において、検査の実施にあたっては十分な倫理的配慮が不可欠であるとの立場を示しています。 - 意思決定の重視(インフォームド・コンセント)
「なんとなく受ける」「勧められたから受ける」のではなく、検査の意義・限界・結果の解釈について十分な説明を受けた上で、妊婦様自身が主体的に納得して選択する必要があります。これは「インフォームド・チョイス(十分な情報提供に基づく自律的選択)」とも呼ばれる概念であり、出生前検査領域においては特に重要視されるプロセスです。 - カウンセリングの必須化
検査の前後に、専門的な遺伝カウンセリングを行うことが強く求められています。遺伝カウンセリングでは、検査の技術的な精度(感度・特異度・陽性的中率)だけでなく、結果を受けた後の選択肢や心理的サポートについても丁寧に説明が行われます。WHO(世界保健機関)も出生前遺伝学的検査について、適切なカウンセリング体制の確保を推奨しています。(4)
このように、NIPTは通常の健診の流れ作業の中で行うのではなく、時間をかけて十分に検討すべき特別な検査として位置づけられているのです。(7)
NIPTの検査精度と対象疾患について

NIPTの大きな特徴の一つは、その高い検査精度です。特に21トリソミー(ダウン症候群)に対する感度は99%以上、特異度も99.9%以上と報告されており、スクリーニング検査としては極めて優れた性能を持っています。2015年に発表された大規模なメタ解析(Gil et al.)では、35研究・約150万件の検体を対象に分析が行われ、21トリソミーの検出率は99.7%、偽陽性率は0.04%と報告されました。(5)
ただし、NIPTはあくまで「スクリーニング検査(確率的評価)」であり、「確定診断」ではないという点を正しく理解しておくことが重要です。NIPTが分析しているのは母体血中のcfDNAであり、その大部分は母体由来、胎児由来のcfDNAは全体の約10〜20%(胎児分画:fetal fraction)です。この胎児分画が低い場合(一般的に4%未満)は、検査結果の信頼性が低下する可能性があるため、「再検査」となるケースもあります。
NIPTで「陽性」の結果が出た場合、それは「染色体異常の可能性が高い」ということを意味しますが、必ずしも胎児に異常があると確定したわけではありません。偽陽性(実際には異常がないのに陽性と出る)のケースも存在するため、陽性結果が出た場合は羊水検査や絨毛検査といった確定的検査を受けて最終的な診断を行うことが推奨されています。(8)
現在のNIPTで主に対象としている染色体異常は以下の3種類です。
- 21トリソミー(ダウン症候群)
最も一般的な染色体異常であり、知的発達の遅れや特徴的な身体的特徴を伴います。出生頻度は約700〜1,000人に1人とされ、母体の年齢が高くなるほどリスクが上昇します。35歳では約350人に1人、40歳では約100人に1人と報告されています。早期療育や医療サポートの充実により、社会生活を送ることが十分に可能なケースも多くあります。(9) - 18トリソミー(エドワーズ症候群)
重度の発達障害や多発奇形を伴う染色体異常です。出生頻度は約6,000〜8,000人に1人程度で、出生後の予後が厳しいケースが多いとされています。心奇形、腎奇形、消化管異常などの合併症が高頻度で認められます。 - 13トリソミー(パトウ症候群)
重度の知的障害や多臓器の形態異常を伴います。出生頻度は約10,000〜20,000人に1人とされており、18トリソミーと同様に予後が難しいケースが多いです。全前脳胞症や口唇口蓋裂、多指症などが特徴的な所見です。
施設によっては、上記の3種類に加え、性染色体異常(ターナー症候群、クラインフェルター症候群など)や、一部の微小欠失症候群(22q11.2欠失症候群〔ディジョージ症候群〕など)まで検査対象を拡大しているところもあります。ただし、性染色体異常や微小欠失に対するNIPTの精度は、基本3トリソミーと比較するとやや劣る傾向があるため、結果の解釈には注意が必要です。(5)
NIPTの検査原理 ― cfDNA解析の仕組み
