リライティング日:2025年08月09日
NIPTは技術的には妊娠16週以降も実施可能ですが、確定検査や意思決定の時間確保、母体保護法の22週未満制限などの医療的・倫理的理由から、多くの施設が16週までに限定しています。
なぜNIPTは妊娠16週以降に推奨されないのか?
新型出生前診断(NIPT)は、母体の血液から胎児の染色体異常の可能性を調べる非侵襲的なスクリーニング検査として、近年多くの妊婦に選ばれるようになりました。従来の出生前診断と異なり、採血のみで済むという手軽さと高い精度から大きな注目を集めています。しかし、実施時期は「妊娠16週まで」と限られており、「なぜ16週以降はダメなのか」と疑問を抱く方も少なくありません。
技術的には検査は可能であるにもかかわらず、多くの機関で16週を超えたNIPTを行っていない背景には、単なる運用上の都合ではなく、医療的・倫理的な配慮が存在します。具体的には、NIPTはスクリーニング検査であるため陽性結果が出た場合に確定診断を受ける必要があること、そして日本の法律上、人工妊娠中絶に週数制限が設けられていることが大きく関係しています。
本記事では、検査精度や臨床判断、確定検査までのスケジュール、そして海外との制度の違いも含め、妊娠16週以降にNIPTが提供されない理由を多角的に紐解いていきます。NIPTの受検を検討されている妊婦様やそのパートナーの方にとって、最適な時期に検査を受けるための判断材料となれば幸いです。
妊娠週数とNIPT精度との関係
NIPTで調べる胎児のDNA(cell-free DNA, cfDNA)は胎盤由来のもので、妊娠週数とともに血中濃度が上昇することが知られています。 cfDNAは胎盤の絨毛細胞がアポトーシス(細胞死)を起こす際に母体血中に放出されるもので、一般的に妊娠10週頃から検査に十分な量が得られるとされています。(1)
つまり妊娠が進むほど、検査精度自体はむしろ安定・向上する傾向にあり、妊娠中期〜後期にかけても高い精度を保つことが可能です。cfDNAの割合(fetal fraction)は妊娠10週で平均約10%程度ですが、妊娠20週を超えるとさらに上昇し、検出感度は向上します。
実際、妊娠後期の方を対象として行った複数の研究においては、妊娠20週以降でも21トリソミー(ダウン症候群)に対する陽性的中率が95%以上であったと報告されています。 18トリソミー(エドワーズ症候群)や13トリソミー(パトウ症候群)についても、妊娠週数が進むにつれて検出精度が維持・向上することが複数の臨床研究で確認されています。(2)
このことから、技術的には16週以降も検査が行えるはずですが、それでも現場では実施されていないのには、精度とは別の極めて重要な理由があるのです。以下のセクションで、その具体的な理由を詳しく解説します。
医療的な判断と選択肢が限られる
NIPTはあくまでスクリーニング検査であり、陽性結果が出た場合には確定診断として絨毛検査または羊水検査が必要です。NIPTの結果だけで診断が確定するわけではなく、偽陽性(実際には染色体異常がないにもかかわらず陽性と判定されるケース)の可能性も存在するため、確定検査は欠かせません。
絨毛検査は妊娠11〜14週頃に実施され、羊水検査は15〜18週頃に行われるのが一般的です。いずれの検査も結果が出るまでに通常2〜3週間程度を要します。
さらに、日本では母体保護法により人工妊娠中絶が22週未満に限定されています。 これは法律で明確に定められた期限であり、いかなる事情があっても妊娠22週0日以降の中絶は認められていません。(3)
そのため、16週以降にNIPTを行った場合、確定検査の実施から結果判明、遺伝カウンセリング、そしてご夫婦やパートナーでの意思決定までの時間が極めて限られてしまい、実質的な選択肢が失われかねないのです。特に、結果を受けてからの心理的な整理やカウンセリングの時間が十分に確保できないことは、妊婦様にとって大きな負担となります。
したがって、多くの施設では「医学的にも倫理的にも有効な判断が可能な時期に限定して検査を提供している」のが実情です。NIPTは「受ける」こと自体が目的ではなく、その結果をもとに十分な時間をかけて最善の選択をするための手段であるという認識が、医療現場では広く共有されています。
NIPTの結果が出るまでのスケジュールと時間的制約
