リライティング日:2025年10月05日
NIPT(新型出生前診断)は妊婦の血液から胎児の染色体異常リスクを推定する非侵襲的スクリーニング検査です。高精度ながらも確定診断ではなく、陽性時には羊水検査等が必要です。検査の仕組み・精度・限界・倫理的課題を詳しく解説します。
- ・NIPT(新型出生前診断)の基本:検査の仕組みと対象
- └ 1.NIPTとは何か?:非侵襲性スクリーニング検査の定義
- └ 2.検査の原理:胎児由来cfDNAの解析
- └ 3.NIPTでわかること:スクリーニングの対象疾患
- ・NIPTの精度と限界:正しい理解のために
- └ 1.スクリーニング検査としての位置付け:確定診断ではない理由
- └ 2.検査精度の評価指標:感度、特異度、陽性的中率(PPV)
- └ 3.偽陽性・偽陰性の原因
- ・他の出生前検査との比較
- └ 1.非確定的検査との比較
- └ 2.確定的検査との比較:羊水検査と絨毛検査
- ・NIPTと日本の医療・社会における位置付け
- └ 1.日本国内の指針と認証制度
- └ 2.遺伝カウンセリングの重要性
- └ 3.NIPTが提起する倫理的・社会的課題
- ・NIPTの費用と検査の流れ
- └ 1.NIPTの費用
- └ 2.検査の一般的な流れ
- ・結論と受検を検討されている方へのメッセージ
NIPT(新型出生前診断)の基本:検査の仕組みと対象

1.NIPTとは何か?:非侵襲性スクリーニング検査の定義
NIPT(Non-invasive prenatal genetic testing)は、日本語では「無侵襲的出生前遺伝学的検査」とも呼ばれ、妊婦さんの血液から胎児の染色体異常のリスクを調べる検査です。2011年に米国で臨床導入されて以降、世界中で急速に普及し、日本では2013年から臨床研究として開始されました(1)。
この検査の最大の特徴は、「非侵襲性」であるという点にあります。これは、お腹に針を刺すといった身体的な負担が伴わず、通常の血液検査と同様に、妊婦さんの腕から約10〜20 mLの血液を採取するだけで実施できることを意味します。これにより、絨毛検査や羊水検査といった確定診断に比べて、流産や死産のリスクがほぼゼロであることが大きなメリットとして挙げられます(2)。
しかしながら、NIPTはあくまでも「スクリーニング検査」という位置づけです。スクリーニング検査とは、特定の疾患のリスクが「高いか、低いか」を推定する検査のことであり、胎児がその疾患を実際に持っているかどうかを「確定診断」するものではありません。この点は、NIPTを正しく理解するうえで最も重要なポイントです。NIPTで陽性という結果が出た場合、その診断を確定させるためには、後述する羊水検査や絨毛検査といった確定的検査が必ず必要となります。NIPTの結果だけで妊娠の継続に関する重大な決断を下すことは、医学的にも倫理的にも推奨されていません(3)。
2.検査の原理:胎児由来cfDNAの解析
NIPTの核心的な仕組みは、母体血中に含まれる「cfDNA(cell-free DNA、細胞外DNA)」の解析にあります。cfDNAとは、細胞が自然に死滅(アポトーシス)する過程で血液中に放出される、短いDNA断片のことです(4)。
妊娠中、妊婦さんの血液中には、妊婦さん自身の細胞由来のDNA断片と、胎盤の細胞由来のDNA断片が混在しています。胎盤の細胞は、受精卵から分化した栄養膜細胞(トロフォブラスト)に由来するため、通常、胎児のDNAとほぼ同一の遺伝情報を持っています。この胎盤由来cfDNAを解析することで、胎児の遺伝情報の一部を推定することが可能になるのです(2)。
具体的な検査プロセスとしては、まず採取した血液からcfDNAを抽出し、「次世代シークエンサー(NGS: Next Generation Sequencer)」という高度な遺伝子解析装置を用いて、DNA断片の数を網羅的に測定・解析します。NGSは数百万〜数十億のDNA断片を同時に読み取ることができる革新的な技術であり、この大規模並列解析能力がNIPTの高精度を支えています。特定の染色体に由来するDNA断片の数が通常よりも統計的に多いか少ないかを調べることで、染色体数の異常(異数性)の可能性を判定します(5)。