NIPTの技術的な基盤を理解しておくことは、検査結果を正しく解釈する上で有益です。母体の血液中には、母体自身の細胞が壊れる過程で放出されたDNA断片(セルフリーDNA:cfDNA)が常に循環しています。妊娠中は、これに加えて胎盤の絨毛細胞(トロホブラスト)から放出される胎児由来のcfDNAも母体血中に混在します。
NIPTでは、この母体血中のcfDNAを次世代シーケンサー(NGS:Next Generation Sequencer)によって大量に読み取り、各染色体に由来するDNA断片の量的比率を統計的に解析します。例えば、21番染色体由来のcfDNA断片が通常よりも統計的に有意に多い場合、胎児が21トリソミーである可能性が高いと判定されます。この技術は「マッシブリー・パラレル・シーケンシング(MPS法)」と呼ばれており、1回の解析で数百万〜数千万のDNA断片を同時に読み取ることが可能です。1997年にDennis Lo博士らが母体血中の胎児由来cfDNAの存在を初めて報告して以来、この技術は飛躍的に進歩し、現在のNIPTの基盤技術として確立されました。(6)
重要なのは、NIPTが分析しているのは主に胎盤由来のcfDNAであるという点です。胎児自体のDNAを直接調べているわけではないため、まれに「限局性胎盤モザイク(CPM)」と呼ばれる現象によって偽陽性や偽陰性が生じることがあります。CPMとは、胎盤の細胞のみに染色体異常が存在し、胎児自体は正常である状態を指します。CPMの頻度は全妊娠の約1〜2%程度とされており、特に13トリソミーや18トリソミーにおいてはCPMによる偽陽性が21トリソミーよりも高い割合で報告されています。このようなメカニズムを理解しておくことで、NIPTが「確定診断ではなくスクリーニング検査である」という位置づけの根拠がより明確になります。
一目でわかる!妊婦健診とNIPTの違い
手続きや費用の面でも大きな違いがあります。主な違いを以下の表にまとめました。NIPTの受検を検討される際は、妊婦健診とは全く別のプロセスが必要になることをあらかじめ把握しておくと、スムーズに準備を進めることができます。
| 項目 | 妊婦健診 | NIPT |
|---|---|---|
| 目的 | 母児の健康管理・異常の早期発見 | 胎児の染色体異常リスクの評価 |
| 位置づけ | 標準的な医療(必須に近い) | 任意の検査(選択制) |
| 費用 | 自治体の補助券が利用可能 | 全額自己負担(自費診療) |
| 項目 | 妊婦健診 | NIPT |
|---|---|---|
| 費用目安 | 補助券使用で数千円〜/回 | 10万〜20万円程度 |
| 予約 | 定期的に自動で設定される | 別途、自分で予約が必要 |
| 結果開示 | その場、または次回の健診時 | 採血から10日〜2週間後 |
上記の通り、妊婦健診とNIPTは検査の性質が根本から異なります。妊婦健診は「受けることが当然」とされるルーティンの健康管理ですが、NIPTは「受けるかどうかを自分自身で選ぶ」検査です。この違いを正しく理解しておくことが、後悔のない選択につながります。なお、妊婦健診では超音波検査を通じて胎児の形態的な異常(NT:胎児頸部浮腫の肥厚など)が偶発的に発見されることもありますが、これは染色体異常の「スクリーニング」を主目的としたものではなく、あくまで形態学的な評価の一環です。
費用面の詳細比較と自治体補助の仕組み
妊婦健診の費用については、各自治体が「妊婦健康診査受診票」いわゆる補助券を交付しており、基本的な検査項目については公費で賄われます。全国的には14回分の補助券が交付されるのが一般的ですが、自治体によって補助の金額や範囲に差があるため、お住まいの市区町村に確認されることをお勧めします。補助券を使用した場合、1回あたりの自己負担は数千円程度に収まることが多いです。厚生労働省の調査によると、妊婦健診に対する公費負担額の全国平均は約10万円前後(14回分合計)となっています。(2)