NIPTを受けてから最終的な意思決定に至るまでには、複数のステップを踏む必要があります。以下に、一般的なスケジュールの流れを示します。
- NIPTの採血・検査実施:採血自体は当日完了しますが、結果の判明までに約1〜2週間かかります。
- 結果の通知と遺伝カウンセリング:陽性結果が出た場合、遺伝カウンセラーや担当医との面談が行われます。
- 確定検査(羊水検査)の実施:羊水検査の予約・実施を行い、結果が出るまでさらに約2〜3週間を要します。
- 確定結果の通知とカウンセリング:確定診断の結果を受け、専門医や遺伝カウンセラーとともに今後の方針を検討します。
- ご家族での意思決定:十分な時間をかけて、ご夫婦やパートナーとの話し合いが必要です。
このように、NIPTの採血から最終的な判断に至るまでには最低でも4〜6週間程度を見込む必要があります。 仮に妊娠16週でNIPTを受けた場合、確定検査の結果が出るのは早くても妊娠20〜21週頃となり、母体保護法の22週未満という期限ギリギリの状況に陥ります。妊娠17週や18週ではもはや間に合わない可能性が高く、これが多くの医療機関が16週を上限としている最大の理由です。(4)
また、確定検査の結果が陰性(NIPTが偽陽性)であった場合にも、結果を待つ間の精神的負担は計り知れません。早期に検査を受けることで、こうした不安な時間を少しでも短縮できるというメリットもあります。
海外では妊娠後期のNIPTはどう扱われているか?
一部の海外では、妊娠後期でもNIPTを受けることが可能とされています。たとえばイギリスやアメリカの一部地域では、妊娠24週頃まで中絶が法的に認められているため、理論上はNIPTを遅れて行っても対応が可能です。 イギリスのNHS(国民保健サービス)では、NIPTを公的医療の一環として提供しており、従来の母体血清マーカー検査の結果がハイリスクと判定された場合にNIPTが追加で実施されるケースもあります。(5)
ただし、実際には海外でも多くの医療機関がNIPTの実施時期を妊娠初期〜中期に設定しています。これは「検査結果を踏まえた選択を行うには早期の方が望ましい」という考え方が、日本と同様に国際的に共有されているためです。アメリカ産婦人科学会(ACOG)も、NIPTは妊娠初期に実施することを推奨しています。
各国の制度の違いを以下にまとめます。
| 国・地域 | 中絶の法的上限 | NIPTの推奨時期 |
|---|---|---|
| 日本 | 22週未満 | 10〜16週 |
| イギリス | 24週未満 | 10〜20週程度 |
| アメリカ(州により異なる) | 州法により異なる | 10〜20週程度 |
制度の違いはあるものの、意思決定の有効性という観点から、検査は早期に行うべきというコンセンサスが国際的にも存在します。どの国においても、NIPTの結果を十分に活用するためには、確定検査や意思決定のための時間的余裕を確保することが不可欠であるという認識が共有されています。
NIPTは「いつ受けるか」が重要な検査
NIPTは妊婦にとって重要な選択肢を与えてくれる検査ですが、その価値は”いつ受けるか”によって大きく左右されます。技術的には妊娠後期でも検査可能であり、精度にも問題はありません。にもかかわらず多くの機関が16週以降に検査を行っていないのは、その後の確定診断・遺伝カウンセリング・意思決定にかけられる時間が圧倒的に不足するからです。
NIPTを受ける際に押さえておきたいポイントをまとめます。
- NIPTは妊娠10週以降から受検可能。早期の受検が推奨される
- 陽性結果が出た場合、確定検査(羊水検査等)に2〜3週間を要する
- 日本では母体保護法により中絶は22週未満に限定されている
- 確定結果を受けてからの意思決定には、心理的な準備期間も必要
- 技術的な精度は16週以降でも問題ないが、時間的制約が最大のハードル
- 海外でも早期検査が推奨されるという国際的コンセンサスが存在する
NIPTの結果を踏まえて納得のいく判断を行うには、検査を受ける時期が極めて重要です。できるだけ早期の検査が、自分自身と家族にとって後悔のない意思決定につながるはずです。妊娠が判明したら早めに情報を収集し、検査の予約を検討されることをお勧めいたします。
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よくあるご質問
Q1. NIPTは妊娠16週を過ぎたら絶対に受けられないのですか?
