ダウン症の平均寿命は過去30年で2倍以上に延びています。
2025.05.30
はじめに
ダウン症は、染色体と呼ばれる細胞内の遺伝情報を担う構造のうち、21番染色体が通常より1本多く存在することによって生じる遺伝性疾患です。
これにより、知的な発達の遅れや特有の身体的特徴が見られます。
1980年代には、ダウン症のある方の平均寿命は約25歳とされており、一般的な寿命と比べると半分以下でした。※1しかし近年では、医療技術の進歩と支援体制の整備により、寿命は著しく改善しています。
かつては、心疾患、免疫機能の低下、呼吸器感染症などの合併症が寿命を縮める主な要因とされていました。
ダウン症の平均寿命と関連するリスク要因
かつてダウン症のある方の寿命は短いとされていましたが、現在では医療や支援の進歩により、期待寿命は大きく改善しています。
こうしたリスク要因はかつて寿命を大きく左右していましたが、早期診断・医療介入・制度的支援の充実によって、多くのケースで改善が見られています。※2
ダウン症の平均寿命に関連する主なリスク要因
カテゴリ | 代表的なリスク要因 |
---|---|
心疾患 | 先天性心疾患(未治療) |
免疫・感染 | 肺炎などの重症感染症 |
がん | 小児白血病の高リスク |
睡眠・呼吸障害 | 睡眠時無呼吸、呼吸器系の解剖学的異常 |
消化器異常 | 腸閉塞・ヒルシュスプルング病など |
神経変性疾患 | アルツハイマー病の早期発症 |
社会的・制度的要因 | 医療アクセス、支援体制の不足 |
現在では、これらのリスクに対する早期発見と適切な治療が可能となり、平均寿命が60歳を超えるようになっています。
年代別ダウン症の方の平均寿命
年代 | 平均寿命 |
---|---|
1980年代 | 約25年 |
1990年代 | 約35年 |
2000年代 | 約47年 |
2010年代〜現在 | 約60年(上昇中) |
医療の進歩による改善
ダウン症のある新生児の約半数には先天性心疾患が認められます。かつてはこれが致命的な要因となることも多くありましたが、現在では早期診断と乳児期の外科的手術の普及により、生存率は大きく向上しています。加えて、NICU(新生児集中治療室)の整備、感染症管理、摂食・呼吸障害への対応が進み、乳児死亡率は大幅に低下しました。
また、ダウン症のある子どもは、急性リンパ性白血病(ALL)や急性骨髄性白血病(AML)を発症するリスクが高く、特にAMLに関しては、一般の子どもと比べて約150倍の発症リスクがあるとされています。
興味深いことに、白血病に対する治癒率はダウン症のある子どもの方が非常に高いことがわかっています。
たとえば、小児AML全体の治癒率は約75%ですが、ダウン症のある子どもに多く見られる急性巨核球性白血病(AMKL)では、生存率が80〜100%に達すると報告されています。これは、非ダウン症児の同型白血病の生存率(約35%)に比べ著しく高い数値です。
このような高い治療反応性は、ダウン症のある子どもが持つ特定の遺伝子変異が、特定の化学療法に対して良好な反応を示すことによるものと考えられています。※3
早期介入と生活支援の向上
医療面に加え、理学療法・言語療法・作業療法などの早期介入プログラムの普及も、生活の質(QOL)の向上や健康寿命の延伸に寄与しています。また、保護者や介護者への教育・トレーニングの充実により、家庭内でのケアや合併症への対応力も高まりました。
1980年代以前は、医療や福祉の制度が未整備で、地域社会での生活を送ることが困難な状況でした。しかし現在では、社会的な理解と支援体制が進展し、家庭や地域で生活することが一般的になりつつあります。 特別支援教育やインクルーシブ教育の拡充、就労機会の増加により、精神的な健康や社会的な自立にも良い影響が見られています。※4
高齢期におけるケアが大事
平均寿命の延伸に伴い、今後は高齢期におけるケアの重要性がますます高まっています。近年では、70代、80代、さらには100歳を超えて長寿を迎える方も報告されており、ダウン症のある方への高齢者支援の充実が新たな課題となっています。なかでも特に注目すべきなのは、アルツハイマー病の早期発症リスクです。ダウン症のある方は、40代から認知機能の低下が見られるケースがあり、早期の段階から予防的な医療介入を行うことが重要です。
今後は、こうした特性に対応するための高齢者向け医療・介護サービスの整備と拡充が、より一層求められるでしょう。※5
新型出生前検査(NIPT)によるダウン症への影響
NIPTとは、母体血中に含まれる胎児由来のDNAを解析することで、ダウン症(21トリソミー)をはじめとした染色体異常を高精度に検出するスクリーニング検査です。
ただし、NIPTは確定診断を目的とした検査ではなく、特定の遺伝疾患のリスクを評価するための臨床研究として提供されています。
ダウン症のある方の健康状態や寿命を直接的に改善する効果や治療的役割を持つものではありません。
一方で、NIPTの普及がダウン症児の出生数に影響を及ぼしている可能性が指摘されています。たとえば、日本のように中絶が合法で、社会的にも一定の受容や理解がある国々では、NIPTの導入以降、ダウン症の出生数が減少傾向にあるとする報告もあります。
実際、NIPTで陽性判定を受けた妊婦のうち、中絶を選択する割合が90%に達するという国内データも存在し、この点は倫理的・社会的な議論の焦点となっています。※6
その一方で、妊娠中に早期かつ正確な情報が得られることで、専門医療機関での出産準備や、出生直後の医療的対応を計画的に行えるようになるほか、保護者の心理的準備や支援体制の整備にもつながります。
特に重症例においては、NICU(新生児集中治療室)での管理や外科的治療の早期準備が可能になることから、治療成績の向上にも寄与しています。
このように、NIPTは単に出生前の選択に関わる技術にとどまらず、医療的・心理的な支援体制を整えるための重要な手段としての役割を担っていると言えるでしょう。
出生後のNIPTという新しい選択肢
seeDNAは、妊娠中のNIPT(新型出生前検査)に抵抗や不安を感じる方にも配慮し、出生後に受けられるNIPTを国内で唯一提供している検査機関です。
妊娠中に検査を受けなかった方や、出生後に不安を感じている方にとって、出生後のNIPTはご家族の安心につながるひとつの選択肢となります。
赤ちゃんが生まれてすぐ、やさしく、簡単に、そして早い段階で染色体の異常などを調べることができる出生後のNIPTを、ぜひご検討ください。
参考文献
※1: Life Expectancy, Aging, and the Down Syndrome※2: Down Syndrome Life Expectancy Is Higher, But Not For Everyone
※3: The link between Down’s syndrome and leukaemia
※4: Quality of life in adults with Down syndrome: A mixed methods systematic review
※5: ダウン症のある人の平均寿命・平均余命は?最高齢は何歳?成人期の医療における課題も
※6: NIPTを受けた10万人の妊婦さんの追跡調査
【専門スタッフによる無料相談】