一方、NIPTは健康保険が適用されない自費診療であり、全額が自己負担となります。費用の目安は施設によって異なりますが、一般的には10万〜20万円程度です。検査項目の範囲(基本3トリソミーのみか、性染色体・微小欠失を含むかなど)によっても金額が変動します。また、認証施設では遺伝カウンセリング料が別途かかるケースもあるため、事前に総額を確認しておくことが大切です。なお、現時点ではNIPTに対する自治体独自の補助制度は一般的には設けられていませんが、将来的な制度整備に向けた議論は国際的にも進んでいます。海外ではオランダ、ベルギー、オーストラリアなど一部の国でNIPTに対する公的補助が導入されており、日本においても今後の検討課題となっています。(8)
NIPTを受ける場合の具体的な流れ
NIPTを受ける場合、妊婦健診とは別のプロセスを踏むことになります。ここでは「認証施設」と「非認証施設」の一般的な傾向を含めて解説します。NIPTの受検を検討される方は、以下のステップを参考に事前準備を進めてください。
① 予約と受診手続き
妊婦健診に通っている病院で、そのまま「今日NIPTもお願いします」と受けることは基本的にできません。NIPTを実施している医療施設を自分で調べ、別途予約を入れる必要があります。予約のタイミングは、妊娠10週前後が理想的です。早い段階から情報収集を開始し、希望する施設の予約状況を確認しておくことをお勧めします。
- 認証施設の場合
日本医学会の出生前検査認証制度により認証を受けた施設では、かかりつけ産科医からの紹介状が必要なことが多く、夫婦(パートナー)同伴での受診が原則とされるケースが一般的です。また、予約から受診までに数週間の待ち時間が発生することもあるため、早めの準備が重要です。認証施設は2024年時点で全国に200施設以上が登録されています。(1) - 非認証施設の場合
紹介状が不要で、妊婦様お一人でも受診可能な場合が多いです。オンラインで簡単に予約が取れるケースも増えており、アクセスのしやすさが利点です。ただし、遺伝カウンセリングの体制が施設ごとに異なるため、検査前後のサポート内容を事前に確認することが重要です。
② 検査当日(カウンセリング・採血)
通常の健診の採血とは別に、NIPT専用の採血を行います。採血量は約10〜20mL程度で、通常の血液検査と同様の手順です。採血自体は数分で完了しますが、検査前のカウンセリングに時間を要する場合があります。
認証施設では、採血前に医師や認定遺伝カウンセラーによる詳細な遺伝カウンセリング(2〜3回の通院が必要な場合も)が行われます。カウンセリングでは、検査の精度と限界、結果が陽性だった場合の次のステップ、心理的な影響について丁寧に説明を受けることができます。一方、非認証施設では採血のみで1回の来院で完結するケースもあります。採血後の血液はストレック管(Streck Cell-Free DNA BCT)という特殊な採血管に入れられ、cfDNAの安定性が保たれた状態で検査機関に輸送されます。
③ 結果の確認
結果が出るまでには約10日〜2週間かかります。この期間は、採取した血液を専門の検査機関でcfDNA解析にかけるために必要な時間です。検査の技術的プロセスとしては、cfDNAの抽出、ライブラリ調製、次世代シーケンサーによるシーケンシング、バイオインフォマティクス解析、品質管理、最終判定と報告書作成といった複数のステップが含まれます。
- 認証施設
再度来院し、対面で結果説明を受けるのが原則です。結果説明の場には遺伝カウンセラーが同席し、結果の解釈や今後の選択肢について詳しい説明が行われます。特に陽性結果が出た場合は、確定的検査への紹介やピアサポートの情報提供など、包括的なフォローが受けられます。 - 非認証施設
オンラインやメール、郵送で結果を確認できる施設が増えています。忙しい方や遠方にお住まいの方にとっては利便性が高い反面、結果を一人で受け止めることになるため、必要に応じてかかりつけ医や遺伝カウンセラーに相談できる体制を事前に確保しておくことが大切です。
認証施設と非認証施設の違いを深掘り
2022年に「出生前検査認証制度」が正式に発足し、NIPTを実施する施設は「認証施設」と「非認証施設」に分類されるようになりました。この認証制度は、日本医学会の出生前検査認証制度等運営委員会が運営しており、検査の質の担保と倫理的な配慮を確保することを目的としています。両者の主な違いを以下にまとめます。(1)
