リライティング日:2026年03月04日
NIPTは妊娠中に母体血液から胎児の染色体異常リスクを評価する非侵襲的スクリーニング検査、着床前診断(PGT)は妊娠前に体外受精で得た胚の遺伝情報を調べる検査です。両者の違いと使い分けを詳しく解説します。
妊娠が分かったとき、多くの方が「赤ちゃんは元気に育っているだろうか」「何か異常はないだろうか」と不安を抱きます。近年、そうした不安に向き合うための出生前検査としてNIPT(新型出生前検査)が広く知られるようになりました。
一方で、「着床前診断」という言葉を目にし、NIPTと何が違うのか分からないと感じている方も少なくありません。しかし実は、この疑問には前提に誤解が含まれています。NIPTと着床前診断は、名称が似ているため同じカテゴリーの検査と思われがちですが、「妊娠してから行う検査」と「妊娠する前に行う検査」という、決定的な違いがあるのです。
このタイミングの違いは、検査を選択する上で最も重要なポイントです。本記事では、NIPTと着床前診断それぞれの特徴と使い分けの考え方を、専門的な観点から詳しく解説します。遺伝医療に関する正確な情報を知ることで、ご自身やご家族にとって最善の選択肢を見出す一助となれば幸いです。
NIPTとは何か?

―妊娠中に行う「非侵襲的スクリーニング検査」―
NIPTは、妊娠中に母体の血液を採取するだけで、胎児の染色体異常のリスクを評価できる検査です。正式名称は「Non-Invasive Prenatal Testing(非侵襲的出生前遺伝学的検査)」といい、妊娠10週以降から実施が可能です。母体血中に含まれる胎児由来の微量なDNA断片(cell-free DNA:cfDNA)を次世代シーケンサーなどの先端技術で解析することにより、胎児の染色体異常の有無を高い精度で推定します。
この検査の最大の特徴は、「非侵襲的」である点にあります。従来の確定検査である羊水検査や絨毛検査では、子宮内に針を刺して検体を採取する必要があるため、約0.1〜0.3%程度の流産リスクが報告されていました。NIPTは採血のみで完結するため、流産のリスクがほとんどなく、妊婦さんへの身体的負担が極めて少ない検査といえます。(1)(2)
NIPTの検査精度と対象疾患
NIPTの基本的な検査項目としては、21トリソミー(ダウン症候群)、18トリソミー(エドワーズ症候群)、13トリソミー(パトウ症候群)の3つの染色体異常を高い精度で検出します。特に21トリソミー(ダウン症候群)に対する感度は99%以上とされ、偽陽性率も非常に低いことが国際的な研究でも示されています。
近年では、検査機関によっては性染色体異常(ターナー症候群、クラインフェルター症候群など)や、微小欠失症候群(22q11.2欠失症候群など)を調べることも可能になっています。ただし、これらの追加検査項目に関しては、基本3疾患と比較すると検出精度がやや異なる場合があるため、検査機関への事前確認が重要です。
なお、NIPTはあくまで「スクリーニング検査」であり、診断を確定するものではありません。高リスクと判定された場合には、確定診断を目的として羊水検査などの侵襲的検査が必要になります。逆に「低リスク」と判定された場合でも、ごくまれに偽陰性(実際には異常があるのに見逃されるケース)が生じる可能性もゼロではないことを理解しておく必要があります。(3)
NIPTを受ける際の一般的な流れは以下のとおりです。
- 遺伝カウンセリングを受け、検査内容・意義・限界について理解する
- 妊娠10週以降に母体から約10〜20mLの血液を採取する
- 血液中の胎児由来cfDNAを解析し、染色体異常のリスクを評価する
- 結果は通常1〜2週間程度で判明し、「低リスク」または「高リスク」として報告される
- 高リスクの場合は、確定診断のため羊水検査などの追加検査を検討する
着床前診断(PGT)とは何か?