例えば、ダウン症候群(21トリソミー)は21番染色体が通常より1本多い3本ある状態ですが、NIPTでは21番染色体に由来するcfDNAの量が、他の染色体から予測される量よりも統計的に有意に多いことを検出することで、その可能性を推定します。この解析方法は「マスシブリー・パラレル・シークエンシング(MPS)法」や「全ゲノムシークエンシング法」とも呼ばれています。
検査の精度には、母体血中に占める胎盤由来cfDNAの割合(「胎児DNAの割合」または「fetal fraction:胎児分画」)が重要となります。胎児分画は妊娠週数が進むにつれて増加する傾向にあり、一般的に4%以上の胎児分画がなければ信頼性の高い結果を得ることが難しいとされています。この割合が低い場合、正確な判定が難しくなるため、一般的に妊娠10週以降に検査が推奨されています。また、妊婦さんの体格(BMIが高い場合は胎児分画が低下する傾向がある)や妊娠の状態によっても影響を受けることが知られています(6)。
3.NIPTでわかること:スクリーニングの対象疾患
日本国内において、日本医学会が運用する出生前検査認証制度に準拠する施設(以下、認証施設)では、NIPTの検査対象を主に以下の3つの常染色体トリソミーに限定しています(1)(3)。
- 21トリソミー(ダウン症候群):21番染色体が3本ある状態です。最も頻度が高い常染色体トリソミーであり、知的障害や特徴的な顔貌、先天性心疾患などを伴うことがあります。
- 18トリソミー(エドワーズ症候群):18番染色体が3本ある状態です。重度の発達障害や複数の臓器の奇形を伴い、予後が非常に厳しい疾患です。
- 13トリソミー(パトウ症候群):13番染色体が3本ある状態です。重度の脳や心臓の奇形、口唇口蓋裂などを伴い、予後が極めて厳しい疾患です。
これらの疾患は、妊婦さんの年齢が高いほど発症率が高くなることが知られています。これは、加齢に伴い卵子の減数分裂時に染色体が正しく分配されないエラー(染色体不分離)が起きやすくなるためです(7)。
しかし、日本のNIPT市場には、公的な指針に準拠しない一部の民間検査機関も存在し、広範な検査サービスを提供している実態があります。
例えば、seeDNA遺伝医療研究所は、上記の3つのトリソミーに加え、ターナー症候群やクラインフェルター症候群といった性染色体異数性や、1番から22番の全染色体異数性、さらに微細欠失症候群までを検査対象に含めていることを公表しています。この状況は、公的指針が慎重な倫理的観点から検査範囲を限定している一方で、技術の発展と多様な妊婦さんのニーズが、指針の枠外で広範な検査サービスを生み出していることを示唆しています。
これらの検査結果が持つ意味をより深く理解していただくため、対象となる疾患の医学的・社会的な背景情報を以下にまとめます。
| 疾患名 | 罹患率(日本) | 主な症状・予後 |
|---|---|---|
| 21トリソミー(ダウン症候群) | 出産時の年齢が20歳で2,000人に1人、40歳で100人に1人 | 知的障害や先天性心疾患(約50%に合併)を伴います(8)。 近年では医療の進歩により平均寿命が約60歳前後まで延びていますが、呼吸器感染症や生活習慣病への注意が必要です(9)。 |
| 18トリソミー(エドワーズ症候群) | 3,500〜8,500人に1人 | 重度の先天性心疾患を約50%が合併します。 妊娠10週以降におよそ85%の赤ちゃんが胎内で亡くなるという報告もあります。 生まれた場合でも予後は非常に厳しく、半数以上が生後1週間以内に、90〜95%が1歳までに亡くなります。 ただし、近年では積極的な医療介入により予後が改善するケースも報告されています(10)。 |
| 13トリソミー(パトウ症候群) | 不明(21トリソミー、18トリソミーに次いで多い) | 重度の心疾患や脳の奇形、口唇口蓋裂などを伴います。 予後が非常に厳しく、約80%が生後1か月以内に亡くなり、1年以上生存できる割合は10%未満です。 しかし、近年では積極的な治療によって10年以上生存する例も増えてきています(10)。 |