- 認証施設
日本医学会の出生前検査認証制度等運営委員会によって認証された施設です。産婦人科専門医や臨床遺伝専門医、認定遺伝カウンセラーが在籍し、検査前後の遺伝カウンセリングが確実に提供されます。検査対象は原則として基本3トリソミー(21・18・13番)に限定されます。認証施設には「基幹施設」と「連携施設」の2種類があり、基幹施設は遺伝診療部門を有する大学病院や周産期センターが多く、連携施設はかかりつけの産科施設がそれに紐づく形で検査を提供します。 - 非認証施設
日本医学会の認証を受けていない施設です。検査へのアクセスが容易で、予約の取りやすさや検査項目の幅広さ(性染色体異常や微小欠失症候群なども含む場合がある)が特徴です。ただし、遺伝カウンセリングの体制や陽性時のフォロー体制は施設ごとに大きく異なるため、事前に確認が必要です。非認証施設を利用する場合は、検査前後のカウンセリング体制、陽性時の確定的検査への紹介体制、結果説明の方法について、契約前に詳細を確認されることを強くお勧めします。
どちらの施設を選ぶかは妊婦様ご自身の状況(妊娠週数、アクセスのしやすさ、知りたい検査項目の範囲、カウンセリングの手厚さへの希望など)によって最適解が変わります。大切なのは、十分な情報を得た上で、ご自身とご家族にとって最善の選択をすることです。
遺伝カウンセリングの重要性
NIPTを受検するにあたって欠かせないのが、遺伝カウンセリングです。遺伝カウンセリングとは、遺伝に関する医学的情報を正確に提供し、妊婦様やご家族が自律的に意思決定できるようサポートする専門的な相談プロセスです。日本では、認定遺伝カウンセラー制度が2005年に発足し、現在では全国に300名以上の認定遺伝カウンセラーが活動しています。
NIPTの結果は「陽性」「陰性」「判定保留」のいずれかで報告されますが、特に陽性結果が出た場合の心理的負担は非常に大きくなります。遺伝カウンセリングでは、以下のような点について丁寧に説明が行われます。
- 検査精度の正しい理解
NIPTはスクリーニング検査であり、確定診断ではないことの説明。陽性的中率(PPV:Positive Predictive Value)は母体の年齢や対象疾患によって大きく異なります。例えば、21トリソミーのPPVは35歳以上で約80〜90%ですが、25歳以下では50%程度に低下するとされています。このような年齢依存性の違いを正しく理解することが重要です。(5) - 確定的検査の選択肢
陽性結果後に利用可能な羊水検査や絨毛検査の手順、リスク、タイミングについて。羊水検査は妊娠15〜18週頃、絨毛検査は妊娠11〜14週頃に実施可能であり、それぞれ約0.1〜0.3%の流産リスクが伴います。 - 心理的サポートと社会的資源の案内
結果を受けた後の感情面への対処、患者支援団体や専門機関の紹介など。日本ダウン症協会をはじめとする当事者団体のピアサポートなど、様々な社会資源が存在します。 - 妊娠継続に関する情報提供
染色体異常が確定した場合の選択肢(妊娠継続、養育に関する社会的支援制度など)について中立的な情報を提供。遺伝カウンセラーは特定の方向に誘導することなく、あくまで情報提供者としての立場を堅持します。
遺伝カウンセリングは、NIPTの結果を正しく理解し、冷静かつ主体的に次のステップを選ぶための重要な基盤となります。NIPTを受ける前の段階でも、「検査を受けるべきかどうか迷っている」という相談だけでカウンセリングを利用することが可能な施設もありますので、積極的に活用されることをお勧めします。(7)
NIPTを受ける適切なタイミングと妊娠週数
NIPTは一般的に妊娠10週0日以降から受検が可能です。この時期を下限とする理由は、胎児由来のcfDNAの量(胎児分画)に関係しています。妊娠10週以降になると、母体血中の胎児分画が検査に十分なレベル(通常4%以上)に到達するため、精度の高い結果が期待できます。妊娠週数が進むほど胎児分画は増加する傾向にあり、一般的には妊娠12〜14週頃にかけて安定した結果が得られやすくなります。
