リライティング日:2025年12月10日
NIPTで検査できる染色体異常(21・18・13トリソミー、性染色体異常、微細欠失症候群)の検出精度と、スクリーニング検査としての限界を医師監修のもと詳しく解説します。
妊娠がわかった瞬間から、「赤ちゃんは元気に育っているだろうか」「遺伝の病気は大丈夫だろうか」といった不安は、多くの妊婦さんが自然に抱くものです。出生前検査の選択肢が広がった現在、そのなかでも注目を集めているのが NIPT(Non-Invasive Prenatal Testing:新型出生前検査)です。NIPTは母体からの採血だけで赤ちゃんの染色体の状態を高精度で調べられる検査であり、2013年に日本で臨床研究として導入されて以来、急速に普及が進んでいます。(1)
NIPTは従来の羊水検査や絨毛検査と異なり、針を子宮内に刺す必要がないため、流産などのリスクがほとんどありません。妊娠10週前後から検査可能で、結果も約1〜2週間で得られます。早い段階で染色体異常のリスクを把握できることは、妊婦さんやご家族にとって大きな安心材料となります。
しかし、NIPTは万能な検査ではありません。何がわかり、何がわからないのかを正確に理解することが、検査を受けるかどうかの判断や結果の解釈において非常に重要です。NIPTは「スクリーニング検査」であり、陽性が出たからといって必ずしも胎児に異常があるとは限りません。一方で、陰性であっても100%安心できるわけではないという側面もあります。本記事では、医師の視点からNIPTで検査できる内容とその限界についてわかりやすく解説します。
NIPTとは?――母体採血で行う新型出生前検査の基本
NIPTの正式名称は「非侵襲的出生前遺伝学的検査(Non-Invasive Prenatal Testing)」です。母体の血液中に含まれる胎児由来のセルフリーDNA(cell-free fetal DNA:cffDNA)を解析することで、胎児の染色体異常のリスクを推定します。cffDNAは主に胎盤の絨毛細胞が壊れる際に母体血中に放出されるもので、妊娠が進むにつれてその濃度が上昇します。(2)
従来の出生前検査として広く行われてきた羊水検査や絨毛検査は「確定検査」と呼ばれ、非常に高い精度で染色体異常を診断できます。しかし、これらの検査は子宮に針を刺して検体を採取するため、約0.1〜0.3%の確率で流産を引き起こすリスクがあります。NIPTはこうした侵襲的な処置を必要とせず、母体から採血するだけで検査が完了するため、流産のリスクを回避しながら高精度な情報を得られる点が最大の利点です。(3)
NIPTの検査の流れは以下のとおりです。
- 妊娠10週以降に医療機関や検査機関で採血を行う
- 採取した血液からcffDNAを抽出し、次世代シーケンサー(NGS)等で解析する
- 解析結果をもとに、対象となる染色体の数的異常の有無を判定する
- 約1〜2週間後に結果が通知される(陽性・陰性・判定保留のいずれか)
- 陽性の場合は、羊水検査などの確定検査を検討する
NIPTで検査できる主な染色体異常

NIPTでは、母体血中の胎児由来DNA(cell-free fetal DNA: cffDNA)を解析することで、特定の染色体異常を高い精度で検出できます。検査対象は大きく分けて、常染色体異常、性染色体異常、微細欠失症候群の3つのカテゴリーに分類されます。
常染色体異常
NIPTの基本検査では、21トリソミー(ダウン症候群)、18トリソミー(エドワーズ症候群)、13トリソミー(パトウ症候群)の3つの常染色体トリソミーを検出します。トリソミーとは、通常2本である染色体が3本存在する状態です。
21トリソミーに対するNIPTの感度(陽性を正しく検出する確率)は99%以上、特異度(陰性を正しく判定する確率)も99%以上と報告されています。18トリソミーと13トリソミーについても、感度は95%以上、特異度も99%以上と高い精度を示しています。(4)(5)
これらの染色体異常は、それぞれ特徴的な身体的・発達的な特徴を伴います。
- 21トリソミー(ダウン症候群):最も頻度が高く、出生700〜1,000人あたり約1人の割合で発生します。知的発達の遅れや先天性心疾患などが見られることがありますが、適切な支援により社会生活を送る方も多くいます。