NIPTの精度と限界:正しい理解のために

1.スクリーニング検査としての位置付け:確定診断ではない理由
NIPTは非常に高精度な検査ですが、100%ではありません。したがって、検査結果が「陽性」であったとしても、それはあくまで「胎児が対象疾患を有している可能性が高い」ことを示すものであり、絶対的な診断ではありません。このため、陽性という結果が出た場合、確定的な診断のためには、絨毛検査や羊水検査といった侵襲的な検査を受けることが推奨されています(2)。
NIPTが確定診断とならない根本的な理由は、この検査が胎児の細胞そのものではなく、胎盤由来のcfDNAを解析しているという点にあります。胎盤と胎児は遺伝的にほぼ同一ではあるものの、完全に一致しないケースが存在するため、検査結果に誤差が生じる可能性があるのです。このメカニズムについては、後述する「偽陽性・偽陰性の原因」で詳しく解説します。
また、NIPTはスクリーニング検査であるため、検査結果は「陽性(Positive)」「陰性(Negative)」「判定保留(No-call)」のいずれかで報告されます。「判定保留」とは、胎児分画の不足やその他の技術的な理由で十分な解析ができなかった場合に出される結果であり、再検査や追加の検査が推奨されます。
2.検査精度の評価指標:感度、特異度、陽性的中率(PPV)
NIPTの精度を正しく理解するためには、以下の3つの重要な指標を知る必要があります。これらの指標は、スクリーニング検査全般に用いられる統計学的な概念です。
- 感度(Sensitivity): 胎児が実際に染色体異常を持つ場合に、検査結果が正しく陽性となる確率を指します。21トリソミー(ダウン症候群)の場合、NIPTの感度は99%以上と非常に高いことが大規模な研究によって確認されています(2)。つまり、実際にダウン症候群である胎児のほぼ全員をNIPTで検出できるということです。
- 特異度(Specificity):胎児が染色体異常を持たない場合に、検査結果が正しく陰性となる確率を指します。21トリソミーの場合、NIPTの特異度も99%以上です。これは、染色体異常がない胎児を「異常なし」と正しく判定できる確率が非常に高いことを示しています。
- 陽性的中率(PPV: Positive Predictive Value):検査結果が陽性だった場合に、実際に胎児が対象疾患を持っている確率です(8)。この指標は、妊婦さんの年齢や疾患の有病率(事前確率)によって大きく変動する点が最も重要です。NIPTの感度・特異度がいずれも99%と高くても、検査対象となる疾患がそもそも非常に稀な場合、陽性結果の中に「偽陽性」が含まれる割合は高くなります。
例えば、21トリソミーの陽性的中率は、30歳の妊婦さんで約61.3%、35歳で約79.9%、40歳で約93.7%と、年齢が上がるにつれて顕著に上昇します(8)。
このデータが示す重要な事実は、若年層の妊婦さんがNIPTで陽性判定を受けた場合、それが「偽陽性」、つまり実際には胎児に染色体異常がない可能性が比較的高いということです。例えば、30歳の妊婦さんの場合、陽性的中率が約61.3%ということは、NIPTで陽性と判定された方のうち約38.7%は実際には胎児に21トリソミーがない「偽陽性」であることを意味しています。この事実は、単に「NIPTは精度が高い」という情報だけで判断せず、検査結果を安易に受け止めずに、必ず確定診断(羊水検査または絨毛検査)を行う必要があることの強力な根拠となります(3)。
また、18トリソミーや13トリソミーについては、21トリソミーよりも有病率が低いため、陽性的中率はさらに低くなる傾向があります。性染色体異数性や微細欠失症候群に対するNIPTの精度は、主要な3つのトリソミーと比較して一般的に低いことも留意すべき点です(5)。
3.偽陽性・偽陰性の原因
NIPTの結果に偽陽性や偽陰性が生じる主要な原因について理解しておくことは、検査結果を正しく解釈するために不可欠です。
