リライティング日:2025年02月19日
NIPTは妊婦の血液から胎児の染色体異常を調べる非侵襲的出生前検査です。13・18・21番トリソミーの検出が可能で、認定施設と非認定施設の現状や課題、今後の展望について詳しく解説します。
母体血を用いた出生前遺伝学的検査(NIPT)とは
NIPT(Non-Invasive Prenatal Testing)とは、妊婦の血液を採取するだけで胎児に染色体異常がないかを調べることができる、非侵襲的な出生前遺伝学的検査です。「新型出生前診断」とも呼ばれ、母体への身体的負担が極めて少ないことから、近年急速に普及が進んでいます。
人の血液中には、細胞から放出されたDNAの断片(セルフリーDNA:cfDNA)が微量ながら常に循環しています。妊娠した女性の場合、胎盤を通じて胎児由来のDNA断片(cell-free fetal DNA:cffDNA)が母体の血液中に流入します。このcffDNAは妊娠6週ごろから検出が可能となり、妊娠10週以降になると検査に十分な量が血液中に存在するようになります。NIPTはこの仕組みを利用し、妊婦から少量の血液を採取するだけで胎児の染色体情報を解析できる画期的な検査手法です。(1)
NIPTは非常に高い精度を誇る検査方法ですが、その分析原理はコロナウイルス検査でも広く知られるようになったPCR(Polymerase Chain Reaction)法と共通しています。具体的には、母体血中に含まれるcfDNAを大量にコピーし、次世代シーケンサー(NGS)を用いて各染色体由来のDNA断片の量比を統計的に解析することで、特定の染色体が通常よりも多いかどうか(トリソミーの有無)を判定します。このため、PCR検査と同様に偽陽性(実際は陰性であるのに陽性と判定される)や偽陰性(実際は陽性であるのに陰性と判定される)が生じる可能性はゼロではありません。したがって、NIPTの結果が陽性であった場合には、羊水検査や絨毛検査といった確定的検査を追加で受けることが必須となります。NIPTはあくまで「スクリーニング検査」であり、確定診断ではないという点を正しく理解しておくことが重要です。(1)
NIPTで検査可能な疾患
現在、NIPTで標準的に発見可能な疾患は、染色体の13番トリソミー(パトウ症候群)、18番トリソミー(エドワーズ症候群)、21番トリソミー(ダウン症候群)の3つです。トリソミーとは、通常は2本1組で存在する染色体が3本存在してしまう染色体数の異常のことを指します。
各トリソミーの臨床的特徴は以下のとおりです。
- 13番トリソミー(パトウ症候群):重度の知的障害、心臓の奇形、口唇口蓋裂などの多発奇形を伴い、90%以上が生後1年以内に亡くなるとされています。(2)
- 18番トリソミー(エドワーズ症候群):成長障害、心臓奇形、手足の特徴的な所見を呈し、13番トリソミーと同様に90%以上が生後1年以内に亡くなるとされています。(2)
- 21番トリソミー(ダウン症候群):最も頻度の高い染色体異常であり、特徴的な顔貌、知的発達の遅れ、先天性心疾患などを伴うことが知られています。生命予後は13番・18番トリソミーと比較して良好で、適切な医療支援により多くの方が成人まで成長します。(3)
なお、先天性の疾患全体を見た場合、染色体異常が原因となるものは全体のおよそ4分の1(約25%)とされています。そしてこの染色体異常のうち、約7割が上述した3つのトリソミーによるものです。つまり、NIPTが検査対象としてカバーしているのは先天性疾患全体のうち2割未満ということになります。NIPTで「陰性」であったとしても、すべての先天性疾患が否定されたわけではないことを認識しておく必要があります。
NIPTの認定施設について
前述したとおり、NIPTは母体血中のcfDNAを解析して染色体の異常を発見する技術です。このため、NIPTで陽性の結果が出たとしても、その段階では将来的な発症の程度や重症度を予測することはできず、具体的な治療方針を決定することもできません。また、NIPTはPCR法をベースとしている以上、検査精度を確保するためには高度な技術と品質管理が不可欠です。