- 18トリソミー(エドワーズ症候群):出生約3,500〜8,500人に1人の割合で発生します。重度の発達遅延や複数の臓器の形態異常を伴い、多くの場合、生後早期に生命に関わる合併症を伴います。
- 13トリソミー(パトウ症候群):出生約5,000〜20,000人に1人の割合で発生します。重度の知的障害や口唇口蓋裂、多指症などの形態異常を伴うことが多く、予後は厳しいとされています。
母体年齢の上昇に伴い、これらのトリソミーの発生頻度は高くなることが知られています。特に35歳以上の妊婦さんでは、21トリソミーの頻度が有意に上昇するため、NIPTの実施を検討される方が多くなります。
性染色体異常
NIPTでは性染色体(X染色体、Y染色体)の数的異常も検出可能です。主な対象疾患には、ターナー症候群(45,X)、クラインフェルター症候群(47,XXY)、トリプルX症候群(47,XXX)、XYY症候群(47,XYY)などがあります。
性染色体異常の検出精度は常染色体トリソミーと比較するとやや低く、感度は90〜95%程度とされています。これは胎盤モザイク(胎盤と胎児で染色体構成が異なる状態)の影響を受けやすいためです。特にターナー症候群の検出においては、偽陽性率が上昇する傾向があります。(6)
性染色体異常は常染色体異常と比べて症状が軽度なことが多く、通常の発達を示す例も少なくありません。しかし、不妊症や学習面での困難さなどを伴う場合があり、早期に診断されることで適切なサポートにつながる可能性があります。
なお、NIPTでは性染色体を解析する過程で胎児の性別が判明することもあります。性別の開示については施設の方針や妊婦さんの希望によって異なりますので、事前に確認しておくことが大切です。
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微細欠失症候群
施設によっては、染色体の一部が欠失することで生じる微細欠失症候群の検査も提供されています。代表的なものとして、22q11.2欠失症候群(DiGeorge症候群)、1p36欠失症候群、5p欠失症候群(猫鳴き症候群)、Prader-Willi症候群、Angelman症候群などがあります。
22q11.2欠失症候群は微細欠失症候群の中で最も頻度が高く、約4,000人に1人の割合で発生するとされています。先天性心疾患、免疫不全、口蓋裂、学習障害などの多彩な症状を呈する可能性があります。(7)
ただし、微細欠失症候群のNIPT検査は、常染色体トリソミーの検査と比較して精度が低いことが知られています。感度は概ね60〜90%程度で(報告によってばらつきがある)、偽陽性率も高くなります。これは検出対象となる染色体領域が小さいため、解析の難易度が高いことが理由です。(8)
微細欠失症候群の多くは散発的に発生し、母体年齢との相関も明確ではないため、若い妊婦さんでも発生する可能性があります。NIPTで陽性結果が出た場合には、染色体マイクロアレイ検査やFISH検査などの確定検査を行うことが強く推奨されます。
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NIPTでわからないこと・限界

NIPTは優れた検査ですが、いくつかの重要な限界があることを理解しておく必要があります。これらの限界を知らないまま結果を受け取ると、不必要な不安や誤った安心につながりかねません。
確定診断ではない
NIPTはあくまで「スクリーニング検査」であり、「確定診断」ではありません。陽性結果が出た場合でも、必ずしも胎児に染色体異常があるとは限りません。胎盤と胎児の染色体構成が異なる「胎盤モザイク」の場合、NIPTの結果と実際の胎児の状態が一致しないことがあります。
NIPTの陽性的中率(PPV:陽性結果が出た場合に実際に異常がある確率)は、対象疾患や母体年齢によって大きく異なります。例えば、35歳以上の妊婦さんにおける21トリソミーのPPVは80〜90%以上と高いですが、若年妊婦や有病率の低い疾患ではPPVが50%を下回ることもあります。(4)
そのため、NIPTで陽性となった場合は、羊水検査や絨毛検査などの確定検査を受けることが推奨されます。NIPTの結果だけで妊娠の継続や中断を判断することは、医学的にも倫理的にも不適切とされています。(2)
すべての染色体異常を検出できるわけではない