最も重要な原因の一つが「胎盤性モザイク(Confined Placental Mosaicism: CPM)」現象です。これは、胎児自身の染色体は正常であるにもかかわらず、胎盤の一部にのみ染色体異常が存在する状態です。胎盤性モザイクは全妊娠の約1〜2%で発生するとされています(11)。NIPTは胎盤由来のcfDNAを解析するため、この胎盤の異常なDNAが検出され、結果として「偽陽性」と判定されることがあります。
逆に、胎盤が正常で、胎児にのみモザイク状態が存在する場合は、検査結果が「陰性」であっても、実際には胎児に異常がある「偽陰性」となる可能性も指摘されています(11)。
その他の偽陽性・偽陰性の原因としては、以下のものが知られています。
- バニシングツイン:双胎妊娠において、片方の胎児が初期に消失した場合、消失した胎児の異常なcfDNAが母体血中に残存し、偽陽性を引き起こす可能性があります。
- 母体の染色体異常・腫瘍:妊婦さん自身に染色体のモザイク状態がある場合や、良性・悪性の腫瘍が存在する場合、腫瘍由来の異常なcfDNAが偽陽性の原因となることがあります。
- 胎児分画の不足:母体血中の胎児由来cfDNAの割合が低い場合、十分な解析精度が得られず、偽陰性となるリスクが高まります。
このような複数の要因が存在するため、NIPTの結果は100%ではないと理解し、結果が陽性であった場合には、確定診断によって必ず確認することが不可欠となります。
他の出生前検査との比較

1.非確定的検査との比較
NIPTは、他の非確定的検査(スクリーニング検査)と比較して著しく高い精度を誇ります。現在、日本で利用可能な主な非確定的出生前検査には、NIPT、胎児精密超音波検査(NT測定を含む)、母体血清マーカー検査(クアドラプルテスト等)、および超音波検査と血清マーカーを組み合わせたコンバインドテストがあります(1)。
検査時期を比較すると、妊娠初期の胎児精密超音波検査は妊娠11〜13週頃、母体血清マーカー検査は妊娠15〜17週頃に行われるのに対し、NIPTは妊娠10週から検査可能であり、より早い段階で検査結果を得ることができます。早期に結果が得られるということは、妊婦さんやご家族がその後の方針について検討する時間的余裕が生まれるという大きな利点があります。
また、検査感度を比較すると、NIPTの21トリソミーに対する感度が99%以上であるのに対し、母体血清マーカー検査(クアドラプルテスト)の感度は約81%にとどまります(2)。コンバインドテスト(NT測定+血清マーカー)の感度は約85〜90%程度とされており、NIPTの方が格段に高いことがわかります。この高い感度と特異度により、NIPTで陰性判定が出た場合、胎児に対象の染色体異常がある可能性は非常に低い(陰性的中率がほぼ100%に近い)と判断できます(5)。
ただし、NIPTは対象が染色体異常に限定されているのに対し、超音波検査は染色体異常以外の構造的な異常(心臓の形態異常、脳の発達異常など)も発見できるという利点があります。そのため、NIPTと超音波検査は補完的な関係にあり、どちらか一方のみで出生前の検査が完結するわけではないことを理解しておくことが大切です。
2.確定的検査との比較:羊水検査と絨毛検査
NIPTがスクリーニング検査であるのに対し、羊水検査や絨毛検査は、それだけで診断が確定する「確定的検査」です。これらの検査では、胎児の細胞を直接採取して染色体分析(Gバンド法やFISH法)やマイクロアレイ解析を行うため、染色体異常の有無をほぼ100%の精度で確定診断することができます(3)。
しかし、これらの検査は、子宮内に針を刺す(経腹的穿刺)という「侵襲的」な手技であるため、ごくわずかではあるものの、流産・死産のリスクが伴います。絨毛検査の流産リスクは0.2〜1%、羊水検査の流産リスクは0.1〜0.3%と報告されていますが、近年の超音波ガイド技術の進歩や熟練した医師による施行により、リスクはさらに低下しているという報告も出ています(12)。
