【医師が解説】検査機関が妊娠16週以降のNIPTを行っていない理由

2025.06.24

なぜNIPTは妊娠16週以降に推奨されないのか?

なぜNIPTは妊娠16週以降に推奨されないのか? 新型出生前診断(NIPT)は、母体の血液から胎児の染色体異常の可能性を調べる非侵襲的なスクリーニング検査として、近年多くの妊婦に選ばれるようになりました。採血のみで済むという手軽さと高い精度から注目されていますが、実施時期は「妊娠16週まで」と限られており、「なぜ16週以降はダメなのか」と疑問を抱く方も少なくありません。

技術的には検査は可能であるにもかかわらず、多くの機関で16週を超えたNIPTを行っていない背景には、単なる運用上の都合ではなく、医療的・倫理的な配慮が存在します。
本記事では、検査精度や臨床判断、そして海外との制度の違いも含め、妊娠16週以降にNIPTが提供されない理由を紐解いていきます。

妊娠週数とNIPT精度との関係

生命 NIPTで調べる胎児のDNA(cell-free DNA, cfDNA)は胎盤由来のもので、妊娠週数とともに血中濃度が上昇することが知られています。※1
つまり妊娠が進むほど、検査精度自体はむしろ安定・向上する傾向にあり、妊娠中期〜後期にかけても高い精度を保つことが可能です。

実際、妊娠後期の方を対象として行った複数の研究においては、妊娠20週以降でも21トリソミーに対する陽性的中率が95%以上であったと報告されています。※2
このことから、技術的には16週以降も検査が行えるはずですが、それでも現場では実施されていないのには別の理由があるのです。

医療的な判断と選択肢が限られる

DNAとジャンプするウサギのイメージNIPTはあくまでスクリーニングであり、陽性結果が出た場合には確定診断として絨毛検査または羊水検査が必要です。絨毛検査は妊娠14週まで、羊水検査は15週以降に行われるのが一般的であり、結果が出るまでに時間を要します。
さらに、日本では母体保護法により人工妊娠中絶が22週未満に限定されています。※3
そのため、16週以降にNIPTを行った場合、確定検査から結果判明、意思決定までの時間が極めて限られしまい、実質的な選択肢が失われかねないのです。

したがって、多くの施設では「医学的にも倫理的にも有効な判断が可能な時期に限定して検査を提供している」のが実情です。

海外では妊娠後期のNIPTはどう扱われているか?

一部の海外では、妊娠後期でもNIPTを受けることが可能とされています。たとえばイギリスやアメリカの一部地域では、妊娠24週頃まで中絶が法的に認められているため、理論上はNIPTを遅れて行っても対応が可能です。※4
ただし、実際には海外でも多くの医療機関がNIPTの実施時期を妊娠初期〜中期に設定しています。これは「検査結果を踏まえた選択を行うには早期の方が望ましい」という考え方が、日本と同様に共有されているためです。
制度の違いはあるものの、意思決定の有効性という観点から、検査は早期に行うべきというコンセンサスが国際的にも存在します。

NIPTは「いつ受けるか」が重要な検査

NIPTは「いつ受けるか」が重要な検査

NIPTは妊婦にとって重要な選択肢を与えてくれる検査ですが、その価値は“いつ受けるか”によって大きく左右されます。技術的には妊娠後期でも検査可能であり、精度にも問題はありません。
にもかかわらず多くの機関が16週以降に検査を行っていないのは、その後の診断・判断にかけられる時間が圧倒的に不足するからです。

NIPTの結果を踏まえて納得のいく判断を行うには、検査を受ける時期が極めて重要です。できるだけ早期の検査が、自分自身と家族にとって後悔のない意思決定につながるはずです。

参考文献

※1:Lancet. Aug., 1997.
※2:Prenat Diagn. Apr., 2017.
※3:母体保護法
※4: Royal College of Obstetricians and Gynaecologists. Jun., 2010.

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著者

医学博士・医師
広重 佑(ひろしげ たすく)


医学博士、日本泌尿器科学会専門医・指導医、がん治療学会認定医、抗加齢医学会専門医、日本医師会認定産業医、日本抗菌化学療法学会認定医、性感染症学会認定医、Certificate of da Vinci system Training As a Console Surgeonほか
2010年に鹿児島大学医学部を卒業後、泌尿器科医として豊富な臨床経験を持つ。また、臨床業務以外にも学会発表や論文作成、研究費取得など学術活動にも精力的に取り組んでいる。泌尿器科専門医・指導医をはじめ、がん治療、抗加齢医学、感染症治療など幅広い分野で専門資格を取得。これまで培った豊富な医学知識と技術を活かして、患者様一人ひとりに寄り添った医療を提供している。