ガンにならない、400歳のグリーンランドサメをご存知ですか?
2025.03.17
はじめに
植物では4,000年以上も生きる木もありますが、脊髄動物のような高等動物の寿命は短いと思っている方が多いのではないでしょうか。しかし最近、最大推定年齢470歳のグリーンランドサメが見つかりました。
グリーンランドサメ(学名:Somniosus microcephalus)は、北大西洋と北極海に生息する大きさ6m以上、重さ1,400kgの大型サメの一種類です。
アメリカのスミソニアン研究所で発行される雑誌スミソニアン(Smithsonian magazine)によるとグリーンランドサメの寿命は400年に達するだけでなく、ガンにもならないと話題になっているようです。
人間の平均寿命は90歳以下なので、400歳というグリーンランドサメの寿命はうらやましい限りです。最近の研究によってグリーンランドサメの遺伝子解析は完了しており、寿命だけではなく、ガンに対する耐性でも注目されています。これらの特異な特性の背後にあるDNAと生業のメカニズムを解明することで、人間の老化と病気への抵抗力に関して洞察することが可能となります。
ゲノムと呼ばれる全DNA領域の解明
最近、国際研究チームにより、グリーンランドサメの全DNA領域の約92%が解読されました。この研究により、グリーンランドサメの全DNAにおける包括的な遺伝子地図を作成することが可能となりました。
この種の優れた長寿とガンの耐性に対する詳しいメカニズムが解明されるにつれて、今まで研究された人間の遺伝子制御メカニズムとは異なる新しい特徴がいくつもあることが明らかになってきました。
最初に記述すべき違いとしては、グリーンランドサメのDNAのサイズは人間と比べて非常に大きく、人間のゲノムと呼ばれる全領域のDNAサイズの約2倍もあるということです。サメのDNAサイズが人間より大きいことは、これまでの研究で明らかになっていましたが、グリーンランドサメのDNAはこれまでに研究された他のサメよりも、さらに大きいゲノムを持っていました。
ガンにならないのはなぜ?
脊髄動物としては驚異の400年の寿命をもつグリーンランドサメは、冷たい北の海で最小限に代謝を抑えて生殖する生き方や環境が長寿の大きな要因ですが、そのDNAにも大きな特徴が含まれています。
その一つが「ジャンピング遺伝子」と呼ばれるDNA領域です。「ジャンピング遺伝子」とは、一般的にDNAのあちこちに移動ができる特殊なDNA配列を指しますが、ゲノム内の異なる位置に移動するため、ガンなどの病気を引き起こす突然変異の原因になっているといわれています。
しかし、グリーンランドサメでは、このジャンピング遺伝子が保護的な役割を果たしていることがわかってきたため、研究者たちはヒトや別の種では悪役とされるジャンピング遺伝子が、グリーンランドサメではむしろDNAの修復を強化するメカニズムに進化したのではないかと考えるようになりました。
詳しいメカニズムに関しては、さらなる研究が必要ですが、このジャンピング遺伝子によりゲノムの安定性を保ち、ガンのリスクを低減していることが推測されます。
人間のガンを抑制することで有名な遺伝子として「TP53」と名付けられたDNAの修復を強化するために必須な抗がん因子があります。
DNAの研究によって、グリーンランドサメには81個もの遺伝子ネットワークがあることがわかり、これらに「TP53」という、より強力な遺伝子を中心とするDNA修復機能が働くことで、DNAの突然変異によるガンの発生を力強く抑制しているのではと考えられています。
人間の健康への影響

グリーンランドサメのゲノム内での複雑な相互作用を完全に理解するためには、まだまだ研究が必要ですが、その遺伝的適応を理解することで人間の老化とガン予防の新たな研究の道が開かれたのではないでしょうか。
人間の祖先がまだ火を使えない大昔から地球の海を支配してきたこの古代生物が、人間の寿命を延ばす大きなヒントをくれるのも遠い未来ではないでしょう。
遺伝子検査技術は年々進化を続けており、ガンや生活習慣病の疾患リスクもわかる遺伝子検査サービスもあります。ご自身の健康や体質に関する遺伝的な傾向を調べてみたいのであれば、遺伝子検査を行ってみてはいかがでしょうか?
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著者
医学博士 富金 起範
筑波大学、生体統御・分子情報医学修士/博士課程卒業
2017年に国内初となる微量DNA解析技術(特許7121440)を用いた出生前DNA鑑定(特許7331325)を開発