―妊娠”前”に行う遺伝学的検査―
着床前診断(Preimplantation Genetic Testing:PGT)は、体外受精(IVF)によって得られた受精卵(胚)の遺伝情報を、子宮に移植する前の段階で調べる検査です。妊娠が成立する前に行われる検査である点が、妊娠後に実施されるNIPTとの根本的な違いといえます。
PGTでは、胚盤胞(受精後約5〜6日目)まで発育した胚から数個の栄養外胚葉(将来的に胎盤になる部分)の細胞を採取し、染色体異常や特定の遺伝性疾患の有無を解析します。その結果に基づいて、遺伝学的に異常のない胚を選択して子宮に移植することで、遺伝性疾患をもつ子どもの出生リスクを低減できる可能性があります。
着床前診断を受けるためには体外受精が必須条件となるため、自然妊娠で着床前診断を行うことはできません。この点は、自然妊娠・体外受精を問わず妊娠後に実施できるNIPTとの大きな違いの一つです。(4)
PGTの3つの種類(PGT-A・PGT-SR・PGT-M)
PGTは、検査の目的に応じて以下の3種類に分類されます。それぞれの対象となる方や検査目的が異なるため、正しく理解しておくことが大切です。
PGT-A(染色体異数性検査)
PGT-Aは胚の染色体数の異常(異数性)を調べる検査です。反復する体外受精の不成功(反復着床不全)や、反復流産の既往がある夫婦を対象に実施されます。染色体数が正常な胚(euploid embryo)を選んで移植することで、着床率の向上や流産率の低下が期待されています。日本では日本産科婦人科学会が主導する臨床研究の枠組みの中で行われてきた経緯があり、2024年以降は一般診療としての実施も進んでいます。(1)
PGT-SR(染色体構造異常検査)
PGT-SRは夫婦のいずれかが均衡型転座や逆位などの染色体構造異常を有する場合に行われる検査で、不均衡型転座による流産リスクを低減することを目的としています。均衡型転座の保因者は、外見上は健康であっても受精卵の段階で不均衡な染色体配置が生じやすく、流産を繰り返すケースが知られています。PGT-SRを実施する際には、臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングが必須とされています。(1)
PGT-M(単一遺伝子疾患検査)
PGT-Mは重篤な遺伝性疾患を対象とした検査であり、日本では1例ごとに日本産科婦人科学会への申請と個別審査を経て実施されます。対象となる疾患の重篤性については、「原則として成人に達する前に日常生活が著しく損なわれる、あるいは生命に重大な影響を及ぼす状態に至る疾患であり、現時点で有効な治療法が存在しない、もしくは治療法があっても高度かつ侵襲性の高いもの」と定義されています。具体的には、デュシェンヌ型筋ジストロフィーや脊髄性筋萎縮症、一部の代謝異常症などが対象となるケースがあります。(5)
NIPTと着床前診断はどう使い分けるべきか?