絨毛検査は妊娠11〜14週頃に胎盤の一部(絨毛)を採取して行う検査で、NIPTと同じく妊娠初期に実施できるという利点があります。一方、羊水検査は妊娠15〜18週頃に羊水中の胎児細胞を採取して行うため、結果が判明するまでにさらに時間がかかります。
NIPTは、この侵襲的な確定診断を必要とするか否かを判断するための「入り口」としての役割を担っています。NIPTが普及する以前は、高齢妊娠などのリスク因子がある場合、直接的に羊水検査が提案されるケースも少なくありませんでした。NIPTの導入により、スクリーニングで陰性であった場合に侵襲的検査を回避できるようになり、不必要な流産リスクの軽減に大きく貢献しています(2)。
各出生前検査の特徴を以下にまとめます。なお、見やすさのため項目ごとに整理しています。
■ NIPT(非確定的検査)
- 検査方法:採血のみ
- 検査時期:妊娠10〜16週頃
- 診断の確定度:推定(スクリーニング)
- 流産・死産リスク:ほぼゼロ
■ 絨毛検査(確定的検査)
- 検査方法:胎盤の一部を採取
- 検査時期:妊娠11〜14週頃
- 診断の確定度:ほぼ100%
- 流産・死産リスク:0.2〜1%
■ 羊水検査(確定的検査)
- 検査方法:羊水を採取
- 検査時期:妊娠15〜18週頃
- 診断の確定度:ほぼ100%
- 流産・死産リスク:0.1〜0.3%
NIPTと日本の医療・社会における位置付け
1.日本国内の指針と認証制度
NIPTの実施に関して、日本では日本医学会による「出生前検査認証制度」が運用されています。この制度は2022年に整備され、それ以前の日本産科婦人科学会の指針(2013年〜)を引き継ぐ形で、より包括的な体制が構築されました(1)。
この制度のもと、検査を実施する施設は、十分な遺伝カウンセリング体制を持つ「基幹施設」またはその「連携施設」として認証される必要があります。基幹施設には、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーが在籍していること、陽性結果後の確定診断が可能な体制を持っていることなど、厳格な要件が求められます。
認証施設では、不特定多数の妊婦さんを対象としたマススクリーニングを避けるため、かつてはNIPTの対象となる妊婦さんを特定の条件に限定していました。具体的には、高年齢(出産予定日に35歳以上)の妊婦さん、胎児超音波検査で染色体異常の可能性が示唆された方、母体血清マーカー検査で可能性が示唆された方、過去に染色体異常のある児を妊娠・出産した経験がある方などが対象とされていました。なお、2022年の認証制度改定以降、年齢制限が緩和される方向にあり、現在は基幹施設の判断のもと、より幅広い妊婦さんが検査を受けられるようになっています(3)。
一方で、認証制度に参加していない医療機関(いわゆる「非認証施設」)でもNIPTを受けることは法律上可能であり、こうした施設では年齢制限なく検査を提供しているケースが多くあります。ただし、非認証施設では遺伝カウンセリング体制が十分でない場合があるため、検査を受ける際にはその施設の体制について事前に確認することが重要です。
2.遺伝カウンセリングの重要性
NIPTを受ける前後には、遺伝カウンセリングが必須とされています。遺伝カウンセリングとは、遺伝に関する医学的情報を正確に提供し、クライアント(この場合は妊婦さんやご家族)が自律的に意思決定できるよう支援する専門的なプロセスです(13)。
NIPTが物理的には採血のみで非侵襲的である一方で、その結果が妊婦さんやご家族に深刻な精神的・心理的影響を及ぼす可能性があります。特に偽陽性の場合は、陽性結果がもたらす不安やストレスは計り知れない負担となり得ます。確定診断を受けるまでの待機期間中、妊婦さんが強い不安や抑うつ状態に陥るケースも報告されています。