NIPTは特定の染色体異常を対象とした検査であり、すべての染色体異常や遺伝子疾患を網羅的に調べられるわけではありません。たとえば、以下のような疾患はNIPTの検出対象外です。
- 染色体の構造異常:転座(染色体の一部が別の染色体に移動)、逆位(染色体の一部が逆さまになる)など
- 単一遺伝子疾患:血友病、嚢胞性線維症、筋ジストロフィーなど
- 胎児の形態異常:心臓奇形、神経管閉鎖不全症、四肢の形態異常など
- 多因子遺伝疾患:自閉症スペクトラム障害、先天性心疾患の一部など
胎児の形態異常(心臓奇形、神経管閉鎖不全症など)もNIPTでは判定できません。これらは超音波検査などの画像診断が必要です。したがって、NIPTで陰性であったとしても、通常の妊婦健診で行われる超音波検査や母体血清マーカー検査を省略することはできません。
検査精度に影響する要因
NIPTの検査精度は、母体の体重、妊娠週数、胎盤の状態などさまざまな要因に影響されます。
- 母体の肥満度が高い場合:母体の血液量が増加することでcffDNAの相対的な濃度が低下し、検出精度が下がることがあります
- 双胎妊娠の場合:2人の胎児からのDNAが混在するため、解析が複雑になります
- 妊娠週数が早い場合:cffDNAの濃度が十分に上昇していないと、正確な結果が得られないことがあります
- 母体に染色体異常がある場合:母体自身の染色体モザイクや腫瘍由来のDNAが検査結果に影響を与えることがあります
また、まれに検査が判定保留となり、再採血が必要になることもあります。これは胎児由来のDNA濃度が十分でない場合(fetal fraction低値)などに生じます。
NIPTを受ける前に知っておきたいポイント
NIPTの受検を検討されている妊婦さんやご家族に向けて、事前に理解しておいていただきたいポイントをまとめます。
遺伝カウンセリングの重要性
NIPTを受ける前後には、遺伝カウンセリングを受けることが推奨されています。遺伝カウンセリングでは、検査の意義や限界、陽性・陰性それぞれの結果が出た場合の対応、心理的サポートなどについて専門家と話し合うことができます。厚生労働省も出生前検査に関する情報提供の重要性を指摘しており、十分な説明を受けたうえで検査の受検を判断することが望ましいとされています。(2)
検査結果の受け止め方
NIPTの結果は「陽性」「陰性」「判定保留」のいずれかで報告されます。陰性の場合でも検査対象外の疾患については何もわからないことを理解しておくことが大切です。また、陽性の場合は確定検査で正確な診断を得ることが必須であり、NIPTの結果のみで重大な決断をすることは避けるべきです。
検査機関の選択
NIPTを提供する施設は増加していますが、検査の質や対応力は施設によって異なります。遺伝カウンセリングの体制が整っていること、陽性結果が出た場合のフォローアップ体制が確立されていること、検査の精度管理が適切に行われていることなどを確認したうえで施設を選ぶことが重要です。
まとめ
NIPTは母体血液から胎児の染色体異常を高精度で検出できる画期的な検査です。21トリソミー、18トリソミー、13トリソミーといった主要な常染色体トリソミーに対しては非常に高い検出率を示し、流産のリスクなく早期から検査できるという大きな利点があります。さらに、性染色体異常や微細欠失症候群まで検査対象を広げることで、より包括的なスクリーニングが可能となっています。
一方で、NIPTはスクリーニング検査であり確定診断ではないこと、すべての染色体異常や先天性疾患を検出できるわけではないことを理解しておく必要があります。陽性結果が出た場合には、確定検査を受けて正確な診断を確認することが重要です。また、陰性結果であっても、通常の妊婦健診(超音波検査など)は欠かさず受けることが推奨されます。
NIPTを受けるかどうか、どの検査項目を選択するかは、医師や遺伝カウンセラーとよく相談しながら決めることが大切です。検査の意義と限界を十分に理解したうえで、ご自身とご家族にとって最適な選択をしていただければと思います。NIPTは「知る」ための第一歩であり、その先にある確定検査や医療的サポートと組み合わせることで、安心してお産に臨める環境を整えることができます。
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よくあるご質問
Q1. NIPTは妊娠何週目から受けられますか?