―検査選択の考え方―
NIPTとPGTは、検査を行う時期と目的が大きく異なるため、どちらを選択すべきかはご夫婦それぞれの状況によって変わります。以下に、それぞれの検査が適している状況を整理します。
NIPTは、自然妊娠または体外受精によって妊娠が成立した後に、胎児の染色体異常のリスクを知りたい場合に選択される検査です。特に高齢妊娠(35歳以上)の場合や、超音波検査で異常が疑われた際などに、母体への負担が少ない方法でスクリーニングを行える点が大きな利点といえます。検査の目的はあくまで「情報を得ること」であり、その結果を踏まえて、今後の妊娠経過や選択肢について考えるための材料となります。
一方、PGTは、特定の遺伝性疾患のリスクがあらかじめ分かっている場合や、反復流産を経験している場合に、妊娠に至る前の段階で遺伝学的に問題のない胚を選択したいと考える際に検討されます。妊娠成立前に介入できる点が特徴である一方、生命の選択に関わる側面もあり、倫理的・社会的な議論が伴う検査でもあります。
NIPTが特に検討される状況をまとめると、以下のようになります。
- 自然妊娠後に胎児の染色体異常リスクを知りたい場合
- 35歳以上の高齢妊娠で、ダウン症候群などのリスクが気になる場合
- 超音波検査(エコー検査)で胎児に気になる所見が見られた場合
- 羊水検査や絨毛検査の前にまずスクリーニングを受けたい場合
- 流産リスクのない方法で情報を得たい場合
NIPTと着床前診断の比較一覧
両検査の違いを以下の表にまとめました。検査の性質が根本的に異なることをご理解いただけるかと思います。
| 比較項目 | NIPT | 着床前診断(PGT) |
|---|---|---|
| 検査時期 | 妊娠10週以降 | 妊娠成立前(体外受精後) |
| 検査方法 | 母体からの採血のみ | 胚から細胞を採取して解析 |
| 検査の位置づけ | スクリーニング検査 | 遺伝学的検査(選別的) |
検査を受ける前に考えておきたいこと
いずれの検査も、「必ず受けなければならないもの」ではなく、数ある選択肢の一つにすぎません。検査の意義や限界について十分な情報提供を受け、必要に応じて遺伝カウンセリングを活用しながら、ご夫婦が納得した上で選択することが何より重要です。
遺伝カウンセリングでは、検査の技術的な説明だけでなく、結果が出た後にどのような選択肢があるのか、結果をどのように受け止めるかについても専門家と一緒に考えることができます。特にPGTに関しては、体外受精が前提となるため身体的・経済的・精神的な負担も大きく、検査を受ける前に十分な情報収集と心の準備が必要です。
また、NIPTの結果が「高リスク」であった場合にも、それはあくまで確率的な評価であり、確定診断ではない点を忘れてはなりません。確定検査を受けるかどうか、その結果を受けてどのように対応するかは、ご夫婦の価値観やライフプランに基づいて慎重に決めるべき事柄です。医療者は情報を提供し支援する立場にあり、最終的な判断はご本人・ご家族に委ねられています。
検査の違いを知ることは、納得できる選択への第一歩
NIPTは妊娠中に母体血液から胎児の染色体異常リスクを評価する非侵襲的スクリーニング検査であり、着床前診断(PGT)は妊娠前に体外受精で得られた胚の遺伝学的検査です。実施時期、方法、目的が全く異なる検査であることがおわかりいただけたでしょうか。
NIPTは「すでに妊娠している方」が対象であり、採血だけで手軽にリスク評価を行える一方、確定診断ではないという限界があります。PGTは「これから妊娠を目指す方」のうち、特定の遺伝的リスクや不育症の背景がある方が対象であり、体外受精という大きなステップを伴います。
どちらの検査を選ぶか、あるいは検査を受けないという選択も含めて、正しい知識に基づいて判断することが重要です。検査にはそれぞれメリットとデメリットがあり、倫理的な側面も考慮する必要があります。近年は出生前検査に関する情報がインターネット上にあふれていますが、中には不正確な情報も含まれています。信頼できる医療機関や専門家に相談し、エビデンスに基づいた情報を得ることが、後悔のない選択につながります。
本記事がご自身とご家族にとって最善の選択を見つけるための手助けとなれば幸いです。
\ダウン症や性染色体のリスクがわかる/
よくあるご質問
Q1. NIPTと着床前診断の最大の違いは何ですか?
A. 最大の違いは「検査を行うタイミング」です。NIPTは妊娠10週以降に母体の血液を採取して行うスクリーニング検査であり、すでに妊娠が成立した後に実施します。一方、着床前診断(PGT)は体外受精によって得られた受精卵(胚)を子宮に移植する前に、遺伝学的に検査する方法です。つまり、NIPTは「妊娠後」、PGTは「妊娠前」に行う検査であり、根本的に異なる性質を持っています。
Q2. NIPTで異常が見つかった場合、すぐに確定診断となりますか?