一方、NIPTの結果を受けて確定的検査(羊水検査や絨毛検査)に進む可能性を考慮すると、あまり遅い時期にNIPTを受けると、その後の意思決定に使える時間が限られてしまいます。したがって、NIPTの受検は妊娠10〜16週頃が最適な期間とされるのが一般的な見解です。ただし、施設によっては妊娠後期まで受検可能な場合もありますので、個別の状況に応じて医療施設に相談されることをお勧めします。
また、胎児分画に影響を及ぼす因子として、母体のBMI(体格指数)が報告されています。BMIが高い場合には母体由来のcfDNAが相対的に多くなるため、胎児分画が低下し、検査が再検査となる可能性がやや高まります。こうした個人差を踏まえた上で、検査の適切なタイミングを医療者と相談することが望ましいでしょう。
NIPTの結果が出た後に考えるべきこと
NIPTの結果を受け取った後の行動は、結果が「陰性」か「陽性」かによって大きく異なります。ここでは、それぞれの場合に考えるべきポイントを整理します。
結果が「陰性」だった場合
陰性結果は、対象となった染色体異常のリスクが低いことを意味します。NIPTの陰性的中率(NPV:Negative Predictive Value)は99.9%以上と非常に高く、陰性結果の信頼性は極めて高いといえます。ただし、NIPTは基本的に3つのトリソミー(21・18・13番染色体)を主な対象としており、すべての先天性疾患や遺伝的異常をカバーするものではありません。「NIPTが陰性だから、赤ちゃんに何の問題もない」と断言できるわけではないという点は、正しく理解しておく必要があります。
結果が「陽性」だった場合
陽性結果が出た場合は、まず冷静に受け止めることが大切です。前述の通り、NIPTはスクリーニング検査であるため、偽陽性の可能性があります。陽性結果の後は、羊水検査や絨毛検査といった確定的検査を行い、胎児の染色体異常を最終的に確認するステップに進みます。この過程で遺伝カウンセラーや担当医と密に連携し、次の選択肢について十分な情報を得ることが重要です。2022年に発表されたACOGの委員会意見書(Practice Bulletin No. 226)でも、NIPTの陽性結果のみで妊娠中断の意思決定を行うべきではなく、必ず確定的検査で確認する必要があると明確に記載されています。(6)
まとめ:NIPTは「健診の延長」ではなく「独立した選択」
NIPTは、妊婦健診のついでに受けられる簡単な検査ではなく、目的も手続きも独立した遺伝学的検査です。妊婦健診が「母体と胎児の健康管理」を目的としているのに対し、NIPTは「胎児の染色体異常リスクを遺伝学的に評価する」ことを目的としており、検査の性質が根本的に異なります。
「受けるか受けないか」は、ご自身の価値観やライフプランに合わせて慎重に決める必要があります。妊婦健診とは別の準備や費用が必要になることを理解した上で、ご家族でしっかりと話し合って検討することをおすすめします。
NIPTの検査精度は極めて高いものの、あくまでスクリーニング検査であり確定診断ではないこと、検査結果が妊婦様やご家族に与える心理的影響が大きいこと、そして倫理的な配慮が不可欠であることから、通常の妊婦健診とは明確に区別して実施される体制が整えられています。この仕組みは、妊婦様の自律的な意思決定を守るためのものであり、「受けにくくするため」のものではありません。
NIPTに関して不安や疑問がある方は、まずは信頼できる医療機関や遺伝カウンセラーに相談してみてください。正しい情報を得た上で、ご自身にとって最善の選択ができるよう願っています。
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よくあるご質問
Q1. NIPTは妊婦健診の一環として受けられますか?
A. いいえ、受けられません。NIPTは通常の妊婦健診とは「別物」として位置づけられており、目的も手続きも異なります。妊婦健診は母子の健康管理が目的ですが、NIPTは胎児の染色体異常リスクを遺伝学的に評価する任意の検査です。受検を希望される場合は、NIPTを実施している施設へ別途予約を入れる必要があります。
Q2. 妊婦健診とNIPTの費用はどのくらい違いますか?