A. NIPTは一般的に妊娠10週以降から受検可能です。妊娠初期は胎児由来のセルフリーDNA(cffDNA)の濃度がまだ十分に上昇していないため、10週未満では正確な結果が得られない可能性があります。検査結果は採血から約1〜2週間で通知されるため、妊娠初期の段階で染色体異常のリスクを把握することができます。
Q2. NIPTで陽性が出たら、赤ちゃんに必ず異常があるのですか?
A. NIPTで陽性が出たからといって、必ずしも胎児に染色体異常があるとは限りません。NIPTはスクリーニング検査であり、胎盤モザイクなどの影響で偽陽性が生じることがあります。陽性的中率は対象疾患や母体年齢によって異なるため、陽性結果が出た場合は必ず羊水検査などの確定検査を受けることが推奨されます。
Q3. NIPTで陰性なら安心してよいですか?
A. NIPTの陰性的中率は非常に高く(特に21トリソミーでは99.9%以上)、陰性であれば検査対象の染色体異常がある可能性は極めて低いといえます。ただし、NIPTは検査対象外の染色体異常や遺伝子疾患、形態異常については判定できません。そのため、陰性であっても通常の妊婦健診(超音波検査など)を継続して受けることが重要です。
Q4. NIPTは羊水検査と何が違うのですか?
A. NIPTは母体からの採血のみで行う非侵襲的なスクリーニング検査であり、流産のリスクがほぼありません。一方、羊水検査は子宮に針を刺して羊水を採取する侵襲的な確定検査で、約0.1〜0.3%の流産リスクがありますが、染色体異常を確定的に診断できます。NIPTで陽性が出た場合に、その確認として羊水検査を行うという流れが一般的です。
Q5. NIPTは双子の妊娠でも受けられますか?
A. 双胎妊娠でもNIPTを受けることは可能です。ただし、二卵性双胎の場合は2人の胎児からのDNAが混在するため、一方にのみ染色体異常がある場合の判定が難しくなることがあります。また、単胎妊娠と比べて検出精度がやや低下する可能性があるため、結果の解釈には注意が必要です。事前に医師と十分に相談されることをお勧めします。
Q6. 微細欠失症候群の検査も受けた方がよいですか?
A. 微細欠失症候群の検査は、常染色体トリソミーの検査に比べて精度が低いという特徴があります。しかし、22q11.2欠失症候群のように母体年齢に関係なく一定の頻度で発生する疾患もあるため、より広範なスクリーニングを希望される方には検討の価値があります。検査の精度や偽陽性のリスクについて十分に理解したうえで、医師と相談して判断されることをお勧めします。
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著者
医学博士・医師
広重 佑(ひろしげ たすく)
医学博士、日本泌尿器科学会専門医・指導医、がん治療学会認定医、抗加齢医学会専門医、日本医師会認定産業医、日本抗菌化学療法学会認定医、性感染症学会認定医、Certificate of da Vinci system
Training As a Console Surgeonほか
2010年に鹿児島大学医学部を卒業後、泌尿器科医として豊富な臨床経験を持つ。また、臨床業務以外にも学会発表や論文作成、研究費取得など学術活動にも精力的に取り組んでいる。泌尿器科専門医・指導医をはじめ、がん治療、抗加齢医学、感染症治療など幅広い分野で専門資格を取得。これまで培った豊富な医学知識と技術を活かして、患者様一人ひとりに寄り添った医療を提供している。
【参考文献】
(1) BMJ Open, 2016年1月(2) PMC, 2022年11月
(3) J Clin Med, 2022年6月
(4) 立命館大学生存学研究所, 2026年5月
(5) Proc Natl Acad Sci U S A, 2014年7月
(6) Med J Aust, 2015年7月
(7) Hum Mol Genet, 2016年3月
(8) 厚生労働省, 1999年2月