A. 技術的にはcfDNA(胎児由来の遊離DNA)は妊娠後期でも十分な量が存在するため、検査自体は実施可能です。しかし、陽性結果が出た場合に確定検査(羊水検査)を受け、その結果をもとに意思決定を行うための時間が不足するため、多くの医療機関では妊娠16週までを受付期限としています。日本の母体保護法では人工妊娠中絶が22週未満に限定されているため、16週以降の受検では対応が間に合わなくなるリスクが高くなります。
Q2. NIPTの精度は妊娠週数が進むと下がるのですか?
A. いいえ、むしろ逆です。NIPTで分析するcfDNAの血中濃度は妊娠週数の進行とともに上昇するため、検査精度は安定・向上する傾向にあります。妊娠20週以降でも21トリソミーに対する陽性的中率が95%以上であったという研究報告もあります。 16週以降に検査を行わない理由は精度の問題ではなく、確定検査や意思決定のための時間的制約が主な要因です。(2)
Q3. NIPTで陽性と出た場合、必ず確定検査を受ける必要がありますか?
A. はい、NIPTはあくまでスクリーニング検査(可能性を調べる検査)であり、診断を確定するものではありません。陽性結果には偽陽性(実際には染色体異常がないのに陽性と判定されるケース)の可能性も含まれるため、羊水検査や絨毛検査といった確定検査を受けることが強く推奨されます。確定検査を受けずに判断を下すことは、医学的に適切とは言えません。
Q4. 海外ではNIPTを妊娠後期に受けることはできますか?
A. 一部の国では法的に妊娠後期の中絶が認められているため、NIPTの実施時期にもある程度の余裕があります。例えば、イギリスでは妊娠24週未満まで中絶が認められています。 しかし、海外でも多くの医療機関は妊娠初期〜中期にNIPTを実施することを推奨しており、「検査は早期に行うべき」という国際的なコンセンサスが存在しています。(5)
Q5. NIPTを受けるのに最適な時期はいつですか?
A. NIPTは妊娠10週以降から受検可能ですが、確定検査や意思決定の時間を十分に確保するためには、妊娠10〜14週頃に受けるのが最も理想的です。この時期に受検すれば、万が一陽性結果が出た場合でも、確定検査(羊水検査は15週以降に実施可能)の結果を待ち、遺伝カウンセリングを受け、ご家族で十分に話し合う時間を確保することができます。
Q6. NIPTの結果が出るまでどのくらいかかりますか?
A. NIPTの結果は、採血から通常1〜2週間程度で判明します。ただし、検査機関や検査項目によって所要日数は異なる場合があります。また、陽性結果が出た場合には確定検査の実施と結果判明にさらに2〜3週間を要するため、全体のプロセスとしては最低でも4〜6週間を見込む必要があります。この点からも、早期の受検が重要です。
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著者
医学博士・医師
広重 佑(ひろしげ たすく)
医学博士、日本泌尿器科学会専門医・指導医、がん治療学会認定医、抗加齢医学会専門医、日本医師会認定産業医、日本抗菌化学療法学会認定医、性感染症学会認定医、Certificate of da Vinci system Training As a Console Surgeonほか
2010年に鹿児島大学医学部を卒業後、泌尿器科医として豊富な臨床経験を持つ。また、臨床業務以外にも学会発表や論文作成、研究費取得など学術活動にも精力的に取り組んでいる。泌尿器科専門医・指導医をはじめ、がん治療、抗加齢医学、感染症治療など幅広い分野で専門資格を取得。これまで培った豊富な医学知識と技術を活かして、患者様一人ひとりに寄り添った医療を提供している。
【参考文献】
(1) 母体保護法(2) 東京・ミネルバクリニック, 2026年3月
(3) RCOG, 2010年6月
(4) J Exp Med, 2023年7月
(5) ヒロクリニック, 2021年9月