遺伝カウンセリングは、この「物理的非侵襲性」と「心理的侵襲性」のギャップを埋めるための不可欠なプロセスです。専門家である臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーは、検査の限界(偽陽性・偽陰性)や結果が持つ統計学的な意味、そして陽性であった場合の選択肢(確定診断への進行、出産後の医療計画策定、心理的準備、障害のある子どもの育児に関する情報提供、患者支援団体の紹介など)について、中立的かつ非指示的な立場で情報提供と対話を行います。これにより、妊婦さんが十分な情報に基づき(インフォームド・チョイス)、自らの価値観に沿って主体的な意思決定を行えるようサポートします(1)(13)。
検査前カウンセリングでは、検査の目的、対象疾患、精度と限界、考えられる結果のパターンとそれぞれの意味、確定診断の必要性、そして検査を受けないという選択肢も含めた包括的な説明がなされます。検査後カウンセリングでは、実際の結果に基づいたより具体的な情報提供と心理的サポートが行われます。
3.NIPTが提起する倫理的・社会的課題
NIPTの普及は、社会全体に様々な倫理的・社会的な課題を提起しています。これらの課題は、単に医学的な問題にとどまらず、社会の価値観や障害のある方々への支援のあり方にまで関わる深遠なテーマです。
- 「命の選別」との懸念: NIPTは、出生前診断が「障害を持つ命の排除」につながるのではないかという倫理的懸念を引き起こしています。日本の母体保護法では、胎児の疾患や障害を理由とした人工妊娠中絶は明文上認められていません。にもかかわらず、NIPTの陽性結果が出た場合に妊娠中断を選択する割合が高いという指摘があり、これは妊婦さんが十分に情報を得られずに決断を迫られている可能性を示唆しています(14)。障害を持つ方々やその支援団体からは、NIPTの安易な普及が障害に対する社会的な偏見を助長するのではないかという懸念も表明されています。
- 滑りやすい坂の懸念(Slippery Slope):遺伝学の技術が社会の倫理観をはるかに超えるスピードで進歩していることへの懸念も指摘されています。現在のNIPTは主に染色体異数性を対象としていますが、技術的には単一遺伝子疾患や多遺伝子形質(身長、知能など)に関する情報も将来的に得られる可能性があります。検査対象が拡大し、より多くの遺伝情報が判明するにつれて、「どのような遺伝情報であれば検査をすべきか」「その情報をどう扱うべきか」という新たな倫理的課題が常に生じています。
- 情報格差とアクセス:公的指針に準拠しない施設が提供する広範な検査サービスは、必ずしも十分な遺伝カウンセリングを伴わない可能性があります。妊婦さんがインターネット上の不正確な情報に基づいて検査を受け、結果の解釈に困惑するケースも報告されています。また、NIPTは保険適用外の自費診療であり、費用は一般的に10万〜20万円程度と高額です。この経済的な負担が、NIPTへのアクセスに格差を生じさせている側面があります。
NIPTの費用と検査の流れ
NIPTの受検を検討される方にとって、費用と具体的な検査の流れは重要な情報です。ここでは、一般的なNIPTの受検プロセスについてご説明します。
1.NIPTの費用
NIPTは現在、日本では健康保険の適用対象外(自費診療)です。そのため、検査費用は全額自己負担となり、施設によって料金設定が異なります。一般的な相場としては、基本的な3つのトリソミー検査で10万〜15万円程度、性染色体異数性や微細欠失症候群を含む拡張検査では15万〜25万円程度が目安となっています。
費用には、検査前後の遺伝カウンセリング料が含まれている場合と別途必要な場合があります。また、陽性結果が出た場合の確定検査(羊水検査等)の費用についても、施設によって補助制度の有無が異なります。seeDNA遺伝医療研究所では、確定診断の費用を一部補助する制度を設けており、経済的な不安を軽減するサポート体制を整えています。
検査費用は医療費控除の対象となる場合がありますので、確定申告の際に領収書を保管しておくことをお勧めします。
2.検査の一般的な流れ
NIPTの受検は、一般的に以下のような流れで進みます。
- 予約・相談:検査を行う施設に予約を入れます。多くの施設では、電話やWebサイトから予約が可能です。この段階で、検査内容や費用について事前に確認しておくとよいでしょう。