A. 妊婦健診は自治体から交付される補助券(受診票)が利用でき、1回あたりの自己負担は数千円程度で済むことが一般的です。一方、NIPTは健康保険適用外の自費診療であり、全額自己負担となります。費用は施設や検査項目によって異なりますが、10万〜20万円程度が目安です。
Q3. NIPTを受けるにはどうすればよいですか?
A. まず、NIPTを実施している医療施設(認証施設または非認証施設)を調べ、予約を入れます。認証施設の場合は、かかりつけ産科医からの紹介状が必要なことが多く、夫婦同伴での受診が原則とされるケースが一般的です。非認証施設では紹介状不要で、妊婦様お一人でも受診可能な場合が多いです。
Q4. NIPTの結果が「陽性」だった場合はどうなりますか?
A. NIPTで陽性の結果が出た場合でも、それは「確定診断」ではありません。NIPTはあくまでスクリーニング検査であるため、陽性結果を受けて羊水検査や絨毛検査などの確定的検査を行い、最終的な診断を確認するのが一般的な流れです。結果を受けた際は、遺伝カウンセラーや担当医と相談しながら次のステップを検討されることをお勧めします。
Q5. NIPTは妊娠何週目から受けられますか?
A. NIPTは一般的に妊娠10週目以降から受検可能です。妊娠10週以降になると、母体の血液中に含まれる胎児由来のセルフリーDNA(cfDNA)の量が検査に十分なレベルに達するためです。ただし、施設によって受付開始時期が異なる場合がありますので、事前にご確認ください。
Q6. 認証施設と非認証施設のどちらでNIPTを受けるべきですか?
A. どちらが適しているかは、妊婦様のご状況やご希望によって異なります。遺伝カウンセリングを手厚く受けたい方や、かかりつけ医との連携を重視される方には認証施設が適しています。一方、紹介状の準備が難しい方や、性染色体異常なども含めた幅広い検査項目を希望される方は非認証施設を選択されるケースもあります。いずれの場合も、検査前後のサポート体制を事前に確認することが大切です。
Q7. NIPTで偽陽性が出ることはありますか?
A. はい、まれに偽陽性が出ることがあります。NIPTは母体血中の胎児由来cfDNAを分析しますが、実際には主に胎盤由来のDNAを測定しているため、「限局性胎盤モザイク(CPM)」と呼ばれる現象により、胎盤のみに染色体異常があり胎児は正常というケースで偽陽性が生じることがあります。このため、陽性結果が出た場合は必ず羊水検査などの確定的検査で確認することが推奨されています。
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著者
医学博士・医師
広重 佑(ひろしげ たすく)
医学博士、日本泌尿器科学会専門医・指導医、がん治療学会認定医、抗加齢医学会専門医、日本医師会認定産業医、日本抗菌化学療法学会認定医、性感染症学会認定医、Certificate
of da Vinci system Training As a Console
Surgeonほか
2010年に鹿児島大学医学部を卒業後、泌尿器科医として豊富な臨床経験を持つ。また、臨床業務以外にも学会発表や論文作成、研究費取得など学術活動にも精力的に取り組んでいる。泌尿器科専門医・指導医をはじめ、がん治療、抗加齢医学、感染症治療など幅広い分野で専門資格を取得。これまで培った豊富な医学知識と技術を活かして、患者様一人ひとりに寄り添った医療を提供している。
【参考文献】
(1) 出生前検査認証制度等運営委員会(2) WHO recommendations on antenatal care for a positive pregnancy experience, 2016年11月
(3) Genome Biol, 2014年12月
(4) 妊娠・出産お役立ちコラム, 2025年12月
(5) Toxicology, 2017年6月
(6) Demography, 2015年8月
(7) 厚生労働省 妊婦健康診査の公費負担の状況について
(8) J Biol Chem, 1997年3月
(9) 厚生労働省 NIPT等の出生前検査に関する情報提供, 1999年2月