【医師が解説】NIPTと着床前診断の違いは? ~「NIPT」と「着床前診断」、なぜ混同されやすいのか~
2026.02.23
妊娠が分かったとき、多くの方が「赤ちゃんは元気に育っているだろうか」「何か異常はないだろうか」と不安を抱きます。近年、そうした不安に向き合うための出生前検査としてNIPT(新型出生前検査)が広く知られるようになりました。
一方で、「着床前診断」という言葉を目にし、NIPTと何が違うのか分からないと感じている方も少なくありません。 しかし実は、この疑問には前提に誤解が含まれています。NIPTと着床前診断は、名称が似ているため同じカテゴリーの検査と思われがちですが、「妊娠してから行う検査」と「妊娠する前に行う検査」という、決定的な違いがあるのです。
このタイミングの違いは、検査を選択する上で最も重要なポイントです。本記事では、NIPTと着床前診断それぞれの特徴と使い分けの考え方を解説します。
NIPTとは何か?
―妊娠中に行う「非侵襲的スクリーニング検査」―
NIPTは、妊娠中に母体の血液を採取するだけで、胎児の染色体異常のリスクを評価できる検査です。妊娠10週から実施可能で、母体血中に含まれる胎児由来の微量なDNA断片(cell-free DNA)を解析することで結果を得ます。
この検査の最大の特徴は、「非侵襲的」である点にあります。羊水検査や絨毛検査のように針を子宮内に刺す必要がなく、流産のリスクがほとんどないことから、妊婦さんへの身体的負担が極めて少ない検査といえます。基本的な検査項目としては、21トリソミー(ダウン症候群)、18トリソミー(エドワーズ症候群)、13トリソミー(パトウ症候群)の3つの染色体異常を高い精度で検出します。
近年では、検査機関によっては性染色体異常(ターナー症候群、クラインフェルター症候群など)や、微小欠失症候群(22q11.2欠失症候群など)を調べることも可能になっています。
なお、NIPTはあくまで「スクリーニング検査」であり、診断を確定するものではありません。高リスクと判定された場合には、確定診断を目的として羊水検査などの侵襲的検査が必要になります。
着床前診断とは何か?
―妊娠”前”に行う遺伝学的検査―
着床前診断(Preimplantation Genetic Testing:PGT)は、体外受精によって得られた受精卵(胚)の遺伝情報を、子宮に移植する前の段階で調べる検査です。妊娠が成立する前に行われる検査である点が、妊娠後に実施されるNIPTとの根本的な違いといえます。
PGTでは、胚盤胞まで発育した胚から数個の細胞を採取し、染色体異常や特定の遺伝性疾患の有無を解析します。その結果に基づいて、遺伝学的に異常のない胚を選択して子宮に移植することで、遺伝性疾患をもつ子どもの出生リスクを低減できる可能性があります。
PGTは、検査の目的に応じて、PGT-A(染色体異数性検査)、PGT-SR(染色体構造異常検査)、 PGT-M(単一遺伝子疾患検査) の3種類に分類されます。
PGT-AとPGT-SRは、主に不妊症や不育症を背景とするケースを対象とした検査です。PGT-Aは胚の染色体数の異常を調べる検査で、反復する体外受精の不成功や、反復流産の既往がある夫婦を対象に実施されます(1)。
一方、PGT-SRは夫婦のいずれかが均衡型転座などの染色体構造異常を有する場合に行われる検査で、不均衡型転座による流産リスクを低減することを目的としています(1)。PGT-SRを実施する際には、臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングが必須とされています。
PGT-Mは重篤な遺伝性疾患を対象とした検査であり、日本では1例ごとに日本産科婦人科学会への申請と個別審査を経て実施されます(2)。対象となる疾患の重篤性については、「原則として成人に達する前に日常生活が著しく損なわれる、あるいは生命に重大な影響を及ぼす状態に至る疾患であり、現時点で有効な治療法が存在しない、もしくは治療法があっても高度かつ侵襲性の高いもの」と定義されています(2)。
NIPTと着床前診断はどう使い分けるべきか?
―検査選択の考え方―
NIPTとPGTは、検査を行う時期と目的が大きく異なるため、どちらを選択すべきかはご夫婦それぞれの状況によって変わります。
NIPTは、自然妊娠または体外受精によって妊娠が成立した後に、胎児の染色体異常のリスクを知りたい場合に選択される検査です。高齢妊娠の場合や、超音波検査で異常が疑われた際などに、母体への負担が少ない方法でスクリーニングを行える点が大きな利点といえます。検査の目的はあくまで「情報を得ること」であり、その結果を踏まえて、今後の妊娠経過や選択肢について考えるための材料となります。
一方、PGTは、特定の遺伝性疾患のリスクがあらかじめ分かっている場合や、反復流産を経験している場合が、妊娠に至る前の段階で遺伝学的に問題のない胚を選択したいと考える際に検討されます。妊娠成立前に介入できる点が特徴である一方、生命の選択に関わる側面もあり、倫理的・社会的な議論が伴う検査でもあります。
いずれの検査も、「必ず受けなければならないもの」ではなく、数ある選択肢の一つにすぎません。検査の意義や限界について十分な情報提供を受け、必要に応じて遺伝カウンセリングを活用しながら、ご夫婦が納得した上で選択することが何より重要です。
検査の違いを知ることは、納得できる選択への第一歩
NIPTは妊娠中に母体血液から胎児の染色体異常リスクを評価する非侵襲的スクリーニング検査であり、着床前診断(PGT)は妊娠前に体外受精で得られた胚の遺伝学的検査です。実施時期、方法、目的が全く異なる検査であることがおわかりいただけたでしょうか。
どちらの検査を選ぶか、あるいは検査を受けないという選択も含めて、正しい知識に基づいて判断することが重要です。検査にはそれぞれメリットとデメリットがあり、倫理的な側面も考慮する必要があります。
本記事がご自身とご家族にとって最善の選択を見つけるための手助けとなれば幸いです。
\ダウン症や性染色体のリスクがわかる/
【参考文献】
(1)公益社団法人 日本産科婦人科学会, 2024.(2)公益社団法人 日本産科婦人科学会, 2025.
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著者
医学博士・医師
広重 佑(ひろしげ たすく)
医学博士、日本泌尿器科学会専門医・指導医、がん治療学会認定医、抗加齢医学会専門医、日本医師会認定産業医、日本抗菌化学療法学会認定医、性感染症学会認定医、Certificate of da Vinci system
Training As a Console Surgeonほか
2010年に鹿児島大学医学部を卒業後、泌尿器科医として豊富な臨床経験を持つ。また、臨床業務以外にも学会発表や論文作成、研究費取得など学術活動にも精力的に取り組んでいる。泌尿器科専門医・指導医をはじめ、がん治療、抗加齢医学、感染症治療など幅広い分野で専門資格を取得。これまで培った豊富な医学知識と技術を活かして、患者様一人ひとりに寄り添った医療を提供している。