こうした背景を踏まえ、日本産科婦人科学会は2013年に「母体血を用いた出生前遺伝学的検査(NIPT)」の適切な実施体制を整えるためのガイドラインを策定しました。これを受けてNIPTの認定登録制度が開始され、2020年8月時点での認定施設数は全国109カ所となっています。(2)
認定施設の重要な特徴として理解しておきたい点があります。認定施設はあくまでNIPTの受付窓口としての役割を担っており、実際の検査(DNA解析)はその施設内で行われるわけではありません。認定施設で受付が完了した後、採取された検体は所定の検査機関に送られ、臨床研究という形でDNA解析が実施されます。つまり、認定施設とは「適切なカウンセリング体制と遺伝医療の専門家を備えた窓口」であり、検査技術そのものを保有しているわけではないのです。
NIPT非認定施設の現状と課題
NIPTの認定登録制度が始まった一方で、認定を受けていない非認定施設も数多く存在し、そこでの検査事例も多数報告されています。厚生労働省のホームページに掲載された調査資料によれば、非認定施設の数は認定施設と同程度かそれ以上に存在し、検査件数に関しては非認定施設のほうがむしろ多いことが言及されています。(1)(4)
こうした非認定施設における検査の実態はすでに詳細な調査が行われており、以下のような問題点が指摘されています。
- 専門外の医師による検査実施:産婦人科や遺伝医学の専門医ではない医師がNIPTを実施しているケースが確認されています。
- 事前説明やカウンセリングの未実施:検査の意義、限界、陽性だった場合の対応について十分な説明がなされないまま検査が行われている例があります。
- 検査結果の説明がメールのみ:陽性の場合を含め、検査結果が対面ではなくメールだけで通知されるケースが報告されています。陽性結果を受けた妊婦にとって、対面でのフォローアップがないことは大きな精神的負担につながります。
- 35歳未満への無条件の実施:母体年齢によって陽性的中率が大きく変動するため、日本産科婦人科学会では当初35歳以上の妊婦を主な対象としていましたが、非認定施設では年齢制限なく検査を実施しているケースがあります。(5)
これらの問題は、NIPTの結果に対する正しい理解が得られないまま妊婦が重大な意思決定を迫られるリスクを高めるものです。NIPTはスクリーニング検査であるため、陽性結果が必ずしも胎児の染色体異常を意味するものではありません。特に若年妊婦においては陽性的中率(PPV)が低くなる傾向があり、偽陽性のリスクが相対的に高まることから、結果の解釈には専門的な知識を持つ遺伝カウンセラーや医師のサポートが不可欠です。
NIPTの検査精度に関する正しい理解
NIPTの検査精度を理解するうえで重要なのが、「感度」「特異度」「陽性的中率」の3つの指標です。NIPTは21番トリソミー(ダウン症候群)に対して感度99%以上、特異度99.9%以上という極めて高い数値を示しています。しかしながら、陽性的中率は母体年齢や対象疾患の有病率に大きく左右されます。(3)
たとえば、35歳の妊婦で21番トリソミーのNIPTが陽性だった場合の陽性的中率は約80〜90%程度とされていますが、25歳の妊婦の場合は50%を下回ることもあります。これは、母体年齢が若いほどダウン症候群の発生頻度が低いため、相対的に偽陽性の割合が高くなるためです。このような検査特性を妊婦自身がきちんと理解することが、検査を受ける前の段階で非常に重要です。
NIPTの今後の展望
現在のNIPTが標準的に検査対象としているのは、上述した13番・18番・21番の3つのトリソミーに限定されています。しかし、NIPTの技術基盤である次世代シーケンシング技術は急速に進歩しており、その他の染色体異常や微小欠失・微小重複症候群、さらには単一遺伝子疾患(遺伝子情報の欠失、重複、点変異など)への応用も研究が進められています。将来的にはNIPTの検査対象となる疾患が大幅に拡大されることが期待されています。