A. いいえ、NIPTはあくまでスクリーニング検査(ふるい分け検査)であり、確定診断ではありません。NIPTで「高リスク」と判定された場合でも、実際には異常がないケース(偽陽性)も存在します。そのため、高リスクの結果が出た場合には、羊水検査や絨毛検査といった確定的検査を受けて、最終的な診断を確認する必要があります。結果の解釈については、遺伝カウンセリングを通じて専門家に相談されることをお勧めします。
Q3. 着床前診断(PGT)は誰でも受けられますか?
A. 着床前診断は誰でも自由に受けられる検査ではありません。PGTは体外受精が前提となるため、まず生殖補助医療(ART)を行う必要があります。また、日本ではPGT-Aは反復着床不全や反復流産の既往がある夫婦が対象とされ、PGT-Mは重篤な遺伝性疾患が対象で日本産科婦人科学会への個別申請・審査が必要です。検査を希望される場合は、まず専門の医療機関でご相談ください。
Q4. NIPTはどこで受けられますか?費用の目安はどのくらいですか?
A. NIPTは、認可施設(日本医学会連合が認定した施設)のほか、認可外の医療機関でも実施されています。費用は施設や検査項目によって異なりますが、一般的に10万円〜20万円程度が目安です。認可施設では遺伝カウンセリングが組み込まれていることが多く、検査前後のサポート体制が整っている点がメリットです。seeDNA遺伝医療研究所でもNIPTを提供しておりますので、詳細は当所の公式ページをご確認ください。
Q5. NIPTと着床前診断を両方受けることはありますか?
A. はい、状況によっては両方の検査を受けるケースもあります。例えば、体外受精を行いPGT-Aで染色体数が正常と判定された胚を移植した後、妊娠が成立してからさらにNIPTを受けるという選択をされる方もいます。PGTは胚の栄養外胚葉の細胞を解析するため、胚全体の遺伝情報を100%反映しているとは限りません(モザイク現象など)。そのため、追加の安心材料としてNIPTを併用するケースがあります。ただし、両方の検査を受ける必要があるかどうかは個々の状況により異なりますので、担当医とよくご相談ください。
Q6. 遺伝カウンセリングは必ず受ける必要がありますか?
A. 法的な義務ではありませんが、NIPTや着床前診断を受ける際には遺伝カウンセリングを強く推奨します。特に日本医学会連合が認定するNIPT認可施設では、検査前の遺伝カウンセリングが必須とされています。遺伝カウンセリングでは、検査の精度や限界、結果が出た場合の選択肢、心理的なサポートなど、検査を受ける前に知っておくべき重要な情報を専門家から得ることができます。検査結果を正しく理解し、後悔のない判断をするために、積極的に活用されることをお勧めします。
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著者
医学博士・医師
広重 佑(ひろしげ たすく)
医学博士、日本泌尿器科学会専門医・指導医、がん治療学会認定医、抗加齢医学会専門医、日本医師会認定産業医、日本抗菌化学療法学会認定医、性感染症学会認定医、Certificate of da Vinci system
Training As a Console Surgeonほか
2010年に鹿児島大学医学部を卒業後、泌尿器科医として豊富な臨床経験を持つ。また、臨床業務以外にも学会発表や論文作成、研究費取得など学術活動にも精力的に取り組んでいる。泌尿器科専門医・指導医をはじめ、がん治療、抗加齢医学、感染症治療など幅広い分野で専門資格を取得。これまで培った豊富な医学知識と技術を活かして、患者様一人ひとりに寄り添った医療を提供している。
【参考文献】
(1) 公益社団法人 日本産科婦人科学会, 2022年8月(2) Med J Aust, 2015年7月
(3) 公益社団法人 日本産科婦人科学会, 2025年
(4) アイジェノミクス・ジャパン, 2022年7月
(5) ヒロクリニック, 2021年9月