- 検査前カウンセリング:来院後、遺伝カウンセラーや医師から、NIPTの目的、対象疾患、検査の限界、考えられる結果とその意味について詳しい説明を受けます。十分に理解した上で、検査を受けるかどうかの最終的な意思確認が行われます。
- 採血:通常の血液検査と同様に、腕から約10〜20 mLの血液を採取します。検査自体は数分で終了し、食事制限などの特別な準備は基本的に不要です。
- 検査・結果報告:採取された血液は専門の検査機関に送られ、cfDNAの解析が行われます。結果が出るまでの期間は施設によって異なりますが、一般的に1〜2週間程度です。結果は対面またはオンラインで説明されます。
- 検査後カウンセリング:結果が「陽性」の場合は、結果の意味(偽陽性の可能性を含む)と今後の選択肢について詳しいカウンセリングが行われ、確定検査への案内がなされます。「陰性」の場合でも、残存リスクについての説明が行われます。
結論と受検を検討されている方へのメッセージ
NIPTは、採血のみで早期に、しかも高い精度で主要な染色体異常のリスクを推定できる、画期的な検査です。妊娠10週という早い段階から受検が可能であり、流産リスクがほぼゼロという安全性の高さは、多くの妊婦さんにとって大きな安心材料となります。しかし、この検査の真価を理解するためには、その技術的な側面だけでなく、スクリーニング検査としての限界、偽陽性や偽陰性の可能性、陽性的中率が年齢や疾患によって変動すること、そして結果がもたらす心理的・倫理的な側面を十分に認識しておくことが不可欠です。
NIPTは、決して「受けるべき」あるいは「受けないべき」と一概に決められる検査ではありません。この検査は、ご本人とご家族が、検査の原理や限界、日本の医療体制、そして社会的背景について専門家から十分な情報とサポートを得た上で、自らの価値観に基づいて主体的に選択すべきものです。検査を受けないという選択も、等しく尊重されるべき意思決定です。
万が一、検査で陽性という結果が出た場合でも、一人で悩みを抱え込む必要はありません。認証施設では、陽性結果後の遺伝カウンセリングが原則として義務付けられており、必要に応じて小児科専門医との面接も可能となっています。また、seeDNA遺伝医療研究所のように確定診断の費用を一部補助する制度を設けている施設もあります。陽性結果は確定ではないこと、そして確定診断後にもさまざまな選択肢とサポートが存在することを、どうか忘れないでください。
NIPTは、これからの妊娠・出産を考える上で一つの選択肢となり得ます。検査を検討される際には、まずは信頼できる医療機関で専門家と十分に相談されることを心からお勧めいたします。正しい知識を持ち、十分なサポートを受けることで、ご自身にとって最良の選択をしていただけることを願っています。
\お腹の赤ちゃんの遺伝性疾患リスクがわかる/
よくあるご質問
Q1. NIPTは何週目から受けられますか?
A. NIPTは一般的に妊娠10週以降から受検可能です。これは、母体血中の胎児由来cfDNA(胎児分画)が検査に必要な濃度に達する時期が妊娠10週頃であるためです。妊娠週数が早すぎると胎児分画が不足し、正確な結果が得られない可能性があります。検査を受けられる上限の週数は施設によって異なりますが、多くの施設では妊娠16週頃までを推奨しています。検査の時期について不明点がある場合は、事前に検査施設にご相談ください。
Q2. NIPTで陽性と出た場合、必ず赤ちゃんに異常があるのですか?
A. いいえ、NIPTで陽性と出ても、必ずしも赤ちゃんに染色体異常があるとは限りません。NIPTはスクリーニング検査であり、確定診断ではないためです。特に若い妊婦さんの場合、陽性的中率(陽性結果が実際に正しい確率)は低下する傾向にあります。例えば、21トリソミーの場合、30歳の妊婦さんの陽性的中率は約61%です。つまり、陽性と判定された方の約4割は実際には赤ちゃんに異常がない「偽陽性」です。そのため、陽性結果が出た場合は、必ず羊水検査や絨毛検査といった確定的検査を受け、診断を確定させることが不可欠です [ref:8]。
Q3. NIPTと羊水検査はどう違うのですか?