NIPTは身体への負担が少なく高精度であるという大きなメリットを持つ検査方法ですが、その反面、適切な実施には高度にトレーニングされた検査施設と検査技師が必要です。この点に関しては、認定施設であっても非認定施設であっても、実際にDNA解析を行うラボの検査技術が確実であれば、検査精度そのものに本質的な違いはありません。非認定施設がもっとも問われるべきポイントは、遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーによるカウンセリングが検査の前後で適切に実施されているかどうかです。(5)
現状では、認定施設だけでは妊娠に不安を抱える妊婦すべてのニーズに応えることが難しい状況にあります。認定施設は予約の取りにくさや地域的な偏在、受検可能な妊娠週数の制限など、アクセス面での課題を抱えています。一方、非認定施設はアクセスの良さや柔軟な対応が可能である反面、上述したカウンセリング体制の不備が問題視されています。
今後は、認定施設と非認定施設が互いの強みを活かして役割を補完しあい、すべての妊婦が質の高い遺伝カウンセリングとともにNIPTを受けられる体制を整えていくことが求められています。ひとりでも多くの妊婦の方々にとって安心できる出産環境を構築するために、NIPTの制度設計とその運用の改善は産科医療全体の重要な課題であるといえるでしょう。
よくあるご質問
Q1. NIPTはいつから受けられますか?
A. 胎児由来のDNA(cffDNA)は妊娠6週ごろから母体血中に検出され始めますが、検査に十分な量が確保されるのは妊娠10週以降です。そのため、多くの医療施設では妊娠10週以降にNIPTを実施しています。検査のタイミングについては主治医や検査施設にご相談ください。
Q2. NIPTの検査結果が陽性だった場合はどうすればよいですか?
A. NIPTはスクリーニング検査であり、確定診断ではありません。陽性結果が出た場合は、必ず羊水検査や絨毛検査などの確定的検査を受ける必要があります。偽陽性の可能性もあるため、結果だけで判断せず、遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーに相談することが重要です。
Q3. NIPTで陰性であればすべての先天性疾患が否定されますか?
A. いいえ。NIPTが検査対象としているのは13番・18番・21番トリソミーの3つであり、先天性疾患全体の2割未満をカバーしているにすぎません。NIPTで陰性であっても、その他の染色体異常や遺伝子疾患、構造的な先天異常の可能性が否定されるわけではありません。
Q4. 認定施設と非認定施設で検査精度に違いはありますか?
A. 実際のDNA解析を行うラボの技術力が同等であれば、検査精度自体に本質的な違いはありません。ただし、非認定施設では遺伝専門医によるカウンセリング体制が不十分であるケースが指摘されています。検査前後のカウンセリングの質は施設によって大きく異なるため、事前に確認されることをお勧めします。
Q5. NIPTは母体や胎児に悪影響はありますか?
A. NIPTは妊婦の腕から少量の血液を採取するだけで実施できる非侵襲的な検査であり、母体への身体的負担は通常の採血と同程度です。羊水検査や絨毛検査のように子宮に針を刺す必要がないため、流産リスクの上昇もなく、胎児への直接的な悪影響はありません。
Q6. 35歳未満でもNIPTを受けることはできますか?
A. 日本産科婦人科学会の認定施設では当初35歳以上の妊婦を主な対象としていましたが、2022年の制度見直し以降は年齢制限が緩和される方向にあります。非認定施設では年齢制限なく検査を受けられる場合がありますが、若年妊婦では陽性的中率が低くなるため、偽陽性のリスクについて十分な理解が必要です。
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著者
医学博士 富金 起範
筑波大学大学院 生体統御・分子情報医学 修士/博士課程卒業
2017年に国内初となる微量DNA解析技術(特許7121440)を用いた出生前DNA鑑定(特許7331325)を開発
【参考文献】
(1) 厚生労働省 NIPT等の出生前検査に関する資料(2) 厚生労働省 NIPT認定施設に関する資料, 1999年2月
(3) Fertil Steril, 2015年8月
(4) 国内におけるNIPT受検に関する実態調査の施設アンケート調査報告書
(5) J Neurosci, 2018年8月