A. NIPTと羊水検査は、検査の性質が根本的に異なります。NIPTは採血のみで行う非侵襲的なスクリーニング検査であり、リスクの「高い・低い」を推定する検査です。一方、羊水検査は子宮に針を刺して羊水を採取する侵襲的な確定的検査であり、染色体異常の有無をほぼ100%の精度で確定診断できます。ただし、羊水検査には0.1〜0.3%の流産リスクが伴います。NIPTは羊水検査の前段階として、不要な侵襲的検査を避けるためのフィルターとしての役割を果たしています [ref:12]。
Q4. NIPTの費用は保険が適用されますか?
A. 現在の日本では、NIPTは健康保険の適用対象外(自費診療)です。そのため、検査費用は全額自己負担となります。費用は検査項目や施設によって異なりますが、基本的な3つのトリソミー検査で10万〜15万円程度、拡張検査では15万〜25万円程度が一般的な目安です。なお、検査費用は確定申告時に医療費控除の対象となる場合がありますので、領収書の保管をお勧めします。また、seeDNA遺伝医療研究所では、陽性結果後の確定診断費用を一部補助する制度も設けています。
Q5. NIPTの検査結果が「判定保留」となった場合はどうすればよいですか?
A. 「判定保留(No-call)」とは、技術的な理由(主に胎児分画の不足)により、検査結果を正確に判定できなかった場合に出される結果です。判定保留の場合、多くの施設では無料で再検査を実施しています。再検査でも結果が得られない場合は、遺伝カウンセラーや主治医と相談の上、他のスクリーニング検査や確定的検査を検討することになります。判定保留が出やすい要因としては、妊娠週数が早い場合や、BMIが高い場合などがあります [ref:6]。
Q6. 双子(双胎)の場合でもNIPTを受けられますか?
A. はい、双胎妊娠の場合でもNIPTを受けることは可能です。ただし、単胎妊娠と比べていくつかの注意点があります。双胎の場合、2人の胎児からのcfDNAが混在するため、片方の胎児にのみ染色体異常がある場合の検出感度が低下する可能性があります。また、一絨毛膜双胎(一卵性双生児)と二絨毛膜双胎(二卵性双生児)で解釈が異なる場合があります。双胎妊娠でのNIPTの適用については、事前に検査施設にご確認ください。
Q7. NIPTの結果が陰性なら、赤ちゃんに異常がないと言い切れますか?
A. NIPTの陰性結果は非常に信頼性が高く、陰性的中率(陰性結果が実際に正しい確率)はほぼ100%に近いです。しかし、わずかながら「偽陰性」の可能性はゼロではありません。また、NIPTが検出できるのは主に対象となる染色体異数性のみであり、すべての染色体異常や遺伝子変異、構造的な先天性異常をカバーしているわけではありません。そのため、NIPTの陰性結果は安心材料にはなりますが、定期的な妊婦健診や超音波検査を継続して受けることが重要です [ref:5]。
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著者
医学博士 富金 起範
筑波大学、生体統御・分子情報医学修士/博士課程卒業
2017年に国内初となる微量DNA解析技術(特許7121440)を用いた出生前DNA鑑定(特許7331325)を開発
【参考文献】
(2) The American journal of pathology, 2014年7月
(3) 日本産科婦人科学会 母体血を用いた出生前遺伝学的検査に関する指針
(4) The Journal of biological chemistry, 1997年3月
(5) Iranian journal of allergy, asthma, and immunology, 2014年2月
(6) Psycho-oncology, 2014年11月
(7) 厚生労働省 母子保健情報
(8) The Journal of biological chemistry, 2013年4月
(9) Birth defects research. Part A, Clinical and molecular teratology, 2004年12月
(10) 小児慢性特定疾病情報センター
(11) Iranian journal of allergy, asthma, and immunology, 2014年2月
(12) Current opinion in biotechnology, 2014年12月
(13) 日本遺伝カウンセリング学会
(14) Trials, 2018年9月